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最終章
80 誤魔化し
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流雨がルーウェンとなって、一ヶ月近くが経とうとしていた。流雨は相変わらずメイル学園には来ないが、朝から夕方までリンケルト家で忙しくしているようだった。
先日、死神業の報告のためにティカがやってきた。前日にはティカが来ることは分かっていたので、その場に流雨も呼んだ。先日のティカの言葉が気になっていたからである。定期報告は軽く済ませ、今日の目的を私は口にした。
「体と魂のズレ? ああ、確かにまだズレてるねぇ」
やってきたティカは、じっと流雨を見て頷いた。
「ズレを修正できませんか? 魂が抜けやすい状態ではないかと不安で」
「んー、今は一つの体に一つの魂だから、簡単には抜けないと思うけれどね。まあ、東京からまた死者の魂が入ったら、抜けやすくはなるかもしれないけど。ははは」
「怖いこと言わないでくださいますか!?」
二度もルーウェンの体に東京から死者の魂が入る確率は低いけれど、まったくないとは言えないのが怖い。
「分かったよ。まあ、前回見た時よりズレが少なくはなっているから大丈夫だと思うけれど、体と魂の繋がりを強くしておくよ」
「ありがとうございます!」
ティカが指を流雨の頭に近づけると、私には光の糸のようなものが指から頭に繋がっているように見えた。
「はい、これでいいでしょ」
「ありがとうございました。ティカさま、今日のおやつは串団子です。右から餡子、ずんだ餡、みたらしです」
「おおー、分かってるね! サーヤのところはこれがあるから好き」
願い通り、ティカに流雨の魂の繋ぎを強くしてもらえてよかった。先日東京から団子用の材料を買ってきたので、今回は和菓子だ。今回も餌付け作戦は効いている。ほっとして流雨を見ると、流雨は私に微笑んだ。
最近は流雨の顔を見慣れてしまった。毎日流雨が会いに来るから、ルーウェンが流雨だという違和感がなくなってきている。最初は笑みを向けられると、ひきつった笑みを返していたような気がするが、今では自然と笑みを返す自分がいた。
それから数日後、今日は死神業をお休みにした日、メイル学園から帰宅した後に流雨が家にやってきた。最近は東京にいたときのように、流雨に自分から抱き付きに行く。
「るー君、いらっしゃい! 今日は仕事はお休みにしたから、お話しよう!」
「お、紗彩を独り占めできるのか。それはいいね」
流雨から体を離して上を向くと、何やら流雨の表情は疲れた顔をしていた。
「……るー君、何かあった? 疲れた顔をしてる」
「そうだね、最近はいろいろと父から話を聞いていると、事の重大さに疲れてはいるかな……」
「話を聞いただけ?」
「そうだよ。あとはリンケルト家にまつわる実験を色々と」
「実験……他には?」
「他? まぁ、少しずつ父から仕事を教わってるところだけれど、非効率なことが多くて、ちょっとイライラと……ごめん、これは紗彩には言わなくてよかった」
困った顔をしながら流雨は笑っているが、疲れているのは仕事のことだけなのだろうか。だんだんと不安になってきた。
「他には?」
「他にはないよ?」
じっと流雨を見る。誤魔化しているわけではないのだろうか。
「……最近、また襲われたりとかは?」
「ないよ。最近は家にいるか、ここにいるかだけだし。紗彩と出かける時は、変装しているでしょう」
疲れているというのは、よく襲われるから、ということではなさそうで、少しほっとする。
「ごめん、心配かけたかな」
「ルーウェンを恨んでる人は多いもの……」
嫌なことを思い出す。前世ではルーウェンは報復に合い亡くなったのだ。ルーウェンの姉は第三皇妃となる予定だったけれど、ルーウェンが亡くなったのでその話は流れた。ルーウェンが亡くなったのは、いつだっただろうか。現世が前世と同じになるとは限らない。率先して同じにならないよう動いている私がその筆頭であるが、現世でも流雨が報復に合わないとは限らない。
不安が増して怖くなってきた。泣き出した私に流雨が驚いた表情をする。
「るー君、もっと警戒してほしいの。また襲われるかもしれないでしょう?」
「分かってるよ。ちゃんと考えてる。ここに来るまでの間、護衛も付けてるから。紗彩と一緒に街に出る時も、紗彩は気づいてないだろうけど、こっそり護衛が付いてきてる」
「そ、そうなの?」
「うん。俺が自分を守れればいいんだけれどね、まだルーウェンのように相手を返り討ちみたいなことはできないから」
護衛がいるなら、少しは安心してもいいのだろうか。私の涙を流雨は親指で拭く。
「護衛がいても、たくさん警戒してね。ルーウェンが亡くなったのがいつか思い出せないし、ルーウェンのことだから他にも襲われていたことがたくさんあると思うし」
「思い出せないって?」
しまった、思い出せないとか言ってしまった。それは前世の話だ、ここは誤魔化すしかない。
「お、思い出せない、じゃなくて、思い出したくないって言いたかったの! ほら、るー君がこの前刺された時にルーウェンが亡くなったでしょ!? あの時、るー君が死んじゃったかもって私怖かったから!」
誤魔化せたかな!? 誤魔化せたよね!?
