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認識の相違があるようで
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「お嬢様ぁぁぁぁ!!婚約破棄を喜ぶとは何事でございますか!!」
「まぁダドリー、喧しくてよ」
「喧しくもなります!わたしは、お嬢様の幸せな結婚を願っておりますれば!」
「えぇ……?」
幸せな結婚、という言葉にまた心底嫌そうな顔になってしまうフローリアと、『やだ珍しいもの見た』とキャッキャしているレイラ。
ダドリーは純粋にフローリアを心配しているのだが、そのフローリア自身はそもそも王太子妃候補になれたことなんて、喜んだことはない。むしろそんなものクソ喰らえ、という気持ちでいるから、婚約破棄を悲しむどころか喜んでいるのだ。
「女の子の幸せ、イコール、王妃様、っていう考えが古臭いのよダドリー」
「うぐ」
フローリアの台詞は容赦なくダドリーにぶっ刺さるが、フローリアは更に容赦することなく追撃していく。
「そもそも、一方的過ぎる婚約だなんて誰が喜ぶと思っていて?王妃様は殿下溺愛、殿下至上主義なお方だから、間違いなくヘマをしてしまったら、わたくしいびり倒されてしまうわ」
「い、いびり倒す?!お嬢様、どこでそのようなお言葉を!」
「お父様とお母様」
もぉぉぉぉ!!とキレているダドリーに対して、レイラが小さな声で『やだもう、怒りすぎたら頭に血が上ってうっかり死にかねないわよ?』と言っていたが、フリッツが『めっ』とレイラを叱っている。
叱られたレイラは不満そうにしているが、家族揃ってあの婚約を純粋に祝福していた人なんかいないのだ。
「侯爵閣下も奥様も、お嬢様になんということをお教えに!」
「うちの家族も親戚も、わたくしが王太子妃候補になったこと喜んでる人の方が少ないのよね」
「そうなのよねぇ」
「え」
「あ、そうなんだ?」
え、はもちろんダドリー。
あ、そうなんだ、はフリッツ。
レイラとフローリアは揃ってうんうん、と頷いている。
「だって、王太子妃候補に選ばれたのって当主教育が始まってしまった後よ?」
「……あ」
言われてみれば、とダドリーは納得する。
これでもし、フローリアが『王太子妃候補!やった!』と喜ぶような女の子だったら?
また次期当主候補を選定し直さなければならない。
あまりの腕っ節に今回は親戚一同も珍しく『フローリアなら大丈夫だろう』と、満場一致で了解が出たというのに、これでまた決め直す、となればどれほどの時間がかかることか。
しかも、人によっては『フローリアを当主にするなら自分は補佐に』と申し出てくれていた人もいる。
その筆頭が、レイラである。
レイラとフローリア、一見して似ていない。だが、彼女たちは二卵性双生児なので、似ていなくて当たり前なのだ。
更に、レイラとフローリアは別々の学校に通うよう、アルウィンから指示されたので言われた通りにしている。フローリアの通う学院を決めたのが王妃なので、レイラは別のところで学んでこい、というのが実情。
そんなこと言わずにレイラ嬢も同じところに通えばいいのに、と猫なで声で言われたが、双子は揃って小さな声で『気持ち悪…』と呟いていた。
「婚約破棄、ということはつまり、もうあの息子馬鹿な王妃殿下とのお茶会もしなくていいということ…!」
「あの、お嬢様。王国の女性たちの憧れなのですよ?」
「何が?」
「王妃殿下主催のお茶会でございます!」
「いやだわ、ダドリー」
にこ、と凄みのある笑顔になったフローリアに、何となく嫌な予感はしたものの、もう既に思いきり地雷を踏みつけてしまったようなもの。その足を離してしまえばフローリアの怒りがどかん、と爆発してしまう。
離さなくても爆発するが。
「他の貴族を招待するなら、王妃殿下だって猫をかぶっていらっしゃるわ。二人きりでひたすら王太子殿下のあれこれを聞かされる、息子溺愛の王妃殿下とのお茶会の何が楽しいというの」
怒鳴ることなく淡々と低い声で、しかもどこか虚ろな目で呟いたフローリアを見れば、これまでどのようなお茶会だったのかはお察し、というやつである。
「リアとダドリーの認識の差が激しすぎてちょっと面白いんだけど、わたくし」
「こら、レイラ」
「そう思わない?」
「…思うから困るんだよねぇ」
ねー、と仲睦まじくレイラとフリッツは頷きあった。
