逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜

文字の大きさ
上 下
111 / 132
最終章

111 婚約者の力2

しおりを挟む
 そんなことを思い出していると、流雨が部屋に戻ってきた。

「お待たせ、紗彩」

 流雨がソファーの私の隣に座ると、私の手の平に赤い宝石のピアスを置いた。そして、流雨が服の首部分からネックレスのチェーンを出して、チェーンに付いた赤い宝石を見せた。

「このピアスは、この石を削って作ったものなんだ。紗彩にしていて欲しい」
「……うん。分かった」

 耳にもらった赤いピアスを装着した。なんだか、ルーウェンの瞳の色のようなピアスである。

 今度は流雨が私を膝に乗せて、私と一緒に流雨が宙に浮いた。すると、流雨の首にあるチェーンに付いた石が光る。

「紗彩にはこの石に浮き出た模様が見える?」
「模様? ……うーん、模様は無い気がするけれど。でも光ってて綺麗」
「やっぱり紗彩にも見えないか。これね、俺には模様が光って見えるんだ」
「そうなの?」

 流雨が浮いた体をソファーに戻す。そして今度は流雨が本棚を見ていると、本棚から本が一冊勝手に浮いて流雨の手の平に収まった。

「ええ!? るー君、超能力者……」
「これも石の力だよ」

 流雨の手の平に収まった本が、また勝手に動きだし、宙を舞っている。

「紗彩には、今石がどうなっているように見える?」

 流雨の首の石を見る。

「さっきと同じように光って見える。模様は見えないよ」
「だよね。俺には今も模様が見えるんだけれど、さっきとは模様が違うんだ」
「そうなの?」

 また手の平に本が収まると、流雨はその本をテーブルに置いた。

「リンケルト家には、重力を操れる石の力がある。この石がそういう力がある石でね」
「そうなのね」

 石をじっと見る。今は光っていないところを見ると、力を操っていないということなのだろう。

「自分が浮く、物を浮かせる、そういうのを全て重力で操るんだ。これが結構面倒で、目標をどれくらい軽くするとか重くするとか、単体なのか複数なのか、いろいろ計算が必要なんだ。複雑だから扱いづらくて、今までリンケルト家で使っている先祖は少ない」
「そうなのね」
「でも、この模様に変化があることが分かって、いろいろと模様のパターン分けをしてみた。それでも分かったのは多くはないけれど、いざ使いたい時にモタモタできないし、命令文を組み込んでしまえばいいと思って」
「命令文?」
「ほら、システムと一緒だよ。命令文さえ組み込んでしまえば、ボタン一つでやりたいことができるようになるみたいな感じ」
「……なるほど?」

 全然言っている意味が分かりません。

「ほら、電子レンジと一緒だよ。『温める』というボタンを押せば、温めてくれるでしょう? あれも実は裏でもっと複雑なシステムが組み込んである。何度で温めるとか、何分なのかとか。それをこの石で似たようなことをしていると思えばいいよ」
「……そんなことできるの? 石だよね?」
「できたね。発想の転換だよ」
「………………」

 できてしまうものなのか? 驚いて口を開けてしまう。

「で、本題はここから。紗彩にしてもらったピアスの石は、この石を削って作ったと言ったでしょう。つまり、俺の石とペアみたいなものなんだ。だから、紗彩も浮けるようにした」
「……え!? 私が力を使えるってこと!? 扱うのが複雑なんでしょう!? リンケルト家の血でもない私が使えないと思う!」
「大丈夫。力を使うのは俺だから。言ったでしょう。俺のとペアなんだ。紗彩が浮きたい時に石に命令すれば、ペアの俺の石を通して俺の力で浮く仕組み。そういう命令文を入れてると思って。俺が遠隔で紗彩を浮かしていると思えばいいよ」
「えー……遠隔って……」
「ほら、パソコンでトラブルの時に誰かにヘルプを頼むと、遠隔操作で対応してくれることがあるでしょう? そんなのと似てると思えばいい」

