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最終章
93 過去と結論1
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流雨との結婚について、私に考える時間をくれると流雨は言っていたので、しばらく私と距離を置くのかと思っていたけれど、流雨は次の日からも普通にメイル学園で私の傍にいた。私の家にもいつも通り遊びに来る。私から離れて行かない流雨にほっとする自分がいる。しかし流雨との結婚を断ってしまえば、きっと流雨は私から離れていくだろう。
もう妹とも思ってもらえなくなって、そのうち他人行儀になっていくのだ。そんな未来が想像できて、胸が苦しくなる。
本当は好きなのに、両想いだったのに、繋いだ手は離さなければならないのか。もしかしたら、今回は何もなくて、流雨と末永く一緒にいられる可能性はないだろうか。これからも死神業は頑張るから、それに免じて神が私にも幸せを許してはくれないだろうか。流雨と互いに深い皺ができるまで一緒にいられたら。そんな夢を見て、次の日の朝に目覚めて、夢は夢でしかないと思い知らされ泣いてしまう。
断らなければならない。でも流雨と一緒にいられる希望があるかもしれない。そんな悩みの日々を送っていた日だった。
メイル学園で移動教室へ向かう途中、相変わらず無言の流雨が私の後を付いて行っている時、廊下の横から知った顔に出くわした。
「リンケルト公爵令息! よかった、後で教室へお伺いしようと思っていましたのよ」
「ボルト公爵令嬢」
私がいつも避けている相手、前世で私を階段から落とした第一皇妃、レベッカ・ウォン・ボルト公爵令嬢だった。私は反射的にさっと顔を背けた。すでに私の手が震え始めている。
「先日お話したことについてですが、今度父とお屋敷にお伺いさせていただいてもよろしいかしら。父はぜひリンケルト公爵ともお話をしたいと申していますの」
なぜ、流雨とレベッカが仲が良さそうなのだろうか。レベッカはルーウェンを避けていたはずなのに。恐怖心をどうにか抑え、そっとレベッカを伺い見ると、レベッカの頬は高揚していた。ルーウェンに恋でもしていそうな、そんな表情。
だんだんと息がしずらくなってきた。前世で恋敵だと私を睨むレベッカを思い出す。もしかしたら、ボルト公爵家とリンケルト公爵家で、婚約話でも上っているのではないだろうか。だとしたら、また私は知らず知らずのうちに、レベッカの気持ちを気づかずに同じ過ちを犯すことになるのではないだろうか。
私は踵を返した。足早にその場を遠ざかる。
「紗彩!?」
「令息、お待ちになって!」
流雨とレベッカの声が聞こえるけれど、私は足を止めなかった。途中、ユリウスとすれ違う。
「姉様?」
ユリウスが私に追いついてきて、手を握った。
「姉様? どうされました? ……震えていますね」
「何でもないの! 私、少し早いけど帰るね」
「え、ちょっと待ってください!」
ユリウスの手を振りほどき、足早に辻馬車乗り場までやってきた。そして辻馬車に乗った時、追いついてきたユリウスが辻馬車に乗り込む。
「僕も帰ります」
辻馬車が動き出す。ユリウスが私を抱きしめた。
「何があったんですか?」
何もない、それさえ言葉にでない。今声を出したら、泣いてしまいそうだった。
ようやく家に着いた。震えながらも、ユリウスに支えてもらいながら階段を上り、私は自室に入室した。マリアにウィッグを取ってもらい、着替える。そしてソファーに座り心配そうにしているユリウスの隣に座った。
震えもやっと止まり、少し落ち着いてきた。
「姉様」
「……そろそろ、心を決めなきゃね……」
いつまでも答えを先延ばしにしているわけにはいかない。
ちょうどその時、流雨がやってきた。律儀に着替えて貴族のように見えないようにしているところを見ると、一度家に帰って着替えてきたようである。流雨はほっとした表情で私の傍までやってきた。
「紗彩の様子が変だったから気になってたんだけれど、ユリウスと帰宅してたんだね、よかった」
「……うん」
ユリウスとは反対の私の隣に座った流雨が、心配そうに私を伺っていながら私の手を握った。この温かい手とも、もうさよならしなければならない。
「……るー君に話さなければならないことがあるの」
「何?」
胸が痛い。言いたくない。
「るー君のことは好きだけれど、それはお兄様として好きなだけなの。だから、るー君とは結婚できない。ごめんね」
嘘だけれど、こう言えば流雨は引き下がってくれると思うのだ。
「却下」
「うん、却下……却下?」
「今の理由は結婚できないほどの理由にはならないから、却下だよ」
あれ?