「…わたくしめはてっきり、お嬢様は王太子妃になれることをお喜びになっているとばかり…」
「ダドリーやほかの使用人たちはそうでしょうね。メイドにも何人か『お嬢様、さぞやお悔しいでしょう!』って言われてしまったわ」
フローリアは吐き出して少しだけスッキリしたのか、いつもののほほんとした、おっとり表情に戻っている。
親戚一同、フローリアが次期当主候補になったのを喜んでいた、ということを知らない使用人も多いのか、と改めてフローリアは認識し、いっそ父とフローリアの手合わせを見せた方が早いのだろうかとも思う。
だが、父と本気で手合わせをしたら、二人とも熱が入りすぎてあれこれ破壊してしまい、母から『二人ともお座りなさい』と正座させられ、こんこんとお説教をされてしまった記憶が横切っていく。
「ねぇダドリー、使用人の皆に伝えてくれないかしら。わたくし、婚約破棄されたことを惜しんでなどいない…と」
「は?」
「認識の相違があっては困るの。もしも、万が一、王家の関係者が我が家にやってきて、婚約破棄を取り消す、だなんてことを提案してきたとして」
「何と、それはめでたく」
「めでたくないから言っているの、話はお聞きなさい」
「あ、ハイ」
執事長であるダドリーに対して、割とフローリアは容赦がない。
おじいちゃんと孫のような年齢差だが、フローリアの意識としては『次期当主』なのだから、これが当たり前ではある。
「そんな提案を聞いて、『お嬢様はきっと喜びます!』とかうっかり答えてみなさい。王命を持ち出されてしまったら、当家は反論も出来ないでしょう」
「それ、は」
ダドリーはハッとしたような顔になる。
王命を使われてしまっては、いち貴族が断るだなんてできやしない。
まして、そこまでいくと外堀を完全に埋め立てて、追加で裏から手を回した上でフローリアをどうにかして囲いこもうとするはずだ。
「そうはならないように、皆の認識を擦り合わせておく必要があります。…そういえば、レイラ」
「なぁに、リア」
用意されていたお茶を飲んで、レイラは首を傾げ返事をした。
「あなたには、お父様から何て連絡がきたの?」
「リアが婚約破棄された、って」
「レイラ、ちょっと違うよ。婚約破棄される、じゃなかった?」
「……レイラ……」
「意味合いは同じでしょう?」
まぁ確かにほとんど同じか、と思いながらもフローリアは少しだけ溜め息を吐いた。
ミハエルをとてつもなく嫌っているレイラのことだ、知られたらこういう状況になるとは分かっているはずなのにと、考えたところで、家族にはきちんと知らせようと思ってくれたのか、と別方向にかんがえた。
「とりあえず、卒業パーティーの予行練習の場…というか、学園全体合同練習の場で声高らかに宣言してくれたから、あっという間に広がるんじゃないかしら、このお話」
「他に好きな令嬢ができたのかしらね?」
「そうじゃない?」
あっけらかんと言うフローリアに、フリッツははい、と挙手をした。
「あら、フリッツ様どうなさいまして?」
「一応確認なんですが…」
「どうぞ」
「もし王太子殿下にそういった人がいたとして、悔しくは…」
「ないわ」
ですよね、とダドリー、フリッツの心の声はキレイにハモった。
「自分から無理やり婚約したくせに、いらなくなったら捨てる、ってどういう神経しているのかしら。しかもそれが王太子だなんてね!」
「わたくしの言いたいことはほとんどレイラがこうして代弁してくれているし」
レイラとフローリア、双子だからこそなせる技、とでも言うべきなのだろうか。
この双子、色んな意味でとても気が合っている。
レイラが得意としている武器が弓なのも、フローリアと出撃した時に遠慮なくサポートできるから、だったりする。
双子が魔物討伐に参加したとき、アルウィンをはじめ、シェリアスルーツ領の騎士たちは呆然としていた。
魔獣討伐における二人の連携があまりにも整いすぎていたこと、フローリアの一撃の重さの凄まじさ、レイラのサポート能力と応用力の高さも凄い、など。
単なる令嬢には有り得ないほどの戦闘スキルの高さもそうだが、ここまで強くしてきたシェリアスルーツ侯爵夫妻の強さもあるからこそ、娘二人が成長し続けることができている。
「さて、お父様が魔獣討伐から帰ってきて、お母様も揃ったタイミングでこれからのことを話し合いましょうか。レイラもその時はよろしくね?」
「もちろんよ!王太子を血祭りに」
「あげないで」
