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最終章
91 急転1
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六月の半ば、メイル学園から帰宅した私は、侍女のマリアにウィッグを取ってもらい、普段着のワンピースに着替えた。今日は流雨もうちに来る予定で、流雨に東京の学校の試験勉強を見てもらうことになっている。今日は死神業はお休みなのだ。
自室を出てリビングに入室し、テーブルに勉強道具を置いた。勉強の前にマリアに用意してもらったおやつを食べようと、ソファーに移動した時、部屋にユリウスが入室してきた。ユリウスも着替えており、私の横に座った。
「姉様、手紙が届いていました。婚約承諾についての返事のようです」
「ほ、ほんと!? なんて!?」
やっと来たかと前のめりになる。婚約承諾の連絡をしたのに断られて二連敗、三人目こそ、三度目の正直で婚約できるはずと、ユリウスに向かってお祈りのポーズをする。手紙を読んだユリウスが顔を上げた。
「……今回は縁がなかった、とのことです」
「……………………また断られたってこと?」
「はい」
「どうしてぇ!? 求婚されたの、私だよね!? お受けしますと連絡して、なんで断られるの!? 三人目だよ!?」
向こうから結婚を望んできて、なんで断られるんだ。一人ならまだしも、三人とはおかしいんじゃないだろうか。
「ま、まだ、候補はいますので、姉様、気を落とさず……」
そして、四人目にも断られるのではなかろうか。ショックすぎて、涙が出てきた。もしかしたら、本当は求婚する気なんてなかったんじゃなかろうか。男性側が、一人にだけ求婚状を送るわけではないことは分かっている。断られることも頭に入れた上で、他の女性にも結婚の申し込みはしているだろう。日本でいうお見合いの釣書を渡す意味合いに近い。
私が次期伯爵の後継者であるし、事業もうまくいっているから、将来が安泰という意味で私に求婚してくる貴族の次男三男は多い。でも、みんな実は保険的な意味合いでしか私に求婚していなかったのかもしれない。他にもっと条件のよい女性がいれば、そちらに行くだろう。事業や資産という意味なら、うちは好条件なはずで、それよりも条件のよい女性というなら、私が完全に容姿で弾かれているということではなかろうか。帝国人の容姿ではない私が人気がないのは分かっていたけれど、こう何人も拒否されると辛い。
「ごめんなさいぃぃ」
「え!? 姉様!? なぜ謝っているのです!?」
悲しすぎて涙が滝のように流れる。その時、流雨が入室し、泣いている私の傍にやってきた。
「紗彩? どうしてそんなに号泣……ユリウス」
「僕のせいではないです! 僕ではなく、流雨さんのせい――」
「ユリウスもるー君も、何も悪くない! 私が悪いの!」
私は一生結婚できない気がしてきた。
「きっと、私は最近調子に乗ってたんだわ。家族や、るー君たちに可愛いって言ってもらえるから、少しは可愛くなったんだって勘違いしちゃったの。本当は何も変わってないのに、本当は私と婚約したくないって思われているのにも気づかなかった」
「ちょ、紗彩、別に紗彩は調子に乗ってるなんてことない――」
「ううん、調子に乗ってたんだわ。だって、デビュタントまで時間がないのに、今からでもすぐに婚約はできると思ってたもん。本当はもっと焦るべきで、家柄が良くとも私が嫌われていることをもっと考慮するべきだった」
資産があるから、外見が多少嫌われたとしても、そこまでマイナス要因になるとは思ってなかったのだ。
考えが浅かった自分に嫌気がさす。自業自得で泣く私自身も嫌いだ。
「紗彩……ごめん、俺が悪かった」
「……? るー君は、何も悪くない」
「いや、俺が悪いんだ……紗彩、俺と結婚しよう」
流雨は今結婚しようと言ったのか。突然過ぎて、びっくりして流雨を凝視する。驚きすぎて涙が止まった。なんだか流れがおかしい気がする。そして、はっとした。
「るー君! 結婚詐欺は犯罪です!」
「え゛」
「私が可哀想だからって、結婚の意思もないのに、結婚をちらつかせるなんて、いけないことなんだよ! 今は慰めになっても、あとから実は結婚する気はないって言われたら辛くなるでしょう!?」
「あー……」
苦笑して流雨は私の涙を拭ってから、ソファーに座る私の前に両膝を付いて私の両手を握った。
「ごめん、ちょっと焦って言い方がまずかった」
「そうでしょう!?」
「これは結婚詐欺でもないし、この場限りで言っているわけではないよ。俺は紗彩が好きだから、紗彩と結婚したい」
「……好きって、シスコンという意味――」
「そうだね、俺は紗彩を妹のように思っているし、妹のように可愛がりたいって言ってはいたけれど。紗彩のことは、それだけじゃなくて、女性として好きなんだ」
「………………」
これはなんだろう、私、今告白されている? 私が流雨のことが好きすぎて、願望が夢を見させているのではなかろうか。白昼夢かもしれない。隣に座るユリウスのほっぺを引っ張ってみた。
「姉様、痛いですよ!?」
「え、痛い?」
あれ、やっぱり夢ではない?
