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第1章
20 死神業では天使は上司です1
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次の日の朝。
今日は変装もせずに普段の自分の姿である。朝食を終え、少しだけパソコンのデータに目を通し、そして私は我が家の屋上へ向かった。屋上は広く、緑葉や花を配置し、庭園風にしている。
そして屋上の隅には大きくはないが、ガラス張りの温室もある。その中には温室らしく植物や花があるかと思いきや、そんなものは一切置いていない。では何が置いてあるのかというと、家庭用蓄電池である。ソーラーパネルと繋げて、太陽光で発電できるようにしており、その蓄電池とソーラーパネルが複数、温室内に鎮座していた。キャンプで使えるものと同程度のものである。さすがに温室の外から見ると味気ないので、温室の外に植物を配置することで温室内が見えないように工夫しているが。
蓄電池は何に使うのかというと、もちろん電気を帝国でも使用するためである。帝国の家電は主に皇帝石を使用して使うが、東京から持ち込んだ家電は、当然電気が必要。パソコン、ドライヤーをはじめ、我が家は東京から持ってきた家電が多いので、電気が必須なのだ。
最初は実験的に、ソーラーパネルで発電できるのか試してみた。だって異世界ですものね、地球と同じ太陽ではないのでソーラーパネルで発電できない可能性もある。しかし実験で発電できたため、本格的に蓄電池の台数を増やし、天気の日はフル稼働で発電と蓄電をしてくれる。蓄電池はすばらしいものなのです。
そんな温室は今日は全く関係ない。温室の横をただ通り、ライナたちが用意してくれたテーブルと椅子のセットに移動する。今日はいい天気なので、日よけ用のオシャレなパラソルも設置済みである。
椅子に座り、マリアの用意してくれた紅茶を一口飲む。そろそろ十時だ、いつも時間ぴったりだから、そろそろ――なんて思っていると、テーブルを挟んだ誰も座っていない椅子に、ふわっと突然人が現れ椅子に座る。
「や! サーヤ! 一ヶ月ぶり! 今日のおやつは何かな?」
「――ティカさま。開口一番それですか? まずは結果連絡が先では?」
「……おやつないの?」
「……もちろん、用意しております」
「じゃあ、早くだして!」
だめだ、これは。目的を忘れているのではないだろうか。しかし、おやつを出さないことには、何も聞けない気がするので、私は手をあげた。すると少し離れて待機していたマリアが頷き、用意していたデザートと紅茶をテーブルに用意していく。
「本日の茶菓子は、レアチーズタルトとチョコレートブラウニーです」
「おおー! いいね! 何か分からないけど、美味しそう!」
茶菓子にたっぷりの生クリームとイチゴも添えた皿を、嬉々として食すこの謎の人物。腕はノースリーブで長さはひざ下丈の真っ白いシンプルなワンピース、白に近い髪、そして鳥を連想する綺麗で大きな翼。翼がなければ、姿かたちは人間と言ってもいいだろうが、人間ではない。
私がティカと呼ぶ、男性なのか女性なのかも分からないその人は、自分のことをこう言う。『私は神の部下』だと。一般的には、神の御使い、天使、などと言った方が分かりやすいとは思うが、私はそういう言葉は彼らにはピッタリな言葉ではないと思う。ティカの言うように『神の部下』が一番しっくりくる。
ティカは私の上司、つまり私の管理者なのだ。もちろん死神業のである。
ティカは今の私と同じくらいの年齢に見えるが、実際は途方もない年月を生きている。そしてティカはあくまでも管理者。神の部下として私を管理し、時には神の伝言を伝える役目がある。
ティカが皿を綺麗に空にし、少し満足げな顔をした。
「今回のも美味しかった!」
「それはよかったです」
「前のも美味しかったなぁ、なんだっけ、ミルーユ?」
