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最終章
77 私の事は兄(仮)や弟の方が知っている
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東京で兄や麻彩に流雨が帝国でルーウェン・ウォン・リンケルトとして生きることを伝えて、その後私は東京での予定をこなして帝都に戻ってきた次の日。さっそく流雨は我がウィザー家のアパートメントにやってきた。
私はメイル学園に通い、夕方に家で着替えたころ流雨がちょうど私の部屋に通されてきた。私は今日は死神業もお休みすることにしたので、恰好は自分の本来の恰好である。
「へえ、紗彩の部屋、可愛いね」
「ありがとう。るー君、座って待ってて。すぐにお菓子とお茶を用意してもらうから」
流雨にソファーを勧めて私もソファーに座ると、流雨はなぜか私の横に座ってきた。
「るー君、こっちじゃなくて、あっちに……」
「紗彩に慣れてもらうために会ってるのに、あっちだと席が遠いから」
「そ、そっかぁ」
流雨はスパルタで私に慣れさせると言ったとおり、有言実行する気満々のようである。
東京へ行く直前に流雨に会った時に、私がサーヤ・ウォン・ウィザーだということを伝えた。メイル学園で同じクラスだと言うと、流雨は思考にふけりながらもルーウェンの記憶の中に私がいないようだった。それはそうだ、メイル学園での私は『モップ令嬢』の恰好で、死神業の時とも本来の私とも恰好が違う。モップ令嬢の時は、できるだけ目立たないように、ルーウェンからも目を付けられないように過ごしていたから、記憶にない、というのは、私からすると思惑通りなのだ。
ルーウェンの部下、アルベルトも私がサーヤ・ウォン・ウィザーだというと、「そういえば、視界の端にいたような、いなかったような」と言いづらそうに言った。印象にない、とはっきり言ってくれても問題ないのだが。
ルーウェンが先日刺されたと小さい新聞に載ってしまったことで、ルーウェンはメイル学園に通えない状況、と噂が回っている。それを利用して、流雨は一ヶ月くらいメイル学園には通わず、ルーウェンになりきるために色々と情報収集する予定だという。
そして、私がメイル学園から帰って来る時間に合わせて、流雨はうちに来ると言っている。
はっきりいって、ルーウェンは有名人だ。貴族だろうが平民だろうが、どんな事件に巻き込まれるか分からないから、『ルーウェンを見たら逃げろ』と裏で言われているくらいだ。
そんなルーウェンが堂々とうちに出入りしているとなると、どんな噂を立てられるか分からない。だから、流雨にはルーウェンだと一見して分からないよう変装して、うちに出入りする時は裏玄関から入ってほしいと、こんなこと言いたくないけれど、流雨にお願いした。しかし、流雨は嫌な顔せず、了承してくれた。
「今日のるー君、全然貴族っぽくないね。ルーウェンって、いつも上等な生地を使用した恰好だったから」
「ああいうかっちりした恰好、堅苦しくて好きじゃないんだ。こういう恰好の方が楽」
ルーウェンは上位貴族の服を着て、容姿端麗なものだから、ルーウェンを知らないものが見たなら、若い娘であれば物語に出てくる『王子様』に見えるだろう。悪歴がそんなものを全て打ち消すから、ルーウェンに近づこうというものはいないのだが。
今の流雨は、よく見ると生地は良い生地を使っているようだが、上下黒で地味、今は脱いでいるが、ここに来るまで濃緑のフード付きローブを着ていた。流雨は東京にいるときもスーツなどのかっちりした恰好は苦手にしていたので、こういう恰好が楽だという流雨の気持ちはわかる。
流雨は私をじっと見て首を傾げた。
「キスしたらダメ?」
「ダメ!」
「頬にだよ?」
「頬もおでこも鼻先もダメ!」