 言いたいことは分かるけれど、それをやれてしまう流雨がスゴイ。しかし、どうやって浮けばいいのだろう。石には『浮く』というボタンがない。

「どうやって浮くの?」
「合言葉にしてみた。『るー君大好き』って言ってみて」
「……」

 なんで、そんな合言葉にしたんだ。しかし言ってみるしかない。

「……るー君、大好き」

 しんとする。何も起きない。失敗か? と思っていると、流雨が肩を震わして笑っていた。

「るー君……だました?」
「はははっ! ごめっ、紗彩が素直で可愛くて、つい……」
「ひどい……」

 完全に遊ばれている。

「だって、『るー君大好き』なんて、紗彩いつも言っているのに、紗彩が頻繁に浮くことになっちゃうでしょう。そんな合言葉にするわけない」
「むー……」
「ごめんごめん、怒らないで。今度は本当のこと言うから」

 流雨が頬にキスをするので、私はあっさり許すことにした。流雨がアルベルトに鏡を持ってきてもらう。

「命令文は三つ。一つ目は日本語で『浮け』、二つ目は『戻れ』、三つ目は『止まれ』。口に出して言う必要はない。心の中で思うだけでいいよ」
「『浮け』と『戻れ』と『止まれ』? 日本語で大丈夫?」
「大丈夫。普段帝国で使わない言葉のほうがいいからね。ややこしいから。まずは『浮け』からやってみようか」

 私は頷き、心の中で日本語で『浮け』と唱えると、私だけが浮いた。

「できたぁ!」
「上手上手。鏡を見てみて。紗彩のピアスが光っているのが分かる?」
「本当だね。あれ、るー君の石も光っているね」
「そうだよ。ペアだからね。じゃあ、『戻れ』をやってみようか」

 私は頷き、心の中で日本語で『戻れ』と唱えると、私の体がゆっくりと流雨の膝に戻った。

「も、戻った!」
「上手。一人で浮くのは怖くなかった?」
「うん、あのくらいの高さなら大丈夫」
「よかった。じゃあ、『止まれ』をやってみようか」

 少し離れて立っていたアルベルトが、こちらに向かって紙飛行機を飛ばそうとしている。

「『止まれ』は俺以外の紗彩に近づくものを全て止めるようにしてる。止めるなんて言っているけれど、実際は重さをすごく軽くしているだけなんだ。紗彩、実際に『止まれ』をやってみよう」

 アルベルトが紙飛行機を飛ばした。心の中で日本語で『止まれ』と唱えると、紙飛行機は私のところに到達することなく、途中で止まった。そしてその二秒後くらいに、動力を失った紙飛行機は地面に落ちた。

「できた?」
「できたできた。紗彩は上手だ」

 褒められて嬉しくて流雨に笑顔を向ける。

「さっき紗彩の血を貰ったでしょう。それはこの石を紗彩が動かせるようにしたかったからなんだ。ただ、命令は三つしか組み込んでないけれど」
「十分だよ。でも、使いどころがよく分からないのだけれど」
「普段は使わなくていいんだ。これはお守り代わりだと思ってくれていればいい。普段はエマが紗彩の護衛をするしね。ただ紗彩は階段が苦手でしょう。万が一怖いと思った時に、紗彩が浮けば怖く思わなくて済むかもしれないし、だからこれはお守りだよ」

 万が一、前世のように階段から落とされるなんてことがあれば、浮けば落ちることはない。怖がりな私を思ってくれる流雨の優しさが嬉しい。

「ありがとう、るー君! 大好き!」

 流雨に抱き付きながらそう言い、ふと我に返って流雨から体を離した。

「……やっぱり『るー君大好き』が合言葉でなくてよかった……」
「ははっ、本当にね」

 流雨と二人で笑いあうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...