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第1章
41 夢と現
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なんてことになってしまったのだろう。今回の時間の逆行が、他の異世界にも関係していたとは。影響がありすぎたルドルフの願いは、ルドルフにどういった代償があったのだろうか。
きっとルドルフは、私を生き返らせたいだけだったのだ。しかし継承する力では、誰かを生き返らせることはできず、だから時間の逆行を選んだのだろう。
ルドルフにこんなことをさせてしまったことに、やるせない気持ちでいっぱいになった。せっかく逆行させたのに、もう二度とルドルフと関わることは許されない。
私はあのまま死んでよかったのだ。ルドルフさえ代償もなく、幸せに生きてくれるなら。
逆行して現世となり、私はルドルフを回避するよう生活した。幼い頃は前髪も短かったけれど、うっかりルドルフと鉢合わせした時に一目惚れされないよう、前髪も伸ばし、眼鏡をして顔が見えないようにした。
第三皇子ヴェルナーと接触し、幼いころのルドルフがいじめで孤独にならないよう、誘導もした。私はヴェルナーが次代の皇帝になればいいと思っている。
借金を肩代わりしてもらう必要のないよう、副業で現在は財産にも余裕がある。
あとはデビュタントの際、私が婚約者と将来結婚すると表舞台で発表ができて、借金もないからルドルフに付け入るスキがない、と思われれば、問題ないと思うのだ。たとえ、その場で一目惚れされようとも、今回は私にだって断固拒否する心づもりもある。
だから、早く婚約者を作る必要がある。なのに、そこが上手くいっていない。婚約破棄は計算外だった。
はあ、とため息を付いていると、声がした。
「姉様、眠れないのですか?」
ルドルフとの幸せな夢を見て眠れなくなったため、屋上庭園にいた私だが、早々にユリウスに気づかれてしまったらしい。
「ごめん、起こしちゃった?」
「僕はまだ起きていました。姉様の部屋の扉が開く音がしたので、どうしたのかと思いまして。それに、ライナが屋上の扉が開いたと報告してきましたよ」
そういえば、我が家のいたるところに、侵入者警告用のセンサーを設置していて、それがライナやラルフに通知が行くよう設定しているのだった。
「ごめん、その犯人、私だね……」
「いいですよ。……姉様、泣いていたのですか?」
ユリウスが私の頬を触る。今は泣いていないけれど、夢を見た後に泣いてしまったから、目が腫れているのだろう。
「怖い夢を見ただけなの」
そう言って誤魔化す。
「怖い夢とは? どんな夢ですか?」
「えっと……忘れちゃった」
ユリウスの目が見れなくて逸らすと、ユリウスは私の両頬を挟み、上を向かせた。
「嘘ですね。僕には言えない夢だったんですか?」
「言えないというか、えっと……」
「僕はまだ頼りないですか? 話せないくらい?」
ビクっとして、ユリウスを見た。
「違う! ユリウスは頼りがいがあるわ! いつも私がどれだけユリウスに甘えていると思うの?」
「でも、言えないんですね?」
「そ、それは……」
逆行した話は、兄にしか言えない。いつか、ユリウスにも話せたらとは思うが、帝国の住民であるユリウスに、まだその話はしないほうがいい気がするのだ。それに、その話をする勇気が今の私にない。
「分かりました。姉様を追い詰めたいわけではないので、今日は聞かないでいてあげます」
ユリウスは息を吐くと、私をベンチから抱き上げ、ユリウスがベンチに座ると、私をユリウスの膝に乗せた。
「ふふふ、昔はユリウスの方が小さかったのになぁ。今では、私を抱き上げられるものね。覚えてる? もっと小さい頃は、私がユリウスを膝に乗せていたのに」
「それって、僕が七歳くらいまでの話ですよね。その時も、姉様は結構無理やり僕を膝に乗せてましたよ。一歳しか変わらないんですから、そこまで僕と体格変わらなかったでしょう」
「だって、お兄様が私を膝に乗せてくれるから、年上なら年下を膝に乗せるものだと思ってたんだもの。今だって、ユリウスが膝に乗せてほしいなら、私の膝に乗せてあげるよ?」
「止めてください。その構図、他人から見ると絶対おかしいでしょう。それに姉様が潰れます」
少しあきれ顔のユリウスの頬に、私はキスをした。
「いつも傍にいてくれて、ありがとう。私はユリウスやお兄様やまーちゃんがいるから、頑張れるの」
もう二度と関われないルドルフに向けていた気持ちは、もうどこにも向けることができない。しかし、兄妹がいるから、いつも支えて愛してくれるから、私は今を過ごせるのだ。
「僕だってそうですよ。姉様は傍にいてくれないと困ります」
逆行してからは、兄妹だけでも仲良くしたかった。愛してもいい存在が、欲しかった。
ユリウスは良い子で、愛しい存在だ。私の愛は重いはずなのに、ユリウスは嫌な顔一つしない。そんなユリウスの頬にキスしていると、ユリウスが私のスマホを見て言った。
「先日東京に帰った時の画像や動画を見せてくれませんか?」
「まだ今回渡してなかったね。ちょっと待って」
スマホで画像フォルダを見ていると、流雨と一日観光へ行った画像が出てきた。
「あ! これね、るー君が運転している姿! カッコいいでしょ!?」
いつものように、私が好きな流雨の写真を見せる。
「また、この男ですか。兄様の友人と言ってますが、まさか姉様に手を出そうとしていませんよね?」
「手を出す!? まっさかぁ! るー君はお兄様だよ。私なんて、お子様にしか見えてないわよ。お兄様のように、甘やかしてくれるだけだもん」
