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最終章
99 実験 ※流雨(兄(仮))視点
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帝都のリンケルト公爵邸の敷地内にある訓練場では、流雨がリンケルト公爵家に伝わる石の実験をしているところであった。流雨の今の一番の目的は、重力操作を自由自在に扱えるようになることである。
重力操作のできる石を身に付け、流雨自身が空中を自由に飛ぶことは問題なく行えるようになった。流雨以外の物や人間の重力操作についても、流雨の近くにいるなら重力を操作できるようになってきており、現在も訓練中であった。
日本の学校にある体育館のような訓練場では、流雨の部下たちが流雨めがけて矢を放った。十本の矢が流雨へ近づいていくが、その矢は流雨に到達することなく、全て途中で地面にめり込んだ。
「あ……重すぎた」
「ルーウェン様! 何てことしてるんですか! 先日床を修繕したばかりでしたのに!」
「悪い。一度にだと、重さ調整が難しいな」
部下のアルベルトが、矢の形でめり込んでいる床を見て涙目である。
「泣くな。また修繕すればいいだろう」
「ルーウェン様の訓練が終わったら、私でまた実験されるのでしょう! こんな歩きづらい床で、どうやって逃げまとえと!?」
「逃げまとう前提か。怪我しそうなら、容赦なく剣で矢を切ってもいいが? 盾も持たせているだろう」
「十本なんて、切るのも避けるのも無理なんですから! だいたい、遠隔操作なんて一度もうまくできていないでしょう! なのに、見切りで実践とは悪魔ですか! 私が死にますから!」
遠く離れていなければ、重力操作もうまくできるようになってきたが、対象物が離れすぎているとどうにもならない。では遠隔操作ならどうかと思い、アルベルトに試しに石を持たせて流雨が遠隔操作を試みているものの、うまくいっていない。
紗彩が流雨が死ぬことを心配しているし、流雨だって紗彩の傍にいるために死ぬつもりはないし、だから自分を守るために重力操作を訓練している。訓練はうまくいっているから、今度は紗彩に石を持たせたいと、遠隔操作ができるようにならないかと思うのだが、結果が厳しい。
重力操作用の石は、リンケルトの血筋でないと操作はできない。それは分かっているのだが、同じ石を持たせて、遠隔だとしても操作はリンケルトの血筋である流雨が行えばいいと思ったのだが、今のところ実験失敗中である。
「剣を持っているのに死ぬとは大げさな。それにアルベルトは実験なんだから一度に十本はしないで一本からだ。心配するな」
「一本? ……一本ならなんとか。微妙なところ、付いてきますね……」
ルーウェンの武術や剣術は天才の域だったが、中身が流雨ではルーウェンの域に到達するのは難しい。とはいえ、ルーウェンの記憶と荒事に体が反応するためか、流雨が訓練したこともあり、最近は矢が飛んできても一本くらいなら集中すれば切れる。ただ、危険なことに関する集中力なんて長くは続かないから、頻繁にやりたくはない。石の力でどうにかできそうだから、そっちの方が楽なのだ。石の力の方が、操れる本数も多い。
「この実験、本当に必要ですか? 私が持たされている石は、ルーウェン様が持っている石のように光りもしないですよね。絶対に遠隔操作なんて無理だと思うのですが」
「無理ではないようにするための、実験、訓練だろう? 持っている人物が切羽詰まれば動く可能性もあるかもと思ったから、この矢の訓練をするんだ」
しかし確かに、流雨の持っている石は力を使っている時は光るが、アルベルトに持たしている石はまったく光らないのだ。では、持っている石が機能しないのかと、アルベルトが持っている石を流雨が持ってみると、その石はちゃんと光る。やはり血筋が身に付けないといけないのだろうか。
流雨は石を持ち自身の体を浮かせる。すると、石に模様が浮かび上がり、その模様が光る。それを遠隔でできないかとアルベルトの石に念じてみるけれど、うんともすんとも反応がない。
「しかし、綺麗な光ですね。見た目も宝石のようですし、売ればご婦人方に人気になりそうです。売り物にはならないでしょうけれど」
「石全体が光るなら売れるかもしれないが、模様だけ光ってもな。呪いの呪文のように見えないか? 気持ち悪がられそうだ」
「模様ですか? どれですか?」
「……? 真ん中に模様が見えるだろう?」
「え……? うーん、石全体が光っているようにしか見えませんけれど」
この模様は、もしかしたらリンケルトの血筋しか見えないものなのだろうか。他の部下にも見てもらったが、模様は見えないとのことだった。
