2 / 14
第2話 大切な子
しおりを挟む
はぁ、と有栖は溜息を吐いた。
深い深いそれを聞いて、桜華がふわりと姿を現して、ひょいと有栖の顔を覗き込んでくる。
逆さまに覗き込まれているから、夜中だとホラーだと間違えそうになりそうだなぁ、と有栖は見ながら思った。
「何じゃ、姫様。そのような深い溜息を吐いてからに」
「桜華」
そのまま立っていれば床についてしまいそうなほどの長さの髪は、白に近い薄桃色。くせなど無い直毛は、桜華が浮いていることでふわふわと広がって見え、纏っているのは純白の巫女服を模した衣装。下は緋袴だが、上は白衣を纏っているもののその上に千早を合わせている。薄手の生地で本来ならば何かしらの模様が描かれている場合があるのだが、桜華は何もない。
胸元に桜の模様があるように見えるが、あまりまじまじと見ては失礼かと思い、有栖は大して気にしていなかった。似合っているから良いか、とそれで済ませてしまった。なお、桜華からは『気にならんのか姫様!わらわに興味がないか?!もっと可愛らしい格好の方が興味を持ってくださるか?!』と抱き着かれつつわんわん泣かれたという過去話があったりもする。
何かのゲームのキャラみたいだなー、という印象しかなかった、というのが有栖曰くだが、別にどんな格好をしていても桜華は桜華なのだから。
物心ついたときから、そばに居てくれて、お母さんのような、お姉さんのような、親友のような、とても大切な存在。
「姫様よ。して、何に対しての溜息じゃ?」
「うーんとね…」
「何か良くないことであれば、わらわが塵芥にしてやろう。ささ、わらわに言っておくれ?」
桜華はうきうきとした様子で問いかけてくる。有栖の一挙一動を知るのが楽しくて仕方ないらしいが、そんな様子の桜華のことを、今は有栖は『お母さんみたい』と思っていたりする。
どうやって説明したものか、と有栖は少しだけ悩んでから遠慮がちに言う。
「今度、婚約者と改めて顔合わせも兼ねて食事会をするんだけど」
「は」
ぴき、と桜華の美しい顔に青筋が見えた。
桜華の顔立ちは、どうやって控えめに言っても『美人』なのだ。それもとんでもない美人。
来ている服と桜華の持つ雰囲気が相まっているせいか、美人度がとんでもなく高いのだが、そんな美人が怒ると迫力がすごい。
「婚約者」
「そう、婚約者」
「あれか、姫様のことを出会った瞬間に罵りおった阿賀の小童か」
「ちょっと桜華、小童て」
思わずツッコミを入れてしまった有栖だが、どうやら桜華の逆鱗に触れたようだ。
有栖がもっと小さい頃、一度だけ婚約者に会ったことがあるのたが、その時に言われたのは『なんだ、樟葉んとこのハズレか』だった。
これを桜華がしっかりばっちり覚えており、今なお有栖の婚約者は、桜華の中では嫌悪している人物リストのトップに君臨し続けているらしい。
「あんのクソ童、わらわの可愛い可愛い姫様に対してとんでもなく無礼な言葉をぶつけおったではないか!許せると思うてか!」
「まぁほら、私の能力についてきちんと知らなかったとかそういう……」
「子に早々に説明せん親も親じゃ!」
「おーい桜華ー、落ち着いてー?」
憤慨し続けている桜華を見ていると、悲しい気持ちがふんわりと薄れてしまう。
他の誰かが自分以上に怒ってくれるから、有栖の怒りの持っていき先が無くなる、というか、そういう気持ちだ。
いつも有栖の周りが、自分の事のように怒ってくれるから救われている部分が凄く大きい。あぁ、本当に皆ありがとう、と有栖はいつもお礼を忘れない。
「桜華、もう大丈夫だから」
「じゃが…!」
「小さい頃だし、それに婚約者の妹は私の友達なんだから色々大丈夫だよ」
「……あぁ、阿賀の小娘か」
「他の呼び方はないの」
「ない!」
つーん、とそっぽを向いてしまった桜華を、可愛い、と言ってもいいものか。
先程までは般若のような形相だったが、今では拗ねている子供のような顔になっている。本当に桜華は楽しいなぁ、と思いつつも言葉を続けた。
