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最終章
89 情報交換と相談2
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「あの……、葉月ちゃんって、婚約者がいたりしますか?」
「ええ? やあだ、紗彩、そういうことを聞くお年頃になったのねぇ」
いつもは死神業の話ばかりでこういう話はほとんどしないので、弥生が微笑ましそうにした。
「実は私、婚約者ができなくて、悩んでるんです……」
「そうなの……。死神業のこともあるし、なかなか難しい問題よね」
ユリウスに婚約者候補の一番目の方に婚約承諾の連絡をしてもらったところ、しばらくして別の方と婚約の話が進んでいるからと断られた。では二番目の方にと婚約承諾の連絡をしてもらったところ、こちらもしばらくして断られた。どうしてなんだ。あちらから婚約話を持ち込んできているはずなのに、なんで二人連続で断られるんだ。
泣きそうになりながらも、現在三番目の方に婚約承諾の連絡をしているが、また断られるのではないかと不安で仕方がない。どの人と婚約しようかと悩んだ時期が少し長かったかもしれないが、みんなこのくらいの期間は悩むものだ。長すぎるということはないはずなのに。
「葉月は婚約者は小さいころに決めてしまったのよ。親戚の子なんだけれど、葉月が懐いているし、すごくいい子なの。死神業のことも知っているしね」
「そうなんですね」
「死神業のことがある以上、やっぱり近しい人が結婚相手には向いているとは思うわ。私の夫はもう死んでしまったけれど、彼は私の従兄弟だったのよ」
弥生の夫は数年前に亡くなったと聞いたことがあった。弥生は葉月を大層可愛がっており、この親子は特別仲が良いと思う。
「私の親戚にめぼしい人はいないですね……」
「死神業のことを知っている近しい人は?」
つい流雨のことが思い浮かんだが、頭で打ち消した。流雨はダメだ。また私のせいで流雨が死ぬのは見たくない。
「……使用人なら」
「ええ? それは別の問題が持ち上がるのではない?」
「そうですよね……」
「紗彩は可愛いんだから、婚約申し込みがたくさんあるのではないの?」
「私ってモテないんです……。家柄による婚約申し込みはあるんですけれど、承諾しようとしたら、なぜか二連敗中で」
「あらあら……。二連敗なんて、焦るほどの事ではないわ。まだ候補はいるんでしょう? 大丈夫、次にいきなさい」
やはりそれしかないか。ため息ついてしまう。
流雨がメイル学園で私の隣の席に移動してからというもの、流雨にあるお願いをしてみた。メイル学園で流雨に近くにいてはいいけれど、学園では私は大人しいのが普通なので、あまり会話できないと言ったところ、流雨はほとんど無言で私の傍にいるだけという日々を送っていた。ところが、なぜか私がルーウェンの弱みを握っていて、私が口を滑らさないようルーウェンが私を見張っているという噂が立っていた。何もしていなくても、話題になるのがルーウェンなのだ。
メイル学園で平日は毎日会うため、流雨にうちに来るのは止めた方がいいと言ってみた。本音は私が流雨離れをしたいからなのだが、流雨だって学園に昼間は通う以上、後継者のことを学ぶ時間がないはずだから、うちに来ていた時間を使えばいいとも思ったのだ。しかし流雨はそれを渋り、私がかなり説得して、現在はうちに来るのは週に三回になった。
はっきり言って、これでは流雨離れができない。うちに来たら流雨は私を甘やかすし、それはそれで私だって嬉しいし、流雨を好きになるななんて完全に手遅れ状態。将来的に流雨に婚約者なんてできてしまったら、私は泣く自信がある。
早く流雨離れするためには、他に気を割く相手、つまり婚約者を作れればいいと思うのに、そこがうまくいかない。
如月親子との食事会を終え、私たちは店を出た。
「この後はどうされるんですか?」
「色々買い出しをして、王国に帰るわ」
「え!? 当日にとんぼ返りですか!?」
「仕方ないのよ。私も嫌なんだけれど、今はあっちが心配」
互いに悩みは尽きないものだ。
東京の街のビルの大画面では、可愛い女の子が歌っている映像が流れていた。歌は有名な曲である。
「あれ? あの曲って、歌手は女の子でしたっけ? 女の子みたいな男の子が歌っていた気がするんですけど」
