オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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勝手な「友達宣言」

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「っ、わ、私は」

 言葉に詰まりオロオロとしているアリカ。
 ここまで塩対応をされるだなんて思っていなかったのだろう。
 しかし、アリカはまだ王太子妃候補となるという発表もされていなければ、そもそも王太子妃候補に内定すらしていない。
 ただミハエルから『フローリアとの婚約は破棄する!』と一方的に告げられたことで、順位が繰り上がったように見えているのだが、最初からアリカの名前なんて王太子妃候補の中に無かった。
 しかも、『候補』でしかない状態のフローリアと婚約破棄したとて、他に候補がいることをミハエルは綺麗さっぱりすっぱり忘れているのだ。

「家紋を拝見するに、シェルワース家とお見受けいたしますが、シェリアスルーツ家との繋がりはほぼないように思われますので、尚のことご確認させていただかないことには」
「な、何よ」
「当家に襲撃をかけようとする、シェルワース家を騙る誰かである可能性もございますゆえ」
「……!?」

 侮辱された、と顔を真っ赤にするアリカだが、約束もなしでいきなりやって来たことに加え、フローリアとの友人関係にあると一方的に叫んでいるものだから、疑いが深くなっても当たり前というもの。

「ライラックを呼んできてよ!」
「致しかねます。お嬢様と友人関係にあるというのであれば、御証明ください」

 何を、どうやって。
 そもそも友人ではないのだから、友人関係の証明なんかできるわけもない。
 まして、フローリアのことを学園で面白おかしく、無いことばかり吹聴して悲劇のヒロインを絶賛演じているのだから、そんな自分が何をどうやって証明しろというのだろうか。

「だから、ライラックを呼んできてくれれば解決するわ!」
「はぁ…」

 あまりに一方的であることは理解しているが、もうこれしか手段はない。
 アリカは必死に言い、その苦しすぎる言い分を目の前にいるフローリアはあきれ果てて聞いていたが、このままでは埒は開かない。
 さて、どうしたものかと少しだけ考え、隣にいる騎士へと耳打ちする。

「(もしかして、さっきからずっとこれ?)」
「(そうです)」
「(まぁ、それは困るわよね…)」
「(申し訳ございません…お嬢様のご友人と伺うと…)」
「(間違った対応をすると、わたくしの友人関係に影響が出てしまったら困るものね)」

 うんうん、と頷く騎士の肩をぽんぽんと叩いてねぎらうフローリア。
 というか、フローリアだけが全身がっちがちに鎧を身に纏っていて、フローリアの隣にいる騎士は普通に顔が出ていることへのツッコミはないんか、とアリカ以外が思っているのだが、空気を読んで誰も口に出さないままだ。
 うっかり口に出して顔を見せろ、とごねられても困る。
 触れないところは触れないままで、さっさと帰宅してもらわないといけない。

「…埒が飽きませんな」
「何ですって!?」
「お嬢様の名前も言えないような輩が、お嬢様のご友人なわけないでしょうに」

 わざとフローリアは挑発するように言う。
 さぁどうぞ、自分で墓穴を掘っていただこう。

 言い終わるが同時、フローリアは魔装具への魔力の流れを変化させ、武器をばっと出現させる。
 恐らくイラっとしていたであろうフローリアが用意したのは、たまにしか使用しない大剣。学園で一度フローリアがAランク魔獣相手に大暴れしたとき以来、あまり使用していなかったのだが、ここぞとばかりに出現させ、思いきり石畳の地面へと突き刺した。
 何とも形容しがたいドゴォ!という音と共に、大剣は深々と突き刺さり、剣の持ち手に手をかけたままで、じっとアリカを見据える。

「ひぃっ!あ、あなた!ライラックに言いつけますわよ!」
「どうぞ」
「…は?」
「ライラックは、お嬢様のお名前ではございません。先ほど申した通り、お嬢様の本来の名も知らぬような輩、御学友でもご友人でもあるわけがなかろう!」
「きゃあ!」

 怒鳴られ慣れていないんだろうな、という可愛らしい反応ではあるが、フローリアからすれば勝手に自分の友人を名乗って家まで約束無しで押しかけ、ついでに正門前でぎゃあぎゃあ騒ぐものだから、人通りがある故に何だ何だと注目を浴びている。
 まったくもって迷惑な話だ。
 家が密集しているわけではないから良いとして、誤解を招いてはいけないとフローリアは大剣を持ち直してひたり、とアリカへと突き付けた。

「ひ、ひいぃ!」
「去れ!当家のお嬢様の友人を騙る、いいや…シェルワース家すらも騙る不埒者めが!この件は王立騎士団、そして王都を守る警ら隊にも報告させていただく!」

 フローリアの迫力もさることながら、王立騎士団にまで届を出されては誤解を解くことがとんでもなく面倒なうえに、王太子妃候補にすらなっていないアリカにとってはシェルワース家そのものに大ダメージを与えることになってしまうから、それは避けなければいけない。
 両親には『殿下が私を婚約者に、って言ってくれたわ!』と意気揚々と報告をしたのだが、『そうか、で。いつその知らせが陛下たちより届くのだ?』と超現実的な反応しかもらえなかった。

「ま、待って、本当に!本当に私は!」
「くどい!」

 フローリアの怒りがじわじわと膨れ上がっていくと同時に、剣を握る手にも力が込められていく。

「立ち去れ!」
「ひ、ひぃ!」

 一喝され、アリカはみっともなく駆け出し、慌てて馬車を走らせてシェリアスルーツ家前からようやく退散した。

「…ふぅ」

 かぽ、と兜部分を取ってから魔装具の武装を解除し、大剣も一旦元に戻してからブレスレットの形へと変わってフローリアの手首にしゅるりと巻き付いたことを確認してから、地面に手をひたりとあてる。
 そして次にフローリアは、魔力を地面に向けてぐっと放った。

「えーっと…修復開始!」

 これでいいかな、と修復魔法をかけて、地面をぼこぼこと元通りの形に戻していく。
 先ほど大剣を突き刺した石畳の箇所も、突き刺す前のように綺麗な状態へと戻っていったのを確認してから、よし、と呟いて立ち上がる。

「おお、元通りですね!」
「とりあえず状態修復は出来たから、これで良いかしら。皆さまをお騒がせしてしまったし、あなたにも大変な相手の対応をさせてしまったわね」
「いえ、こちらこそお嬢様のお手を煩わせてしまいまして、申し訳ございません!」
「次から、ああいう人にはわたくしの『フルネーム』を聞いてみると良いわ。答えられないから」

 にこ、と無邪気に微笑んでフローリアが言った内容に、門番共々、騎士ははて、と首を傾げる。

「大体、わたくしは『ライラック』で通っているのよ。通り名なのに、本名だと思っている人が多いから」
「え?」
「うふふ」
「フローリアお嬢様の御名前を、ご存じないのですか…」

 そんな人いるんだな、という騎士たちの言葉に、フローリアはひっそりと和む。
 そうよね、うちの騎士はわたくしの名前を知っていてくれているものね、と内心、とってもご満悦でうんうん、と頷いている。
 それがどれだけ嬉しいことか、と思いつつ何か対策を考える必要がある、と心に留め置き、レイラや友人たちがこちらを見ていることに気付いたフローリアは、そちらに向けて、笑って手を振ったのだった。
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