114 / 132
最終章
114 弟の旅立ち
しおりを挟む
リンケルト家の広い屋敷の西側にウィザー家を丸ごと引っ越しする。そう流雨に聞き、現在流雨と手を繋ぎながら内装工事中だという西側の部屋を案内されていた。まだユリウスはハイゼン侯爵家の後継者になるとの返事をしていないので、現在一緒に案内され中である。
リンケルト家の屋敷は五階建てなのだが、屋敷自体がすごく大きい。その西側だけだから広くない、と流雨に言われたけれど、はっきり言って広すぎる。ウィザー家のアパートメント一棟の三倍くらいある。
私の部屋、ユリウスの部屋、私の執務室、応接室、談話室、食堂、実験室、倉庫など、現在のウィザー家にある部屋は全て用意されていたけれど、まだ部屋は余っている。工事中とは言うけれど、私が見た限りほぼ完成のように見える。
「ウィザー家の部屋と用途は分かっているから、とりあえず同じ部屋は作らせたんだ。もし今後欲しい部屋があったら、余っている部屋を工事すればいい。倉庫は東京と行き来するから、防音がいいんでしょう? だから窓無し防音で作ってる。あと、少し前に紗彩が東京に帰った時の手紙で、実海棠にドアに取り付ける顔認証システムとかの機器は依頼中だから、今度紗彩が東京に帰った時に持って帰ってきてね」
「う、うん……」
なんだろう、完璧すぎて、何も言えない。
「……流雨さん、これっていつ頃から工事しだしたんですか?」
「紗彩が俺との結婚を承諾してくれた次の日」
「……………………」
ユリウスが無言で引いている。うん、私もびっくりです。流雨の未来計画の予測がすごすぎて、私も何も言えません。
「……この工事、リンケルト公爵に反対されなかったの?」
「全然。この広い屋敷に、父と姉と俺しか住んでないから部屋も余っているし、好きにしていいと言われたよ。屋敷の外観を変えるわけではないしね」
公爵を怒らせているわけでないなら、よかったと思っていいのだろうか。
「工事は俺がやりたくてやったんだから、紗彩は気にしなくていい。ウィザー家ごと引っ越しというから、大げさに聞こえると思うけれど、実際は紗彩とユリウスと時々帰って来るお母さんの三人だけだから、そんな大した話ではないよ。後継者の伴侶を家に迎える時、屋敷の大規模工事をすることは普通のようだから、紗彩も当然の権利だと思っていればいい」
ユリウスと目が合う。これって普通なの? いやいや、普通ではないですよ。そんな視線を交わし合うが、口には出さない。
伴侶を迎える時の大規模工事云々は、流雨はきっと公爵から聞いたのだろう。帝都で屋敷持ちはそもそも少ないし、その中で『普通』という規模が私の普通とは違うけれど、もう深く考えるのは止めた。流雨の善意と優しさと私を思う気持ちの表れだと思うことにして、ありがたいと感謝しておく。
「ありがとう、るー君。色々考えてくれて」
「俺が好きにしただけだから、気にしないで。紗彩の部屋やユリウスの部屋は先日完成したから、いつでも住めるよ」
流雨がにこっと笑う。これはすぐにでも引っ越すことになりそうである。
ちなみに、リンケルト家を囲む壁に付いている門は、東西南北とそれぞれあるけれど、南にある正門はリンケルト家とウィザー家共同で使う。ただ、我が家には死神業があるわけで、普段であればウィザー家アパートメントの裏からこっそり出入りしていたのだが、リンケルト家に住むにあたり、西門をウィザー家が専用で好きに出入りしていいことになっているという。もう本当に完璧で、言うことありません。
リンケルト家の家族は、屋敷の南東側と東側をメインに使用しているらしい。流雨の部屋も、元は東側にあったのだが、流雨の執務室を作るにあたり、流雨の執務室と流雨の部屋を南西に移動した。流雨が父である公爵と話し合った結果、大きく分けると、南にある正面から見ると、右側が公爵たち家族、左側が流雨たち後継者家族が住むと分けたようだった。
それから数日後、私たちウィザー家はアパートメントに住む使用人を含めた全員が、リンケルト家に引っ越すのだった。引っ越した後に誰もいなくなるウィザー家のアパートメントは、今後工事をして、誰かに貸し出す予定にしている。
そして引っ越してから数日後、ユリウスはハイゼン侯爵に後継者の勧誘を承諾した。とうとうユリウスは、うちの子ではなくなってしまう。
リンケルト家の屋敷の前には、ハイゼン家の馬車がユリウスを迎えに来ていた。流雨が私の後ろに立ち、私は涙目でユリウスに抱き付く。
「ハイゼン家が嫌になったら、帰ってきていいんだからね!」
「はい」
「……ハイゼン家が嫌にならなくても、私に会いに帰ってきて」
「帰ってきますよ」
ユリウスがぎゅっと私を抱きしめる。行かないでと喉まで出かかって、ぐっと我慢する。体を離したユリウスが、私の頬にキスをし、私もキスを返した。
「……いってらっしゃい」
「いってきます」
ユリウスが馬車に乗り込み、馬車が動き出す。馬車が見えなくなっても、私はそこから動けなかった。