私の音痴な歌を耳コピしてディーがよく歌っている歌だ。
「さあ、私は日本の歌手は詳しくないの。……でも、この曲は聞いたことがあるわね。歌手はたぶん女の子よ、男の子じゃなかったと思うわ」
「……私の記憶違いだったのかもしれないです」
やばい、もしかしたら、前世の記憶なのかもしれない。前世と現世は少し違う。みんな同じ人生を歩むわけではない。前世では男の子が歌っていた曲を、現世では女の子が歌っている場合だってありえるのだ。
うっかり麻彩の前で歌ってしまっていないはずだと思い返す。もし歌っていて麻彩が『歌ってみた』で歌ってしまっていた可能性を考えると怖い。世の中に正式発表される前に麻彩が歌ってしまっていた可能性があるのだ。
私の記憶に、前世と現世の記憶が混在しているから、気を付けなければならない。
それから如月親子とは別れ、家に帰宅。麻彩とリビングで話をしていた。
麻彩は、流雨が死んだときはショックを受けていたけれど、現在では帝国で元気だと知っているため、流雨の話題を出しても平気な顔をしていた。それどころか、私が流雨の話をするものだから、少しふてくされていた。
「また、るー君の話! さーちゃんは、いつか私の事なんてどうでもよくなるんだ」
「えぇ? そんなことないよ。まーちゃんは私の大事な可愛い妹なんだから」
「でも、るー君と結婚するんでしょう? そしたら、さーちゃんはこっちに帰ってこなくなるんだ」
「るー君と結婚しないよ!? 婚約者候補の中から選ぶんだよ!? それに、結婚しても、ちゃんと東京にいつものように戻って来るよ。まーちゃんに会いたいもの」
「……ほんと? 私に会いたい?」
「もちろんよ! まーちゃんに会いたいし、いつも抱きしめたいって思ってる」
麻彩を抱き寄せ、抱きしめた。どうしたんだろう、麻彩がいつもより甘えたで、なんだか不安がっている気がする。
「私が大事?」
「まーちゃんがすごく大事よ」
そのまま麻彩を抱きしめていると、ほっとした顔で麻彩が顔を上げた。
「私もさーちゃんが大事! 仕方ないから、るー君との結婚は許してあげる!」
「だから、るー君とは結婚しないってばぁ……」
それからも、麻彩はいつもより甘えただった。兄が帰宅し、リビングのソファーに横たわる私に呆れた顔を向けた。
「なんで麻彩はそんなところで寝てるんだ?」
「なんか、急に私のお腹の音を聞きたいと言い出して、お腹の音を聞いたまま寝ちゃったの」
お腹の音なんて、ただの消化音である。ゴロゴロ鳴るだけだから、面白くはないと思うのに。麻彩は私の腹の上で横を向いたまま寝息を立てている。
「また俺が運ぶのか……」
「お願いします」
それから兄はいったん風呂に向かい、風呂から上がってきて私の傍に座った。私は麻彩の枕になりながらスマホを見ていたのだが、兄に顔を向けた。
「なんだか、まーちゃん、ちょっと不安定になってる?」
「……ああ、ちょっと最近ぐずぐずだな」
「何があったの?」
「流雨のことだよ。今まで仲良くしていた人が急にいなくなって、いつでも会えると思っていた人と突然会えなくなることもあるって気づいたんだ。紗彩が死神業をしているから、なんとなくそういうことは分かってはいたんだろうが、今までは他人事だったからな。急に身近な出来事になったものだから、動揺しているみたいだ」
流雨が死んで三ヶ月ほど経過したけれど、たとえ顔が変わったとしても私はほぼ毎日流雨に会えている。もう二度と流雨を失いたくない気持ちは強いけれど、流雨が死んだという出来事が麻彩より衝撃は緩和できているかもしれない。
「いずれ紗彩とも会えなくなったらどうしようとか、時々夢に見るみたいだ」
「そうなの……」
「あとは、嫌いな藤のことや、血縁上の父のことも、嫌いだけど、生きているうちに、会えるうちに、会ってあげたほうがいいのか、とか葛藤しているみたいだな」
「昨日藤くんと写真のパートナーは絶対嫌って言ってたけれど」
「嫌いは嫌いだからな。感情と気持ちがごちゃまぜになってるんだ」
私は麻彩の頭を撫でた。麻彩は穏やかな顔で寝ている。
「こうしてあげればよかった、と後から後悔しても遅い。人の命には限りがあると、麻彩が今気づけたのはよかったと俺は思う。まあ、もう少しぐずぐずするだろうが、麻彩は俺に任せておけ」
「……ありがとう、お兄様」