「……紗彩を心配させたくないから、ちゃんと警戒する。紗彩を悲しませない努力はするよ」
「……うん」
流雨は私を抱き寄せた。多くは望まないから、流雨にはどうか元気で生きて欲しいと願うのだった。
先日、死神業の報告のためにティカがやってきた。前日にはティカが来ることは分かっていたので、その場に流雨も呼んだ。先日のティカの言葉が気になっていたからである。定期報告は軽く済ませ、今日の目的を私は口にした。
「体と魂のズレ? ああ、確かにまだズレてるねぇ」
やってきたティカは、じっと流雨を見て頷いた。
「ズレを修正できませんか? 魂が抜けやすい状態ではないかと不安で」
「んー、今は一つの体に一つの魂だから、簡単には抜けないと思うけれどね。まあ、東京からまた死者の魂が入ったら、抜けやすくはなるかもしれないけど。ははは」
「怖いこと言わないでくださいますか!?」
二度もルーウェンの体に東京から死者の魂が入る確率は低いけれど、まったくないとは言えないのが怖い。
「分かったよ。まあ、前回見た時よりズレが少なくはなっているから大丈夫だと思うけれど、体と魂の繋がりを強くしておくよ」
「ありがとうございます!」
ティカが指を流雨の頭に近づけると、私には光の糸のようなものが指から頭に繋がっているように見えた。
「はい、これでいいでしょ」
「ありがとうございました。ティカさま、今日のおやつは串団子です。右から餡子、ずんだ餡、みたらしです」
「おおー、分かってるね! サーヤのところはこれがあるから好き」
願い通り、ティカに流雨の魂の繋ぎを強くしてもらえてよかった。先日東京から団子用の材料を買ってきたので、今回は和菓子だ。今回も餌付け作戦は効いている。ほっとして流雨を見ると、流雨は私に微笑んだ。
最近は流雨の顔を見慣れてしまった。毎日流雨が会いに来るから、ルーウェンが流雨だという違和感がなくなってきている。最初は笑みを向けられると、ひきつった笑みを返していたような気がするが、今では自然と笑みを返す自分がいた。
それから数日後、今日は死神業をお休みにした日、メイル学園から帰宅した後に流雨が家にやってきた。最近は東京にいたときのように、流雨に自分から抱き付きに行く。
「るー君、いらっしゃい! 今日は仕事はお休みにしたから、お話しよう!」
「お、紗彩を独り占めできるのか。それはいいね」
流雨から体を離して上を向くと、何やら流雨の表情は疲れた顔をしていた。
「……るー君、何かあった? 疲れた顔をしてる」
「そうだね、最近はいろいろと父から話を聞いていると、事の重大さに疲れてはいるかな……」
「話を聞いただけ?」
「そうだよ。あとはリンケルト家にまつわる実験を色々と」
「実験……他には?」
「他? まぁ、少しずつ父から仕事を教わってるところだけれど、非効率なことが多くて、ちょっとイライラと……ごめん、これは紗彩には言わなくてよかった」
困った顔をしながら流雨は笑っているが、疲れているのは仕事のことだけなのだろうか。だんだんと不安になってきた。
「他には?」
「他にはないよ?」
じっと流雨を見る。誤魔化しているわけではないのだろうか。
「……最近、また襲われたりとかは?」
「ないよ。最近は家にいるか、ここにいるかだけだし。紗彩と出かける時は、変装しているでしょう」
疲れているというのは、よく襲われるから、ということではなさそうで、少しほっとする。
「ごめん、心配かけたかな」
「ルーウェンを恨んでる人は多いもの……」
嫌なことを思い出す。前世ではルーウェンは報復に合い亡くなったのだ。ルーウェンの姉は第三皇妃となる予定だったけれど、ルーウェンが亡くなったのでその話は流れた。ルーウェンが亡くなったのは、いつだっただろうか。現世が前世と同じになるとは限らない。率先して同じにならないよう動いている私がその筆頭であるが、現世でも流雨が報復に合わないとは限らない。
不安が増して怖くなってきた。泣き出した私に流雨が驚いた表情をする。
「るー君、もっと警戒してほしいの。また襲われるかもしれないでしょう?」
「分かってるよ。ちゃんと考えてる。ここに来るまでの間、護衛も付けてるから。紗彩と一緒に街に出る時も、紗彩は気づいてないだろうけど、こっそり護衛が付いてきてる」
「そ、そうなの?」
「うん。俺が自分を守れればいいんだけれどね、まだルーウェンのように相手を返り討ちみたいなことはできないから」
護衛がいるなら、少しは安心してもいいのだろうか。私の涙を流雨は親指で拭く。
「護衛がいても、たくさん警戒してね。ルーウェンが亡くなったのがいつか思い出せないし、ルーウェンのことだから他にも襲われていたことがたくさんあると思うし」
「思い出せないって?」
しまった、思い出せないとか言ってしまった。それは前世の話だ、ここは誤魔化すしかない。
「お、思い出せない、じゃなくて、思い出したくないって言いたかったの! ほら、るー君がこの前刺された時にルーウェンが亡くなったでしょ!? あの時、るー君が死んじゃったかもって私怖かったから!」
誤魔化せたかな!? 誤魔化せたよね!?
「……紗彩を心配させたくないから、ちゃんと警戒する。紗彩を悲しませない努力はするよ」
「……うん」
流雨は私を抱き寄せた。多くは望まないから、流雨にはどうか元気で生きて欲しいと願うのだった。
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