「ミルフィーユですね」
「それそれ! サーヤのところは、こういうの出してくれるから好き」
神、神の部下ともに、食事なんてしなくてよい生き物らしい。しかし、私がこういう美味しいものがありますよ、と餌付けしたら、ティカは『美味しい』ということに興味を持つようになったのだ。
「ちょっと満足したから、結果連絡をしようかな」
何もない空間にいきなりメモ帳が表れ、ティカはそれをペラペラとめくった。
「えーと、東京、東京……、あった。はい、えー、東京地区。先々月の結果は、七十三パーセント! あいかわらずの余裕のクリアだね!」
「それはよかった」
うん、私の想定通りの結果である。朝から死神業のデータを管理している表をパソコンで確認してきたが、それと同じ結果だった。
この『結果連絡』とは、死神業で魂を回収した回収率のことである。回収率の連絡があるということは、当然回収率の不合格ラインがあるということ。不合格ラインはだいたい三十五パーセント。三十五パーセントを下回ると、一度警告が来る。警告が来た次も三十五パーセントを下回ると、アウト。しかし警告の次は三十五パーセントを超えてれば問題はない。警告の二連続が問題なのだ。
実は一度目の人生では警告を三度受けたことがある。連続の警告ではなかったのでセーフだが、やはり気持ちのいいものではない。そして、二度目の人生では警告は受けたことがない。
この回収率の全体の平均は、三十五パーセントから五十パーセントと言われている。つまり七十三パーセントはかなり優秀な部類に入るのだ。
そして、ティカの言うように、私は『東京地区』担当。つまり、日本には複数の地区に分けられた、私と同じ死神業の家系が複数存在している。ただ死神業の横のつながりは薄く、私の場合も知っている同業者は二家族のみ。そのうち一家族のことは名前と顔しか知らない。もう一家族とは、ときどき連絡はとっているし、会うこともある。
私の場合、東京地区で亡くなった方の魂の回収しなければならない。数日に一度、その回収対象の連絡が、数日分をまとめて頭の中に連絡がやってくる。東京地区の場合は、一ヶ月でだいたい四十人から五十人。そのうち、回収できた数から計算したのが回収率になる。ティカが結果連絡で『先月』ではなく『先々月』と言ったのは、回収のリミットが最大で約四十五日だということからきている。先月分は、まだリミットが来ていない魂もあるからだ。
楽をするなら、回収率の警告がくるギリギリラインの三十五パーセントを超えているなら、極端な話、三十六パーセントでもよい。私のように、七十を超える回収は、体力的にも精神的にも疲れる。だから、ウマいこと調整すればいいのだ。だが、私にはそれはできなかった。
七十三パーセントは優秀な数字だとしても、百パーセントではない。つまり、落としている数字がある。その数は、他人に約四十五日も体を占拠され勝手に動かれてしまう存在がいることになるのだ。その人は運が悪かった。自分に置き換えてみれば、そんな言葉で済ませられないと思うのだ。だから私は体の体力が許す限り、できるだけ回収したいと思っている。
「来月もいい結果が出ることを期待しているよ! サーヤのことは、カーリオン様も気にしておられるし、こう結果が良いと、時間を巻き戻した甲斐もあるって思ってくださるよ」
「……それはどうでしょうね」
カーリオンという方こそ、ティカの上司である神である。私の上司でもある。魂の洗浄や生と死に関する仕事を主とする神である。そのカーリオンが私の事を気にしている、なんていうことはないはずだ。おそらくだが、それぞれの地区の魂の回収率の報告を聞くくらいのことはするだろうが、だからと言って私を気にするような神ではない。
「やっぱり結果は重要だよ。サーヤはボクの担当の中でも一位二位を争うくらいだもの。ほらぁ、ボクもさ、神戦争みたいなのは避けたいわけ。各地方面に影響でるしさ。やっぱり平和がイチバン!」
