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第1章
13 死神業2
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私と咲と女性は、近くの公園に場所を移し、私と女性はベンチに座った。咲は立ったまま私たちの会話は聞いているだろうが、誰もベンチに近寄らないよう見ていてくれている。
『いろいろとお話をする前に、ここから先は日本語でお願いします。私の言葉、理解できますよね?』
『……あ、はい。……なんか日本語話すの、久しぶりだな』
私が帝国語ではなく日本語に切り替えると、彼女も日本語で返事をしてくれる。
懐かし気な表情を浮かべる彼女だが、女性から出る言葉遣いが若干違和感がある。もしかしたら、この人、男性かもしれない。
『日本でのお名前をお聞きしたいのですが、いいですか?』
『木村大和です』
やはり男の名前だ、そう思いつつ、私は頷き、スマホを取り出す。スマホに保存しているメモのリストの中に『木村大和』の名を発見する。
『それ! スマホですか! いいなぁ、転生してから一度も触ってなくて! この世界、スマホないんですよ』
スマホを羨まし気に見る彼女、いや彼である木村は、『転生』という言葉を口にした。うん、それ勘違いなんだよね。
『木村さん。今、転生されたと言ってましたけど、転生してどれくらいですか?』
さきほど彼の情報が書かれてあるリストをスマホで見たので、本当はどれくらいなのか知っているが、あえて質問する。
『転生してからというか、記憶が戻ってからなら三週間くらいかな? そうだ、あんたも転生者? 日本人だよね? 日本人の顔してるもん、そっちの人も』
木村は咲を見て言った。
『ええ、私と彼は日本人です。でも転生者ではありません』
『え? どういうこと? だって……そういえば、俺、日本人の顔してないな? 転生したら日本人になるってことではないんだ? わかんなくなってきた』
『混乱するのも無理はありません。もう一度言いますね、私と彼は日本人ですが転生者ではありません。そしてもう一つ説明しますが、あなたも転生者ではありません』
『……転生者じゃない? でも、記憶……』
『はい。記憶がありますね、その女性の体の』
木村は頷いた。
『木村さん、あなたはその体の女性の記憶を共有しているにすぎません。今、その女性の体は二つの魂が入っている異常な状態です』
『二つの……魂』
『はい。本来の女性の魂が一つ、そして木村さんの魂が一つ。一つの体に一つの魂があるのが本来の姿。あなたは、彼女の体に間借りさせてもらっている魂にすぎません』
『……えっと、つまり?』
木村は疑問符がいっぱいついた表情をした。
『木村さんが日本人だったときの最後の記憶、覚えてますか?』
『……うん。大学に原付バイクで向かってて、雨でスリップして車にぶつかって、それで……たぶん、死んだと思う』
『はい。なので木村さんは、今は死者です。死者の魂が迷子になり、彼女の体に入り、彼女の体を間借りさせてもらっている状態です』
『……死者?』
『はい』
「転生したわけではない?』
『そうです』
木村は呆然としている。
『……じゃあ、俺はどうなるわけ? 異常な状態なんだよね、今』
『はい、なので、私があなたの魂を回収します』
『……はい!?』
『驚かれるのは無理ありません。ですが私の仕事でして。ご理解ください』
木村は口をパクパクと声にならない言葉をはいている。
そう、私の死神業としての仕事はこれだった。迷子になった死者の魂の回収。そしてこれは、何世代も続く我がウィザー家の本業である。
呆然としていた木村だったが、盛大にため息付きながら、両手で顔を覆い、下を向いた。
『よかったぁぁぁ』
『……よかった?』
あれ、いつもと展開違うな。魂を回収するとき、あなたは死者ですと伝えると、みんな動揺するんだが。
木村は勢いよく顔を上げた。
『だってさ、聞いてくれる!? この体の女性さ、美人じゃん! 最初はさ、こんな美人に転生できてラッキーとか思ってたわけ! でもさ、この人まあモテるモテる。それはいいよ、美人なんだから。でもさ、モテるにしても相手は男だぜぇぇぇ!』