そう、人の命には限りがあるのだ。前世は後悔ばかりだった。現世では後悔しない生き方ができるのだろうか。私は自信がなかった。
「ええ? やあだ、紗彩、そういうことを聞くお年頃になったのねぇ」
いつもは死神業の話ばかりでこういう話はほとんどしないので、弥生が微笑ましそうにした。
「実は私、婚約者ができなくて、悩んでるんです……」
「そうなの……。死神業のこともあるし、なかなか難しい問題よね」
ユリウスに婚約者候補の一番目の方に婚約承諾の連絡をしてもらったところ、しばらくして別の方と婚約の話が進んでいるからと断られた。では二番目の方にと婚約承諾の連絡をしてもらったところ、こちらもしばらくして断られた。どうしてなんだ。あちらから婚約話を持ち込んできているはずなのに、なんで二人連続で断られるんだ。
泣きそうになりながらも、現在三番目の方に婚約承諾の連絡をしているが、また断られるのではないかと不安で仕方がない。どの人と婚約しようかと悩んだ時期が少し長かったかもしれないが、みんなこのくらいの期間は悩むものだ。長すぎるということはないはずなのに。
「葉月は婚約者は小さいころに決めてしまったのよ。親戚の子なんだけれど、葉月が懐いているし、すごくいい子なの。死神業のことも知っているしね」
「そうなんですね」
「死神業のことがある以上、やっぱり近しい人が結婚相手には向いているとは思うわ。私の夫はもう死んでしまったけれど、彼は私の従兄弟だったのよ」
弥生の夫は数年前に亡くなったと聞いたことがあった。弥生は葉月を大層可愛がっており、この親子は特別仲が良いと思う。
「私の親戚にめぼしい人はいないですね……」
「死神業のことを知っている近しい人は?」
つい流雨のことが思い浮かんだが、頭で打ち消した。流雨はダメだ。また私のせいで流雨が死ぬのは見たくない。
「……使用人なら」
「ええ? それは別の問題が持ち上がるのではない?」
「そうですよね……」
「紗彩は可愛いんだから、婚約申し込みがたくさんあるのではないの?」
「私ってモテないんです……。家柄による婚約申し込みはあるんですけれど、承諾しようとしたら、なぜか二連敗中で」
「あらあら……。二連敗なんて、焦るほどの事ではないわ。まだ候補はいるんでしょう? 大丈夫、次にいきなさい」
やはりそれしかないか。ため息ついてしまう。
流雨がメイル学園で私の隣の席に移動してからというもの、流雨にあるお願いをしてみた。メイル学園で流雨に近くにいてはいいけれど、学園では私は大人しいのが普通なので、あまり会話できないと言ったところ、流雨はほとんど無言で私の傍にいるだけという日々を送っていた。ところが、なぜか私がルーウェンの弱みを握っていて、私が口を滑らさないようルーウェンが私を見張っているという噂が立っていた。何もしていなくても、話題になるのがルーウェンなのだ。
メイル学園で平日は毎日会うため、流雨にうちに来るのは止めた方がいいと言ってみた。本音は私が流雨離れをしたいからなのだが、流雨だって学園に昼間は通う以上、後継者のことを学ぶ時間がないはずだから、うちに来ていた時間を使えばいいとも思ったのだ。しかし流雨はそれを渋り、私がかなり説得して、現在はうちに来るのは週に三回になった。
はっきり言って、これでは流雨離れができない。うちに来たら流雨は私を甘やかすし、それはそれで私だって嬉しいし、流雨を好きになるななんて完全に手遅れ状態。将来的に流雨に婚約者なんてできてしまったら、私は泣く自信がある。
早く流雨離れするためには、他に気を割く相手、つまり婚約者を作れればいいと思うのに、そこがうまくいかない。
如月親子との食事会を終え、私たちは店を出た。
「この後はどうされるんですか?」
「色々買い出しをして、王国に帰るわ」
「え!? 当日にとんぼ返りですか!?」
「仕方ないのよ。私も嫌なんだけれど、今はあっちが心配」
互いに悩みは尽きないものだ。
東京の街のビルの大画面では、可愛い女の子が歌っている映像が流れていた。歌は有名な曲である。
「あれ? あの曲って、歌手は女の子でしたっけ? 女の子みたいな男の子が歌っていた気がするんですけど」
私の音痴な歌を耳コピしてディーがよく歌っている歌だ。
「さあ、私は日本の歌手は詳しくないの。……でも、この曲は聞いたことがあるわね。歌手はたぶん女の子よ、男の子じゃなかったと思うわ」
