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第1章
56 死神業の同業者1
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朝、目が覚めて時計を見ると、六時四十五分だった。六時に起きたかったので、寝坊してしまったと思いつつ、麻彩の私に絡みついている手をそっと避ける。そして顔を洗い、キッチンに向かった。
今日は弁当を作る余裕はもうないので、朝ごはんのみを作ろうと冷蔵庫を開ける。作る物を簡単に考え、材料を取り出したところで部屋の扉が開いた。
「紗彩、おはよう」
「るー君! おはよう!」
昨日から泊っている流雨が起きてきた。朝から流雨に会えるなんて、今日は良い日だ。流雨に抱き付く。そして顔を上げると、流雨の後頭部の髪が少し跳ねていたので、そこに手を伸ばす。
「ふふ、るー君、寝ぐせ付いてる」
「あ、本当? 後で直すよ」
流雨の寝ぐせが可愛い。笑いながら寝ぐせを撫でていると、流雨が私を抱き上げた。
「るー君!?」
「今日の分のキスを貰おうと思って」
昨日、誕生日プレゼントは頬にキスの習慣がいいと言った流雨は、さっそく習慣づけさせる気満々のようである。抱っこされてしまったので、少し下にある流雨の顔が近い。ドキドキと朝から心臓が煩いと思いつつ、約束してしまったので、そっと流雨の頬にキスをする。すると、流雨まで私の頬にキスを返した。私の顔に熱が集まる。
「……キスの習慣は、私だけじゃないの?」
「帝都では、キスされたら返すものなんでしょ? だからセットで習慣にしちゃえばいいよね」
そんなこと、昨日は言わなかったのに。でも嫌なわけじゃないのだ。どうせ私からのキスが習慣になるなら、流雨からも貰いたいとは思ってしまう。だから、否定はせず「うん」とだけ呟いて、流雨の首に手を回して抱き付いた。朝から流雨に甘やかしてもらえるなんて、ますます今日は良い日である。少しだけそうして、流雨から体を離した。
「ありがとう、るー君。朝から元気貰ったよ」
「俺も」
流雨に下ろしてもらう。
「俺はこれからちょっと動いてくる」
「トレーニングルームだよね。行ってらっしゃい」
我が家には兄専用のトレーニングルームがある。ルームランナーや筋トレグッズがある部屋だ。流雨は朝から体を動かしたい人なので、いつも我が家に泊まると朝からトレーニングルームに行くのだ。
流雨の家はマンションで、家賃が高い代わりにフィットネスジムが付いていて自由に使える環境にあるらしい。だから、朝から体を動かす習慣になっているのだ。
流雨が運動している間、私は朝食づくりに取り掛かる。
今日のメニューはアボカド丼とトマトの味噌汁、そしてフルーツヨーグルト和えにする。アボカド丼は麻彩が好きなので、時々作るのだ。アボカドにマヨネーズとレモン汁、醤油、ごま油を和え、麻彩以外のものにはワサビも入れた。あとはご飯にアボカドを乗せ、卵黄と小ねぎとゴマを乗せると完成だ。
味噌汁とヨーグルトの用意も終わると、麻彩を起こす。麻彩に朝食を用意し、麻彩が食べいている間、私は麻彩の髪を弄る。今日は一つに緩く編んだ。麻彩に似合っていて可愛い。
麻彩が食べている間、兄を起こし、その後、学校へ行く麻彩の見送りをする。そして兄と流雨と私の朝食の準備が終わるころに、運動してシャワーを浴びてきた流雨が部屋に入ってきた。三人で食事を開始する。
「うん、美味しい。いつも思うけど、紗彩は料理が上手だね」
「るー君、ありがとう」
今日の朝食は簡単なものばかりだから、褒められるほどのものではないけれど、流雨の賛辞は素直に受け取っておく。
それから流雨が先に家を出て、兄も会社に向かった。
私も出かける準備をして、家を出た。今日は昼に大阪で待ち合わせをしているのだ。新幹線で大阪に向かい、待ち合わせの十二時半。新大阪駅の中、私は待ち合わせていた二人に手を振った。
「弥生さん! お久しぶりです!」
「紗彩! 久しぶりね!」
一人は如月弥生(きさらぎやよい)と言い、三十台前半の女性。もう一人は弥生の娘で如月葉月(きさらぎはづき)と言い、十五歳である。如月家は紗彩の同業者であった。つまり、死神業が稼業であり、如月家は九州地区担当である。弥生がその当主で、葉月が後継者だ。
今日は死神業の同業者として唯一面識のある、如月親子と半年に一回程度で行われる情報交換にやってきたのである。
