逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜

文字の大きさ
上 下
93 / 132
最終章

93 過去と結論1

しおりを挟む
 流雨との結婚について、私に考える時間をくれると流雨は言っていたので、しばらく私と距離を置くのかと思っていたけれど、流雨は次の日からも普通にメイル学園で私の傍にいた。私の家にもいつも通り遊びに来る。私から離れて行かない流雨にほっとする自分がいる。しかし流雨との結婚を断ってしまえば、きっと流雨は私から離れていくだろう。

 もう妹とも思ってもらえなくなって、そのうち他人行儀になっていくのだ。そんな未来が想像できて、胸が苦しくなる。

 本当は好きなのに、両想いだったのに、繋いだ手は離さなければならないのか。もしかしたら、今回は何もなくて、流雨と末永く一緒にいられる可能性はないだろうか。これからも死神業は頑張るから、それに免じて神が私にも幸せを許してはくれないだろうか。流雨と互いに深い皺ができるまで一緒にいられたら。そんな夢を見て、次の日の朝に目覚めて、夢は夢でしかないと思い知らされ泣いてしまう。

 断らなければならない。でも流雨と一緒にいられる希望があるかもしれない。そんな悩みの日々を送っていた日だった。

 メイル学園で移動教室へ向かう途中、相変わらず無言の流雨が私の後を付いて行っている時、廊下の横から知った顔に出くわした。

「リンケルト公爵令息! よかった、後で教室へお伺いしようと思っていましたのよ」
「ボルト公爵令嬢」

 私がいつも避けている相手、前世で私を階段から落とした第一皇妃、レベッカ・ウォン・ボルト公爵令嬢だった。私は反射的にさっと顔を背けた。すでに私の手が震え始めている。

「先日お話したことについてですが、今度父とお屋敷にお伺いさせていただいてもよろしいかしら。父はぜひリンケルト公爵ともお話をしたいと申していますの」

 なぜ、流雨とレベッカが仲が良さそうなのだろうか。レベッカはルーウェンを避けていたはずなのに。恐怖心をどうにか抑え、そっとレベッカを伺い見ると、レベッカの頬は高揚していた。ルーウェンに恋でもしていそうな、そんな表情。

 だんだんと息がしずらくなってきた。前世で恋敵だと私を睨むレベッカを思い出す。もしかしたら、ボルト公爵家とリンケルト公爵家で、婚約話でも上っているのではないだろうか。だとしたら、また私は知らず知らずのうちに、レベッカの気持ちを気づかずに同じ過ちを犯すことになるのではないだろうか。

 私は踵を返した。足早にその場を遠ざかる。

「紗彩!?」
「令息、お待ちになって!」

 流雨とレベッカの声が聞こえるけれど、私は足を止めなかった。途中、ユリウスとすれ違う。

「姉様?」

 ユリウスが私に追いついてきて、手を握った。

「姉様? どうされました? ……震えていますね」
「何でもないの! 私、少し早いけど帰るね」
「え、ちょっと待ってください!」

 ユリウスの手を振りほどき、足早に辻馬車乗り場までやってきた。そして辻馬車に乗った時、追いついてきたユリウスが辻馬車に乗り込む。

「僕も帰ります」

 辻馬車が動き出す。ユリウスが私を抱きしめた。

「何があったんですか?」

 何もない、それさえ言葉にでない。今声を出したら、泣いてしまいそうだった。
 ようやく家に着いた。震えながらも、ユリウスに支えてもらいながら階段を上り、私は自室に入室した。マリアにウィッグを取ってもらい、着替える。そしてソファーに座り心配そうにしているユリウスの隣に座った。

 震えもやっと止まり、少し落ち着いてきた。

「姉様」
「……そろそろ、心を決めなきゃね……」

 いつまでも答えを先延ばしにしているわけにはいかない。

 ちょうどその時、流雨がやってきた。律儀に着替えて貴族のように見えないようにしているところを見ると、一度家に帰って着替えてきたようである。流雨はほっとした表情で私の傍までやってきた。

「紗彩の様子が変だったから気になってたんだけれど、ユリウスと帰宅してたんだね、よかった」
「……うん」

 ユリウスとは反対の私の隣に座った流雨が、心配そうに私を伺っていながら私の手を握った。この温かい手とも、もうさよならしなければならない。

「……るー君に話さなければならないことがあるの」
「何?」

 胸が痛い。言いたくない。

「るー君のことは好きだけれど、それはお兄様として好きなだけなの。だから、るー君とは結婚できない。ごめんね」

 嘘だけれど、こう言えば流雨は引き下がってくれると思うのだ。

「却下」
「うん、却下……却下?」
「今の理由は結婚できないほどの理由にはならないから、却下だよ」

 あれ?

「どうしてぇ? お兄様としてしか好きじゃないって……」
「俺を好きなことには変わらないでしょう。だったら何も問題ないよ。これから紗彩が俺しか見えないくらい好きにさせてみせるから」
「何をする気!?」

 これ以上、もっと流雨を好きになっては困る。

「うーん、さしあたり、色仕掛けとか?」
「止めてくれる!?」
「さすがに、それはダメです!」

 ユリウスまで流雨の今の発言には却下している。色仕掛けなんてされたら、免疫のない私なんて、ころっと落ちるに違いない。

「とにかく、紗彩が兄としてでも俺が好きなら、結婚に何も障害はないよ」

 いやいや、あるでしょう! 流雨はまったく引き下がろうとしない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...