木村が前のめりになって、このところのストレスだったのか、一気にまくし立てた。
『しかもこの人年上が好きみたいでさ、父親くらいの年齢の。三人彼氏がいてさ、三股だよ!? まあ、その三人も家庭があるみたいだから、うまい具合にスケジュール立ててさ、なんだっけ、ああいうの。パパ活とかいうのかな? とにかく、プレゼントもらったりお金もらったり、まあそれはいいよ。でも目の前におっさんの顔というか口が近づいてみろよ? 吐き気しかしない!』
『な、なるほど。今の説明で想像つきました』
『あ、分かってくれる!? 今日もさ、さっき家に帰ったら、おっさんの彼氏の一人が勝手に家に上がっててさ、タオル巻いてたけど、ほぼ全裸で風呂から出てきたんだよ! しかも『待ってた』とか言って語尾にハートつけてさ! こっちは寒イボ状態だっつーの! ドン引きでしょ!? だから逃げるように家出てさ、落ち着こうと思って。そしたら追いかけてくるしさぁぁぁ』
『ああ、そういえば、さっき誰かから逃げている感じでしたね』
『そうなんだよ! やっと撒いたと思ったら声かけられて、ビビっちゃった。ははっ』
木村は最後笑っているが、疲れた顔をしている。
『もうね、この三週間、ずっとこんな感じなわけ。食事だけならいいよ、おっさん相手でもさ。今までその生活してたんだろうし、急に日本人だった時の記憶が戻ったからって、今まで仲良くしていた人と変な空気になるの嫌じゃん。でもそろそろ限界だったわけ。裸のおっさんはさすがにないわ。俺はやっぱりおっさんじゃなくて、恋愛相手は女の子がいい!』
うんうん、そうだよね。現在の魂は彼なのだから、性格も彼なわけで、急に今までの好みが変わるわけないのだ。
『魂回収ってことは、俺、これから『あの世』に行くってことだよね?』
『そうですね』
『じゃあさ、あの世に行った後、本当の転生がやってくるってことでしょ?』
『まあ、最終的にはそうなりますね。でもあなたの記憶はないですよ?』
『あ、いいよいいよ。別に俺の記憶がないと嫌! とか、俺の人格でないと嫌! ってほどじゃないし。今のこの状況から脱出できるならなんでも。……魂回収って痛かったりしないよね?』
『そこはご安心を。痛みはまったくなく、みなさん温かい感じだと言われますよ』
『よかった! 死に際の事故ったときのように痛いのは嫌だからさぁ』
明るい子である。
『分かった! じゃあ回収始めちゃって!』
『……え? いいんですか? 心残りとかは?』
『ないない。迫ってくるおっさんから解放されるなら、それだけで十分』
本当に心残りはないようで、むしろ木村はすがすがしそうな表情である。
『分かりました。では魂の回収、始めますね』
私は頷いた木村の肩に手を付けた。そして魂を回収するイメージをしながら手に集中すると、だんだんと木村の体から靄のようなものが出始めた。しかしこの靄は私にしか見えない。
『……本当だ、温かい』
木村は最後にそうつぶやくと、女性の体から木村の魂が抜けていくのが見えた。木村の魂が消えたために力の抜けた女性の頭を、そっと私の肩に寄せる。
「終わった?」
日本語ではなく帝国後で話す咲に、私は頷いた。
「相変わらず、魂の回収って見えないな」
咲には魂は見えない。だから、私が回収しているときの靄も見えないし、回収されたかどうかも私に確認しないと分からないのだ。
ベンチには私と女性しか座っていなかったが、女性を間にして私の反対側に咲が座った。そして無線機を出す。
「こっちは終わった。そっち今どこ?」
無線機に向かって話す咲。ジジッと無線機から音がすると、その後にジークの声が無線機を通してイヤホンから聞こえる。
「うん、……うん、分かった。じゃあ、ここからだと十五分くらいだな。そのまま待機」
ジークと会話を終えた咲は、ポケットからビンを取り出した。気付け薬である。
「起こしていい?」
「うん」
咲が着付け薬を女性に近づけると、女性はうっすらと目を開けた。
「……ん? あれ、私……」
「大丈夫ですか? あなた気を失っていましたよ?」
「気を失う?」
死者の魂が入っていた体は、その主導権を死者に奪われてしまう。そのため、主導権がないときは本来の魂には意識がない。だから、この女性の場合、木村の魂が入っていた三週間の記憶がまったくないのだ。
