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わたくし、反省しました
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善は急げで早急に帰宅したナディスの姿に、公爵家の使用人たちはぎょっと目を丸くする。いつものように王太子に相手にされなかったことを騒ぎ立てるのかと思いきや、全くそのような素振りがないどころか、執事長に小走りで駆け寄っていく。
「ねぇ、お父様は今お忙しいかしら。急ぎお伝え申し上げたいことがあるのだけれど」
大変穏やかな口調に、驚きを隠せない使用人一同。
少し前ならば、王太子との月一度の面会日には『相手にされなかった!』と使用人達に当たり散らし、虫の居所が悪いと更に酷く、稀にメイドに対して暴力を振るうこともあった。
嵐の前の静けさなのか…?と使用人達が震え上がり誰も返答できないままでいると、代表して執事長が腰を折り返答した。
「旦那様は、本日休暇で邸内にいらっしゃいます。今は奥様とお茶の時間だったかと…ご案内いたしましょうか?」
「えぇ、お願いね」
「かしこまりました。旦那様に伺ってまいりますので、少々お待ちくださいませ」
「わかりましたわ」
ナディスに頭を下げ、その場をいったん後にした執事長が早足で向かう先、公爵家当主が夫人とまったりティータイムを楽しんでいる四阿にて。
簡単にではあるが、娘から伝えたいことがあると聞かされた夫妻は揃って顔を見合わせる。
確か今日は王太子との月一度の交流の茶会だったのではなかろうか、と。そして、その時に毎回失礼な扱いをされて使用人達にきつく当たり散らし、どうにかしてほしいと懇願されているのに、今日はそれが無いらしい。
「あなた…ナディスに何かあったのかしら」
「かもしれん。早く我が娘をここへ。それと、新しい紅茶と茶菓子も用意させなさい」
「かしこまりました」
公爵家当主・ガイアスと、公爵夫人・ターシャは顔を見合わせたまま考え込んでしまった。
ナディスは一度「こう!」と思い込んだら突き進んでしまう悪癖があった。
王太子との婚約も彼女が望み、家の力を使ってではあるが締結されたもの。だが、その後の王太子妃教育に関してや隣国との外交、王妃主催の茶会や学園での勉強、自国貴族との交流(あくまで貴族としての)に関しては本人の努力の甲斐あって、大変すばらしい結果を残している。
だが、その上をいってしまうのだ。
王太子が絡んだ時の『恋は盲目』状態の、ナディスの暴走は。
公爵家の権力をフル活用して、王太子に近づいた貴族令嬢を排除しようとするわ、近づこうとしただけでとんでもない勢いでけん制するわ。
母であるターシャは、正直なところそこまでの価値があるとは思えなかったのだ、王太子に。というのも、ヴェルヴェディア公爵家の後ろ盾を得たからこそ彼が王太子として立太子したのだから。
可もなく不可もなく、な第一王子という印象しかない。王としての素質がないわけでもないが、決定打に欠けるとでも言うべきか。
父であるガイアスも頭を抱えていた。
王太子との茶会で常に荒れ荒んで帰宅する娘がとんでもなく『普通の』状態で帰ってきたということに。
両親はぐるぐると悩み、そして再び同時にため息を吐いた。
「旦那様、奥様、お嬢様をお連れいたしました」
はっ、と顔を上げると至って普通の表情で立っているナディスの姿。
婚約が決まってから、これだけ普通にしている娘を見たことがあったであろうか。否、ない。
ナディスは綺麗にお辞儀をし、真っすぐに両親と向き合う。
ガイアスが口を開こうとしたその時、ナディスはまるで学園でのできごとを報告するように何でもない口調で告げたのだ。
「お父様、お母様、これまでの浅慮極まりないわたくしの態度や思考を、どうぞお許しくださいませ。そして、王太子殿下との婚約解消のお手続きを早急に、むしろ今すぐに進めてください。あの方に一目ぼれをしたから、という浅はかすぎる理由で無理矢理婚約者となってしまったこと、他家の令嬢にも申し訳なく…本当に反省しておりますの」
「「え…?」」
謝った。
しかも己が如何に無理に婚約者となってしまったかも理解して、謝った。
「ナディス…どうしたというのいきなり…」
呆然としたターシャがようやくそれだけ問いかけたが、ナディスの表情は特に変化もなく、ただこう続けた。
「さすがに会うたび浮気現場を見せられては、百年の愛も消滅してしまいますもの。貴族の娘としての務めは理解しておりますが、王太子殿下が『わたくしが嫌い、気に食わない』という理由でそのようなことを続けておいでのようですし、毎回婚約解消やら破棄やらということもおっしゃっていましたので、いち家臣としてご希望をかなえてさしあげねば、と思い至った次第ですわ」
言い終わるとにこやかに微笑んでみせたナディス。
まさか婚約者との間でそのようなことが起こっていたとも思っていなかった公爵は、ベルを鳴らして執事長を呼んだ。
「急ぎ、王城に向かう準備を。わたしは陛下と少し話してこよう。ターシャ、詳細をナディスから聞いて録音型魔法具に残しておきなさい」
「かしこまりましたわ、あなた。いってらっしゃいませ」
難しい表情で立ち去る公爵と、公爵夫人としての顔で娘に向き合うターシャ。
「ナディス、今までのことを詳しくお母様に聞かせてくれないかしら。これまでの貴女がこんなにも変わってしまうだなんて、余程だったのでしょう」
悪女、と呼ばれ不名誉なあだ名がいくつもついた娘を完全に信用したというわけではないが、これはこれ、それはそれ、と割り切り向き合った。
