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第1章
69 兄(仮)と思いがけないデート2
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ファッションビルのお目当ての化粧品ブランドで化粧品を物色し、その後流雨とアイス屋に寄る。アイスって寒い冬でも食べたくなるのは何故だろう。
流雨と種類の違うアイスを頼み、互いに味見をしあう。
「るー君のラムレーズンも美味しいね!」
「紗彩のチョコミントも美味しい」
それから場所を移動し、別のデパートの化粧品フロアにやってきた。私は化粧品フロアが大好きなのだ。流雨は荷物持ちをしてくれつつ、退屈だろうと思うのだがずっと私の横に立っている。そして、化粧品フロアにいくつかあるジュエリーブランドのお店を見て、流雨が言った。
「紗彩、この店が終わったら、少し休憩ってことであっちの店に行ってみない?」
「うん、いいよ」
ジュエリーブランドにやってきた私たちは、ジュエリーのショーウィンドウを見ていく。そして、ネックレス、リング、イヤリングを店員に出してもらっては、流雨が私の体に装着させて似合うかどうか見ていく。
「このイヤリングは紗彩に似合うね。プレゼントするよ」
「るー君……嬉しいけれど、いつも私貰ってばかりいるから」
流雨は実は一緒に出掛けると、必ず何か私に買おうとするクセがある。服だったり靴だったりアクセサリーだったりと際限がない。
去年は服屋を連れまわされ、気づいたら私も流雨も両手いっぱいに袋を抱えていたくらい、流雨に買ってもらったこともある。流雨に「可愛い」と言ってもらえるのが嬉しくて、流雨の言うとおり試着して楽しかったというのはあるのだけれど。
流雨自身は欲しい物がないから、私にお金を使うのが楽しいと言うのだが、そう言われて、つい、「おじい様みたい」と言ってしまった。「どこが?」と聞く流雨に、「目に入れても痛くない孫に何でも与えようとするおじい様みたいだから」と言うと、流雨はショックを受けた顔をしたので、それ以上言うのを止めた。しかし、そう思ってしまう私は悪くないと思う。
「紗彩がいつも遠慮するから、最近はそんなにプレゼントしていないよね?」
「そりゃあ、前より減ったとは思うけれど、金額が増えていると思う」
プレゼントの金額が、年々高くなっていくのだ。
「気になるほどのことじゃないよ。紗彩が似合っていて可愛いものなら、俺が欲しいと思うのは当たり前だから」
「そうかな……」
「そうだよ。分かった、じゃあ、昨日貰ったチーズケーキのお礼ってことなら、いいでしょう?」
うーん、それは昨日流雨が喜んでくれたから、私は嬉しかったので、それだけでお礼になっていると思うのだけれど。ただあまり固持するのは良くないかもしれない。
「……分かった。ありがとう、るー君」
「良かった。じゃあ、付けて帰ることにしていい? 紗彩がしているのを見たいから」
「うん」
流雨が支払いを済ませ、イヤリングとネックレスを装着してくれた。
「って、ネックレスが増えてる!」
「イヤリングとデザインが似てるから、一緒に着けると合うと思って。別々に付けても紗彩に似合うよ」
そう言いながら、流雨は私のこめかみにキスをする。ここお店だから! 店員の女性の生暖かい視線が気になる。
顔が熱くなりながら、口を開いた。
「ありがとう、るー君。大事にするね」
「うん」
それから、また化粧品店に戻り、化粧品の物色を再開した。キラキラとするフェイスパウダーを次の商品として扱いたいな、と思いながら、ふと流雨を見ると、なんだか険しい顔をしていた。
「るー君? どうかした?」
「いや……」
流雨はそう言いつつ、私ではないところを見ている。そこで気づいた。もしかしたら流雨は。
「怪しい人が、私を見てるんでしょ?」
流雨が勢いよく私を見た。
「気づいていたの!?」
「うん。家からずっと付いてきてるよ」
「どうしてそれを先に……分かった、俺が――」
「待って。大丈夫なの、放っておいていいの。常連さんだから」
「常連!? ストーカーの!?」
「あ、そうか、ああいうのもストーカーって言うのかな? でもね、私のストーカーじゃないんだよ」
「じゃあ誰の!?」
「まーちゃんのだよ」
「……麻彩の?」
いつものことなので、目だけは化粧品に戻しながら流雨と会話をする。
「私といると、まーちゃんに会える確率が高いって思っているみたいだから、私に付いてくるんだよね。でも大丈夫、まーちゃんにはチャットしたから、家に帰る時はいつも使わない方の出入口を使って家に帰って来るはず」
「紗彩の大丈夫の意味が分からないんだけど」
「本当に大丈夫なんだよ。もう警察沙汰にはしないはず。……それくらいはお母様に指導されていると思うし」
