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第1章
48 兄と兄(仮)と妹と日常
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そして青年は私の後ろに誰かいないかどうか見ている。
「藤くん、久しぶり」
「紗彩だけ? 麻彩は?」
「まーちゃんはまだ学校じゃないかな。今頃、帰っている途中かも」
「なんで一緒にいないんだよ。いつも一緒のくせに」
「何でって、私も今日帰ってきたばかりだもの」
この藤という青年、名を桐ケ谷藤(きりがやふじ)と言う。年齢は私の一つ年下で書類上の私の弟にあたる。東京で化粧品会社を営む桐ケ谷菫と父の間にできた子で、兄の腹違いの弟だ。
そして、藤は麻彩のことを気に入っていて、麻彩がいると麻彩の傍に行きたがる。どうやら背の高い子が好きなようで、昔から麻彩の後を付いて回るのだが、当の麻彩には嫌われている、少し不憫な子である。
「桐ケ谷くん、誰、この人?」
「誰でもいいだろ、うるさいな」
「う、うるさいは無くない? 彼女に対して!」
「は? 彼女じゃないだろ」
「お試しで付き合ってもいいって、言ってくれたじゃん!」
え、何ですか。痴話げんかですか。私を巻き込まないでくれますか。
「えっと、彼女さん? 私は藤くんの姉ですよー。勘違いしないでねー」
「姉?」
そんなに敵意むき出しでじろじろ見ないでくれますか。
「麻彩がチャットの連絡返してくれないんだよ。既読も付かないし」
そして藤よ、彼女(仮)を無視して私に話の続きをしないでください。
「まーちゃんが返事をしないのは、いつものことでしょ」
「返せって言っといて」
「嫌」
「……なんで!?」
「まーちゃんが嫌がること、私がするわけないでしょ」
「俺に返事をするのが、嫌ってことかよ」
その通りです。分かっているじゃないか。
「ねぇ! 桐ケ谷くん! もういいでしょ!? デートの続きしようよ!」
「ああもう! 黙っててくれる!? 今話をしている途中だろ!」
「ひどい!」
なんだろう、この場にいたくない。藤は彼女(仮)が絡ませていた腕を振りほどき、その手を私に向けて指を指した。
「いい、麻彩に! 返事! するよう言っておいて!」
言葉を強調し、藤は彼女(仮)を無視して去っていく。彼女(仮)は「待ってよ!」っと言って、藤に付いていった。
「何だったの……」
どっと疲れた。
私は早く家に帰ろうと、タクシーに乗り、家の近くで食材の買い物をして帰宅した。
そして、さっそく夕食作りに取り掛かった。
今日は和食が食べたかったので、大根とベーコンのサラダ、から揚げ、ごぼうとレンコンのきんぴら、なすの田楽、あげ豆腐、肉じゃが、豚汁を作る予定だ。
帝国ではたこ焼きを作っただけだから、料理をしたかったのだ。
BGM代わりの音楽を流し、夕食を作っていると、一番最初に麻彩が帰宅した。チャットで今日帰ってきたことは伝えていたので、麻彩は帰ってきてご機嫌で私に最近あったことの話をしだした。私は料理を作る手は止めないでそれを聞いていると、今度は兄が帰宅した。
「お兄様、おかえりー。あれ、るー君もおかえり!」
兄と一緒に流雨も家に入ってきた。兄と連絡をとって、一緒に帰ってきたようだ。
「ただいま」
「るー君!? 私聞いてないよ!? るー君がなんでいるの!」
「麻彩、そんなに俺に会えて嬉しいか」
「そんなこと言ってないでしょ!?」
相変わらず嫌がる麻彩に、流雨はちょっかいを出している。
流雨はデザートにケーキをお土産に持ってきてくれていた。
それから夕食が出来上がり、四人で食卓を囲む。
「今日もお疲れ様でした。乾杯ー!」
久しぶりに流雨に会えて嬉しい。会話も弾み、楽しい夕食の時間を過ごす。流雨の持ってきたケーキも美味しくいただき、私は夕食の後片付けをしていると、流雨が隣にやってきた。
「手伝うよ」
「いいよぉ。るー君は座ってて。食器は食洗器に入れるだけだから、そんなに大変じゃないんだよ」
「それでも、紗彩を構う時間が欲しいから。二人でやるほうが早く終わるでしょう」
「ありがとう」
流雨の言葉に甘えて、二人で後片付けをする。後片付け中に、流雨が口を開いた。
「今度の土日の紗彩の予定は?」
「えっとね、土曜はまーちゃんと遊園地に行くの。日曜は帰る日だから買い物に行く予定だよ」