「……私の記憶違いだったのかもしれないです」
やばい、もしかしたら、前世の記憶なのかもしれない。前世と現世は少し違う。みんな同じ人生を歩むわけではない。前世では男の子が歌っていた曲を、現世では女の子が歌っている場合だってありえるのだ。
うっかり麻彩の前で歌ってしまっていないはずだと思い返す。もし歌っていて麻彩が『歌ってみた』で歌ってしまっていた可能性を考えると怖い。世の中に正式発表される前に麻彩が歌ってしまっていた可能性があるのだ。
私の記憶に、前世と現世の記憶が混在しているから、気を付けなければならない。
それから如月親子とは別れ、家に帰宅。麻彩とリビングで話をしていた。
麻彩は、流雨が死んだときはショックを受けていたけれど、現在では帝国で元気だと知っているため、流雨の話題を出しても平気な顔をしていた。それどころか、私が流雨の話をするものだから、少しふてくされていた。
「また、るー君の話! さーちゃんは、いつか私の事なんてどうでもよくなるんだ」
「えぇ? そんなことないよ。まーちゃんは私の大事な可愛い妹なんだから」
「でも、るー君と結婚するんでしょう? そしたら、さーちゃんはこっちに帰ってこなくなるんだ」
「るー君と結婚しないよ!? 婚約者候補の中から選ぶんだよ!? それに、結婚しても、ちゃんと東京にいつものように戻って来るよ。まーちゃんに会いたいもの」
「……ほんと? 私に会いたい?」
「もちろんよ! まーちゃんに会いたいし、いつも抱きしめたいって思ってる」
麻彩を抱き寄せ、抱きしめた。どうしたんだろう、麻彩がいつもより甘えたで、なんだか不安がっている気がする。
「私が大事?」
「まーちゃんがすごく大事よ」
そのまま麻彩を抱きしめていると、ほっとした顔で麻彩が顔を上げた。
「私もさーちゃんが大事! 仕方ないから、るー君との結婚は許してあげる!」
「だから、るー君とは結婚しないってばぁ……」
それからも、麻彩はいつもより甘えただった。兄が帰宅し、リビングのソファーに横たわる私に呆れた顔を向けた。
「なんで麻彩はそんなところで寝てるんだ?」
「なんか、急に私のお腹の音を聞きたいと言い出して、お腹の音を聞いたまま寝ちゃったの」
お腹の音なんて、ただの消化音である。ゴロゴロ鳴るだけだから、面白くはないと思うのに。麻彩は私の腹の上で横を向いたまま寝息を立てている。
「また俺が運ぶのか……」
「お願いします」
それから兄はいったん風呂に向かい、風呂から上がってきて私の傍に座った。私は麻彩の枕になりながらスマホを見ていたのだが、兄に顔を向けた。
「なんだか、まーちゃん、ちょっと不安定になってる?」
「……ああ、ちょっと最近ぐずぐずだな」
「何があったの?」
「流雨のことだよ。今まで仲良くしていた人が急にいなくなって、いつでも会えると思っていた人と突然会えなくなることもあるって気づいたんだ。紗彩が死神業をしているから、なんとなくそういうことは分かってはいたんだろうが、今までは他人事だったからな。急に身近な出来事になったものだから、動揺しているみたいだ」
流雨が死んで三ヶ月ほど経過したけれど、たとえ顔が変わったとしても私はほぼ毎日流雨に会えている。もう二度と流雨を失いたくない気持ちは強いけれど、流雨が死んだという出来事が麻彩より衝撃は緩和できているかもしれない。
「いずれ紗彩とも会えなくなったらどうしようとか、時々夢に見るみたいだ」
「そうなの……」
「あとは、嫌いな藤のことや、血縁上の父のことも、嫌いだけど、生きているうちに、会えるうちに、会ってあげたほうがいいのか、とか葛藤しているみたいだな」
「昨日藤くんと写真のパートナーは絶対嫌って言ってたけれど」
「嫌いは嫌いだからな。感情と気持ちがごちゃまぜになってるんだ」
私は麻彩の頭を撫でた。麻彩は穏やかな顔で寝ている。
「こうしてあげればよかった、と後から後悔しても遅い。人の命には限りがあると、麻彩が今気づけたのはよかったと俺は思う。まあ、もう少しぐずぐずするだろうが、麻彩は俺に任せておけ」
「……ありがとう、お兄様」
そう、人の命には限りがあるのだ。前世は後悔ばかりだった。現世では後悔しない生き方ができるのだろうか。私は自信がなかった。
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