模様が何かしらのキーになるのではと、自身が浮くだけでなく、別の物の重力を変更して実験しているうちに、模様が変化することが分かった。やりたいことにより、模様が違うということは、これをシステムの命令文のように使えるのではなかろうかと思った。システム構築は、流雨の得意分野である。
それから、いろいろと実験中だが、現在前進しているので順調だ。
紗彩が近くにいるなら、遠隔でなくとも流雨が石を持っていれば守れるだろうが、紗彩は死神業や副業でも忙しくしているため、常に流雨が傍にいてやることができない。どうにかして、紗彩を守るためにも遠隔でも使えるようにしたい。それに階段を苦手としている紗彩には、石が階段を怖く思わずに済む保険にもなればいいと思うのだ。
先日、紗彩から前世に関わる話を聞いた日、他にも何か気を付けたことがいいことがあるかもしれないと思い、色々と聞いた。
ユリウスが前世では、家に帰らず複数の女性の家を渡り歩いていたと聞き、ユリウスが素っ頓狂な声を発した。
「僕がですか!? ありえません!」
「今のユリウスだと想像つかないけれど、今でもユリウスは女性に人気だから、ありえなくはないでしょう? 二股三股なんて、だめよ?」
「しませんよ!」
なるほど、ユリウスは前世では二股三股、いや、それ以上の女性と付き合っていたのかと思いながらユリウスを見ると、キッと流雨は睨まれた。
「前世の僕は僕ではないんですから、そんな目で僕を見ないでくれますか!? 僕よりも心配は流雨さんです!」
「なんで俺?」
「姉様と結婚するとなった以上、僕の目が黒い内は、浮気とか二股とか不倫とか、絶対に許しませんから!」
「はあ? するわけないだろう!」
急に眉を下げて紗彩が流雨を見ている。ユリウス、変なことを言うのは止めてくれ!
「どうだか! 兄様に聞いたところによると、流雨さんは東京でモテていたとか! 姉様以外の女性にもし誘われても、付いて行かないでくださいね!」
実海棠は、なぜ余計なことをユリウスに言ったんだ。焦る流雨に紗彩が口を開いた。
「るー君が東京でモテるのは知ってる。きっと帝国でも、遠巻きにされるルーウェンの姿だったとしてもモテるんだと思うの。この前ボルト公爵令嬢もるー君を好きになってそうな表情だったもの。皆がるー君を好きになるのは仕方ないと思うけれど、るー君が私以外に好きって言うのは嫌だな」
「言わないよ! 俺が好きなのは紗彩だけだから!」
なんだか、浮気がバレた男のセリフっぽくて嫌だが、これが本当のことなんだから仕方ない。実海棠もユリウスも、余計な波風立たせないでほしい。紗彩とせっかく結婚できそうなところまで来たのに、振られたらどうしてくれるつもりなんだ。
重力操作のできる石を身に付け、流雨自身が空中を自由に飛ぶことは問題なく行えるようになった。流雨以外の物や人間の重力操作についても、流雨の近くにいるなら重力を操作できるようになってきており、現在も訓練中であった。
日本の学校にある体育館のような訓練場では、流雨の部下たちが流雨めがけて矢を放った。十本の矢が流雨へ近づいていくが、その矢は流雨に到達することなく、全て途中で地面にめり込んだ。
「あ……重すぎた」
「ルーウェン様! 何てことしてるんですか! 先日床を修繕したばかりでしたのに!」
「悪い。一度にだと、重さ調整が難しいな」
部下のアルベルトが、矢の形でめり込んでいる床を見て涙目である。
「泣くな。また修繕すればいいだろう」
「ルーウェン様の訓練が終わったら、私でまた実験されるのでしょう! こんな歩きづらい床で、どうやって逃げまとえと!?」
「逃げまとう前提か。怪我しそうなら、容赦なく剣で矢を切ってもいいが? 盾も持たせているだろう」
「十本なんて、切るのも避けるのも無理なんですから! だいたい、遠隔操作なんて一度もうまくできていないでしょう! なのに、見切りで実践とは悪魔ですか! 私が死にますから!」
遠く離れていなければ、重力操作もうまくできるようになってきたが、対象物が離れすぎているとどうにもならない。では遠隔操作ならどうかと思い、アルベルトに試しに石を持たせて流雨が遠隔操作を試みているものの、うまくいっていない。
紗彩が流雨が死ぬことを心配しているし、流雨だって紗彩の傍にいるために死ぬつもりはないし、だから自分を守るために重力操作を訓練している。訓練はうまくいっているから、今度は紗彩に石を持たせたいと、遠隔操作ができるようにならないかと思うのだが、結果が厳しい。
重力操作用の石は、リンケルトの血筋でないと操作はできない。それは分かっているのだが、同じ石を持たせて、遠隔だとしても操作はリンケルトの血筋である流雨が行えばいいと思ったのだが、今のところ実験失敗中である。
「剣を持っているのに死ぬとは大げさな。それにアルベルトは実験なんだから一度に十本はしないで一本からだ。心配するな」
「一本? ……一本ならなんとか。微妙なところ、付いてきますね……」
