オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

みなと

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婚約の経緯について小一時間

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 興味津々のセルジュと悩んでいるアルウィン、という真逆の二人。
 まずどこから話せばいいものやら、とアルウィンは悩んでいたが、とりあえず順を追って色々と話していこうと息をひとつ吐いた。

「さて、お前はうちと王家の間にどういうやり取りがあって、フローリアとミハエル殿下との婚約が成ったかについては一切知らん、ということで良いか」
「はい」

 セルジュは頷くと、好奇心いっぱいに目をきらきらさせながら、さぁ早く!と言わんばかりにデスクを叩いた。

「というわけでほら団長、早く」
「はいはい…」

 絶対おもしろおかしく語り継ぐ気満々だな…と、ほんの少しげんなりはしたが、当時を思い出して腕組みをした。

「まずは、我がシェリアスルーツ侯爵家の次期当主の決め方を話しておこうか」
「へ?そこから?!」
「うちはな、普通ではないんだ」

 そりゃまぁそうでしょうね、とセルジュは心の中で呟いた。

 まず、現在目の前にいるアルウィンの強さが、直球で言って化け物級。
 小さな魔獣なら物理攻撃で一撃で屠る。魔獣が大型であったり、強くなればさすがに魔法も使うけれど、アルウィンの使用武器は、とてもがっちりとした体格の彼と相性のいい、大型ハンマーや大剣である。
 振り回し、反動をつけて振り下ろす勢いのまま、木っ端微塵に粉砕しながら魔獣を屠る。また、犯罪者を逮捕、あるいは逃走した者を遠慮なくぶちのめす時には大剣、あるいは片手剣、さらには鞭へと魔装具を変化させることで対応し、犯罪者から『悪魔』とまで言われることもあるが、『悪魔上等!』とアルウィンは高笑いをするものだから、部下たちから『どっちが犯罪者か分からない』と頭を抱えられることもある。
 だが、とてつもなく頼りになる存在だし、アルウィンがいるから鼓舞される、頑張れる、という隊員がとても多い。

 そして、アルウィンが使用しているこの魔装具は、シェリアスルーツ家に伝わるもの。武術含め魔法など、諸々の才能がある者は、魔装具から選ばれる。
 フローリアは、『気が付いたら腕輪型の魔装具に気に入られていた』らしい。
 主が魔力を注ぎ込むことで、形を変えるそれを駆使して、シェリアスルーツの名のもとに、国の防衛に携わっていくのだが、今は、一旦それは置いておく。

 次に、アルウィンの妻であるルアネ・シェリアスルーツも、強い。
 ルアネは結婚するまで、第三王女の護衛騎士に任命されていた王立騎士団の女性騎士だった。
 アルウィンから熱烈なプロポーズを受け、 彼女が護衛していた第三王女からも『こんな良いお話ないわ!』と説得をされて、シェリアスルーツ家へと嫁いだのだ。
 魔装具がなくとも、レイピアから繰り出される剣術に風魔法を組み合わせ、魔獣退治は勿論のこと、自分の身は自分で余裕で守れる。
 なお、アルウィンとの仲については、今は見ているこちらが疲れてしまうくらいのおしどり夫婦っぷりを発揮している。

 そしてもう一人。
 フローリアの双子の妹、レイラ・シェリアスルーツ。二卵性双生児だから似てはいないが、ぱっちりした猫目、瞳の色はフローリアと同じ翠色。
 髪の色はアッシュで、ショートヘア。ピアスタイプの魔装具を持ち、武器形態にするときは弓にしている。
 フローリア至上主義、泣かせるものは容赦しないと公言しているくらい。
 そしてとんでもないシスコンのくせに婚約者を蔑ろにすることなどなく、関係性は相思相愛、という貴族にしては珍しいタイプの関係性。
 次期当主ではないが故に自由に生きる!でも婚約者を他の誰にもやりたくないから、婚約者とは結婚する!更に加えて、フローリアに何かあった時に一番の味方でありたいと、当主補佐として生きることを決めたシスコン。
 レイラの婚約者も『レイラが良いならそれでいいよ』と、あっさり受け入れたから周りの貴族は唖然とした。

 何ともまぁ濃い面々のシェリアスルーツ家だが、この面々に加えて親戚も親戚で、色んな意味で猛者揃いの中で育ったフローリアは、そんじょそこらの男を婚約者などにはしたくなかった。

「お嬢様って、そんだけ強いならうちの国の騎士を輩出している家系の嫁に!って言われそうなものなのに、よく王太子妃候補になりましたね」
「そりゃまぁ、王家から無理矢理結ばされた婚約だったからな」
「え」

 ぎょっとするような単語を聞いて、セルジュは目をまん丸にした。

「いや、王家がどうとかって言ってもらいくらなんでもそれは…」
「そもそもフローリア曰く、婚約者を誰にするかって話をしたら、『私より強い人じゃないと婚約者にしたくない!』って断言してきてな…」
「でしょうね」
「それを聞いたミハエル殿下、何て言ったと思う?」
「えー…。『俺の方が強いんだぞー、俺は王家の人間だぞー』とか、そんな感じのろくでもないこと言ったんじゃないですかー?」
「おう、その通り」
「うえぇ、予想当たった…」

