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第1章
61 そろそろ次の婚約者を決めなければ
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私は現在、大きい袋に包まれ、袋から顔だけ出した咲の後ろに立っていた。
咲が髪の色をブリーチで色を抜いて、その後アッシュグレーにしたいと言うので、東京から市販されているものを買ってきて、現在私が咲の頭に注文通り染めている最中である。
「うーん、これ染まってるのかな……使い方の書かれてある時間でやるよ?」
「任せた」
咲に前は金髪に染めてあげたこともあるが、髪が伸び、すでに黒髪に戻っていた。帝国にも髪を染める技術はあるけれど、仕上がりがあまりよくない。色も金髪のものばかりで、咲がやりたいという色は東京から買ってくるしかない。
使い方通り咲の髪に液体を塗り、時間を置き、そして髪を洗う。濡れた髪を乾かしてあげると、思っていた以上に綺麗なアッシュグレーが出来上がった。
「お、いいじゃん! さすが紗彩!」
褒めても何もでませんけど? そう思いつつ、咲が嬉しそうなので、私は良かったと笑っていたのだが、次に咲が言った言葉に私は固まった。
「次はさ、メッシュにしたいんだけど」
「……はい?」
「メッシュだよ、メッシュ。こう、色の濃淡をつけるというか、何か所かの毛束を白っぽいグレーにしたい」
「……早く言ってくれる?」
「え? だって、どっちにしても、全体にアッシュグレーにするのが先だから、後から言っても……」
「それでも! 先に言ってくれる!?」
「悪かったって! そんな怒るなよ!」
たった今の達成感を返して欲しくなる、私の気持ちも分かってほしいわ。
ただでさえ暑くてちょっと気が短くなっているのだ。ぷすぷすと頭から湯気がでそうな心を落ち着かせる。まったく、うちの咲はわがままで仕方がない。しかし髪の色は私自身もコンプレックスがあるし、髪の色くらい、咲に自由にさせてあげたいという気持ちもある。だから、私はよし! と気合を入れて、立った。
「仕方ないわね!」
今度は咲の髪をメッシュにするべく、作業に取り掛かった。
そしてその日の午後。
ウィザー家のアパートメントの屋上では、私とユリウス、咲とジークとヴィーとディーが火照った体を冷やしていた。東京から持ってきたビニールプールで遊ぶのである。全員入れる大きめのビニールプールが一つと、一人が入れる大きさのビニールプールが二つ用意されている。
水着は全て東京から買ってきたものだ。プールの上には太陽を遮る工夫もしている。
午後から仕事をしようと机に向かったが、今日はとにかく暑くて早々にギブアップした。どうせ働かない頭で仕事をするくらいなら、堂々と涼みながら気分転換をするほうがいいだろう。
帝国は島国なので海に囲まれているが、帝都から海は遠い。海の近くに済む人たちは海水浴ができるが、帝都からは列車で行っても時間もかかるので、我が家は海には行かない。帝都を流れる川で水遊びをしている人はいるが、人の行き来が多いので、川にも我が家は行かない。帝都には上位貴族でアパートメントではなく屋敷を持っている家なんかはプールもあるらしいが、アパートメントには普通はプールはない。でもうちにはビニールプールがあるので、いつもなんとかこれで夏を乗り切るのだ。
大きめのビニールプールで、水鉄砲を使ってみんなで水を当て合う。いつもクールなユリウスは、咲に執拗に攻撃され、ちょっとキレ気味に咲とやりあっている。私はジークとヴィーとディーが泳げるように指導なんかしているが、実は私も十メートルくらいしか泳げないので、指導できるほどの技術はない。息継ぎって、難しいよね。
しばらく遊んだ後、私とユリウスはそれぞれ一人用のプールへ移動した。そして、ユリウスが渡してきた防水タブレットに目を通す。防水だから多少濡れても問題ないのだ。涼しく仕事ができていい。
「一応、二十人までは絞ったんですが」
「二十人!? 多いよ……」
私はリストを見て返事をした。何のリストかというと、私の婚約者候補のリストである。婚約破棄から少し時間も空けたので、そろそろ次の人を決める準備に入ってもいいだろうと思ったのだ。
「十人にまで減らして欲しい」
「僕のチェックリストで厳選すると、一人も残らないんですよ。姉様がもっとチェックを緩くしろと言うので緩くしたら、今度は増え過ぎました」
つまり、抜きんでて婚約者にしたい候補がおらず、どの方も甲乙つけがたい、似たり寄ったりの人物ばかりということである。まあ、実物を見ないで文字だけで人柄を確認するとなると、こうなるだろう、ということは分かる。
「姉様が、この人は絶対イヤ! と感じる人はいますか?」
「うーん……」
二十人の候補者は、私が見てもそんなに違いがないように見える。ユリウスの苦悩が理解できる。
「嫌って言う人はいないなぁ。ユリウスの匙加減で、半分に減らしてくれたらいいよ」
「分かりました」
私が婚約者に求めるものは、婚約者を作ることで前世で夫だったルドルフのけん制になること、ユリウスと仲良くしてくれること、結婚後は死神業のことも教えることになるから口が堅そうな人。それだけだ。私の事を愛してくれとは言わない。むしろ、愛情なんてなくていい。ただ家族として心穏やかに過ごすことができるならば、それでいいのだ。