私と如月親子は、予約していたランチのお店に移動した。個室に案内してもらい、私はさっそくお土産を渡す。
「いつもの帝国産ワインです」
「ありがとう! これ美味しいのよねぇ! こっちは王国産栄養ドリンクのお土産よ!」
「ありがとうございます!」
弥生は酒好きなので、お土産はワインがいいといつも指定なのだ。そして弥生には、弥生が行き来する異世界の国である王国の栄養ドリンクをいつもお土産で指定している。
この栄養ドリンク、王国での弥生の事業用で作っているものなのだ。王国では、帝国とは違い、魔法が存在する世界らしい。その中で、弥生の家は魔法と薬学に精通する事業を営んでいて、栄養ドリンクはその産物なのだ。この栄養ドリンクを飲んだからと言って、魔法が使えるなどといった特別な力はないのだけれど、「今日は元気がでない」というときに飲むと、とにかく元気になれる。日本で売っているものより何倍も効果はある。もちろん怪しい薬ではない。
ちなみにだ、異世界で魔法が使えるからといって、日本では魔法は使えないらしい。やはり世界が違うからだろう。普段から魔法に慣れた弥生は、日本では魔法が使えないため、「日本って不便」とよく言う。
三人で食事を開始しながら、弥生と最近の死神業の話をしつつ、情報交換もする。弥生の娘である葉月は、人見知りなため、いつも弥生に付いてはくるが、ほとんど会話はしない。話しかければ少し返してくれるものの、すぐに母である弥生に会話をバトンタッチしてしまうのだ。
この死神業の情報交換は、死神業に関する情報を得るためには必要不可欠だった。神の部下として、私の担当ではティカ、如月家には別の担当者がいるが、総じて一致しているのは、神の部下は情報を簡単にはくれない、ということだ。
ウィザー家は手ぬるい家だったため、逆行後の私の代になるまで、死神業で使用できる力を利用して事業をしていい、ということは知らなかった。兄に助言され、ティカに聞いて初めて知ったのである。そのように、自分からティカに聞かないと情報を得ることはできない。ティカが自ら先に言ってくれることはないのだ。
また、ティカに聞いたからと言って、ティカが全ての問いに答えてくれるわけでもない。「それを教える権限はボクにはないよ」と躱されることもしばしば。それは如月家の担当も同じようで、互いに情報を取得することに苦労するため、それぞれで取得した情報を如月家と交換して情報を整理するのである。
今日は弁当を作る余裕はもうないので、朝ごはんのみを作ろうと冷蔵庫を開ける。作る物を簡単に考え、材料を取り出したところで部屋の扉が開いた。
「紗彩、おはよう」
「るー君! おはよう!」
昨日から泊っている流雨が起きてきた。朝から流雨に会えるなんて、今日は良い日だ。流雨に抱き付く。そして顔を上げると、流雨の後頭部の髪が少し跳ねていたので、そこに手を伸ばす。
「ふふ、るー君、寝ぐせ付いてる」
「あ、本当? 後で直すよ」
流雨の寝ぐせが可愛い。笑いながら寝ぐせを撫でていると、流雨が私を抱き上げた。
「るー君!?」
「今日の分のキスを貰おうと思って」
昨日、誕生日プレゼントは頬にキスの習慣がいいと言った流雨は、さっそく習慣づけさせる気満々のようである。抱っこされてしまったので、少し下にある流雨の顔が近い。ドキドキと朝から心臓が煩いと思いつつ、約束してしまったので、そっと流雨の頬にキスをする。すると、流雨まで私の頬にキスを返した。私の顔に熱が集まる。
「……キスの習慣は、私だけじゃないの?」
「帝都では、キスされたら返すものなんでしょ? だからセットで習慣にしちゃえばいいよね」
そんなこと、昨日は言わなかったのに。でも嫌なわけじゃないのだ。どうせ私からのキスが習慣になるなら、流雨からも貰いたいとは思ってしまう。だから、否定はせず「うん」とだけ呟いて、流雨の首に手を回して抱き付いた。朝から流雨に甘やかしてもらえるなんて、ますます今日は良い日である。少しだけそうして、流雨から体を離した。
「ありがとう、るー君。朝から元気貰ったよ」
「俺も」
流雨に下ろしてもらう。
「俺はこれからちょっと動いてくる」
「トレーニングルームだよね。行ってらっしゃい」
我が家には兄専用のトレーニングルームがある。ルームランナーや筋トレグッズがある部屋だ。流雨は朝から体を動かしたい人なので、いつも我が家に泊まると朝からトレーニングルームに行くのだ。
流雨の家はマンションで、家賃が高い代わりにフィットネスジムが付いていて自由に使える環境にあるらしい。だから、朝から体を動かす習慣になっているのだ。