ありえないユリウスの疑いに、笑ってしまう。流雨は子供に興味はないだろう。シスコンらしく、私に彼氏ができるのは嫌がりはするが、それだけだ。
ユリウスと東京で撮った画像や動画を見つつ、二人で盛り上がるのだった。
きっとルドルフは、私を生き返らせたいだけだったのだ。しかし継承する力では、誰かを生き返らせることはできず、だから時間の逆行を選んだのだろう。
ルドルフにこんなことをさせてしまったことに、やるせない気持ちでいっぱいになった。せっかく逆行させたのに、もう二度とルドルフと関わることは許されない。
私はあのまま死んでよかったのだ。ルドルフさえ代償もなく、幸せに生きてくれるなら。
逆行して現世となり、私はルドルフを回避するよう生活した。幼い頃は前髪も短かったけれど、うっかりルドルフと鉢合わせした時に一目惚れされないよう、前髪も伸ばし、眼鏡をして顔が見えないようにした。
第三皇子ヴェルナーと接触し、幼いころのルドルフがいじめで孤独にならないよう、誘導もした。私はヴェルナーが次代の皇帝になればいいと思っている。
借金を肩代わりしてもらう必要のないよう、副業で現在は財産にも余裕がある。
あとはデビュタントの際、私が婚約者と将来結婚すると表舞台で発表ができて、借金もないからルドルフに付け入るスキがない、と思われれば、問題ないと思うのだ。たとえ、その場で一目惚れされようとも、今回は私にだって断固拒否する心づもりもある。
だから、早く婚約者を作る必要がある。なのに、そこが上手くいっていない。婚約破棄は計算外だった。
はあ、とため息を付いていると、声がした。
「姉様、眠れないのですか?」
ルドルフとの幸せな夢を見て眠れなくなったため、屋上庭園にいた私だが、早々にユリウスに気づかれてしまったらしい。
「ごめん、起こしちゃった?」
「僕はまだ起きていました。姉様の部屋の扉が開く音がしたので、どうしたのかと思いまして。それに、ライナが屋上の扉が開いたと報告してきましたよ」
そういえば、我が家のいたるところに、侵入者警告用のセンサーを設置していて、それがライナやラルフに通知が行くよう設定しているのだった。
「ごめん、その犯人、私だね……」
「いいですよ。……姉様、泣いていたのですか?」
ユリウスが私の頬を触る。今は泣いていないけれど、夢を見た後に泣いてしまったから、目が腫れているのだろう。
「怖い夢を見ただけなの」
そう言って誤魔化す。
「怖い夢とは? どんな夢ですか?」
「えっと……忘れちゃった」
ユリウスの目が見れなくて逸らすと、ユリウスは私の両頬を挟み、上を向かせた。
「嘘ですね。僕には言えない夢だったんですか?」
「言えないというか、えっと……」
「僕はまだ頼りないですか? 話せないくらい?」
ビクっとして、ユリウスを見た。
「違う! ユリウスは頼りがいがあるわ! いつも私がどれだけユリウスに甘えていると思うの?」
「でも、言えないんですね?」
「そ、それは……」
逆行した話は、兄にしか言えない。いつか、ユリウスにも話せたらとは思うが、帝国の住民であるユリウスに、まだその話はしないほうがいい気がするのだ。それに、その話をする勇気が今の私にない。
「分かりました。姉様を追い詰めたいわけではないので、今日は聞かないでいてあげます」
ユリウスは息を吐くと、私をベンチから抱き上げ、ユリウスがベンチに座ると、私をユリウスの膝に乗せた。
「ふふふ、昔はユリウスの方が小さかったのになぁ。今では、私を抱き上げられるものね。覚えてる? もっと小さい頃は、私がユリウスを膝に乗せていたのに」
「それって、僕が七歳くらいまでの話ですよね。その時も、姉様は結構無理やり僕を膝に乗せてましたよ。一歳しか変わらないんですから、そこまで僕と体格変わらなかったでしょう」
「だって、お兄様が私を膝に乗せてくれるから、年上なら年下を膝に乗せるものだと思ってたんだもの。今だって、ユリウスが膝に乗せてほしいなら、私の膝に乗せてあげるよ?」
「止めてください。その構図、他人から見ると絶対おかしいでしょう。それに姉様が潰れます」
少しあきれ顔のユリウスの頬に、私はキスをした。
「いつも傍にいてくれて、ありがとう。私はユリウスやお兄様やまーちゃんがいるから、頑張れるの」
もう二度と関われないルドルフに向けていた気持ちは、もうどこにも向けることができない。しかし、兄妹がいるから、いつも支えて愛してくれるから、私は今を過ごせるのだ。
「僕だってそうですよ。姉様は傍にいてくれないと困ります」
逆行してからは、兄妹だけでも仲良くしたかった。愛してもいい存在が、欲しかった。
ユリウスは良い子で、愛しい存在だ。私の愛は重いはずなのに、ユリウスは嫌な顔一つしない。そんなユリウスの頬にキスしていると、ユリウスが私のスマホを見て言った。
「先日東京に帰った時の画像や動画を見せてくれませんか?」
「まだ今回渡してなかったね。ちょっと待って」
スマホで画像フォルダを見ていると、流雨と一日観光へ行った画像が出てきた。
「あ! これね、るー君が運転している姿! カッコいいでしょ!?」
いつものように、私が好きな流雨の写真を見せる。
「また、この男ですか。兄様の友人と言ってますが、まさか姉様に手を出そうとしていませんよね?」
「手を出す!? まっさかぁ! るー君はお兄様だよ。私なんて、お子様にしか見えてないわよ。お兄様のように、甘やかしてくれるだけだもん」
ありえないユリウスの疑いに、笑ってしまう。流雨は子供に興味はないだろう。シスコンらしく、私に彼氏ができるのは嫌がりはするが、それだけだ。
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