王太子妃教育がかなり進んでいる娘のこれから、国内での立ち回り、役目、諸々をターシャは考えながらどうするかを思案し始めたのだった。
「ねぇ、お父様は今お忙しいかしら。急ぎお伝え申し上げたいことがあるのだけれど」
大変穏やかな口調に、驚きを隠せない使用人一同。
少し前ならば、王太子との月一度の面会日には『相手にされなかった!』と使用人達に当たり散らし、虫の居所が悪いと更に酷く、稀にメイドに対して暴力を振るうこともあった。
嵐の前の静けさなのか…?と使用人達が震え上がり誰も返答できないままでいると、代表して執事長が腰を折り返答した。
「旦那様は、本日休暇で邸内にいらっしゃいます。今は奥様とお茶の時間だったかと…ご案内いたしましょうか?」
「えぇ、お願いね」
「かしこまりました。旦那様に伺ってまいりますので、少々お待ちくださいませ」
「わかりましたわ」
ナディスに頭を下げ、その場をいったん後にした執事長が早足で向かう先、公爵家当主が夫人とまったりティータイムを楽しんでいる四阿にて。
簡単にではあるが、娘から伝えたいことがあると聞かされた夫妻は揃って顔を見合わせる。
確か今日は王太子との月一度の交流の茶会だったのではなかろうか、と。そして、その時に毎回失礼な扱いをされて使用人達にきつく当たり散らし、どうにかしてほしいと懇願されているのに、今日はそれが無いらしい。
「あなた…ナディスに何かあったのかしら」
「かもしれん。早く我が娘をここへ。それと、新しい紅茶と茶菓子も用意させなさい」
「かしこまりました」
公爵家当主・ガイアスと、公爵夫人・ターシャは顔を見合わせたまま考え込んでしまった。
ナディスは一度「こう!」と思い込んだら突き進んでしまう悪癖があった。
王太子との婚約も彼女が望み、家の力を使ってではあるが締結されたもの。だが、その後の王太子妃教育に関してや隣国との外交、王妃主催の茶会や学園での勉強、自国貴族との交流(あくまで貴族としての)に関しては本人の努力の甲斐あって、大変すばらしい結果を残している。
だが、その上をいってしまうのだ。
王太子が絡んだ時の『恋は盲目』状態の、ナディスの暴走は。
公爵家の権力をフル活用して、王太子に近づいた貴族令嬢を排除しようとするわ、近づこうとしただけでとんでもない勢いでけん制するわ。
母であるターシャは、正直なところそこまでの価値があるとは思えなかったのだ、王太子に。というのも、ヴェルヴェディア公爵家の後ろ盾を得たからこそ彼が王太子として立太子したのだから。
可もなく不可もなく、な第一王子という印象しかない。王としての素質がないわけでもないが、決定打に欠けるとでも言うべきか。
父であるガイアスも頭を抱えていた。
王太子との茶会で常に荒れ荒んで帰宅する娘がとんでもなく『普通の』状態で帰ってきたということに。
両親はぐるぐると悩み、そして再び同時にため息を吐いた。
「旦那様、奥様、お嬢様をお連れいたしました」
はっ、と顔を上げると至って普通の表情で立っているナディスの姿。
婚約が決まってから、これだけ普通にしている娘を見たことがあったであろうか。否、ない。
ナディスは綺麗にお辞儀をし、真っすぐに両親と向き合う。
ガイアスが口を開こうとしたその時、ナディスはまるで学園でのできごとを報告するように何でもない口調で告げたのだ。
「お父様、お母様、これまでの浅慮極まりないわたくしの態度や思考を、どうぞお許しくださいませ。そして、王太子殿下との婚約解消のお手続きを早急に、むしろ今すぐに進めてください。あの方に一目ぼれをしたから、という浅はかすぎる理由で無理矢理婚約者となってしまったこと、他家の令嬢にも申し訳なく…本当に反省しておりますの」
「「え…?」」
謝った。
しかも己が如何に無理に婚約者となってしまったかも理解して、謝った。
「ナディス…どうしたというのいきなり…」
呆然としたターシャがようやくそれだけ問いかけたが、ナディスの表情は特に変化もなく、ただこう続けた。
「さすがに会うたび浮気現場を見せられては、百年の愛も消滅してしまいますもの。貴族の娘としての務めは理解しておりますが、王太子殿下が『わたくしが嫌い、気に食わない』という理由でそのようなことを続けておいでのようですし、毎回婚約解消やら破棄やらということもおっしゃっていましたので、いち家臣としてご希望をかなえてさしあげねば、と思い至った次第ですわ」
言い終わるとにこやかに微笑んでみせたナディス。
まさか婚約者との間でそのようなことが起こっていたとも思っていなかった公爵は、ベルを鳴らして執事長を呼んだ。
「急ぎ、王城に向かう準備を。わたしは陛下と少し話してこよう。ターシャ、詳細をナディスから聞いて録音型魔法具に残しておきなさい」
「かしこまりましたわ、あなた。いってらっしゃいませ」
難しい表情で立ち去る公爵と、公爵夫人としての顔で娘に向き合うターシャ。
「ナディス、今までのことを詳しくお母様に聞かせてくれないかしら。これまでの貴女がこんなにも変わってしまうだなんて、余程だったのでしょう」
悪女、と呼ばれ不名誉なあだ名がいくつもついた娘を完全に信用したというわけではないが、これはこれ、それはそれ、と割り切り向き合った。
王太子妃教育がかなり進んでいる娘のこれから、国内での立ち回り、役目、諸々をターシャは考えながらどうするかを思案し始めたのだった。
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