「指導?」
「あの怪しい人ね、まーちゃんの血縁上の父なんだ。お母様の今の恋人」
「……そうなの?」
「うん、まーちゃんには、すっごく嫌われてるんだけれどね」
私は説明するために口を開いた。
麻彩の血縁上の父は、バスケット選手だろうか、というくらい、日本人にしては飛びぬけて背が高い。明らかに麻彩はその血を引いているようで、麻彩も小さいころから背が高い。
麻彩の血縁上の父は、少しズレているというか、常識が通じないところのある人だ。母が麻彩を産んだ時、母の子は全員一条家の父が書類上の父としているから、麻彩もそうするね、と母に言われ、深く考えずに「いいよ」と言ったらしい。職業は売れない画家、いや、熱狂的なファンはいるらしいので少し違うかもしれないが、職業で稼ぐ才能はなく、いつも母頼り。創作に入ると他の人の声なんて聞こえなくなるくらい没頭するタイプで、麻彩という子がいることも、時に忘れてしまうくらい職人気質のようだ。
ところが、まだ麻彩が幼稚舎にも通っていないころ、麻彩はベビーシッターと家の近くの公園の砂場で遊んでいた。その後、家に帰る時に麻彩の手を先に洗い、その後にベビーシッターが手を洗っている隙に、血縁上の父が麻彩を抱えて連れて行ってしまったのである。
麻彩を連れ去ったのが初めは誰なのかわからず、当然大騒ぎになった。誘拐だと警察も出動した。しかし、麻彩を連れ去った当の本人は、誘拐した意識はなく、麻彩がギャン泣きしているところを速攻捕まり、「僕の娘に会っただけ」とキョトンとしていたという。
それからというもの、麻彩は男の人が苦手であるし、血縁上の父なんて一生会いたくない、とまで言っている。
そして血縁上の父は、現在の麻彩に嫌われている認識はあるのか、時々家の近くに出没しては、話しかけるわけでなく、麻彩を遠くから眺めるということを趣味にしているようなのだ。そして、私がいると麻彩もいる、という認識のようで、最近は麻彩より私の方が付けられることが多い。
ただ、母とは性格が合うのか、麻彩の血縁上の父と母は、麻彩ができてからというもの、恋人関係は続いている。
「あの人、付いてくるだけで害はないの。まあ、付いて行く相手がまーちゃんの場合は少し暴走するときもあるみたいだけど……基本的にはお母様が言い聞かせていると思うし、大丈夫だよ」
「そうなんだ……」
流雨が少しほっとした顔をする。やはりストーカーのようなことをする相手といえば、警戒するのは当然だ。
流雨はとりあえずは納得したようで、私と共に化粧品店を回るのだった。
流雨と種類の違うアイスを頼み、互いに味見をしあう。
「るー君のラムレーズンも美味しいね!」
「紗彩のチョコミントも美味しい」
それから場所を移動し、別のデパートの化粧品フロアにやってきた。私は化粧品フロアが大好きなのだ。流雨は荷物持ちをしてくれつつ、退屈だろうと思うのだがずっと私の横に立っている。そして、化粧品フロアにいくつかあるジュエリーブランドのお店を見て、流雨が言った。
「紗彩、この店が終わったら、少し休憩ってことであっちの店に行ってみない?」
「うん、いいよ」
ジュエリーブランドにやってきた私たちは、ジュエリーのショーウィンドウを見ていく。そして、ネックレス、リング、イヤリングを店員に出してもらっては、流雨が私の体に装着させて似合うかどうか見ていく。
「このイヤリングは紗彩に似合うね。プレゼントするよ」
「るー君……嬉しいけれど、いつも私貰ってばかりいるから」
流雨は実は一緒に出掛けると、必ず何か私に買おうとするクセがある。服だったり靴だったりアクセサリーだったりと際限がない。
去年は服屋を連れまわされ、気づいたら私も流雨も両手いっぱいに袋を抱えていたくらい、流雨に買ってもらったこともある。流雨に「可愛い」と言ってもらえるのが嬉しくて、流雨の言うとおり試着して楽しかったというのはあるのだけれど。
流雨自身は欲しい物がないから、私にお金を使うのが楽しいと言うのだが、そう言われて、つい、「おじい様みたい」と言ってしまった。「どこが?」と聞く流雨に、「目に入れても痛くない孫に何でも与えようとするおじい様みたいだから」と言うと、流雨はショックを受けた顔をしたので、それ以上言うのを止めた。しかし、そう思ってしまう私は悪くないと思う。
「紗彩がいつも遠慮するから、最近はそんなにプレゼントしていないよね?」
「そりゃあ、前より減ったとは思うけれど、金額が増えていると思う」
プレゼントの金額が、年々高くなっていくのだ。
「気になるほどのことじゃないよ。紗彩が似合っていて可愛いものなら、俺が欲しいと思うのは当たり前だから」
「そうかな……」
「そうだよ。分かった、じゃあ、昨日貰ったチーズケーキのお礼ってことなら、いいでしょう?」