神戦争なんて、冗談ぽく言っているが、笑えない冗談である。私の死神業も、元をたどればそこに起因するからだ。
今日は変装もせずに普段の自分の姿である。朝食を終え、少しだけパソコンのデータに目を通し、そして私は我が家の屋上へ向かった。屋上は広く、緑葉や花を配置し、庭園風にしている。
そして屋上の隅には大きくはないが、ガラス張りの温室もある。その中には温室らしく植物や花があるかと思いきや、そんなものは一切置いていない。では何が置いてあるのかというと、家庭用蓄電池である。ソーラーパネルと繋げて、太陽光で発電できるようにしており、その蓄電池とソーラーパネルが複数、温室内に鎮座していた。キャンプで使えるものと同程度のものである。さすがに温室の外から見ると味気ないので、温室の外に植物を配置することで温室内が見えないように工夫しているが。
蓄電池は何に使うのかというと、もちろん電気を帝国でも使用するためである。帝国の家電は主に皇帝石を使用して使うが、東京から持ち込んだ家電は、当然電気が必要。パソコン、ドライヤーをはじめ、我が家は東京から持ってきた家電が多いので、電気が必須なのだ。
最初は実験的に、ソーラーパネルで発電できるのか試してみた。だって異世界ですものね、地球と同じ太陽ではないのでソーラーパネルで発電できない可能性もある。しかし実験で発電できたため、本格的に蓄電池の台数を増やし、天気の日はフル稼働で発電と蓄電をしてくれる。蓄電池はすばらしいものなのです。
そんな温室は今日は全く関係ない。温室の横をただ通り、ライナたちが用意してくれたテーブルと椅子のセットに移動する。今日はいい天気なので、日よけ用のオシャレなパラソルも設置済みである。
椅子に座り、マリアの用意してくれた紅茶を一口飲む。そろそろ十時だ、いつも時間ぴったりだから、そろそろ――なんて思っていると、テーブルを挟んだ誰も座っていない椅子に、ふわっと突然人が現れ椅子に座る。
「や! サーヤ! 一ヶ月ぶり! 今日のおやつは何かな?」
「――ティカさま。開口一番それですか? まずは結果連絡が先では?」
「……おやつないの?」
「……もちろん、用意しております」
「じゃあ、早くだして!」
だめだ、これは。目的を忘れているのではないだろうか。しかし、おやつを出さないことには、何も聞けない気がするので、私は手をあげた。すると少し離れて待機していたマリアが頷き、用意していたデザートと紅茶をテーブルに用意していく。
「本日の茶菓子は、レアチーズタルトとチョコレートブラウニーです」
「おおー! いいね! 何か分からないけど、美味しそう!」
茶菓子にたっぷりの生クリームとイチゴも添えた皿を、嬉々として食すこの謎の人物。腕はノースリーブで長さはひざ下丈の真っ白いシンプルなワンピース、白に近い髪、そして鳥を連想する綺麗で大きな翼。翼がなければ、姿かたちは人間と言ってもいいだろうが、人間ではない。
私がティカと呼ぶ、男性なのか女性なのかも分からないその人は、自分のことをこう言う。『私は神の部下』だと。一般的には、神の御使い、天使、などと言った方が分かりやすいとは思うが、私はそういう言葉は彼らにはピッタリな言葉ではないと思う。ティカの言うように『神の部下』が一番しっくりくる。
ティカは私の上司、つまり私の管理者なのだ。もちろん死神業のである。
ティカは今の私と同じくらいの年齢に見えるが、実際は途方もない年月を生きている。そしてティカはあくまでも管理者。神の部下として私を管理し、時には神の伝言を伝える役目がある。
ティカが皿を綺麗に空にし、少し満足げな顔をした。
「今回のも美味しかった!」
「それはよかったです」
「前のも美味しかったなぁ、なんだっけ、ミルーユ?」
「ミルフィーユですね」
「それそれ! サーヤのところは、こういうの出してくれるから好き」
神、神の部下ともに、食事なんてしなくてよい生き物らしい。しかし、私がこういう美味しいものがありますよ、と餌付けしたら、ティカは『美味しい』ということに興味を持つようになったのだ。