頬にキスは、私が流雨のルーウェンとしての顔に慣れてからと言っていなかったか? 今はまだ慣れていないからだが、今後慣れた後も頬のキスは拒否しようと実は思っていることは隠す。これ以上流雨を好きにならないようにしなければならない。しかしそんなことを知らない流雨は、口を自身の手で塞いでモゴモゴと何かを言うが、私には聞こえない。それが「唇はダメって言ってないから、唇ならキスしていいかな」と言っているとは思っていなかった。
「ん? るー君、なんて?」
「いや、何でもないよ。じゃあ、ハグにしておく」
流雨は私を引き寄せると抱きしめた。こうやって流雨にハグされるのが好きだった。優しくて甘やかしてくれる流雨は、ルーウェンとなっても本質は変わらないのだ。ルーウェン姿の流雨にまだ違和感はあるけれど、私は意外とすぐにそれにも慣れるのではないかという予感があった。
私の部屋のドアが開く。ユリウスが入ってきて、ソファーの私の横に座ると、流雨にハグされている私を背中から引っ張った。そしてユリウスは背中から私を抱きしめたまま、どうやら流雨を睨んでいるようだ。
「うちに来ることは百歩譲って許しましょう。ですが、姉様を抱きしめていいなど、僕は許可しません」
「紗彩のことは、昔から俺が抱きしめて育ててるから。ユリウスの許可はいらない」
「勝手に僕のことを名前呼びしないでいただけますか! 姉様が素直な性格なのをいいことに、自分の好きなように躾しようなど、なんて勝手な!」
「俺は紗彩が嫌がることはしていない。紗彩にお願いして、紗彩に許可してもらったものだけしか実行に移していないけれど」
「どうせ姉様を頷かせるよう、誘導しているのでしょう!」
「紗彩はそう簡単じゃないよ。さっきだって、キスを拒否されたばかりだから」
はあ、とため息を付いた流雨が、私を見ている。私が悪いことしているみたいな気になるので、その「ショックだな」と言いたげな視線はやめて欲しいんだが。
それにしても、流雨もユリウスも、なんだか失礼じゃないか?
「どうして二人とも、私が従順な性格、みたいな話を進めるの? 私ってしっかりしてるでしょ? 騙されやすいってことないよね」
「………………」
「………………」
「……どうして二人とも黙るのぉ!」
解せないんですけれど! 流雨とユリウスになんだか納得いかないのだった。
私はメイル学園に通い、夕方に家で着替えたころ流雨がちょうど私の部屋に通されてきた。私は今日は死神業もお休みすることにしたので、恰好は自分の本来の恰好である。
「へえ、紗彩の部屋、可愛いね」
「ありがとう。るー君、座って待ってて。すぐにお菓子とお茶を用意してもらうから」
流雨にソファーを勧めて私もソファーに座ると、流雨はなぜか私の横に座ってきた。
「るー君、こっちじゃなくて、あっちに……」
「紗彩に慣れてもらうために会ってるのに、あっちだと席が遠いから」
「そ、そっかぁ」
流雨はスパルタで私に慣れさせると言ったとおり、有言実行する気満々のようである。
東京へ行く直前に流雨に会った時に、私がサーヤ・ウォン・ウィザーだということを伝えた。メイル学園で同じクラスだと言うと、流雨は思考にふけりながらもルーウェンの記憶の中に私がいないようだった。それはそうだ、メイル学園での私は『モップ令嬢』の恰好で、死神業の時とも本来の私とも恰好が違う。モップ令嬢の時は、できるだけ目立たないように、ルーウェンからも目を付けられないように過ごしていたから、記憶にない、というのは、私からすると思惑通りなのだ。
ルーウェンの部下、アルベルトも私がサーヤ・ウォン・ウィザーだというと、「そういえば、視界の端にいたような、いなかったような」と言いづらそうに言った。印象にない、とはっきり言ってくれても問題ないのだが。
ルーウェンが先日刺されたと小さい新聞に載ってしまったことで、ルーウェンはメイル学園に通えない状況、と噂が回っている。それを利用して、流雨は一ヶ月くらいメイル学園には通わず、ルーウェンになりきるために色々と情報収集する予定だという。