「おにいも私の友達と婚約するんだし、今回の婚約で両家の繋がり強化の意味も込められているんだから」
「……わらわは、姫様が悲しい気持ちにならなければ、それで良い」
「大丈夫よ、桜華もいてくれるし、みーんないてくれるんだから」
「当たり前であろう!」
桜華が頬をぷくりと膨らませているところに、部屋の扉がノックされる。
「……あれ」
「む」
「はぁい」
どうぞー、と返事をすれば樟葉が入ってくる。
どうしたのだろうか、と思っていると樟葉は神妙な顔をして有栖を見ている。
「……おにい?」
「大丈夫じゃなかったら、俺に言え」
「へ?」
「裕翔のことだ」
「……あー……」
阿賀 裕翔。
有栖の親友である玲の兄で、阿賀家の次期当主。端正な顔立ちで女性に大変人気があり、樟葉と同じ学校に通っている。
裕翔の髪は自然な茶色、スポーツ刈りに近い短髪な樟葉とは違って少しだけ髪が長い。普段は縛って一纏めにしており、目の色は灰色。あ、変わっているなー、と幼い頃の有栖は見ていたのだが、視線が合った早々に『何だ、樟葉んとこのハズレか』と言われてしまい、ばっちり聞いていた桜華が燃やし尽くさんばかりの力を解放しようとしたところを、必死に有栖が止めたり、樟葉が思いきり裕翔を殴り飛ばしたりと、当時は揉めまくったのだ。
「でも…さすがに、多少は変わってるんじゃないかな、って思うんだけど…」
「そう簡単に変わるなら、苦労しない」
「え、おにいが断言するくらい変わってないの?」
「あぁ」
言いながら頷いている樟葉だが、ちらりと桜華に視線を向ける。
「万が一があれば、有栖を頼む」
「言われずとも」
フン、と言って桜華が樟葉から視線を外し、二人は互いに背を向け合う。
仲がいいのか悪いのか。
とはいえ、有栖のこととなると一生懸命に色々なことを考えてくれて、大切にしてくれる二人の存在が、何よりありがたかった。
勿論、家族も親戚一同も良くしてくれるが、有栖にとって一番身近な存在の二人が、ここまで想ってくれるのだから頑張ろうと、そう思えるのだ。
深い深いそれを聞いて、桜華がふわりと姿を現して、ひょいと有栖の顔を覗き込んでくる。
逆さまに覗き込まれているから、夜中だとホラーだと間違えそうになりそうだなぁ、と有栖は見ながら思った。
「何じゃ、姫様。そのような深い溜息を吐いてからに」
「桜華」
そのまま立っていれば床についてしまいそうなほどの長さの髪は、白に近い薄桃色。くせなど無い直毛は、桜華が浮いていることでふわふわと広がって見え、纏っているのは純白の巫女服を模した衣装。下は緋袴だが、上は白衣を纏っているもののその上に千早を合わせている。薄手の生地で本来ならば何かしらの模様が描かれている場合があるのだが、桜華は何もない。
胸元に桜の模様があるように見えるが、あまりまじまじと見ては失礼かと思い、有栖は大して気にしていなかった。似合っているから良いか、とそれで済ませてしまった。なお、桜華からは『気にならんのか姫様!わらわに興味がないか?!もっと可愛らしい格好の方が興味を持ってくださるか?!』と抱き着かれつつわんわん泣かれたという過去話があったりもする。
何かのゲームのキャラみたいだなー、という印象しかなかった、というのが有栖曰くだが、別にどんな格好をしていても桜華は桜華なのだから。
物心ついたときから、そばに居てくれて、お母さんのような、お姉さんのような、親友のような、とても大切な存在。
「姫様よ。して、何に対しての溜息じゃ?」
「うーんとね…」
「何か良くないことであれば、わらわが塵芥にしてやろう。ささ、わらわに言っておくれ?」
桜華はうきうきとした様子で問いかけてくる。有栖の一挙一動を知るのが楽しくて仕方ないらしいが、そんな様子の桜華のことを、今は有栖は『お母さんみたい』と思っていたりする。
どうやって説明したものか、と有栖は少しだけ悩んでから遠慮がちに言う。
「今度、婚約者と改めて顔合わせも兼ねて食事会をするんだけど」
「は」
ぴき、と桜華の美しい顔に青筋が見えた。
桜華の顔立ちは、どうやって控えめに言っても『美人』なのだ。それもとんでもない美人。