私は次こそは、そういう人と婚約できることを祈るのだった。
咲が髪の色をブリーチで色を抜いて、その後アッシュグレーにしたいと言うので、東京から市販されているものを買ってきて、現在私が咲の頭に注文通り染めている最中である。
「うーん、これ染まってるのかな……使い方の書かれてある時間でやるよ?」
「任せた」
咲に前は金髪に染めてあげたこともあるが、髪が伸び、すでに黒髪に戻っていた。帝国にも髪を染める技術はあるけれど、仕上がりがあまりよくない。色も金髪のものばかりで、咲がやりたいという色は東京から買ってくるしかない。
使い方通り咲の髪に液体を塗り、時間を置き、そして髪を洗う。濡れた髪を乾かしてあげると、思っていた以上に綺麗なアッシュグレーが出来上がった。
「お、いいじゃん! さすが紗彩!」
褒めても何もでませんけど? そう思いつつ、咲が嬉しそうなので、私は良かったと笑っていたのだが、次に咲が言った言葉に私は固まった。
「次はさ、メッシュにしたいんだけど」
「……はい?」
「メッシュだよ、メッシュ。こう、色の濃淡をつけるというか、何か所かの毛束を白っぽいグレーにしたい」
「……早く言ってくれる?」
「え? だって、どっちにしても、全体にアッシュグレーにするのが先だから、後から言っても……」
「それでも! 先に言ってくれる!?」
「悪かったって! そんな怒るなよ!」
たった今の達成感を返して欲しくなる、私の気持ちも分かってほしいわ。
ただでさえ暑くてちょっと気が短くなっているのだ。ぷすぷすと頭から湯気がでそうな心を落ち着かせる。まったく、うちの咲はわがままで仕方がない。しかし髪の色は私自身もコンプレックスがあるし、髪の色くらい、咲に自由にさせてあげたいという気持ちもある。だから、私はよし! と気合を入れて、立った。
「仕方ないわね!」
今度は咲の髪をメッシュにするべく、作業に取り掛かった。
そしてその日の午後。
ウィザー家のアパートメントの屋上では、私とユリウス、咲とジークとヴィーとディーが火照った体を冷やしていた。東京から持ってきたビニールプールで遊ぶのである。全員入れる大きめのビニールプールが一つと、一人が入れる大きさのビニールプールが二つ用意されている。
水着は全て東京から買ってきたものだ。プールの上には太陽を遮る工夫もしている。
午後から仕事をしようと机に向かったが、今日はとにかく暑くて早々にギブアップした。どうせ働かない頭で仕事をするくらいなら、堂々と涼みながら気分転換をするほうがいいだろう。
帝国は島国なので海に囲まれているが、帝都から海は遠い。海の近くに済む人たちは海水浴ができるが、帝都からは列車で行っても時間もかかるので、我が家は海には行かない。帝都を流れる川で水遊びをしている人はいるが、人の行き来が多いので、川にも我が家は行かない。帝都には上位貴族でアパートメントではなく屋敷を持っている家なんかはプールもあるらしいが、アパートメントには普通はプールはない。でもうちにはビニールプールがあるので、いつもなんとかこれで夏を乗り切るのだ。
大きめのビニールプールで、水鉄砲を使ってみんなで水を当て合う。いつもクールなユリウスは、咲に執拗に攻撃され、ちょっとキレ気味に咲とやりあっている。私はジークとヴィーとディーが泳げるように指導なんかしているが、実は私も十メートルくらいしか泳げないので、指導できるほどの技術はない。息継ぎって、難しいよね。
しばらく遊んだ後、私とユリウスはそれぞれ一人用のプールへ移動した。そして、ユリウスが渡してきた防水タブレットに目を通す。防水だから多少濡れても問題ないのだ。涼しく仕事ができていい。
「一応、二十人までは絞ったんですが」
「二十人!? 多いよ……」
私はリストを見て返事をした。何のリストかというと、私の婚約者候補のリストである。婚約破棄から少し時間も空けたので、そろそろ次の人を決める準備に入ってもいいだろうと思ったのだ。
「十人にまで減らして欲しい」
「僕のチェックリストで厳選すると、一人も残らないんですよ。姉様がもっとチェックを緩くしろと言うので緩くしたら、今度は増え過ぎました」
つまり、抜きんでて婚約者にしたい候補がおらず、どの方も甲乙つけがたい、似たり寄ったりの人物ばかりということである。まあ、実物を見ないで文字だけで人柄を確認するとなると、こうなるだろう、ということは分かる。
「姉様が、この人は絶対イヤ! と感じる人はいますか?」
「うーん……」
二十人の候補者は、私が見てもそんなに違いがないように見える。ユリウスの苦悩が理解できる。
「嫌って言う人はいないなぁ。ユリウスの匙加減で、半分に減らしてくれたらいいよ」
「分かりました」
私が婚約者に求めるものは、婚約者を作ることで前世で夫だったルドルフのけん制になること、ユリウスと仲良くしてくれること、結婚後は死神業のことも教えることになるから口が堅そうな人。それだけだ。私の事を愛してくれとは言わない。むしろ、愛情なんてなくていい。ただ家族として心穏やかに過ごすことができるならば、それでいいのだ。
私は次こそは、そういう人と婚約できることを祈るのだった。
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