「るー君が、私を好き?」
「うん、すごく好き」
「妹じゃなくて、女性として?」
「そう、女性として好きなんだ。紗彩を他の男に渡したくない」
ボンっと頭が沸騰した。流雨はこんな嘘はつかない。だから、本当に私が好きだと言っているのだと理解した。
自室を出てリビングに入室し、テーブルに勉強道具を置いた。勉強の前にマリアに用意してもらったおやつを食べようと、ソファーに移動した時、部屋にユリウスが入室してきた。ユリウスも着替えており、私の横に座った。
「姉様、手紙が届いていました。婚約承諾についての返事のようです」
「ほ、ほんと!? なんて!?」
やっと来たかと前のめりになる。婚約承諾の連絡をしたのに断られて二連敗、三人目こそ、三度目の正直で婚約できるはずと、ユリウスに向かってお祈りのポーズをする。手紙を読んだユリウスが顔を上げた。
「……今回は縁がなかった、とのことです」
「……………………また断られたってこと?」
「はい」
「どうしてぇ!? 求婚されたの、私だよね!? お受けしますと連絡して、なんで断られるの!? 三人目だよ!?」
向こうから結婚を望んできて、なんで断られるんだ。一人ならまだしも、三人とはおかしいんじゃないだろうか。
「ま、まだ、候補はいますので、姉様、気を落とさず……」
そして、四人目にも断られるのではなかろうか。ショックすぎて、涙が出てきた。もしかしたら、本当は求婚する気なんてなかったんじゃなかろうか。男性側が、一人にだけ求婚状を送るわけではないことは分かっている。断られることも頭に入れた上で、他の女性にも結婚の申し込みはしているだろう。日本でいうお見合いの釣書を渡す意味合いに近い。
私が次期伯爵の後継者であるし、事業もうまくいっているから、将来が安泰という意味で私に求婚してくる貴族の次男三男は多い。でも、みんな実は保険的な意味合いでしか私に求婚していなかったのかもしれない。他にもっと条件のよい女性がいれば、そちらに行くだろう。事業や資産という意味なら、うちは好条件なはずで、それよりも条件のよい女性というなら、私が完全に容姿で弾かれているということではなかろうか。帝国人の容姿ではない私が人気がないのは分かっていたけれど、こう何人も拒否されると辛い。
「ごめんなさいぃぃ」
「え!? 姉様!? なぜ謝っているのです!?」
悲しすぎて涙が滝のように流れる。その時、流雨が入室し、泣いている私の傍にやってきた。
「紗彩? どうしてそんなに号泣……ユリウス」
「僕のせいではないです! 僕ではなく、流雨さんのせい――」
「ユリウスもるー君も、何も悪くない! 私が悪いの!」
私は一生結婚できない気がしてきた。
「きっと、私は最近調子に乗ってたんだわ。家族や、るー君たちに可愛いって言ってもらえるから、少しは可愛くなったんだって勘違いしちゃったの。本当は何も変わってないのに、本当は私と婚約したくないって思われているのにも気づかなかった」
「ちょ、紗彩、別に紗彩は調子に乗ってるなんてことない――」
「ううん、調子に乗ってたんだわ。だって、デビュタントまで時間がないのに、今からでもすぐに婚約はできると思ってたもん。本当はもっと焦るべきで、家柄が良くとも私が嫌われていることをもっと考慮するべきだった」
資産があるから、外見が多少嫌われたとしても、そこまでマイナス要因になるとは思ってなかったのだ。
考えが浅かった自分に嫌気がさす。自業自得で泣く私自身も嫌いだ。
「紗彩……ごめん、俺が悪かった」
「……? るー君は、何も悪くない」
「いや、俺が悪いんだ……紗彩、俺と結婚しよう」
流雨は今結婚しようと言ったのか。突然過ぎて、びっくりして流雨を凝視する。驚きすぎて涙が止まった。なんだか流れがおかしい気がする。そして、はっとした。
「るー君! 結婚詐欺は犯罪です!」
「え゛」
「私が可哀想だからって、結婚の意思もないのに、結婚をちらつかせるなんて、いけないことなんだよ! 今は慰めになっても、あとから実は結婚する気はないって言われたら辛くなるでしょう!?」
「あー……」
苦笑して流雨は私の涙を拭ってから、ソファーに座る私の前に両膝を付いて私の両手を握った。
「ごめん、ちょっと焦って言い方がまずかった」
「そうでしょう!?」
「これは結婚詐欺でもないし、この場限りで言っているわけではないよ。俺は紗彩が好きだから、紗彩と結婚したい」
「……好きって、シスコンという意味――」
「そうだね、俺は紗彩を妹のように思っているし、妹のように可愛がりたいって言ってはいたけれど。紗彩のことは、それだけじゃなくて、女性として好きなんだ」
「………………」
これはなんだろう、私、今告白されている? 私が流雨のことが好きすぎて、願望が夢を見させているのではなかろうか。白昼夢かもしれない。隣に座るユリウスのほっぺを引っ張ってみた。
「姉様、痛いですよ!?」
「え、痛い?」
あれ、やっぱり夢ではない?
「るー君が、私を好き?」
「うん、すごく好き」
「妹じゃなくて、女性として?」
「そう、女性として好きなんだ。紗彩を他の男に渡したくない」
ボンっと頭が沸騰した。流雨はこんな嘘はつかない。だから、本当に私が好きだと言っているのだと理解した。
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