女性はまだ夢うつつのようで、記憶が混乱しているが、これ以上私が情報をあげることはできない。だから偶然倒れていたのを助けた、という形にしている。
女性が自分で立ち上がることができるのを確認し、私たちは女性と別れた。
これで今日は一つ魂を回収できた。
もう一つの魂を回収するべく、私と咲はジークたちの元へ向かった。
『いろいろとお話をする前に、ここから先は日本語でお願いします。私の言葉、理解できますよね?』
『……あ、はい。……なんか日本語話すの、久しぶりだな』
私が帝国語ではなく日本語に切り替えると、彼女も日本語で返事をしてくれる。
懐かし気な表情を浮かべる彼女だが、女性から出る言葉遣いが若干違和感がある。もしかしたら、この人、男性かもしれない。
『日本でのお名前をお聞きしたいのですが、いいですか?』
『木村大和です』
やはり男の名前だ、そう思いつつ、私は頷き、スマホを取り出す。スマホに保存しているメモのリストの中に『木村大和』の名を発見する。
『それ! スマホですか! いいなぁ、転生してから一度も触ってなくて! この世界、スマホないんですよ』
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さきほど彼の情報が書かれてあるリストをスマホで見たので、本当はどれくらいなのか知っているが、あえて質問する。
『転生してからというか、記憶が戻ってからなら三週間くらいかな? そうだ、あんたも転生者? 日本人だよね? 日本人の顔してるもん、そっちの人も』
木村は咲を見て言った。
『ええ、私と彼は日本人です。でも転生者ではありません』
『え? どういうこと? だって……そういえば、俺、日本人の顔してないな? 転生したら日本人になるってことではないんだ? わかんなくなってきた』
『混乱するのも無理はありません。もう一度言いますね、私と彼は日本人ですが転生者ではありません。そしてもう一つ説明しますが、あなたも転生者ではありません』
『……転生者じゃない? でも、記憶……』
『はい。記憶がありますね、その女性の体の』
木村は頷いた。
『木村さん、あなたはその体の女性の記憶を共有しているにすぎません。今、その女性の体は二つの魂が入っている異常な状態です』
『二つの……魂』
『はい。本来の女性の魂が一つ、そして木村さんの魂が一つ。一つの体に一つの魂があるのが本来の姿。あなたは、彼女の体に間借りさせてもらっている魂にすぎません』
『……えっと、つまり?』
木村は疑問符がいっぱいついた表情をした。
『木村さんが日本人だったときの最後の記憶、覚えてますか?』
『……うん。大学に原付バイクで向かってて、雨でスリップして車にぶつかって、それで……たぶん、死んだと思う』
『はい。なので木村さんは、今は死者です。死者の魂が迷子になり、彼女の体に入り、彼女の体を間借りさせてもらっている状態です』
『……死者?』
『はい』
「転生したわけではない?』
『そうです』
木村は呆然としている。
『……じゃあ、俺はどうなるわけ? 異常な状態なんだよね、今』
『はい、なので、私があなたの魂を回収します』
『……はい!?』
『驚かれるのは無理ありません。ですが私の仕事でして。ご理解ください』
木村は口をパクパクと声にならない言葉をはいている。
そう、私の死神業としての仕事はこれだった。迷子になった死者の魂の回収。そしてこれは、何世代も続く我がウィザー家の本業である。
呆然としていた木村だったが、盛大にため息付きながら、両手で顔を覆い、下を向いた。
『よかったぁぁぁ』
『……よかった?』
あれ、いつもと展開違うな。魂を回収するとき、あなたは死者ですと伝えると、みんな動揺するんだが。
木村は勢いよく顔を上げた。
『だってさ、聞いてくれる!? この体の女性さ、美人じゃん! 最初はさ、こんな美人に転生できてラッキーとか思ってたわけ! でもさ、この人まあモテるモテる。それはいいよ、美人なんだから。でもさ、モテるにしても相手は男だぜぇぇぇ!』
木村が前のめりになって、このところのストレスだったのか、一気にまくし立てた。