めっ、と言いながらフローリア的には軽く、受けたレイラからすれば相当重たいデコピンを食らってしまい、レイラは額を押さえてしばらく悶絶していた。
「まぁダドリー、喧しくてよ」
「喧しくもなります!わたしは、お嬢様の幸せな結婚を願っておりますれば!」
「えぇ……?」
幸せな結婚、という言葉にまた心底嫌そうな顔になってしまうフローリアと、『やだ珍しいもの見た』とキャッキャしているレイラ。
ダドリーは純粋にフローリアを心配しているのだが、そのフローリア自身はそもそも王太子妃候補になれたことなんて、喜んだことはない。むしろそんなものクソ喰らえ、という気持ちでいるから、婚約破棄を悲しむどころか喜んでいるのだ。
「女の子の幸せ、イコール、王妃様、っていう考えが古臭いのよダドリー」
「うぐ」
フローリアの台詞は容赦なくダドリーにぶっ刺さるが、フローリアは更に容赦することなく追撃していく。
「そもそも、一方的過ぎる婚約だなんて誰が喜ぶと思っていて?王妃様は殿下溺愛、殿下至上主義なお方だから、間違いなくヘマをしてしまったら、わたくしいびり倒されてしまうわ」
「い、いびり倒す?!お嬢様、どこでそのようなお言葉を!」
「お父様とお母様」
もぉぉぉぉ!!とキレているダドリーに対して、レイラが小さな声で『やだもう、怒りすぎたら頭に血が上ってうっかり死にかねないわよ?』と言っていたが、フリッツが『めっ』とレイラを叱っている。
叱られたレイラは不満そうにしているが、家族揃ってあの婚約を純粋に祝福していた人なんかいないのだ。
「侯爵閣下も奥様も、お嬢様になんということをお教えに!」
「うちの家族も親戚も、わたくしが王太子妃候補になったこと喜んでる人の方が少ないのよね」
「そうなのよねぇ」
「え」
「あ、そうなんだ?」
え、はもちろんダドリー。
あ、そうなんだ、はフリッツ。
レイラとフローリアは揃ってうんうん、と頷いている。
「だって、王太子妃候補に選ばれたのって当主教育が始まってしまった後よ?」
「……あ」
言われてみれば、とダドリーは納得する。
これでもし、フローリアが『王太子妃候補!やった!』と喜ぶような女の子だったら?
また次期当主候補を選定し直さなければならない。
あまりの腕っ節に今回は親戚一同も珍しく『フローリアなら大丈夫だろう』と、満場一致で了解が出たというのに、これでまた決め直す、となればどれほどの時間がかかることか。
しかも、人によっては『フローリアを当主にするなら自分は補佐に』と申し出てくれていた人もいる。
その筆頭が、レイラである。
レイラとフローリア、一見して似ていない。だが、彼女たちは二卵性双生児なので、似ていなくて当たり前なのだ。
更に、レイラとフローリアは別々の学校に通うよう、アルウィンから指示されたので言われた通りにしている。フローリアの通う学院を決めたのが王妃なので、レイラは別のところで学んでこい、というのが実情。
そんなこと言わずにレイラ嬢も同じところに通えばいいのに、と猫なで声で言われたが、双子は揃って小さな声で『気持ち悪…』と呟いていた。
「婚約破棄、ということはつまり、もうあの息子馬鹿な王妃殿下とのお茶会もしなくていいということ…!」
「あの、お嬢様。王国の女性たちの憧れなのですよ?」
「何が?」
「王妃殿下主催のお茶会でございます!」
「いやだわ、ダドリー」
にこ、と凄みのある笑顔になったフローリアに、何となく嫌な予感はしたものの、もう既に思いきり地雷を踏みつけてしまったようなもの。その足を離してしまえばフローリアの怒りがどかん、と爆発してしまう。
離さなくても爆発するが。
「他の貴族を招待するなら、王妃殿下だって猫をかぶっていらっしゃるわ。二人きりでひたすら王太子殿下のあれこれを聞かされる、息子溺愛の王妃殿下とのお茶会の何が楽しいというの」
怒鳴ることなく淡々と低い声で、しかもどこか虚ろな目で呟いたフローリアを見れば、これまでどのようなお茶会だったのかはお察し、というやつである。
「リアとダドリーの認識の差が激しすぎてちょっと面白いんだけど、わたくし」
「こら、レイラ」
「そう思わない?」
「…思うから困るんだよねぇ」
ねー、と仲睦まじくレイラとフリッツは頷きあった。
「…わたくしめはてっきり、お嬢様は王太子妃になれることをお喜びになっているとばかり…」
「ダドリーやほかの使用人たちはそうでしょうね。メイドにも何人か『お嬢様、さぞやお悔しいでしょう!』って言われてしまったわ」
