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お手紙が届きました
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その手紙には、宛先として『ライラックへ』とだけ記載されていた。次のライラックであるフローリアにも伝えた方がいいのか、はたまた、現在のライラックのみで良いのか。
一先ず、ダドリーはアルウィンへとその手紙を届けに執務室へと走る。
「…旦那様が厄介事に巻き込まれなければ良いが…」
差出人からするに、恐らくまた魔獣討伐の依頼なのだろうが、前回からあまりにもスパンが短い。
「旦那様、失礼いたします」
「入れ」
コンコンコン、とノックをしてから声をかければ、室内から入室の許可の返事が飛んでくる。
扉を開くとシェリアスルーツ家騎士団の団長が朝訓練の報告をしているところだった。
「おや、お邪魔をしてしまいましたか?」
「構わん。フローリアのしごきっぷりにちょっと疲れてるくらい、という報告しか聞いてない」
「…不甲斐なくて申し訳ございません」
お嬢様ぁ!とまたダドリーは叫びたくなったが、今はさておいた。
そして、懐にしまっておいた手紙をすっとアルウィンへと差し出した。
「これは?」
「差出人を…」
「ん?」
封筒の表には『ライラックへ』と、綺麗な字で記載されている。
そして、何となく見覚えがある綺麗な文字だな、と思ったアルウィンは恐る恐る差出人を確認すべく封筒の裏を確認した。
「……………」
すん、と無表情になるアルウィンと、やっぱりこうなった、とがっくり項垂れてしまうダドリー。そしてよく分かっていない騎士団団長。
なんともまぁカオスだが、アルウィンが底知れぬほどの深さのため息を吐いているのを見て、凡そ察してくれたらしい。
「あ、あの…アルウィン様…もしかして…」
「察しがいいな。臨時ボーナスいるか?」
「…また魔獣討伐ですか…?」
「分からん、が…その可能性しかない」
ペーパーナイフで封を切り、中身を確認したアルウィンはまた硬直した。
「…ん?」
そして、ひと言呟いて首を傾げ、手紙を裏返してみたり、また表にしてみたり、日に透かしてみたり、何だかよく分からない行動をとっている。
アルウィンの行動に、思わずダドリーと騎士団団長は困惑して、互いに顔を見合わせてしまった。
「あの、旦那様」
「ん?」
「アルウィン様」
「おう」
「一体何を…」
恐る恐る問いかけられ、はっとアルウィンも我に返った。
そして、ダドリーの方に向き直って困惑した顔のままでこう告げた。
「ルアネは今日家にいるか」
「はぁ、奥様ですか」
「ちょっと呼んでこい。三十秒くらいで」
「んな無茶な…」
「いいからはよ行け!あぁ、ダドリーだと無理か。お前行ってこい」
言うが早いかぽい、と団長を部屋から出すと、アルウィンはまた深い溜息を吐いてから手紙に目を通していく。
「だ、旦那様…本当に魔獣討伐が…?あまりにも頻度が」
「違う」
「え?」
「違う、それより厄介だ」
え、と声を上げたダドリーには構うことなく、睨みつけるように手紙を眺め続けるアルウィン。何かしらあるに違いないが、それをまだ話してはくれない。
「奥様をお呼びすることに関係が?」
「ある。それから、フローリアにも関係してくるやもしれん」
「フローリアお嬢様に、ですか」
一体何が、とダドリーは考えるが、皆目見当もつかない。
というかあのヴェッツェル公爵が何をどう考えているのか、何をしたいのか意味が分からない。
いつもは魔獣討伐くらいでしか手紙を寄越さないのに、今回は違う。では何なのか。
「だから、出かける間際の人を捕まえておいて一体何だというのです!」
「旦那様にご確認ください~!」
考えていると外が賑やかになってくる。
どうやら、ルアネは何か出かける用事があったようだ。恐らくそれの直前に声を掛けられて、ご立腹な様子でこちらに向かっているらしい。
入ってきたら団長は悪くない、と先に言わなければならんな、とアルウィンが思っていたらノックもそこそこにルアネが少し苛立った様子で入室してきた。
「あなた様!」
「すまん、だが緊急事態だ!」
