逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜

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第1章

28 家族構成は複雑です? 1

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 次の日、電車を乗り継ぎ、私と麻彩は学校に通学をする。

「じゃあね、まーちゃん。帰り遅くなるなら、タクシーで帰るのよ」
「うん」

 私に腕を絡ませていた麻彩は、学校に着いて別れ際に私に手を振って中等部へ、そして私は高等部へ向かう。
 私は約一ヶ月ぶりの教室である。

「亜理紗、おはよう」
「紗彩、おはよう!」

 私が声を掛けたのは高梨亜理紗(たかなしありさ)で、この学校で幼稚舎から一緒の友人である。茶道の家元の娘だが、兄や姉がいるからか、家を継ぐ気はまったくない自由人である。私のように学校に来ない、というときは、ふらっと海外に遊びに行ったりしている。

「紗彩の顔、久々に見たかも」
「それはそうよ。亜理紗、前回私が学校来たら、オーストラリアにいるって言ってたよね」
「そうだった、そうだった。そういえば、あの時進級テスト前から学校休んだから親に怒られたんだよね」
「それはそうでしょ。私だって、さすがに進級テストは受けに来てるよ?」

 時々しか会わない友人だが、昔から一緒であるし、時々しか会わないのが昔からの普通なので、久しぶりに会っても関係が崩れることもない。この教室にいるのは、幼稚舎から一緒の子も多いので、私がほとんど学校に来なくても、それが普通だとスルーされるので楽である。

 せっかく授業を受けるので、ちゃんと真面目に先生の話を聞き、あっという間に昼休み。
 亜理紗を含む友人と数名で学食にやってくる。

「紗彩はお弁当は?」
「今日は作る余裕がなかったから学食を食べるよ」

 弁当を作るのは好きなので、時々作るのだが、今日は時間がなくて何も作ってこなかった。作った場合は、学食で弁当を広げて食べるので、亜理紗が聞いてきたのだ。

 和食が食べたかったので、私は天ぷら定食と追加で稲荷寿司を頼んだ。皆それぞれ頼んだものを持ち、席に座る。

「紗彩、麻彩が手を振ってるよ」

 亜理紗が麻彩に手を振りながら言う。確かに学食の少し遠くで麻彩が手を振っていたので、振り返す。学食は高等部と中等部は同じ場所を利用するのだ。

「麻彩は相変わらずのシスコンだね」
「可愛いでしょ」
「まあねぇ。私いまだに思い出すわ。小学校の時さ、紗彩と遊んでたら、幼稚舎の麻彩が私たち見つけて、『私のさーちゃん返してぇ』ってギャン泣きしてさぁ」
「そんなこともあったねぇ」

 可愛い思い出である。

 昼食を終え、午後の授業も終わると、私は学校を出た。麻彩と帰ることもあるが、今日は麻彩は体育祭の準備がまだあるので、私は先に帰るのである。

 途中、食料品店にて夕食の買い物をして、一度三十階の家に帰宅した。
 制服を着替えて、二十九階の私の会社に向かう。そしていつものように社員と仕事の話をして帰宅。帰ったら、夕食の用意、帰宅した麻彩と夕食をし、火曜日が終わるのだった。

 次の日の水曜日、木曜日も同じような日程で過ぎていき、金曜日。

 学校へは昨日までの三日間で今回は通学が終わりである。この日は朝から二十九階の職場に出勤した。午後は化粧品会社で打ち合わせがあるのである。
 十一時ごろに少し早めの昼食をし、十二時過ぎに化粧品担当の黒部と総括の水野と三人で会社を出た。

 うちが契約している化粧品会社はあまり大きい会社ではないが、私の無理な依頼でも聞いてくれるし、品質もよくて、ずっと付き合っていきたい会社である。化粧品会社に到着すると、いつもの担当者と打ち合わせを開始した。
 最初はいつも発注している化粧品の確認で、その後にまだ先の話だが冬に帝国で新商品を出したいので、その企画の打ち合わせだった。

「今度の冬は、新しい赤のリップを出したいんです。他社さんので申し訳ないのですが、こういう色をイメージしています」

 私は参考にするために、他社ブランドの赤の口紅を出した。

 帝国の化粧品店は、うちの店含めて複数ブランドあるが、品数は日本に比べて段違いに少ない。赤の口紅といっても、日本であれば赤にも種類はたくさんある。ピンクを含んだ赤、青みを含んだ赤、オレンジを含んだ赤など、日本であればいろんなブランドの店を梯子すれば、自分好みの赤の口紅を探すことはできる。ただ、帝国の場合、赤の口紅でも極端に選択肢は少ない。
 うちの店でも赤の口紅は出しているが、色は一本のみ。つまり選択肢がない。できれば客自身で好みの赤を選べるようにしたい。

「あとピンクのリップも種類を増やしたいんです。イメージはこれです」

 うちの化粧品のメイン商品は基礎化粧品のほうではあるが、メイク化粧品にも最近力を入れているので、こういうのを少しずつ増やしているところなのである。
 口紅とアイシャドウ関係の新商品の話を担当者と詰め、ほぼその日の打ち合わせが終了しかけた時だった。打ち合わせに使用していた部屋のドアが開いた。

「よかった! 紗彩ちゃん、まだいてくれて!」
「菫さん! お久しぶりです」
「本当、久しぶりねぇ! 半年くらい会っていなかった気がするわ」

 突然部屋に乱入したのは、桐ケ谷菫(きりがやすみれ)と言い、この化粧品会社の社長である。

「一昨日日本に帰ってきてね、お土産があるの! 紗彩ちゃんコスメ好きだから、色々と買ってきちゃった!」

 化粧品会社の社長が、他社のコスメをお土産にするとは。しかし菫の場合、よくある話である。テーブルにお土産を広げだした。

「これなんか、いい色よ! 限定品だから、少し多めに買ったの。麻彩ちゃんにも渡してね」
「ありがとうございます。今度はどこに行かれてたんですか?」
「フランスよ! あ、そうだ。可愛いバレッタもあってね、紗彩ちゃんと麻彩ちゃんの色違いで買ってきたの! 使ってちょうだい」
「わぁ……! 可愛いですね!」
「そうなのよ! もうね、うちの子は男の子だからこういうの欲しがらないでしょ。お土産の選び甲斐がないの! 紗彩ちゃんが喜んで貰ってくれるから嬉しいわ」

 菫は楽しそうにお土産を説明している。
 この菫だが、実を言うと身内である。父の愛人と言うと聞こえは悪いが、つまりそういう関係の人なのだ。菫の言う『うちの子』というのは、菫と父の子であり、私からすると書類上の弟である。兄からすると、母違いの弟だ。

 うちの家族関係は複雑ではあるが、菫と母の関係も良好で、私と菫も仲は良いのである。

「色々と早口で説明しちゃって、ごめんなさいね。これから出張で神戸に行く予定なの。お話はまた今度会ったときに、ゆっくりしましょ」
「はい。たくさんお土産ありがとうございました」

 慌しく話すだけ話して、菫は去っていった。
 それから、私は残りの打ち合わせを終わらせ、社員と共に自社に戻ってくるのだった。
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