「ユリウス、行っちゃった」
「うん」
流雨が抱きしめてくれ、私は泣き続けるのだった。
リンケルト家の屋敷は五階建てなのだが、屋敷自体がすごく大きい。その西側だけだから広くない、と流雨に言われたけれど、はっきり言って広すぎる。ウィザー家のアパートメント一棟の三倍くらいある。
私の部屋、ユリウスの部屋、私の執務室、応接室、談話室、食堂、実験室、倉庫など、現在のウィザー家にある部屋は全て用意されていたけれど、まだ部屋は余っている。工事中とは言うけれど、私が見た限りほぼ完成のように見える。
「ウィザー家の部屋と用途は分かっているから、とりあえず同じ部屋は作らせたんだ。もし今後欲しい部屋があったら、余っている部屋を工事すればいい。倉庫は東京と行き来するから、防音がいいんでしょう? だから窓無し防音で作ってる。あと、少し前に紗彩が東京に帰った時の手紙で、実海棠にドアに取り付ける顔認証システムとかの機器は依頼中だから、今度紗彩が東京に帰った時に持って帰ってきてね」
「う、うん……」
なんだろう、完璧すぎて、何も言えない。
「……流雨さん、これっていつ頃から工事しだしたんですか?」
「紗彩が俺との結婚を承諾してくれた次の日」
「……………………」
ユリウスが無言で引いている。うん、私もびっくりです。流雨の未来計画の予測がすごすぎて、私も何も言えません。
「……この工事、リンケルト公爵に反対されなかったの?」
「全然。この広い屋敷に、父と姉と俺しか住んでないから部屋も余っているし、好きにしていいと言われたよ。屋敷の外観を変えるわけではないしね」
公爵を怒らせているわけでないなら、よかったと思っていいのだろうか。
「工事は俺がやりたくてやったんだから、紗彩は気にしなくていい。ウィザー家ごと引っ越しというから、大げさに聞こえると思うけれど、実際は紗彩とユリウスと時々帰って来るお母さんの三人だけだから、そんな大した話ではないよ。後継者の伴侶を家に迎える時、屋敷の大規模工事をすることは普通のようだから、紗彩も当然の権利だと思っていればいい」
ユリウスと目が合う。これって普通なの? いやいや、普通ではないですよ。そんな視線を交わし合うが、口には出さない。
伴侶を迎える時の大規模工事云々は、流雨はきっと公爵から聞いたのだろう。帝都で屋敷持ちはそもそも少ないし、その中で『普通』という規模が私の普通とは違うけれど、もう深く考えるのは止めた。流雨の善意と優しさと私を思う気持ちの表れだと思うことにして、ありがたいと感謝しておく。
「ありがとう、るー君。色々考えてくれて」
「俺が好きにしただけだから、気にしないで。紗彩の部屋やユリウスの部屋は先日完成したから、いつでも住めるよ」
流雨がにこっと笑う。これはすぐにでも引っ越すことになりそうである。
ちなみに、リンケルト家を囲む壁に付いている門は、東西南北とそれぞれあるけれど、南にある正門はリンケルト家とウィザー家共同で使う。ただ、我が家には死神業があるわけで、普段であればウィザー家アパートメントの裏からこっそり出入りしていたのだが、リンケルト家に住むにあたり、西門をウィザー家が専用で好きに出入りしていいことになっているという。もう本当に完璧で、言うことありません。
リンケルト家の家族は、屋敷の南東側と東側をメインに使用しているらしい。流雨の部屋も、元は東側にあったのだが、流雨の執務室を作るにあたり、流雨の執務室と流雨の部屋を南西に移動した。流雨が父である公爵と話し合った結果、大きく分けると、南にある正面から見ると、右側が公爵たち家族、左側が流雨たち後継者家族が住むと分けたようだった。
それから数日後、私たちウィザー家はアパートメントに住む使用人を含めた全員が、リンケルト家に引っ越すのだった。引っ越した後に誰もいなくなるウィザー家のアパートメントは、今後工事をして、誰かに貸し出す予定にしている。
そして引っ越してから数日後、ユリウスはハイゼン侯爵に後継者の勧誘を承諾した。とうとうユリウスは、うちの子ではなくなってしまう。
リンケルト家の屋敷の前には、ハイゼン家の馬車がユリウスを迎えに来ていた。流雨が私の後ろに立ち、私は涙目でユリウスに抱き付く。
「ハイゼン家が嫌になったら、帰ってきていいんだからね!」
「はい」
「……ハイゼン家が嫌にならなくても、私に会いに帰ってきて」
「帰ってきますよ」
ユリウスがぎゅっと私を抱きしめる。行かないでと喉まで出かかって、ぐっと我慢する。体を離したユリウスが、私の頬にキスをし、私もキスを返した。
「……いってらっしゃい」
「いってきます」
ユリウスが馬車に乗り込み、馬車が動き出す。馬車が見えなくなっても、私はそこから動けなかった。
「ユリウス、行っちゃった」
「うん」
流雨が抱きしめてくれ、私は泣き続けるのだった。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる