逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜

文字の大きさ
上 下
50 / 132
第1章

50 兄(仮)は妹(仮)を可愛がりたくて仕方がない2 ※後半、流雨(兄(仮))視点

しおりを挟む
 私を膝に乗せた流雨は、ご機嫌である。一方私はというと、恥ずかしさでいっぱいで、流雨の顔さえ見れない。自分のお尻の下の流雨の膝の温度が気になるし、ただ抱きしめられるのとは違うのは何故なのだろう。

「紗彩が大人しくなっちゃったなぁ」
「るー君のせいでしょ……」

 文句は言うものの、嫌なわけではないから困る。ただ恥ずかしいだけで、流雨の近くにいれるのは嬉しいのだ。

 兄と流雨が話をしているのを聞いていると、だんだんと流雨の膝にいるのも心が落ち着いてきた。たぶん、もう顔が赤いのも引いているだろう。

「復活したようだね」

 流雨が笑って私を見ている。いつも流雨に振り回されているようで悔しいが、流雨に振り回されるのは嫌いではない。せっかく甘えていい時間なのだからと、流雨に抱き付く。

「お。やっと甘える余裕が出てきたか」
「るー君に甘えられる時間は少ないから、時間は有効活用するの」
「俺も甘えてくれると嬉しいよ」

 流雨の匂いがする。落ち着く温かさに目をつむろうとしたとき、思い出した。流雨から体を放す。

「そういえば、るー君、誕生日に欲しい物決めた?」
「ああ、そういえば、そんなこと言っていたね」
「何が欲しい?」
「欲しい物ねぇ……」

 じーっと私を見る流雨は、イタズラっぽい顔をした。

「何でもいいの?」
「いいよ! ちょっとくらい高くても大丈夫!」
「じゃあ……習慣が欲しいかな」
「習慣? 何の習慣?」
「頬にキスの習慣」
「………………え!?」

 ニコニコと笑う流雨に、私は動揺再びである。

「この前したでしょ!?」
「この前はこの前だよ。そういう時々するものではなくて、会ったときの習慣としてキスして欲しいな」
「ま、待って!? 誕生日のプレゼントの話だよ!?」
「そうだよ。俺は紗彩から習慣になるキスがプレゼントだと嬉しい」

 いやいやいや、そんなプレゼントおかしいでしょ!

「お、おかしいよね!? お兄様もそう思うでしょ!?」
「実海棠はおかしいとは思わないよ。紗彩から習慣的にキスを貰ってるんだから」

 流雨は笑みを兄に向けるが、その兄は流雨から目をそらしている。

「紗彩、プレゼントは何でもいいって言ったよね。嘘だったの?」
「嘘じゃないけど! でも、キスだとは思わなくて!!」
「嘘じゃないなら、プレゼントしてくれるよね」

 ん? と笑みを向ける流雨に、否を唱えることができなくて、しどろもどろになりつつも、私はついに約束してしまった。今度から流雨に会うたびに頬にキスすることになった。自分で何でもいいと言ったのだ、約束は守らなければならない。

「じゃあ、さっそく今日の分を貰おうかな」

 ちらっと兄に助けを求める目を向けてみるが、兄からは「自分で言った責任は自分でとれ」という視線を頂いた。ソウデスネ。

 顔が熱いので赤くなっているだろう。恥ずかしいと思いながら、流雨の頬にキスをする。すると、嬉しそうにした流雨が、今度は私の頬にキスをした。
 さらに顔が熱くなる。

「ど、どうして、るー君もキスするの……」
「紗彩のキスが嬉しかったから」

 もうだめだ、流雨の顔が見れないと、流雨に抱き付く。抱き付けば、流雨には顔を見られまい。心臓よ、落ち着けと、一生懸命落ち着こうとする。

 そして、落ち着こうとしている内に、いつの間にか私は寝てしまうのだった。

◆ 以下、流雨視点

 すうすうと寝息が聞こえる中、膝の上で流雨に抱かれたまま寝ている紗彩の頭に流雨はキスをした。

「あーあ、このまま紗彩を持って帰りたい」
「紗彩がいいって言うなら、持って帰ってもいいぞ」
「……紗彩が言わないと思うから、そう言ってるな?」

 流雨は実海棠をにらむ。実海棠はしれっとした顔をしている。

「分からないだろう。流雨が紗彩を甘やかしていれば、そのうち紗彩もころっといくかも」
「ころっといってくれることに期待しているんだけれどな」

 紗彩はほわんとしているのに、割と手ごわい。甘やかしても、無意識にどこかで線引きをしていて、ある一定の距離からこちらに来てはくれない。
 紗彩に婚約者などという話がのぼっている以上、早めに紗彩の気持ちが流雨に向くよう動かなくてはならない。

「そろそろ、麻彩と紗彩をベッドで寝かせよう。紗彩は頼んでいいか?」
「ああ」
「まあ、抱き上げるのは、流雨の得意技だもんな?」
「実海棠……まだそれ言うか……」

 からかいながら笑う実海棠に、昔からの付き合いだと色々と知られているから問題だなと思う。いまだ学生のころの話を笑い話代わりにされるのだ。

 実海棠が麻彩を抱きかかえ、流雨が紗彩を抱きかかえる。麻彩の部屋に入り、ベッドに麻彩と紗彩を寝かせる。

 可愛い紗彩は、穏やかに眠っていた。流雨はそんな紗彩の頬にキスをするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...