来ている服と桜華の持つ雰囲気が相まっているせいか、美人度がとんでもなく高いのだが、そんな美人が怒ると迫力がすごい。
「婚約者」
「そう、婚約者」
「あれか、姫様のことを出会った瞬間に罵りおった阿賀の小童か」
「ちょっと桜華、小童て」
思わずツッコミを入れてしまった有栖だが、どうやら桜華の逆鱗に触れたようだ。
有栖がもっと小さい頃、一度だけ婚約者に会ったことがあるのたが、その時に言われたのは『なんだ、樟葉んとこのハズレか』だった。
これを桜華がしっかりばっちり覚えており、今なお有栖の婚約者は、桜華の中では嫌悪している人物リストのトップに君臨し続けているらしい。
「あんのクソ童、わらわの可愛い可愛い姫様に対してとんでもなく無礼な言葉をぶつけおったではないか!許せると思うてか!」
「まぁほら、私の能力についてきちんと知らなかったとかそういう……」
「子に早々に説明せん親も親じゃ!」
「おーい桜華ー、落ち着いてー?」
憤慨し続けている桜華を見ていると、悲しい気持ちがふんわりと薄れてしまう。
他の誰かが自分以上に怒ってくれるから、有栖の怒りの持っていき先が無くなる、というか、そういう気持ちだ。
いつも有栖の周りが、自分の事のように怒ってくれるから救われている部分が凄く大きい。あぁ、本当に皆ありがとう、と有栖はいつもお礼を忘れない。
「桜華、もう大丈夫だから」
「じゃが…!」
「小さい頃だし、それに婚約者の妹は私の友達なんだから色々大丈夫だよ」
「……あぁ、阿賀の小娘か」
「他の呼び方はないの」
「ない!」
つーん、とそっぽを向いてしまった桜華を、可愛い、と言ってもいいものか。
先程までは般若のような形相だったが、今では拗ねている子供のような顔になっている。本当に桜華は楽しいなぁ、と思いつつも言葉を続けた。
「おにいも私の友達と婚約するんだし、今回の婚約で両家の繋がり強化の意味も込められているんだから」
「……わらわは、姫様が悲しい気持ちにならなければ、それで良い」
「大丈夫よ、桜華もいてくれるし、みーんないてくれるんだから」
「当たり前であろう!」
桜華が頬をぷくりと膨らませているところに、部屋の扉がノックされる。
「……あれ」
「む」
「はぁい」
どうぞー、と返事をすれば樟葉が入ってくる。
どうしたのだろうか、と思っていると樟葉は神妙な顔をして有栖を見ている。
「……おにい?」
「大丈夫じゃなかったら、俺に言え」
「へ?」
「裕翔のことだ」
「……あー……」
阿賀 裕翔。
有栖の親友である玲の兄で、阿賀家の次期当主。端正な顔立ちで女性に大変人気があり、樟葉と同じ学校に通っている。
裕翔の髪は自然な茶色、スポーツ刈りに近い短髪な樟葉とは違って少しだけ髪が長い。普段は縛って一纏めにしており、目の色は灰色。あ、変わっているなー、と幼い頃の有栖は見ていたのだが、視線が合った早々に『何だ、樟葉んとこのハズレか』と言われてしまい、ばっちり聞いていた桜華が燃やし尽くさんばかりの力を解放しようとしたところを、必死に有栖が止めたり、樟葉が思いきり裕翔を殴り飛ばしたりと、当時は揉めまくったのだ。
「でも…さすがに、多少は変わってるんじゃないかな、って思うんだけど…」
「そう簡単に変わるなら、苦労しない」
「え、おにいが断言するくらい変わってないの?」
「あぁ」
言いながら頷いている樟葉だが、ちらりと桜華に視線を向ける。
「万が一があれば、有栖を頼む」
「言われずとも」
フン、と言って桜華が樟葉から視線を外し、二人は互いに背を向け合う。
仲がいいのか悪いのか。
とはいえ、有栖のこととなると一生懸命に色々なことを考えてくれて、大切にしてくれる二人の存在が、何よりありがたかった。
勿論、家族も親戚一同も良くしてくれるが、有栖にとって一番身近な存在の二人が、ここまで想ってくれるのだから頑張ろうと、そう思えるのだ。
32
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる