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番外編2

3巻刊行記念SS シオンとルーカスと秋のある日

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いよいよ「七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない」3巻が本日あたりから本屋さんに並び始めます!
ぜひぜひ、お手元にお迎えお願い致します!

ということで、3巻で少しの期間を一緒に過ごすルーカスとの日常、ちょっとしたSS「シオンとルーカスと秋のある日」を書いてみました。

ミリィが十二歳のころの、ショートストーリーです。



- ◆ - ◆ - ◆ -


 肌寒い日も増えてきたダルディエ領の秋の昼下がり。

 十二歳の私は、健康を保つための体力作りで、この日も猫のナナと一時間ほどしっかり庭を歩き、公爵家本邸の敷地内にある護衛の訓練場までやってきた時のこと。

「あれ? シオンとルーカスがいる」

 訓練場の横で、シオンとラウ公爵家子息のルーカスが数人の護衛たちと何かを囲んでいた。護衛たちは任務中ではないようで、何やら楽し気な声が聞こえる。そんな彼らに近づいた。

「何してるの?」
「ミリィ」

 ルーカスの横から何をしているのだろうと窺う。
 そこには大きめの鉄製の鍋が火に掛けられていた。これをみんなで囲んでいたようだ。

「何してると思う?」

 ルーカスがニヤっと笑った。

「……料理?」
「まぁ、そうなんだけどな」

 護衛の一人が鍋の蓋を取ってくれた。

「……! 焼き芋!」
「正解!」

 大きいサツマイモが複数個、鍋の中に並んでいた。しかも、芋の下には小石が敷かれている。ただの焼き芋ではなくて、石焼き芋だ。芋からは蜜っぽいものが少し溢れ出ている。美味しそう。

「いいな! ミリィも食べたい!」

 とっさにそんなことを口にしたものの、芋を数えて、人を数えて、自分を除いた場合で焼き芋の数がぴったりであると気づく。私の分は無さそう。

 しゅんと気分が下がっていると、シオンが私の頭に手を乗せた。

「俺のを半分やるから」
「……! ありがとう、シオン!」

 嬉しい。食べさせてもらえるようだ。
 ルーカスも楽しみにしている様子で口を開いた。

「あと十分くらいでできるらしいよ」
「そうなんだ。ルーカスは今日は騎士団お休みの日だったでしょう? ここに焼き芋を食べに来たの?」
「俺は騎士団は休みだけど、体を動かしたいからシオンさんについて来たんだ。さっきまで運動してたし。焼き芋はたまたまだよ」
「ルーカスは焼き芋は初めて?」
「いいや。東部騎士団でも野営訓練とかあるから。その流れで焼き芋を食べたことがある」
「そうなんだー」

 早く食べたい焼き芋。でも、焼き上がるまで、あと十分はある。
 シオンの手を握った。

「ねー、シオン。喉を潰す攻撃の練習をしたい」
「いいけど。……そうだ、ルーカス、ミリィの相手をしてみて」
「えっ!? 俺!?」

 最近、シオンから身を護る訓練として複数の攻撃技を習っているところなのだ。まだ始めたばかりなので、上手くできるとは言えない。毎日、シオンと練習している。

「嫌だ! この前、変なところに当たって痛かったから!」
「この前はごめんね。普段シオンの喉を狙ってるから、ルーカスの時は鼻に当たっちゃったの」

 シオンとルーカスでは、背の高さが違うから。狙う場所の高さを少し見誤ってしまったのだ。

「だいぶ上手になってきたから、今度はルーカスの喉に当たると思う!」
「それって、当たったら今度は喉が痛いってことだよな」
「うん」
「うんじゃないよ……。俺にも避ける権利はあるよな」
「もちろん、避けていいよ。練習だもん、ルーカスの喉の位置が欲しいだけ。目安が欲しいの」
「ま、まあ、それなら……いいのか?」

 しぶしぶといった状態のルーカスと面と向かう。そして、ルーカスの喉を目がけて、手刀を下から上に振った。

「うわっ、危なっ!」
「ミリィ、もう少し親指を曲げろ」
「うん」

 シオンの助言を聞きつつ、少しずつ軌道修正する。そのたび、ルーカスは私の攻撃の手刀をギリギリ避けている。

 そうこうしている内に、焼き芋が出来たと護衛の一人が言った。ルーカスがほっとした顔をする。

「練習に付き合ってくれて、ありがとう、ルーカス! 今日は前より上手になった気がする!」
「俺も避けるのが上手になった気がする」

 いい汗かいた。満足です。

 全員が焼き芋の鍋に集まる。みんなが嬉しそうに焼き芋を取る中、私のはシオンが焼き芋を半分にして、ハンカチの上に置いてくれた。

「ミリィ、熱いから、火傷しないように少し冷ますんだぞ」
「うん! ありがとう、シオン!」

 蜜がたっぷりで、とろけるような焼き芋だ。ふうふうとしてから、少しだけ口に含む。

「……っ! 甘ーい!」

 甘さが強く、ねっとりとした食感が癖になりそう。

「本当、トロトロで甘いな!」
「ああ。美味しい」

 ルーカスとシオンも焼き芋に夢中だ。
 そこかしこで護衛たちも「美味しい」と笑み崩れている。

 美味しい秋の味覚をみんなと楽しめて、幸せな時間だった。



- ◆ - ◆ - ◆ -


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

上記の番外編とは別に、3巻販売に伴い、Web限定の番外編も書き下ろし致しました。(ここのページではありません)
番外編タイトルは「兄妹パジャマパーティー」です!
書籍の裏にあるQRコードからサイトに飛び、アンケートに答えていただくか、メルマガに登録いただくと読むことができるそうです。
今日あたりにUPされるのではないかと思いますので、ぜひお楽しみください。


「七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない」3巻
すがはら竜先生がとても素晴らしいイラストを描いてくださっています!

3巻は、ミリィが年齢的に成長し、
表紙は3巻の前半あたりの年齢、登場人物紹介が後半あたりの年齢となり、
ミリィの年齢違いのイラストが二度楽しめます。

イラストでのわくわくミリィが可愛いです!
あと、ルーカスがイケメン! 誰かさんが、うかうかしていられない!? 
そんな感じの3巻……ぜひ見ていただきたいです!

今後とも「七人の兄たち」を宜しくお願い致します!
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