「ちょっと満足したから、結果連絡をしようかな」
何もない空間にいきなりメモ帳が表れ、ティカはそれをペラペラとめくった。
「えーと、東京、東京……、あった。はい、えー、東京地区。先々月の結果は、七十三パーセント! あいかわらずの余裕のクリアだね!」
「それはよかった」
うん、私の想定通りの結果である。朝から死神業のデータを管理している表をパソコンで確認してきたが、それと同じ結果だった。
この『結果連絡』とは、死神業で魂を回収した回収率のことである。回収率の連絡があるということは、当然回収率の不合格ラインがあるということ。不合格ラインはだいたい三十五パーセント。三十五パーセントを下回ると、一度警告が来る。警告が来た次も三十五パーセントを下回ると、アウト。しかし警告の次は三十五パーセントを超えてれば問題はない。警告の二連続が問題なのだ。
実は一度目の人生では警告を三度受けたことがある。連続の警告ではなかったのでセーフだが、やはり気持ちのいいものではない。そして、二度目の人生では警告は受けたことがない。
この回収率の全体の平均は、三十五パーセントから五十パーセントと言われている。つまり七十三パーセントはかなり優秀な部類に入るのだ。
そして、ティカの言うように、私は『東京地区』担当。つまり、日本には複数の地区に分けられた、私と同じ死神業の家系が複数存在している。ただ死神業の横のつながりは薄く、私の場合も知っている同業者は二家族のみ。そのうち一家族のことは名前と顔しか知らない。もう一家族とは、ときどき連絡はとっているし、会うこともある。
私の場合、東京地区で亡くなった方の魂の回収しなければならない。数日に一度、その回収対象の連絡が、数日分をまとめて頭の中に連絡がやってくる。東京地区の場合は、一ヶ月でだいたい四十人から五十人。そのうち、回収できた数から計算したのが回収率になる。ティカが結果連絡で『先月』ではなく『先々月』と言ったのは、回収のリミットが最大で約四十五日だということからきている。先月分は、まだリミットが来ていない魂もあるからだ。
楽をするなら、回収率の警告がくるギリギリラインの三十五パーセントを超えているなら、極端な話、三十六パーセントでもよい。私のように、七十を超える回収は、体力的にも精神的にも疲れる。だから、ウマいこと調整すればいいのだ。だが、私にはそれはできなかった。
七十三パーセントは優秀な数字だとしても、百パーセントではない。つまり、落としている数字がある。その数は、他人に約四十五日も体を占拠され勝手に動かれてしまう存在がいることになるのだ。その人は運が悪かった。自分に置き換えてみれば、そんな言葉で済ませられないと思うのだ。だから私は体の体力が許す限り、できるだけ回収したいと思っている。
「来月もいい結果が出ることを期待しているよ! サーヤのことは、カーリオン様も気にしておられるし、こう結果が良いと、時間を巻き戻した甲斐もあるって思ってくださるよ」
「……それはどうでしょうね」
カーリオンという方こそ、ティカの上司である神である。私の上司でもある。魂の洗浄や生と死に関する仕事を主とする神である。そのカーリオンが私の事を気にしている、なんていうことはないはずだ。おそらくだが、それぞれの地区の魂の回収率の報告を聞くくらいのことはするだろうが、だからと言って私を気にするような神ではない。
「やっぱり結果は重要だよ。サーヤはボクの担当の中でも一位二位を争うくらいだもの。ほらぁ、ボクもさ、神戦争みたいなのは避けたいわけ。各地方面に影響でるしさ。やっぱり平和がイチバン!」
神戦争なんて、冗談ぽく言っているが、笑えない冗談である。私の死神業も、元をたどればそこに起因するからだ。
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