フローリアは吐き出して少しだけスッキリしたのか、いつもののほほんとした、おっとり表情に戻っている。
親戚一同、フローリアが次期当主候補になったのを喜んでいた、ということを知らない使用人も多いのか、と改めてフローリアは認識し、いっそ父とフローリアの手合わせを見せた方が早いのだろうかとも思う。
だが、父と本気で手合わせをしたら、二人とも熱が入りすぎてあれこれ破壊してしまい、母から『二人ともお座りなさい』と正座させられ、こんこんとお説教をされてしまった記憶が横切っていく。
「ねぇダドリー、使用人の皆に伝えてくれないかしら。わたくし、婚約破棄されたことを惜しんでなどいない…と」
「は?」
「認識の相違があっては困るの。もしも、万が一、王家の関係者が我が家にやってきて、婚約破棄を取り消す、だなんてことを提案してきたとして」
「何と、それはめでたく」
「めでたくないから言っているの、話はお聞きなさい」
「あ、ハイ」
執事長であるダドリーに対して、割とフローリアは容赦がない。
おじいちゃんと孫のような年齢差だが、フローリアの意識としては『次期当主』なのだから、これが当たり前ではある。
「そんな提案を聞いて、『お嬢様はきっと喜びます!』とかうっかり答えてみなさい。王命を持ち出されてしまったら、当家は反論も出来ないでしょう」
「それ、は」
ダドリーはハッとしたような顔になる。
王命を使われてしまっては、いち貴族が断るだなんてできやしない。
まして、そこまでいくと外堀を完全に埋め立てて、追加で裏から手を回した上でフローリアをどうにかして囲いこもうとするはずだ。
「そうはならないように、皆の認識を擦り合わせておく必要があります。…そういえば、レイラ」
「なぁに、リア」
用意されていたお茶を飲んで、レイラは首を傾げ返事をした。
「あなたには、お父様から何て連絡がきたの?」
「リアが婚約破棄された、って」
「レイラ、ちょっと違うよ。婚約破棄される、じゃなかった?」
「……レイラ……」
「意味合いは同じでしょう?」
まぁ確かにほとんど同じか、と思いながらもフローリアは少しだけ溜め息を吐いた。
ミハエルをとてつもなく嫌っているレイラのことだ、知られたらこういう状況になるとは分かっているはずなのにと、考えたところで、家族にはきちんと知らせようと思ってくれたのか、と別方向にかんがえた。
「とりあえず、卒業パーティーの予行練習の場…というか、学園全体合同練習の場で声高らかに宣言してくれたから、あっという間に広がるんじゃないかしら、このお話」
「他に好きな令嬢ができたのかしらね?」
「そうじゃない?」
あっけらかんと言うフローリアに、フリッツははい、と挙手をした。
「あら、フリッツ様どうなさいまして?」
「一応確認なんですが…」
「どうぞ」
「もし王太子殿下にそういった人がいたとして、悔しくは…」
「ないわ」
ですよね、とダドリー、フリッツの心の声はキレイにハモった。
「自分から無理やり婚約したくせに、いらなくなったら捨てる、ってどういう神経しているのかしら。しかもそれが王太子だなんてね!」
「わたくしの言いたいことはほとんどレイラがこうして代弁してくれているし」
レイラとフローリア、双子だからこそなせる技、とでも言うべきなのだろうか。
この双子、色んな意味でとても気が合っている。
レイラが得意としている武器が弓なのも、フローリアと出撃した時に遠慮なくサポートできるから、だったりする。
双子が魔物討伐に参加したとき、アルウィンをはじめ、シェリアスルーツ領の騎士たちは呆然としていた。
魔獣討伐における二人の連携があまりにも整いすぎていたこと、フローリアの一撃の重さの凄まじさ、レイラのサポート能力と応用力の高さも凄い、など。
単なる令嬢には有り得ないほどの戦闘スキルの高さもそうだが、ここまで強くしてきたシェリアスルーツ侯爵夫妻の強さもあるからこそ、娘二人が成長し続けることができている。
「さて、お父様が魔獣討伐から帰ってきて、お母様も揃ったタイミングでこれからのことを話し合いましょうか。レイラもその時はよろしくね?」
「もちろんよ!王太子を血祭りに」
「あげないで」
めっ、と言いながらフローリア的には軽く、受けたレイラからすれば相当重たいデコピンを食らってしまい、レイラは額を押さえてしばらく悶絶していた。
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