「わたくしの親友とのお茶会以上に緊急事態なのでしょうね!」
「ヴェッツェル公爵から、『王太后がフローリアと公爵の婚約を無理矢理結ぶかもしれない』と連絡が入った!」
「……何ですって?」
怒りが霧散したかと思えば、次はルアネの雰囲気が氷点下へと一気に急降下してしまった。
「あのババア…!」
「奥様、口が悪うございます!」
「お黙りなさい!フローリアの婚約のときに孫可愛さにしゃしゃり出てきた隠居人に、あれこれ指図をされたい人がどこにいますか!」
ほぼノンブレスで言い切ったルアネに思わず拍手をする団長をダドリーは睨みつけたが、実際その通りなのである。
王太后は、『あらぁ、ミハエルちゃんが婚約したいならそうしましょうねぇ~』と、孫可愛さから己の持つ権力フル活用をし、当時はミハエルを溺愛しまくっていたジュディスもそれに加わり、とんでもないことになってしまった。
ルアネの怒りはごもっともだし、婚約を破棄したのはミハエルからのくせに何でそうも上から目線で居続けているのか意味不明だ。
「何を考えているのかしら、くたばり損ないのババア」
「ルアネよ」
「何ですの?!」
「殺るか」
「その方が早いですわ」
「ストーーーーーーーーップ!!」
物騒な方に振り切った会話に、ダドリーと団長が大声で慌てて静止をして一旦はおさまったようにも見えたのだが、夫妻の目は真剣そのもの。
駄目だこれ、ちょっとしたことで爆発する!そう思いどうにかこのまま思いとどまってほしいと
「ダメです!」
「旦那様、奥様、犯罪だけは!どうか!」
「いやねぇ、冗談よ」
ほほほ、と笑うルアネだが目が据わっている。
何ならルアネの背後に『ぶっ殺す』という文字も見えているような気がして、団長は目を擦っているし、ダドリーも背中に冷や汗が流れるのを止められていない。あとついでに、シェリアスルーツ侯爵夫妻が、めっちゃ怖い。
「殺るのは冗談として」
「……」
「半分本気だったが」
本当ですか、というダドリーの無言のツッコミに、真顔で返してくるアルウィンだが、それだけフローリアを愛しているのだと思うことで、心の平穏をどうにか保つことにしてみた。
しかし、あのヴェッツェル公爵がこのような動きをしてくれるとは正直思ってもみなかった、というのがアルウィンの本音だ。
魔石など諸々を手に入れるためなら婚約もOKだと言いそうなものなのに、と思えばどうしたものかという悩みも増えてしまう。
「…せっかく教えてもらえたんだ、陛下にどうにかしてもらおう」
「そういえば、今の陛下が陛下たる所以は…」
「そうだ、王太后と王妃様が手を組んで、ヴェッツェル公爵閣下を疎ましさのあまり戦場に出しまくった、というところから来ているからな」
それを聞くと少し可哀想な気もするが、知らせてくれたことに対してお礼の手紙を送らねば、とアルウィンはデスクの引き出しからレターセットを取り出した。
「ならば、わたくしも別でお手紙を久方ぶりに出しましょう」
「誰に?」
首を傾げるアルウィンだが、すぐに相手が思い当たりうんうん、と何度も頷いた。
「それが良い。お灸を据えることになるだろうが、陛下はご自身の母上の発言の尻拭いと息子の尻拭いに奔走していただこう。ダドリー、この手紙の件はフローリアには伝えなくていい。あの子には侯爵家次期当主として学ぶべきことが色々とあるからな」
「かしこまりました」
ようやく普段通りの雰囲気になってくれたアルウィンとルアネに、ダドリーも団長もホッとひと息ついた。
「騎士団のしごきっぷりに関しては全く問題がない。なら、騎士見習いとして明日から王立騎士団の訓練にも参加してもらおう」
「あら、陛下があの慰謝料の件を受け入れましたか」
「フローリアはあっちの騎士団でも評判が良いからな。ある程度稽古になれてもらったら、魔獣討伐任務にも参加させる。だが、フローリアに騎士団長を目指してほしいわけではないから侯爵家の業務メインへと後々移行させる」
「分かりました。あなたの場合はその仕事が嫌すぎて、わたくしが請け負っているのですからね」
「……おう」
ルアネのとても良い笑顔で放たれた言葉の杭がどっす、とアルウィンに突き刺さったが、事実だから仕方ない。ダドリーは内心、『だからあれほど申しましたのに…』とこっそり呟き、団長は『あぁ、この夫妻が揃ってこそ今のシェリアスルーツ侯爵家は回っているんだ』と実感したという。