ルーウェンの武術や剣術は天才の域だったが、中身が流雨ではルーウェンの域に到達するのは難しい。とはいえ、ルーウェンの記憶と荒事に体が反応するためか、流雨が訓練したこともあり、最近は矢が飛んできても一本くらいなら集中すれば切れる。ただ、危険なことに関する集中力なんて長くは続かないから、頻繁にやりたくはない。石の力でどうにかできそうだから、そっちの方が楽なのだ。石の力の方が、操れる本数も多い。
「この実験、本当に必要ですか? 私が持たされている石は、ルーウェン様が持っている石のように光りもしないですよね。絶対に遠隔操作なんて無理だと思うのですが」
「無理ではないようにするための、実験、訓練だろう? 持っている人物が切羽詰まれば動く可能性もあるかもと思ったから、この矢の訓練をするんだ」
しかし確かに、流雨の持っている石は力を使っている時は光るが、アルベルトに持たしている石はまったく光らないのだ。では、持っている石が機能しないのかと、アルベルトが持っている石を流雨が持ってみると、その石はちゃんと光る。やはり血筋が身に付けないといけないのだろうか。
流雨は石を持ち自身の体を浮かせる。すると、石に模様が浮かび上がり、その模様が光る。それを遠隔でできないかとアルベルトの石に念じてみるけれど、うんともすんとも反応がない。
「しかし、綺麗な光ですね。見た目も宝石のようですし、売ればご婦人方に人気になりそうです。売り物にはならないでしょうけれど」
「石全体が光るなら売れるかもしれないが、模様だけ光ってもな。呪いの呪文のように見えないか? 気持ち悪がられそうだ」
「模様ですか? どれですか?」
「……? 真ん中に模様が見えるだろう?」
「え……? うーん、石全体が光っているようにしか見えませんけれど」
この模様は、もしかしたらリンケルトの血筋しか見えないものなのだろうか。他の部下にも見てもらったが、模様は見えないとのことだった。
模様が何かしらのキーになるのではと、自身が浮くだけでなく、別の物の重力を変更して実験しているうちに、模様が変化することが分かった。やりたいことにより、模様が違うということは、これをシステムの命令文のように使えるのではなかろうかと思った。システム構築は、流雨の得意分野である。
それから、いろいろと実験中だが、現在前進しているので順調だ。
紗彩が近くにいるなら、遠隔でなくとも流雨が石を持っていれば守れるだろうが、紗彩は死神業や副業でも忙しくしているため、常に流雨が傍にいてやることができない。どうにかして、紗彩を守るためにも遠隔でも使えるようにしたい。それに階段を苦手としている紗彩には、石が階段を怖く思わずに済む保険にもなればいいと思うのだ。
先日、紗彩から前世に関わる話を聞いた日、他にも何か気を付けたことがいいことがあるかもしれないと思い、色々と聞いた。
ユリウスが前世では、家に帰らず複数の女性の家を渡り歩いていたと聞き、ユリウスが素っ頓狂な声を発した。
「僕がですか!? ありえません!」
「今のユリウスだと想像つかないけれど、今でもユリウスは女性に人気だから、ありえなくはないでしょう? 二股三股なんて、だめよ?」
「しませんよ!」
なるほど、ユリウスは前世では二股三股、いや、それ以上の女性と付き合っていたのかと思いながらユリウスを見ると、キッと流雨は睨まれた。
「前世の僕は僕ではないんですから、そんな目で僕を見ないでくれますか!? 僕よりも心配は流雨さんです!」
「なんで俺?」
「姉様と結婚するとなった以上、僕の目が黒い内は、浮気とか二股とか不倫とか、絶対に許しませんから!」
「はあ? するわけないだろう!」
急に眉を下げて紗彩が流雨を見ている。ユリウス、変なことを言うのは止めてくれ!
「どうだか! 兄様に聞いたところによると、流雨さんは東京でモテていたとか! 姉様以外の女性にもし誘われても、付いて行かないでくださいね!」
実海棠は、なぜ余計なことをユリウスに言ったんだ。焦る流雨に紗彩が口を開いた。
「るー君が東京でモテるのは知ってる。きっと帝国でも、遠巻きにされるルーウェンの姿だったとしてもモテるんだと思うの。この前ボルト公爵令嬢もるー君を好きになってそうな表情だったもの。皆がるー君を好きになるのは仕方ないと思うけれど、るー君が私以外に好きって言うのは嫌だな」
「言わないよ! 俺が好きなのは紗彩だけだから!」
なんだか、浮気がバレた男のセリフっぽくて嫌だが、これが本当のことなんだから仕方ない。実海棠もユリウスも、余計な波風立たせないでほしい。紗彩とせっかく結婚できそうなところまで来たのに、振られたらどうしてくれるつもりなんだ。
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