 入れてもらったお茶をずず、とすすってからセルジュは嫌そうな顔をする。
 嫌な顔してんじゃねぇ、お前が聞きたいって言ったんだろうが!とアルウィンは怒鳴りつけたい思いを堪えつつも、当時をまた改めて思い返した。

「フローリアが次期当主候補に選ばれてから、一ヶ月くらいした頃か…。王家主催のパーティーに招待されたんだよ」
「パーティーに」
「そう。妻が護衛騎士を担当していた第三王女殿下…いや、元第三王女殿下、だな。その方から『ご令嬢たちに会いたいから、是非いらしてね』と、妻含めシェリアスルーツ家宛に招待状が来てな」
「まぁ、夫人は王家とご縁がありますからねぇ」
「そうそう。娘たちを社交の場に慣れさせるためにも参加することにして、一家揃って参加したんだが…」

 セルジュはそこまで聞いて、段々とアルウィンの顔が嫌そうになってきていることに目ざとく気付いた。

「親の贔屓目もあるだろうが、フローリアはとても可愛いだろう」
「へ?あ、可愛いっていうより美人さん、って感じですよ?」
「どっちでもいい!顔の造りは妻に感謝だ。我が妻は本当に」
「団長、そのまま奥様への惚気はご勘弁です」
「……すまん、話が行方不明になるところだったわ」

 ごほん、と咳払いをしてアルウィンもお茶をすする。
 当時を思い出せば出すほど、あれほどまでに最悪な婚約締結は見たことがないレベルだ。

「フローリアの容姿に一目惚れしたミハエル殿下が、『この子、俺の嫁!』とホール中央で叫んだんだよ」
「でも子供らしくて可愛いじゃないですかー」
「ほう」
「あいたたたた!団長、耳ちぎれるから引っ張らないで!」
「会場の隅っこならまだしも、ホールど真ん中で、でっかい声で叫ばれてみろ!注目の的になるだろうが!」
「確かにそうですごめんなさい!」

 二人してぜぇはぁと呼吸を荒くしながら、少し温度が下がったお茶を一気飲みし、アルウィンはお代わりのお茶を手際よく入れて、改めて座り直した。

「セルジュ、さっき『ろくでもないこと言ったんじゃ』とか言ってたな。『俺の嫁!』発言の後に、それが続くんだよ!」
「うわぁ」

 てっきり別の場所でかと…と乾いた笑いを零すセルジュだったが、予想もしていなかった場所とタイミングでばくだんはつげんかましちゃったのか、あの殿下は…とまた更に何とも言えない表情になってしまった。

「フローリアは間髪入れずに『わたくしよりも強いひとじゃないと嫌です』って言ったんだが、『フン!お前は王家を何だと思っているんだ!いいか、王家より偉い貴族なんかいないんだ。つまり、お前んちより俺んちは強いんだから、婚約者だー!』……と、高笑いされたんだよ」
「当時から馬鹿だったんですね、殿下」
「あんまり言うと王家侮辱罪になるからやめとけ」
「はーい」

 予想の百倍馬鹿だったミハエルの発言に、思い出したアルウィンも、聞かされたセルジュも揃って溜め息を吐いた。
 幸いだったのは、ミハエルがそこそこ頭の出来が良く、外面も良かったので外交や人付き合いに関しては問題なかった、というところだ。
 ただ、学園に入学してから人付き合いの質が変わってしまい、悪い友達に悪い方向に引っ張られてしまっているのだが。

「でも、殿下ってその頃王太子じゃなかったですよね」
「王妃殿下の息子バカが強すぎてな」
「あー…」
「王妃殿下のご実家は、サヴェルジュ公爵家だ。何せあの家は、一人娘の王妃殿下を愛していらっしゃる。その可愛い一人娘が王子の後見を願ったから、娘のためなら、と後見になった上で王太子に推薦したんだよ」
「他にも王子いますよね?!」
「いる」
「ミハエル殿下、国王向きじゃないのに…」
「うちのフローリアも、王太子妃向きじゃない。だから、早々に婚約解消をどうにかしてやろうと思っていたところに、今回の婚約破棄騒動、ってことだ」

 あー、と納得したセルジュだが、ここで一つ疑問が出てきた。

「でも何でいきなり婚約破棄なんですかね?」
「知らん。俺はそれを聞くためにこれから帰る」
「ストーップ!!まだ帰っちゃダメです団長!もうちょいあれこれ聞かせて!!あと書類仕事して!!」

 聞いた途端帰ろうと椅子から立ち上がりかけたアルウィンに、セルジュはがっちりと抱き着いてホールドする。
 くそ、うまいこと逃げられると思っていたんだが…とアルウィンのぼやきを、セルジュはしっかり聞いていたのだった。
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