「なるほど……」
「ダメー!! るー君には、土曜はあげないからね!?」
私と流雨の話が聞こえたのか、麻彩が近寄ってきて大声で叫んだ。
「はいはい、分かったから、麻彩は興奮しないで。紗彩、日曜の買い物の前なら会える?」
「うん、それくらいなら大丈夫だよ」
土曜は私と二人っきりが守れたからか、ふーと麻彩は息を吐いている。
「雷が紗彩に会いたいと言っているから、少し一緒に会ってくれないかと思って」
「雷くんが? 私も会いたいから、いいよ!」
雷(らい)とは、流雨の年齢の離れた弟である。まだ四歳で可愛い盛りなのだ。
夕食の後片付けが終わり、全員でリビングでくつろぐ。兄と流雨はソファーに座り、私と麻彩はソファー下の床に座って話に花を咲かせる。
「そういえば、今日藤くんに会ったよ。まーちゃんにチャットの返事してほしいって言ってた」
気は進まないが、一応麻彩に藤の伝言を伝える。しかし案の定、麻彩は嫌そうな顔をした。
「返事なんてしないもん。そもそもチャットも読んでないし」
「あはは。だよねぇ」
分かっていた答えである。
「なんだ、麻彩。藤から連絡が来てたのか?」
「読んでないから来てないのと一緒だもん」
「たまには読んでやれ」
「嫌! 何よぅ、お兄ちゃん、藤くんの味方なの!? 私のお兄ちゃんでしょ!?」
「藤の兄でもあるんだが………………分かった! もう分かったから、顔に突っ張りはやめろ!」
相撲の突っ張りのごとく、麻彩から飛んでくる顔への突っ張りアタックに、兄は降参した。流雨はそんなヤラレている兄を見ながら、大爆笑である。
「じゃあ、お兄ちゃんは私の味方ね!? 藤くんじゃないよね!?」
「麻彩の味方です……」
ふんっと怒っている麻彩に、誰も勝てやしない。私が藤の話題を出してしまい、痛い思いをした兄に悪かったな、と思いつつ、話題を変えることにした。
「そういえば、まーちゃんの体育祭見に行けなくてごめんね。アイドルのダンスを踊ったって言っていたよね? どうだった?」
「大成功だったよ! いっぱい拍手もらった!」
「えー見たかったなぁ。動画あるんだよね? あとで見せてくれる?」
「うん! あ、今踊ってあげようか?」
「え!? いいの?」
「いいよ!」
まさか生で見せてもらえるとは。
私はいそいそとスマホで録画の用意をした。
「藤くん、久しぶり」
「紗彩だけ? 麻彩は?」
「まーちゃんはまだ学校じゃないかな。今頃、帰っている途中かも」
「なんで一緒にいないんだよ。いつも一緒のくせに」
「何でって、私も今日帰ってきたばかりだもの」
この藤という青年、名を桐ケ谷藤(きりがやふじ)と言う。年齢は私の一つ年下で書類上の私の弟にあたる。東京で化粧品会社を営む桐ケ谷菫と父の間にできた子で、兄の腹違いの弟だ。
そして、藤は麻彩のことを気に入っていて、麻彩がいると麻彩の傍に行きたがる。どうやら背の高い子が好きなようで、昔から麻彩の後を付いて回るのだが、当の麻彩には嫌われている、少し不憫な子である。
「桐ケ谷くん、誰、この人?」
「誰でもいいだろ、うるさいな」
「う、うるさいは無くない? 彼女に対して!」
「は? 彼女じゃないだろ」
「お試しで付き合ってもいいって、言ってくれたじゃん!」
え、何ですか。痴話げんかですか。私を巻き込まないでくれますか。
「えっと、彼女さん? 私は藤くんの姉ですよー。勘違いしないでねー」
「姉?」
そんなに敵意むき出しでじろじろ見ないでくれますか。
「麻彩がチャットの連絡返してくれないんだよ。既読も付かないし」
そして藤よ、彼女(仮)を無視して私に話の続きをしないでください。
「まーちゃんが返事をしないのは、いつものことでしょ」
「返せって言っといて」
「嫌」
「……なんで!?」
「まーちゃんが嫌がること、私がするわけないでしょ」
「俺に返事をするのが、嫌ってことかよ」
その通りです。分かっているじゃないか。
「ねぇ! 桐ケ谷くん! もういいでしょ!? デートの続きしようよ!」
「ああもう! 黙っててくれる!? 今話をしている途中だろ!」
「ひどい!」
なんだろう、この場にいたくない。藤は彼女(仮)が絡ませていた腕を振りほどき、その手を私に向けて指を指した。
「いい、麻彩に! 返事! するよう言っておいて!」
言葉を強調し、藤は彼女(仮)を無視して去っていく。彼女(仮)は「待ってよ!」っと言って、藤に付いていった。