一先ず、ダドリーはアルウィンへとその手紙を届けに執務室へと走る。
「…旦那様が厄介事に巻き込まれなければ良いが…」
差出人からするに、恐らくまた魔獣討伐の依頼なのだろうが、前回からあまりにもスパンが短い。
「旦那様、失礼いたします」
「入れ」
コンコンコン、とノックをしてから声をかければ、室内から入室の許可の返事が飛んでくる。
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「構わん。フローリアのしごきっぷりにちょっと疲れてるくらい、という報告しか聞いてない」
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お嬢様ぁ!とまたダドリーは叫びたくなったが、今はさておいた。
そして、懐にしまっておいた手紙をすっとアルウィンへと差し出した。
「これは?」
「差出人を…」
「ん?」
封筒の表には『ライラックへ』と、綺麗な字で記載されている。
そして、何となく見覚えがある綺麗な文字だな、と思ったアルウィンは恐る恐る差出人を確認すべく封筒の裏を確認した。
「……………」
すん、と無表情になるアルウィンと、やっぱりこうなった、とがっくり項垂れてしまうダドリー。そしてよく分かっていない騎士団団長。
なんともまぁカオスだが、アルウィンが底知れぬほどの深さのため息を吐いているのを見て、凡そ察してくれたらしい。
「あ、あの…アルウィン様…もしかして…」
「察しがいいな。臨時ボーナスいるか?」
「…また魔獣討伐ですか…?」
「分からん、が…その可能性しかない」
ペーパーナイフで封を切り、中身を確認したアルウィンはまた硬直した。
「…ん?」
そして、ひと言呟いて首を傾げ、手紙を裏返してみたり、また表にしてみたり、日に透かしてみたり、何だかよく分からない行動をとっている。
アルウィンの行動に、思わずダドリーと騎士団団長は困惑して、互いに顔を見合わせてしまった。
「あの、旦那様」
「ん?」
「アルウィン様」
「おう」
「一体何を…」
恐る恐る問いかけられ、はっとアルウィンも我に返った。
そして、ダドリーの方に向き直って困惑した顔のままでこう告げた。
「ルアネは今日家にいるか」
「はぁ、奥様ですか」
「ちょっと呼んでこい。三十秒くらいで」
「んな無茶な…」
「いいからはよ行け!あぁ、ダドリーだと無理か。お前行ってこい」
言うが早いかぽい、と団長を部屋から出すと、アルウィンはまた深い溜息を吐いてから手紙に目を通していく。
「だ、旦那様…本当に魔獣討伐が…?あまりにも頻度が」
「違う」
「え?」
「違う、それより厄介だ」
え、と声を上げたダドリーには構うことなく、睨みつけるように手紙を眺め続けるアルウィン。何かしらあるに違いないが、それをまだ話してはくれない。
「奥様をお呼びすることに関係が?」
「ある。それから、フローリアにも関係してくるやもしれん」
「フローリアお嬢様に、ですか」
一体何が、とダドリーは考えるが、皆目見当もつかない。
というかあのヴェッツェル公爵が何をどう考えているのか、何をしたいのか意味が分からない。
いつもは魔獣討伐くらいでしか手紙を寄越さないのに、今回は違う。では何なのか。
「だから、出かける間際の人を捕まえておいて一体何だというのです!」
「旦那様にご確認ください~!」
考えていると外が賑やかになってくる。
どうやら、ルアネは何か出かける用事があったようだ。恐らくそれの直前に声を掛けられて、ご立腹な様子でこちらに向かっているらしい。
入ってきたら団長は悪くない、と先に言わなければならんな、とアルウィンが思っていたらノックもそこそこにルアネが少し苛立った様子で入室してきた。
「あなた様!」
「すまん、だが緊急事態だ!」
「わたくしの親友とのお茶会以上に緊急事態なのでしょうね!」
「ヴェッツェル公爵から、『王太后がフローリアと公爵の婚約を無理矢理結ぶかもしれない』と連絡が入った!」
「……何ですって?」
怒りが霧散したかと思えば、次はルアネの雰囲気が氷点下へと一気に急降下してしまった。
