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第1章
39 前世3
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第一皇妃レベッカと第二皇妃ユリアとは、月に一度ほど皇帝であるルドルフを交えて食事をする機会があった。基本的には食事を交えながら仕事の報連相をする、というような感じで、彼女らの皇妃の執務についての話を皇帝とする場であった。
ちなみにだが、私は皇妃としての仕事は一切していなかった。私は少しはやりたいと言ったのだが、ルドルフはそういったことは第一皇妃と第二皇妃に任せればいい、とさせてはくれなかったのである。それでいいのか、私は実際彼女らの前にいると、肩身が狭い思いをしたが、ルドルフは彼女らとそういう契約だからと笑うだけだった。
食事以外でも、彼女らは皇帝であるルドルフを訪ねてくることはあったが、彼女らとルドルフの間には本当に仕事の会話しかなく、ルドルフの言うように彼女らはルドルフに対し仕事の上司くらいにしか思っていないのだと思っていた。
母が私を訪ねてくることもあった。私はルドルフに死神業のことを話していないため、母も分かりやすくそのことを私に話すことはなかった。私はルドルフの傍を離れることを禁止されていたため、結婚してからは死神業に関わる仕事はしていなかった。
しかし、それとなく母に死神業について聞くと、「いつも通りギリギリではあるが仕事に支障はない」とそう告げる母の顔は疲れきっていた。私が死神業ができない以上、いつも母と私の二馬力だった仕事は、現在母の一馬力。ただでさえ私と二人でも魂の回収の警告ギリギリだったのだ。今死神業は大変だろうと思う。しかも母は死神業で魂を回収するたび、心を病む傾向にある。私も回収に加わりたいが、ルドルフはそれを許さないだろう。母もルドルフに借金を肩代わりしてもらっているからか、私は死神業のことを気にしなくていい、と私の顔を見にきただけだと言って帰っていくのだった。そんな母に申し訳ない気持ちはずっとあった。
第三皇妃となって一年と少しが過ぎ、私は懐妊した。
ルドルフは喜ぶかと思いきや、あまり喜んでいなかった。以前、子などいらないと言っていたし、自分のような子が生まれるのも困ると言っていたから、それは当然のことに思う。しかし、私は二人の子なのだから、喜んで欲しかった。
しかし、急にそんなこと言っても、欲しくないものは欲しくないだろう。だから、私は少しずつルドルフを教育することにした。いつかは生まれてくるのだから、それまでに少しずつ教育して、いつか子を可愛いと思ってくれればいいのだ。
色々とルドルフに話をするが、子の話になるとルドルフの顔は曇った。ちょっとずつ大きくなっていくお腹。その中に敵でもいるかのように、お腹だけは触りたがらなかった。私の事は相変わらず愛してくれるし、甘やかしてくれるのに。いろんな角度から毎日子の話をした。その中で、一つだけルドルフは良い反応をした。
「私に似た娘が生まれる可能性もあるわ。きっと『パパ大好き!』って言うような、可愛い子だと思うの。想像してみて」
「サーヤに似た娘か……それならいいかもしれないな」
私は娘でも息子でも、元気に生まれてくれるなら、どちらでもいい。ただ、ルドルフが私に似た娘、という言葉に反応したので、最初はそれで釣りつつ、少しずつ息子でも可愛いと思う、と言ってみたり、ルドルフに似ても可愛い、そんな話に広げていった。そして臨月近くになった頃には、ルドルフは子が生まれるのを少し楽しみにするようになっていた。
私は毎日が幸せで、周りのことを気にしていなかった。最初に悪意に気づいたのは、妊娠して半年くらい経った頃だった。
第一皇妃レベッカと第二皇妃ユリアと皇帝ルドルフと私の、月に一度の食事。少しだけルドルフが席を外した時に、第一皇妃レベッカが睨みつけてきた。
「陛下の子を身ごもったのなら、第三皇妃宮に引きこもっていたらいいのに」
「……え?」
「あなたがいるせいで、陛下は私の相手をしようともしてくださらない。陛下は私の夫でもあるの。私だって陛下の子を身ごもる権利はあるわ!」
「……で、でも契約で、子を作らないと決めたと」
「あんなもの! 結婚してしまえば、陛下は私の魅力に気づいて、陛下から破棄すると思っていたのよ!」
レベッカの物言いに唖然とした。レベッカの隣に座るユリアは冷静な顔だが、彼女もレベッカのように思っているのだろうか。
「あなたがいるせいで! あなたが私の美貌や身分に嫉妬して、陛下に私のところへ行かないよう、懇願しているのでしょう! 身の程知らず! たかが伯爵の子が、私の邪魔をしないで! 私こそ、陛下の男児を産んで、国母になるんだから!」
「……」
何も返せなくて、口をパクパクと動かしているところに、ルドルフが帰ってきた。その時には、レベッカはいつもの余裕の笑みを顔に貼り付けていた。私も何事もなかったかのように笑ったが、内心ドキドキとざわついていた。
レベッカは、子を作らぬと契約はしても、いつかはルドルフがレベッカを向き、愛してくれると希望を持っていたのだ。ルドルフと契約をしているのだから、そんな希望を持つな、とは私は言えない。結婚したなら、夫の子を欲しいと思うのは自然だ。夫に愛してほしいと思うものだ。
そうは思いつつも、すでに私はルドルフは私のものだという意識があった。誰かとルドルフを共有したくはない。ルドルフは常に私を見ていてほしい。ルドルフに愛されて一年が経ち、贅沢にもそう思っていた。だから、ルドルフにはレベッカに言われたことは話さなかったし、ルドルフにも他の女性を見て、とも言わなかった。