『しかもこの人年上が好きみたいでさ、父親くらいの年齢の。三人彼氏がいてさ、三股だよ!? まあ、その三人も家庭があるみたいだから、うまい具合にスケジュール立ててさ、なんだっけ、ああいうの。パパ活とかいうのかな? とにかく、プレゼントもらったりお金もらったり、まあそれはいいよ。でも目の前におっさんの顔というか口が近づいてみろよ? 吐き気しかしない!』
『な、なるほど。今の説明で想像つきました』
『あ、分かってくれる!? 今日もさ、さっき家に帰ったら、おっさんの彼氏の一人が勝手に家に上がっててさ、タオル巻いてたけど、ほぼ全裸で風呂から出てきたんだよ! しかも『待ってた』とか言って語尾にハートつけてさ! こっちは寒イボ状態だっつーの! ドン引きでしょ!? だから逃げるように家出てさ、落ち着こうと思って。そしたら追いかけてくるしさぁぁぁ』
『ああ、そういえば、さっき誰かから逃げている感じでしたね』
『そうなんだよ! やっと撒いたと思ったら声かけられて、ビビっちゃった。ははっ』
木村は最後笑っているが、疲れた顔をしている。
『もうね、この三週間、ずっとこんな感じなわけ。食事だけならいいよ、おっさん相手でもさ。今までその生活してたんだろうし、急に日本人だった時の記憶が戻ったからって、今まで仲良くしていた人と変な空気になるの嫌じゃん。でもそろそろ限界だったわけ。裸のおっさんはさすがにないわ。俺はやっぱりおっさんじゃなくて、恋愛相手は女の子がいい!』
うんうん、そうだよね。現在の魂は彼なのだから、性格も彼なわけで、急に今までの好みが変わるわけないのだ。
『魂回収ってことは、俺、これから『あの世』に行くってことだよね?』
『そうですね』
『じゃあさ、あの世に行った後、本当の転生がやってくるってことでしょ?』
『まあ、最終的にはそうなりますね。でもあなたの記憶はないですよ?』
『あ、いいよいいよ。別に俺の記憶がないと嫌! とか、俺の人格でないと嫌! ってほどじゃないし。今のこの状況から脱出できるならなんでも。……魂回収って痛かったりしないよね?』
『そこはご安心を。痛みはまったくなく、みなさん温かい感じだと言われますよ』
『よかった! 死に際の事故ったときのように痛いのは嫌だからさぁ』
明るい子である。
『分かった! じゃあ回収始めちゃって!』
『……え? いいんですか? 心残りとかは?』
『ないない。迫ってくるおっさんから解放されるなら、それだけで十分』
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『……本当だ、温かい』
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「終わった?」
日本語ではなく帝国後で話す咲に、私は頷いた。
「相変わらず、魂の回収って見えないな」
咲には魂は見えない。だから、私が回収しているときの靄も見えないし、回収されたかどうかも私に確認しないと分からないのだ。
ベンチには私と女性しか座っていなかったが、女性を間にして私の反対側に咲が座った。そして無線機を出す。
「こっちは終わった。そっち今どこ?」
無線機に向かって話す咲。ジジッと無線機から音がすると、その後にジークの声が無線機を通してイヤホンから聞こえる。
「うん、……うん、分かった。じゃあ、ここからだと十五分くらいだな。そのまま待機」
ジークと会話を終えた咲は、ポケットからビンを取り出した。気付け薬である。
「起こしていい?」
「うん」
咲が着付け薬を女性に近づけると、女性はうっすらと目を開けた。
「……ん? あれ、私……」
「大丈夫ですか? あなた気を失っていましたよ?」
「気を失う?」
死者の魂が入っていた体は、その主導権を死者に奪われてしまう。そのため、主導権がないときは本来の魂には意識がない。だから、この女性の場合、木村の魂が入っていた三週間の記憶がまったくないのだ。
女性はまだ夢うつつのようで、記憶が混乱しているが、これ以上私が情報をあげることはできない。だから偶然倒れていたのを助けた、という形にしている。
女性が自分で立ち上がることができるのを確認し、私たちは女性と別れた。
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