「何だったの……」
どっと疲れた。
私は早く家に帰ろうと、タクシーに乗り、家の近くで食材の買い物をして帰宅した。
そして、さっそく夕食作りに取り掛かった。
今日は和食が食べたかったので、大根とベーコンのサラダ、から揚げ、ごぼうとレンコンのきんぴら、なすの田楽、あげ豆腐、肉じゃが、豚汁を作る予定だ。
帝国ではたこ焼きを作っただけだから、料理をしたかったのだ。
BGM代わりの音楽を流し、夕食を作っていると、一番最初に麻彩が帰宅した。チャットで今日帰ってきたことは伝えていたので、麻彩は帰ってきてご機嫌で私に最近あったことの話をしだした。私は料理を作る手は止めないでそれを聞いていると、今度は兄が帰宅した。
「お兄様、おかえりー。あれ、るー君もおかえり!」
兄と一緒に流雨も家に入ってきた。兄と連絡をとって、一緒に帰ってきたようだ。
「ただいま」
「るー君!? 私聞いてないよ!? るー君がなんでいるの!」
「麻彩、そんなに俺に会えて嬉しいか」
「そんなこと言ってないでしょ!?」
相変わらず嫌がる麻彩に、流雨はちょっかいを出している。
流雨はデザートにケーキをお土産に持ってきてくれていた。
それから夕食が出来上がり、四人で食卓を囲む。
「今日もお疲れ様でした。乾杯ー!」
久しぶりに流雨に会えて嬉しい。会話も弾み、楽しい夕食の時間を過ごす。流雨の持ってきたケーキも美味しくいただき、私は夕食の後片付けをしていると、流雨が隣にやってきた。
「手伝うよ」
「いいよぉ。るー君は座ってて。食器は食洗器に入れるだけだから、そんなに大変じゃないんだよ」
「それでも、紗彩を構う時間が欲しいから。二人でやるほうが早く終わるでしょう」
「ありがとう」
流雨の言葉に甘えて、二人で後片付けをする。後片付け中に、流雨が口を開いた。
「今度の土日の紗彩の予定は?」
「えっとね、土曜はまーちゃんと遊園地に行くの。日曜は帰る日だから買い物に行く予定だよ」
「なるほど……」
「ダメー!! るー君には、土曜はあげないからね!?」
私と流雨の話が聞こえたのか、麻彩が近寄ってきて大声で叫んだ。
「はいはい、分かったから、麻彩は興奮しないで。紗彩、日曜の買い物の前なら会える?」
「うん、それくらいなら大丈夫だよ」
土曜は私と二人っきりが守れたからか、ふーと麻彩は息を吐いている。
「雷が紗彩に会いたいと言っているから、少し一緒に会ってくれないかと思って」
「雷くんが? 私も会いたいから、いいよ!」
雷(らい)とは、流雨の年齢の離れた弟である。まだ四歳で可愛い盛りなのだ。
夕食の後片付けが終わり、全員でリビングでくつろぐ。兄と流雨はソファーに座り、私と麻彩はソファー下の床に座って話に花を咲かせる。
「そういえば、今日藤くんに会ったよ。まーちゃんにチャットの返事してほしいって言ってた」
気は進まないが、一応麻彩に藤の伝言を伝える。しかし案の定、麻彩は嫌そうな顔をした。
「返事なんてしないもん。そもそもチャットも読んでないし」
「あはは。だよねぇ」
分かっていた答えである。
「なんだ、麻彩。藤から連絡が来てたのか?」
「読んでないから来てないのと一緒だもん」
「たまには読んでやれ」
「嫌! 何よぅ、お兄ちゃん、藤くんの味方なの!? 私のお兄ちゃんでしょ!?」
「藤の兄でもあるんだが………………分かった! もう分かったから、顔に突っ張りはやめろ!」
相撲の突っ張りのごとく、麻彩から飛んでくる顔への突っ張りアタックに、兄は降参した。流雨はそんなヤラレている兄を見ながら、大爆笑である。
「じゃあ、お兄ちゃんは私の味方ね!? 藤くんじゃないよね!?」
「麻彩の味方です……」
ふんっと怒っている麻彩に、誰も勝てやしない。私が藤の話題を出してしまい、痛い思いをした兄に悪かったな、と思いつつ、話題を変えることにした。
「そういえば、まーちゃんの体育祭見に行けなくてごめんね。アイドルのダンスを踊ったって言っていたよね? どうだった?」
「大成功だったよ! いっぱい拍手もらった!」
「えー見たかったなぁ。動画あるんだよね? あとで見せてくれる?」
「うん! あ、今踊ってあげようか?」
「え!? いいの?」
「いいよ!」
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