レベッカの気持ちを見なかったことにした。だからなのだろうか。私は地獄の底へ突き落とされた。
臨月でもう少しで子供が生まれるはずだったのに、建国記念式典のあの日、私は階段から突き落とされて死んだ。
ちなみにだが、私は皇妃としての仕事は一切していなかった。私は少しはやりたいと言ったのだが、ルドルフはそういったことは第一皇妃と第二皇妃に任せればいい、とさせてはくれなかったのである。それでいいのか、私は実際彼女らの前にいると、肩身が狭い思いをしたが、ルドルフは彼女らとそういう契約だからと笑うだけだった。
食事以外でも、彼女らは皇帝であるルドルフを訪ねてくることはあったが、彼女らとルドルフの間には本当に仕事の会話しかなく、ルドルフの言うように彼女らはルドルフに対し仕事の上司くらいにしか思っていないのだと思っていた。
母が私を訪ねてくることもあった。私はルドルフに死神業のことを話していないため、母も分かりやすくそのことを私に話すことはなかった。私はルドルフの傍を離れることを禁止されていたため、結婚してからは死神業に関わる仕事はしていなかった。
しかし、それとなく母に死神業について聞くと、「いつも通りギリギリではあるが仕事に支障はない」とそう告げる母の顔は疲れきっていた。私が死神業ができない以上、いつも母と私の二馬力だった仕事は、現在母の一馬力。ただでさえ私と二人でも魂の回収の警告ギリギリだったのだ。今死神業は大変だろうと思う。しかも母は死神業で魂を回収するたび、心を病む傾向にある。私も回収に加わりたいが、ルドルフはそれを許さないだろう。母もルドルフに借金を肩代わりしてもらっているからか、私は死神業のことを気にしなくていい、と私の顔を見にきただけだと言って帰っていくのだった。そんな母に申し訳ない気持ちはずっとあった。
第三皇妃となって一年と少しが過ぎ、私は懐妊した。
ルドルフは喜ぶかと思いきや、あまり喜んでいなかった。以前、子などいらないと言っていたし、自分のような子が生まれるのも困ると言っていたから、それは当然のことに思う。しかし、私は二人の子なのだから、喜んで欲しかった。
しかし、急にそんなこと言っても、欲しくないものは欲しくないだろう。だから、私は少しずつルドルフを教育することにした。いつかは生まれてくるのだから、それまでに少しずつ教育して、いつか子を可愛いと思ってくれればいいのだ。
色々とルドルフに話をするが、子の話になるとルドルフの顔は曇った。ちょっとずつ大きくなっていくお腹。その中に敵でもいるかのように、お腹だけは触りたがらなかった。私の事は相変わらず愛してくれるし、甘やかしてくれるのに。いろんな角度から毎日子の話をした。その中で、一つだけルドルフは良い反応をした。
「私に似た娘が生まれる可能性もあるわ。きっと『パパ大好き!』って言うような、可愛い子だと思うの。想像してみて」
「サーヤに似た娘か……それならいいかもしれないな」
私は娘でも息子でも、元気に生まれてくれるなら、どちらでもいい。ただ、ルドルフが私に似た娘、という言葉に反応したので、最初はそれで釣りつつ、少しずつ息子でも可愛いと思う、と言ってみたり、ルドルフに似ても可愛い、そんな話に広げていった。そして臨月近くになった頃には、ルドルフは子が生まれるのを少し楽しみにするようになっていた。
私は毎日が幸せで、周りのことを気にしていなかった。最初に悪意に気づいたのは、妊娠して半年くらい経った頃だった。
第一皇妃レベッカと第二皇妃ユリアと皇帝ルドルフと私の、月に一度の食事。少しだけルドルフが席を外した時に、第一皇妃レベッカが睨みつけてきた。
「陛下の子を身ごもったのなら、第三皇妃宮に引きこもっていたらいいのに」
「……え?」
「あなたがいるせいで、陛下は私の相手をしようともしてくださらない。陛下は私の夫でもあるの。私だって陛下の子を身ごもる権利はあるわ!」
「……で、でも契約で、子を作らないと決めたと」
「あんなもの! 結婚してしまえば、陛下は私の魅力に気づいて、陛下から破棄すると思っていたのよ!」
レベッカの物言いに唖然とした。レベッカの隣に座るユリアは冷静な顔だが、彼女もレベッカのように思っているのだろうか。
「あなたがいるせいで! あなたが私の美貌や身分に嫉妬して、陛下に私のところへ行かないよう、懇願しているのでしょう! 身の程知らず! たかが伯爵の子が、私の邪魔をしないで! 私こそ、陛下の男児を産んで、国母になるんだから!」
「……」
何も返せなくて、口をパクパクと動かしているところに、ルドルフが帰ってきた。その時には、レベッカはいつもの余裕の笑みを顔に貼り付けていた。私も何事もなかったかのように笑ったが、内心ドキドキとざわついていた。
レベッカは、子を作らぬと契約はしても、いつかはルドルフがレベッカを向き、愛してくれると希望を持っていたのだ。ルドルフと契約をしているのだから、そんな希望を持つな、とは私は言えない。結婚したなら、夫の子を欲しいと思うのは自然だ。夫に愛してほしいと思うものだ。
そうは思いつつも、すでに私はルドルフは私のものだという意識があった。誰かとルドルフを共有したくはない。ルドルフは常に私を見ていてほしい。ルドルフに愛されて一年が経ち、贅沢にもそう思っていた。だから、ルドルフにはレベッカに言われたことは話さなかったし、ルドルフにも他の女性を見て、とも言わなかった。
レベッカの気持ちを見なかったことにした。だからなのだろうか。私は地獄の底へ突き落とされた。
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