そして、私がメイル学園から帰って来る時間に合わせて、流雨はうちに来ると言っている。
はっきりいって、ルーウェンは有名人だ。貴族だろうが平民だろうが、どんな事件に巻き込まれるか分からないから、『ルーウェンを見たら逃げろ』と裏で言われているくらいだ。
そんなルーウェンが堂々とうちに出入りしているとなると、どんな噂を立てられるか分からない。だから、流雨にはルーウェンだと一見して分からないよう変装して、うちに出入りする時は裏玄関から入ってほしいと、こんなこと言いたくないけれど、流雨にお願いした。しかし、流雨は嫌な顔せず、了承してくれた。
「今日のるー君、全然貴族っぽくないね。ルーウェンって、いつも上等な生地を使用した恰好だったから」
「ああいうかっちりした恰好、堅苦しくて好きじゃないんだ。こういう恰好の方が楽」
ルーウェンは上位貴族の服を着て、容姿端麗なものだから、ルーウェンを知らないものが見たなら、若い娘であれば物語に出てくる『王子様』に見えるだろう。悪歴がそんなものを全て打ち消すから、ルーウェンに近づこうというものはいないのだが。
今の流雨は、よく見ると生地は良い生地を使っているようだが、上下黒で地味、今は脱いでいるが、ここに来るまで濃緑のフード付きローブを着ていた。流雨は東京にいるときもスーツなどのかっちりした恰好は苦手にしていたので、こういう恰好が楽だという流雨の気持ちはわかる。
流雨は私をじっと見て首を傾げた。
「キスしたらダメ?」
「ダメ!」
「頬にだよ?」
「頬もおでこも鼻先もダメ!」
頬にキスは、私が流雨のルーウェンとしての顔に慣れてからと言っていなかったか? 今はまだ慣れていないからだが、今後慣れた後も頬のキスは拒否しようと実は思っていることは隠す。これ以上流雨を好きにならないようにしなければならない。しかしそんなことを知らない流雨は、口を自身の手で塞いでモゴモゴと何かを言うが、私には聞こえない。それが「唇はダメって言ってないから、唇ならキスしていいかな」と言っているとは思っていなかった。
「ん? るー君、なんて?」
「いや、何でもないよ。じゃあ、ハグにしておく」
流雨は私を引き寄せると抱きしめた。こうやって流雨にハグされるのが好きだった。優しくて甘やかしてくれる流雨は、ルーウェンとなっても本質は変わらないのだ。ルーウェン姿の流雨にまだ違和感はあるけれど、私は意外とすぐにそれにも慣れるのではないかという予感があった。
私の部屋のドアが開く。ユリウスが入ってきて、ソファーの私の横に座ると、流雨にハグされている私を背中から引っ張った。そしてユリウスは背中から私を抱きしめたまま、どうやら流雨を睨んでいるようだ。
「うちに来ることは百歩譲って許しましょう。ですが、姉様を抱きしめていいなど、僕は許可しません」
「紗彩のことは、昔から俺が抱きしめて育ててるから。ユリウスの許可はいらない」
「勝手に僕のことを名前呼びしないでいただけますか! 姉様が素直な性格なのをいいことに、自分の好きなように躾しようなど、なんて勝手な!」
「俺は紗彩が嫌がることはしていない。紗彩にお願いして、紗彩に許可してもらったものだけしか実行に移していないけれど」
「どうせ姉様を頷かせるよう、誘導しているのでしょう!」
「紗彩はそう簡単じゃないよ。さっきだって、キスを拒否されたばかりだから」
はあ、とため息を付いた流雨が、私を見ている。私が悪いことしているみたいな気になるので、その「ショックだな」と言いたげな視線はやめて欲しいんだが。
それにしても、流雨もユリウスも、なんだか失礼じゃないか?
「どうして二人とも、私が従順な性格、みたいな話を進めるの? 私ってしっかりしてるでしょ? 騙されやすいってことないよね」
「………………」
「………………」
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