「どうしてぇ? お兄様としてしか好きじゃないって……」
「俺を好きなことには変わらないでしょう。だったら何も問題ないよ。これから紗彩が俺しか見えないくらい好きにさせてみせるから」
「何をする気!?」
これ以上、もっと流雨を好きになっては困る。
「うーん、さしあたり、色仕掛けとか?」
「止めてくれる!?」
「さすがに、それはダメです!」
ユリウスまで流雨の今の発言には却下している。色仕掛けなんてされたら、免疫のない私なんて、ころっと落ちるに違いない。
「とにかく、紗彩が兄としてでも俺が好きなら、結婚に何も障害はないよ」
いやいや、あるでしょう! 流雨はまったく引き下がろうとしない。
もう妹とも思ってもらえなくなって、そのうち他人行儀になっていくのだ。そんな未来が想像できて、胸が苦しくなる。
本当は好きなのに、両想いだったのに、繋いだ手は離さなければならないのか。もしかしたら、今回は何もなくて、流雨と末永く一緒にいられる可能性はないだろうか。これからも死神業は頑張るから、それに免じて神が私にも幸せを許してはくれないだろうか。流雨と互いに深い皺ができるまで一緒にいられたら。そんな夢を見て、次の日の朝に目覚めて、夢は夢でしかないと思い知らされ泣いてしまう。
断らなければならない。でも流雨と一緒にいられる希望があるかもしれない。そんな悩みの日々を送っていた日だった。
メイル学園で移動教室へ向かう途中、相変わらず無言の流雨が私の後を付いて行っている時、廊下の横から知った顔に出くわした。
「リンケルト公爵令息! よかった、後で教室へお伺いしようと思っていましたのよ」
「ボルト公爵令嬢」
私がいつも避けている相手、前世で私を階段から落とした第一皇妃、レベッカ・ウォン・ボルト公爵令嬢だった。私は反射的にさっと顔を背けた。すでに私の手が震え始めている。
「先日お話したことについてですが、今度父とお屋敷にお伺いさせていただいてもよろしいかしら。父はぜひリンケルト公爵ともお話をしたいと申していますの」
なぜ、流雨とレベッカが仲が良さそうなのだろうか。レベッカはルーウェンを避けていたはずなのに。恐怖心をどうにか抑え、そっとレベッカを伺い見ると、レベッカの頬は高揚していた。ルーウェンに恋でもしていそうな、そんな表情。
だんだんと息がしずらくなってきた。前世で恋敵だと私を睨むレベッカを思い出す。もしかしたら、ボルト公爵家とリンケルト公爵家で、婚約話でも上っているのではないだろうか。だとしたら、また私は知らず知らずのうちに、レベッカの気持ちを気づかずに同じ過ちを犯すことになるのではないだろうか。
私は踵を返した。足早にその場を遠ざかる。
「紗彩!?」
「令息、お待ちになって!」
流雨とレベッカの声が聞こえるけれど、私は足を止めなかった。途中、ユリウスとすれ違う。
「姉様?」
ユリウスが私に追いついてきて、手を握った。
「姉様? どうされました? ……震えていますね」
「何でもないの! 私、少し早いけど帰るね」
「え、ちょっと待ってください!」
ユリウスの手を振りほどき、足早に辻馬車乗り場までやってきた。そして辻馬車に乗った時、追いついてきたユリウスが辻馬車に乗り込む。
「僕も帰ります」
辻馬車が動き出す。ユリウスが私を抱きしめた。
「何があったんですか?」
何もない、それさえ言葉にでない。今声を出したら、泣いてしまいそうだった。
ようやく家に着いた。震えながらも、ユリウスに支えてもらいながら階段を上り、私は自室に入室した。マリアにウィッグを取ってもらい、着替える。そしてソファーに座り心配そうにしているユリウスの隣に座った。
震えもやっと止まり、少し落ち着いてきた。
「姉様」
「……そろそろ、心を決めなきゃね……」
いつまでも答えを先延ばしにしているわけにはいかない。
ちょうどその時、流雨がやってきた。律儀に着替えて貴族のように見えないようにしているところを見ると、一度家に帰って着替えてきたようである。流雨はほっとした表情で私の傍までやってきた。
「紗彩の様子が変だったから気になってたんだけれど、ユリウスと帰宅してたんだね、よかった」
「……うん」
ユリウスとは反対の私の隣に座った流雨が、心配そうに私を伺っていながら私の手を握った。この温かい手とも、もうさよならしなければならない。
「……るー君に話さなければならないことがあるの」
「何?」
胸が痛い。言いたくない。
「るー君のことは好きだけれど、それはお兄様として好きなだけなの。だから、るー君とは結婚できない。ごめんね」
嘘だけれど、こう言えば流雨は引き下がってくれると思うのだ。
「却下」
「うん、却下……却下?」
「今の理由は結婚できないほどの理由にはならないから、却下だよ」
あれ?
「どうしてぇ? お兄様としてしか好きじゃないって……」
「俺を好きなことには変わらないでしょう。だったら何も問題ないよ。これから紗彩が俺しか見えないくらい好きにさせてみせるから」
「何をする気!?」
これ以上、もっと流雨を好きになっては困る。
「うーん、さしあたり、色仕掛けとか?」
「止めてくれる!?」
「さすがに、それはダメです!」
ユリウスまで流雨の今の発言には却下している。色仕掛けなんてされたら、免疫のない私なんて、ころっと落ちるに違いない。
「とにかく、紗彩が兄としてでも俺が好きなら、結婚に何も障害はないよ」
いやいや、あるでしょう! 流雨はまったく引き下がろうとしない。
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