うーん、それは昨日流雨が喜んでくれたから、私は嬉しかったので、それだけでお礼になっていると思うのだけれど。ただあまり固持するのは良くないかもしれない。
「……分かった。ありがとう、るー君」
「良かった。じゃあ、付けて帰ることにしていい? 紗彩がしているのを見たいから」
「うん」
流雨が支払いを済ませ、イヤリングとネックレスを装着してくれた。
「って、ネックレスが増えてる!」
「イヤリングとデザインが似てるから、一緒に着けると合うと思って。別々に付けても紗彩に似合うよ」
そう言いながら、流雨は私のこめかみにキスをする。ここお店だから! 店員の女性の生暖かい視線が気になる。
顔が熱くなりながら、口を開いた。
「ありがとう、るー君。大事にするね」
「うん」
それから、また化粧品店に戻り、化粧品の物色を再開した。キラキラとするフェイスパウダーを次の商品として扱いたいな、と思いながら、ふと流雨を見ると、なんだか険しい顔をしていた。
「るー君? どうかした?」
「いや……」
流雨はそう言いつつ、私ではないところを見ている。そこで気づいた。もしかしたら流雨は。
「怪しい人が、私を見てるんでしょ?」
流雨が勢いよく私を見た。
「気づいていたの!?」
「うん。家からずっと付いてきてるよ」
「どうしてそれを先に……分かった、俺が――」
「待って。大丈夫なの、放っておいていいの。常連さんだから」
「常連!? ストーカーの!?」
「あ、そうか、ああいうのもストーカーって言うのかな? でもね、私のストーカーじゃないんだよ」
「じゃあ誰の!?」
「まーちゃんのだよ」
「……麻彩の?」
いつものことなので、目だけは化粧品に戻しながら流雨と会話をする。
「私といると、まーちゃんに会える確率が高いって思っているみたいだから、私に付いてくるんだよね。でも大丈夫、まーちゃんにはチャットしたから、家に帰る時はいつも使わない方の出入口を使って家に帰って来るはず」
「紗彩の大丈夫の意味が分からないんだけど」
「本当に大丈夫なんだよ。もう警察沙汰にはしないはず。……それくらいはお母様に指導されていると思うし」
「指導?」
「あの怪しい人ね、まーちゃんの血縁上の父なんだ。お母様の今の恋人」
「……そうなの?」
「うん、まーちゃんには、すっごく嫌われてるんだけれどね」
私は説明するために口を開いた。
麻彩の血縁上の父は、バスケット選手だろうか、というくらい、日本人にしては飛びぬけて背が高い。明らかに麻彩はその血を引いているようで、麻彩も小さいころから背が高い。
麻彩の血縁上の父は、少しズレているというか、常識が通じないところのある人だ。母が麻彩を産んだ時、母の子は全員一条家の父が書類上の父としているから、麻彩もそうするね、と母に言われ、深く考えずに「いいよ」と言ったらしい。職業は売れない画家、いや、熱狂的なファンはいるらしいので少し違うかもしれないが、職業で稼ぐ才能はなく、いつも母頼り。創作に入ると他の人の声なんて聞こえなくなるくらい没頭するタイプで、麻彩という子がいることも、時に忘れてしまうくらい職人気質のようだ。
ところが、まだ麻彩が幼稚舎にも通っていないころ、麻彩はベビーシッターと家の近くの公園の砂場で遊んでいた。その後、家に帰る時に麻彩の手を先に洗い、その後にベビーシッターが手を洗っている隙に、血縁上の父が麻彩を抱えて連れて行ってしまったのである。
麻彩を連れ去ったのが初めは誰なのかわからず、当然大騒ぎになった。誘拐だと警察も出動した。しかし、麻彩を連れ去った当の本人は、誘拐した意識はなく、麻彩がギャン泣きしているところを速攻捕まり、「僕の娘に会っただけ」とキョトンとしていたという。
それからというもの、麻彩は男の人が苦手であるし、血縁上の父なんて一生会いたくない、とまで言っている。
そして血縁上の父は、現在の麻彩に嫌われている認識はあるのか、時々家の近くに出没しては、話しかけるわけでなく、麻彩を遠くから眺めるということを趣味にしているようなのだ。そして、私がいると麻彩もいる、という認識のようで、最近は麻彩より私の方が付けられることが多い。
ただ、母とは性格が合うのか、麻彩の血縁上の父と母は、麻彩ができてからというもの、恋人関係は続いている。
「あの人、付いてくるだけで害はないの。まあ、付いて行く相手がまーちゃんの場合は少し暴走するときもあるみたいだけど……基本的にはお母様が言い聞かせていると思うし、大丈夫だよ」
「そうなんだ……」
流雨が少しほっとした顔をする。やはりストーカーのようなことをする相手といえば、警戒するのは当然だ。
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