上 下
22 / 26

面倒なのがやって来る前の脱走劇

しおりを挟む
「…………」
「………………」

【ミスティア、今がチャンスだと思うんだけど】
【風に乗って前みたいに飛んでいく?】

「……姉様」
「……ええ」

 呆然として座り込んで、ぼとぼとと涙を零すランディを見ても、ミスティアは特に何も思えない。冷たい、人でなしと思われようとも、全てをこちらのせいにしてくる十歳の子供だなんて、ちょっと手に負えないと思うし、この家でいつまでも仲良く過ごせばいいと思う。
 だから、ステラに目配せをして双方頷き合うと、風の精霊にも目配せをした。

「お願いね」

【はぁい!】

 風の精霊たちは元気よく返事をして、ミスティア、ステラ、それぞれにくっついていた面々がぱん!とお互いの手を合わせる。

【風の道を、今ここに!】
【ボクらの愛し子を、いざ運ばん!】

 閉じられていた窓が風によって、ひとりでに思いきり開く。
 のろのろと顔を上げたランディの目に入ったのは、ふわりと体を浮かせたミスティアとステラ。まずい、と察したのか手を伸ばして駆け寄ろうとするがペイスグリルから借りてきた水の精霊が、濡れないもののとんでもなく重たい水球を出現させて、ランディの上にのしっ、と落とした。

「うわぁ!?」

【追いかけてこられても迷惑なんだよ!】
【ステラとミスティアが逃げるまでそれに押しつぶされとけばーーか!!】

「お、重い……」

 じたばたともがいているランディには目もくれず、ミスティアとステラは慣れた様子で勢いをつけてそのまま飛び立った。

「姉様、馬車なんじゃ」
「あらうっかり! ミスティアちゃん、そのまま馬車のところへ!」
「はーい」

 小さい頃から風の精霊に力を貸してもらい、風魔法を操っている間にいつの間にか浮遊魔法を覚えていたこともあり、ミスティアはこうして飛ぶことに抵抗などなかった。
 むしろ、こうして飛べることによってストレス発散をしたり、精霊たちと遊んでいたりもした。久しぶりのこの感じを楽しまなければ、と感じたミスティアはドレスであることも忘れ、くるりと回転して、楽しそうに笑って馬車の停めてある場所へとふんわりと着地した。

「ミスティア様!?」
「まぁ、お久しぶりね!」
「わたくしもいるわ~」
「す、ステラ奥様! ご無事ですか!」
「無事じゃない、だなんてないでしょう?」

 ぱちん、と可愛らしくウインクをしたステラを見て、御者はほっと一息つく。
 屋敷の中での騒ぎの主を探していることは間違いないようで、何やらざわついているし、こちらを見て『あそこだ!』と叫んでいるような声もしている。

「あら、いけない」
「さすがにバレちゃったけど……急ぎで馬車を出してくださる?」
「勿論です! ささ、お乗りください!」

「ミスティアー!!」

【来んなし】
【マジで邪魔!】

 そう言って精霊たちは玄関から猛ダッシュしてきているリカルドを見るやいなや、風・水属性の攻撃を容赦なく叩き込んでいる。

「うわ、っ……ぶ!」

 水の大きな球に閉じ込められたリカルドだが、気合というか火事場の馬鹿力でどうにか拘束を解いて脱出し、全身ずぶぬれ状態だったのを自分の風魔法を使ってどうにか乾かす。
 だが、それをじっと観察していたミスティアの精霊たちがにんまりと凶悪に笑う。

【そーんな馬鹿に力貸してるんだー。ミスティアが愛し子なのに、愛し子に危害を加える愚か者に、へぇ~~?】

 その一言が聞こえたのか何なのか、リカルドが続いて風魔法を展開した、らしいが出てきたのはそよ風。

「あ、あれ……?」

 リカルドもランディもぽかんと間抜けに口を開いているが、ミスティアとステラはどうしてこうなったのか理解できたらしく、物凄く納得している。

「あなたたち、とっても良いお仕事だわ! 帰ったらミスティアちゃんとわたくしといーっぱい遊びましょうね!」

【やったー!!】

「な、な……なん、で?」

 自分の手を見て信じられないと震えるリカルドに、ランディがじたばたと暴れながら必死に訴える。

「お父様が魔法使えないとかどうでもいいから僕を助けてよ! 水魔法に適性が無いから逃れられないんだってば!」
「え、あ、ランディ!?」

「気付くの遅過ぎですわよね」
「自分のご自慢の息子なのに……その程度、ってことね……」

 はぁ、とため息を吐いたミスティアとステラは自分たちの精霊と共に早々に馬車に乗り込んだ。御者には『風の精霊が手助けしてくれるから、馬車の速度早くなるから』と伝えておいたので、御者も心の準備が出来たらしい。
 ついでに、馬には精霊が気を紛らわせるかのように数人付き添っている。動物とこういった精霊同士は仲良しらしく、いつの間にかそこそこな速度になっているが錯乱状態にはなっていない。
 きっと実家の厩舎で遊んだりしているんだろうなぁ、とミスティアはのほほんと実家までの馬車の度を楽しんだのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

愛人を切れないのなら離婚してくださいと言ったら子供のように駄々をこねられて困っています

永江寧々
恋愛
結婚生活ニ十周年を迎える今年、アステリア王国の王であるトリスタンが妻であるユーフェミアから告げられたのは『離婚してください」という衝撃の告白。 愛を囁くのを忘れた日もない。セックスレスになった事もない。それなのに何故だと焦るトリスタンが聞かされたのは『愛人が四人もいるから』ということ。 愛している夫に四人も愛人がいる事が嫌で、愛人を減らしてほしいと何度も頼んできたユーフェミアだが、 減るどころか増えたことで離婚を決めた。 幼子のように離婚はしたくない、嫌だと駄々をこねる夫とそれでも離婚を考える妻。 愛しているが、愛しているからこそ、このままではいられない。 夫からの愛は絶えず感じているのにお願いを聞いてくれないのは何故なのかわからないユーフェミアはどうすればいいのかわからず困っていた。 だが、夫には夫の事情があって…… 夫に問題ありなのでご注意ください。 誤字脱字報告ありがとうございます! 9月24日、本日が最終話のアップとなりました。 4ヶ月、お付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました! ※番外編は番外編とも言えないものではありますが、小話程度にお読みいただければと思います。 誤字脱字報告ありがとうございます! 確認しているつもりなのですが、もし発見されましたらお手数ですが教えていただけると助かります。

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 ――貧乏だから不幸せ❓ いいえ、求めているのは寄り添ってくれる『誰か』。  ◆  第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリア。  両親も既に事故で亡くなっており帰る場所もない彼女は、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていた。  しかし目的地も希望も生きる理由さえ見失いかけた時、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    10歳前後に見える彼らにとっては、親がいない事も、日々食べるものに困る事も、雨に降られる事だって、すべて日常なのだという。  そんな彼らの瞳に宿る強い生命力に感化された彼女は、気が付いたら声をかけていた。 「ねぇ君たち、お腹空いてない?」  まるで野良犬のような彼らと、貴族の素性を隠したフィーリアの三人共同生活。  平民の勝手が分からない彼女は、二人や親切な街の人達に助けられながら、自分の生き方やあり方を見つけて『自分』を取り戻していく。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...