流雨が運動している間、私は朝食づくりに取り掛かる。
今日のメニューはアボカド丼とトマトの味噌汁、そしてフルーツヨーグルト和えにする。アボカド丼は麻彩が好きなので、時々作るのだ。アボカドにマヨネーズとレモン汁、醤油、ごま油を和え、麻彩以外のものにはワサビも入れた。あとはご飯にアボカドを乗せ、卵黄と小ねぎとゴマを乗せると完成だ。
味噌汁とヨーグルトの用意も終わると、麻彩を起こす。麻彩に朝食を用意し、麻彩が食べいている間、私は麻彩の髪を弄る。今日は一つに緩く編んだ。麻彩に似合っていて可愛い。
麻彩が食べている間、兄を起こし、その後、学校へ行く麻彩の見送りをする。そして兄と流雨と私の朝食の準備が終わるころに、運動してシャワーを浴びてきた流雨が部屋に入ってきた。三人で食事を開始する。
「うん、美味しい。いつも思うけど、紗彩は料理が上手だね」
「るー君、ありがとう」
今日の朝食は簡単なものばかりだから、褒められるほどのものではないけれど、流雨の賛辞は素直に受け取っておく。
それから流雨が先に家を出て、兄も会社に向かった。
私も出かける準備をして、家を出た。今日は昼に大阪で待ち合わせをしているのだ。新幹線で大阪に向かい、待ち合わせの十二時半。新大阪駅の中、私は待ち合わせていた二人に手を振った。
「弥生さん! お久しぶりです!」
「紗彩! 久しぶりね!」
一人は如月弥生(きさらぎやよい)と言い、三十台前半の女性。もう一人は弥生の娘で如月葉月(きさらぎはづき)と言い、十五歳である。如月家は紗彩の同業者であった。つまり、死神業が稼業であり、如月家は九州地区担当である。弥生がその当主で、葉月が後継者だ。
今日は死神業の同業者として唯一面識のある、如月親子と半年に一回程度で行われる情報交換にやってきたのである。
私と如月親子は、予約していたランチのお店に移動した。個室に案内してもらい、私はさっそくお土産を渡す。
「いつもの帝国産ワインです」
「ありがとう! これ美味しいのよねぇ! こっちは王国産栄養ドリンクのお土産よ!」
「ありがとうございます!」
弥生は酒好きなので、お土産はワインがいいといつも指定なのだ。そして弥生には、弥生が行き来する異世界の国である王国の栄養ドリンクをいつもお土産で指定している。
この栄養ドリンク、王国での弥生の事業用で作っているものなのだ。王国では、帝国とは違い、魔法が存在する世界らしい。その中で、弥生の家は魔法と薬学に精通する事業を営んでいて、栄養ドリンクはその産物なのだ。この栄養ドリンクを飲んだからと言って、魔法が使えるなどといった特別な力はないのだけれど、「今日は元気がでない」というときに飲むと、とにかく元気になれる。日本で売っているものより何倍も効果はある。もちろん怪しい薬ではない。
ちなみにだ、異世界で魔法が使えるからといって、日本では魔法は使えないらしい。やはり世界が違うからだろう。普段から魔法に慣れた弥生は、日本では魔法が使えないため、「日本って不便」とよく言う。
三人で食事を開始しながら、弥生と最近の死神業の話をしつつ、情報交換もする。弥生の娘である葉月は、人見知りなため、いつも弥生に付いてはくるが、ほとんど会話はしない。話しかければ少し返してくれるものの、すぐに母である弥生に会話をバトンタッチしてしまうのだ。
この死神業の情報交換は、死神業に関する情報を得るためには必要不可欠だった。神の部下として、私の担当ではティカ、如月家には別の担当者がいるが、総じて一致しているのは、神の部下は情報を簡単にはくれない、ということだ。
ウィザー家は手ぬるい家だったため、逆行後の私の代になるまで、死神業で使用できる力を利用して事業をしていい、ということは知らなかった。兄に助言され、ティカに聞いて初めて知ったのである。そのように、自分からティカに聞かないと情報を得ることはできない。ティカが自ら先に言ってくれることはないのだ。
また、ティカに聞いたからと言って、ティカが全ての問いに答えてくれるわけでもない。「それを教える権限はボクにはないよ」と躱されることもしばしば。それは如月家の担当も同じようで、互いに情報を取得することに苦労するため、それぞれで取得した情報を如月家と交換して情報を整理するのである。
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