逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜

文字の大きさ
上 下
46 / 132
第1章

46 弟の父2

しおりを挟む
 アテリア菓子店へやってきた私とハイゼン侯爵は、個室に案内された。急な席の予約であっただろうに、個室までとれるとは、さすがハイゼン侯爵である。

「何にするかね? 好きなものを頼みたまえ」
「はい、遠慮なく、そうさせていただきます」

 私の時間をハイゼン侯爵に買われたのだと諦めて、私は代わりにケーキを三種類頼んだ。どれも美味しそうなため、選ぶのに苦労する。
 頼んだケーキと紅茶が運ばれてきて、ハイゼン侯爵は紅茶に口を付けた。

「それで、最近のユリウスの話を聞かせてくれるかな」

 ハイゼン侯爵は父の顔でそう口を開いた。

 ハイゼン侯爵は特別な石の力を継承する一族、つまり建国貴族である。この国の建国貴族は帝室やリンケルト公爵家、他にも一桁の数しかいない。とにかく数が少ないにも関わらず、建国以来、その建国貴族の一族は減ってきている。
 我がウィザー伯爵家のように新興貴族であれば、極端な話、後継者がいなくても、遠縁から後継者を選べば家が断絶することはない。しかし建国貴族は違う。血族のみが継承できる力は、直系のみ。

 例えば息子が二人いたとして、兄が死亡した場合、弟は後継者になることはできる。ただ弟まで死亡した場合、その弟に子がいなければ、その家は断絶することになる。特別な石の力を継承できなくなるからだ。遠縁を連れてくれば済む新興貴族とはわけが違う。

 建国当時はその事実が分かっておらず、力を引き継ぐ後継者がおらず断絶した建国貴族が複数あるという。それからというもの、建国貴族は後継者がいなくなることはタブーとされている。そのため、新興貴族や平民などは一夫一妻であるが、建国貴族のみは第三夫人まで法律で認められている。

 ハイゼン侯爵には第一夫人がいる。子供も二人いて、長女は私と同じ年、しかも前世では、長女は皇帝ルドルフの第二皇妃だった。長男はユリウスと同じ年齢である。

 母がユリウスを身ごもった時、何も問題はないと思われていたらしい。母は帝国にいる私の血縁上の父とは結婚していないため、母には夫はいない。ハイゼン侯爵には第一夫人しかおらず、建国貴族なため第二夫人を迎えても問題ないのだから。

 ところが、第一夫人と母は大揉めしたという。第一夫人自身も長男を妊娠していたため、第一夫人が出産して落ち着くまで、ユリウスが生まれてから、母はハイゼン侯爵と結婚はせずにいた。しかし、第一夫人が長男を産んだ後も結婚話はまとまらなかったらしい。結局ハイゼン侯爵と母は別れることになった。

 大人の事情が色々とあったのだろう。当時は私は一歳だったため、さすがに詳しい事情は伝え聞いた話しか知らない。ただ、私が口出すべき話ではないのは分かる。

 母と別れてからというもの、ハイゼン侯爵が母に会いに来ることはなかったけれど、ユリウスのことは気にかけていて、ユリウスのことをいつも私に聞きにやってくるのである。実は息子が大好きな父なのだ。その息子であるユリウスには塩対応されているが。

「こうやって私に話を聞きに来るのはいいですが、ユリウスには話しかけないでくださいね。そのたびにハイゼン侯爵のご子息がユリウスに言いがかりを付けてくるので」

 ただでさえ、ハイゼン侯爵の息子は、時々メイル学園でユリウスに辛く当たっているのを見る。ユリウスは冷静に対処しているものの、何も思わないわけではないのだ。

「分かっている。ユリウスには偶然会った時以外、話しかけたりはしない。いつも遠目に見るだけに留めている」

 あ、遠目には見てるんですね。

「もう少し、ご子息を気にかけて差し上げてはいかがでしょう。ユリウスのことなどハイゼン侯爵は気にしていないと分かれば、今のようにご子息がユリウスに言いがかりなど付けてこなくなると思うのですが」
「テオバルトは妻が甘やかしたせいで、わがままもなんでも許してもらえると思っている堪え性のない性格でね。私が何を言っても妻に泣き付くばかりで、あの性分は、そう簡単に治らないだろう」

 テオバルトとは、ハイゼン侯爵の息子の名である。
 なるほど、ユリウスのことをハイゼン侯爵が気にしようがしまいが、結局ハイゼン侯爵の息子はユリウスのことを気にせずにはおられず、辛く当たるのも止めないだろう、ということなのだろう。ため息しか出ない。

 それからもユリウスについて話をして、ハイゼン侯爵は嬉しそうにユリウスの話を聞いていた。

「これはユリウスに渡してくれたまえ」

 最後に買った時計を渡され、私はハイゼン侯爵と分かれるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...