オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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お茶会で情報収集(皆が教えてくれる)②

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「はいじゃあまずは、殿下の動向からいきますわよ!」

 にっこにこのアマンダが話を始めてくれたので、フローリアは思わず背筋を正した。

「何と、さっき言った通り王妃様は殿下の尻拭いをしないんですって!」
「それって…どなたからアマンダは聞いたの?」
「いやねぇ、わたくしが将来どこで働くと思っているの?」
「王宮内…だけれど…」

 アマンダの笑みが深くなり、もしやと思ったフローリアはちらりと彼女へと視線をやった。それって、と前置きしてからアマンダへとフローリアは問いかける。

「もう王宮内では噂になっている、ということ…?」
「もちろん!シェリアスルーツ侯爵ご夫妻が王宮にいらしてから後、だったかしら」

 そうだ、父と母が慰謝料の話をつけにいく!と意気込んでばっちりおめかしして出かけた日があった、とフローリアは思い出す。

「お父様とお母様が一緒に王宮へ行っていた、ような…」
「それよ!って…何でフローリアは一緒に行かなかったの?」

 ジュリエットに問われ、うーん、とフローリアは困ったような声を出した。

「お父様たちが、『任せろ!』って…」
「おじさまとおばさまなら、言いそうね…」
「実際言っているし、行動あるのみ!っていう雰囲気が…」

 フローリアの言葉に、アマンダとリーリャはうんうん、と納得しているが、ジュリエットは呆れたように溜息を吐いている。

「でも、自分の婚約解消の慰謝料でしょ?フローリア、色々と話をすること自体が、面倒だ、っていう思いもあったんじゃなくて?」
「…」
「フローリア、こっち見なさい」

 視線を逸らしたフローリアの反応に、ジュリエットは思わずツッコミを入れてしまう。
 全くもう、とまるで母のようにフローリアを見ているジュリエットは苦笑いを浮かべて一口お茶を飲んだ。

「ま、王宮に行かなくて良いなら、行きたくないわよね」
「…ええ、面倒だし」
「本音、零れておりましてよ」
「ジュリエットは意地悪だわ」
「自分の手でカタをつけた方が良いんじゃないかしら、って思っただけですわ」
「むう…」

 確かに己の手でカタをつけてしまえれば楽かもしれないが、フローリアは王宮に行くことがそもそも好きではない。
 王太子妃教育が行われていたから行っていただけだし、良い思い出もない。ついでにミハエルに会いたくもないし、自分の国の国母といえど、あんなミハエルを産み落として甘やかしてあれこれ尻拭いばかりを自ら進んでやってきた王妃ジュディスにだけは、今は会いたくなかった。

「ジュリエット、あまりフローリアをいじめちゃダメよ。この子、多分王妃様にお会いしたくないんだから」
「それも知った上で意地悪したのよ」

 ふふ、と笑うジュリエットと、ちょっと!と咎めるようなアマンダ。やめなさいよ、と二人を諌めるリーリャ。
 あぁ、落ち着くなぁとフローリアは一人和んでいる。

 その光景を見て、使用人たちも実は和んでいた。

 フローリアは今まで王太子妃教育もあってか、笑顔を浮かべてはいるけれど、どこかピリピリした雰囲気を出してしまっていた。
 家では少し気を抜いているつもりでも、張り詰めた心はそのままになってしまっている。

「お嬢様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「いただくわ、ありがとう」

 こうして話しかけても少し前は『…えぇ、お願い』と少しだけ強ばった笑顔を返されていた。
 今は穏やかな笑みが、フローリアから自然と零れている。
 良かった、と侍女長はつられて微笑んで頷き、どれを入れようかと考えてからまた、フローリアに問いかける。

「お嬢様、飲んだあとすっきりするようなお茶か、あるいは甘い風味のものなどございますが…」
「そうね、少し甘いものが良いかも」
「かしこまりました」

 フローリアの希望通りのお茶をいれ、侍女長は彼女の前にカップを差し出した。
 果実を使ったお茶で、ほんのりと香りも甘く、実際に飲んでみると風味も甘いもので最近人気が出ている茶葉だ。

「…あら、美味しい」
「それはようございました」

 にこにことしている二人に気付いたフローリアの友人たちは、はっと顔を見合わせてから、自分も!と手を上げる。

「わたくしも!」
「次は冷たいお茶が良いのですけれど…」
「あの、お茶の入れ方にコツはありまして?とっても美味しいわ!」

 わいわいと騒いでいる女子たちだが、ちょうどやってきたレイラを見てパッと顔を輝かせた。

「まぁ、レイラ様!」
「あ、フローリアのお友達の皆様方!」

 レイラはフローリアが大好きなのもあるが、フローリアが大切にしている人たちも大好きであった。
 双子の片割れが大切にしているならば、自分もという思考回路だが、おかげさまでと言うべきか人間関係は大変良好。フローリアの友人たちとは特に気が合っていた。

「お茶会、今日だったものね」
「そうなの」
「……そう、よね」
「レイラ?」

 いつもの口調で話しかけられたのだが、直後にうーん、と何やら考え込んでしまったレイラを、不思議そうにフローリアは見つめる。
 フローリアの友人たちもどうしたのだろうか、とレイラをつられて見つめた。

「レイラ様、どうなさいましたの?」
「えぇと…」

 困ったような顔をしているレイラを、四人ははて、と顔を見合せてもう一度四人揃って見た。

「…私がさっき出かけて帰ってきたときに、うちの周りをゆっくり周回している妙な馬車があって…。もしかして、フローリアのお友達がもう一人来る予定だったのかしら、って…」
「え…?」

 どういうことなのだろうか、と四人は顔を見合せた。
 フローリアがいつも一緒にいる、あるいは行動を共にしているのはこのメンバーのみ。
 たまに他の人が入ることもあるが、基本メンバーはここにいる人たちだけで、今日のお茶会だって話しているのは家族くらいだ。

「あ…」
「どうしたの、ジュリエット」
「もう一つ、思い出したわ」

 一体誰が来たというのか、と考えていたところに、ジュリエットが話すのを忘れていた…!と苦々しい口調で呟いたのをアマンダが聞き逃さなかった。

「忘れてた、ってどういう事なの?」
「…フローリアから殿下を奪った令嬢いたでしょう?」
「アリカ・シェルワース嬢?」
「そう!」

 誰だったか、と思ってしまったフローリアだが、小声でアマンダに『フローリア、バレてるわよ』とツッコミを受けてしまい、思わず視線を逸らしたが、続いた言葉に動きを止めてしまった。

「あの人が、やたらとフローリアに会いたがってるの!」
「……え?」

 殿下は差し上げたというのに、今更何の用事なのかと、フローリアは思わず寒気を感じたのであった。
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