「あのババア…!」
「奥様、口が悪うございます!」
「お黙りなさい!フローリアの婚約のときに孫可愛さにしゃしゃり出てきた隠居人に、あれこれ指図をされたい人がどこにいますか!」
ほぼノンブレスで言い切ったルアネに思わず拍手をする団長をダドリーは睨みつけたが、実際その通りなのである。
王太后は、『あらぁ、ミハエルちゃんが婚約したいならそうしましょうねぇ~』と、孫可愛さから己の持つ権力フル活用をし、当時はミハエルを溺愛しまくっていたジュディスもそれに加わり、とんでもないことになってしまった。
ルアネの怒りはごもっともだし、婚約を破棄したのはミハエルからのくせに何でそうも上から目線で居続けているのか意味不明だ。
「何を考えているのかしら、くたばり損ないのババア」
「ルアネよ」
「何ですの?!」
「殺るか」
「その方が早いですわ」
「ストーーーーーーーーップ!!」
物騒な方に振り切った会話に、ダドリーと団長が大声で慌てて静止をして一旦はおさまったようにも見えたのだが、夫妻の目は真剣そのもの。
駄目だこれ、ちょっとしたことで爆発する!そう思いどうにかこのまま思いとどまってほしいと
「ダメです!」
「旦那様、奥様、犯罪だけは!どうか!」
「いやねぇ、冗談よ」
ほほほ、と笑うルアネだが目が据わっている。
何ならルアネの背後に『ぶっ殺す』という文字も見えているような気がして、団長は目を擦っているし、ダドリーも背中に冷や汗が流れるのを止められていない。あとついでに、シェリアスルーツ侯爵夫妻が、めっちゃ怖い。
「殺るのは冗談として」
「……」
「半分本気だったが」
本当ですか、というダドリーの無言のツッコミに、真顔で返してくるアルウィンだが、それだけフローリアを愛しているのだと思うことで、心の平穏をどうにか保つことにしてみた。
しかし、あのヴェッツェル公爵がこのような動きをしてくれるとは正直思ってもみなかった、というのがアルウィンの本音だ。
魔石など諸々を手に入れるためなら婚約もOKだと言いそうなものなのに、と思えばどうしたものかという悩みも増えてしまう。
「…せっかく教えてもらえたんだ、陛下にどうにかしてもらおう」
「そういえば、今の陛下が陛下たる所以は…」
「そうだ、王太后と王妃様が手を組んで、ヴェッツェル公爵閣下を疎ましさのあまり戦場に出しまくった、というところから来ているからな」
それを聞くと少し可哀想な気もするが、知らせてくれたことに対してお礼の手紙を送らねば、とアルウィンはデスクの引き出しからレターセットを取り出した。
「ならば、わたくしも別でお手紙を久方ぶりに出しましょう」
「誰に?」
首を傾げるアルウィンだが、すぐに相手が思い当たりうんうん、と何度も頷いた。
「それが良い。お灸を据えることになるだろうが、陛下はご自身の母上の発言の尻拭いと息子の尻拭いに奔走していただこう。ダドリー、この手紙の件はフローリアには伝えなくていい。あの子には侯爵家次期当主として学ぶべきことが色々とあるからな」
「かしこまりました」
ようやく普段通りの雰囲気になってくれたアルウィンとルアネに、ダドリーも団長もホッとひと息ついた。
「騎士団のしごきっぷりに関しては全く問題がない。なら、騎士見習いとして明日から王立騎士団の訓練にも参加してもらおう」
「あら、陛下があの慰謝料の件を受け入れましたか」
「フローリアはあっちの騎士団でも評判が良いからな。ある程度稽古になれてもらったら、魔獣討伐任務にも参加させる。だが、フローリアに騎士団長を目指してほしいわけではないから侯爵家の業務メインへと後々移行させる」
「分かりました。あなたの場合はその仕事が嫌すぎて、わたくしが請け負っているのですからね」
「……おう」
ルアネのとても良い笑顔で放たれた言葉の杭がどっす、とアルウィンに突き刺さったが、事実だから仕方ない。ダドリーは内心、『だからあれほど申しましたのに…』とこっそり呟き、団長は『あぁ、この夫妻が揃ってこそ今のシェリアスルーツ侯爵家は回っているんだ』と実感したという。
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