最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜

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26 夫と再会

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 政務館へ行く必要がなくなって、十日ほど経過した。私は以前ライラに教えてもらった屋敷の管理の仕事を再開している。

 朝の運動、夫人としての仕事など、毎日やることがあって充実しているが、そろそろ次の段階へ進む必要性があるのを感じていた。

 離縁後の進路として、ある程度方向性は決めたものの、一つ足りないものがある。それは人脈である。

 バリー伯爵令嬢のときも、公爵夫人となってからも、私の社交界に対する人脈は皆無だ。これでは、職にありつけない。

 もしかしたら、夫ルークと離縁時に、ルークと交渉すれば、もしかしたら良い伝手を紹介してもらえるかもしれない。とはいえ、それはあくまで私の希望である。一時的にでも公爵夫人だった女を、他家に職をあっせんするなど、聞こえは悪いだろう。アカリエル家として、悪い噂になる可能性もある。さすがに、そういった可能性がある以上、ルークに良い伝手など紹介する理由はない。

 であれば、私は自分で人脈を得る必要がある。

 人脈と言えば、やはり貴族が集まりやすい帝都に行くのが良いだろう。そう思い、イーライに帝都に行きたい、と言ってみた。ところが、イーライ経由の夫ルークは、いつも私の希望に許可してくれるのに、この時ばかりはなぜか回答が保留となってしまった。

 困った。これでは動けない。人脈は大事なのに。

 今日の仕事がひと段落付き、自室に戻ると、侍女のリアとミアが私のドレスの整理をしていた。もうすぐ冬で季節が変わるので、服の入れ替えをしていたらしい。

「奥様、いつも着ている服もお似合いですけれど、こういった明るい色のドレスも着てみませんか?」

 リアの見せるドレスは、確かに鮮やかで素敵だった。少し着てみたいとは思うもの、一度袖を通すと、返品不可になるのではないかと怖いのだ。

 私に用意された季節ごとにたくさんあるドレスは、どの季節でも三着程度しか私は着ないと決めていた。どれも落ち着いた色のドレスばかり選んでいる。なぜかといえば、離縁後、一度着たドレスなら、私が貰って持っていってもいいかもしれないし、職を見つけた時に、落ち着いた色なら仕事着にもなるという、計算からだった。

 また、一度も使っていないドレスや宝石などをお返しすれば、借金を減らしてくれないかな、という打算もある。

 とにかく、腹の立つ兄が借金をしてしまっている以上、私は贅沢はできない。公爵夫人という身分は、私には分不相応で、いつかはお返ししなければならないはずだから。

「明るい色は、わたくしは着るのが恥ずかしいから。前回のように、落ち着いた色のドレスを三着だけ用意しておいてくれる?」
「……承知しました」

 リアは肩を落として返事をした。リアもミアも年頃だから、自分は着ないドレスだったとしても、素敵なドレスを見ると気分が上がるのだろう。それには私も同意だけれど、見てしまうと着たくなる。だから、見ない場所に収納してもらうほうが、心に良い。

 侍女のミアを連れて、庭へ散歩へ出た。秋なので、紅葉して色づいた葉が綺麗だ。

 すぐそこまで冬が来ているのか、風が肌寒い。少し震えると、ミアが口を開けた。

「奥様、風邪をひいてしまいます。上から羽織るものをお持ちしますね」
「ミア、ありがとう」

 ミアも気の利く子だ。ミアを待つ間、一人でゆっくりと歩を進める。すると、足音が聞こえて、もうミアが戻ってきたのだろうかと振り返る。

「……アリー?」
「……旦那様?」

 そこには夫ルークがいた。久しぶりに見る夫の姿。
 いつ帝都から戻ってきたのだろうか。どうやらルークも散歩中のようだったが、ルークははっとした表情をすると、焦った顔で私の腕を取って引っ張った。

「旦那様!?」

 ルークは私を連れて足早に歩いていき、背の低い木々に隠すように私を押し込んだ。私と面と向かって立つと、私の腕を掴んだまま、ルークは口を開いた。

「何でそんな恰好をしている!?」
「え……へ、変でしょうか?」
「変ではない。似合っているが、そういう意味ではなくて……それはアリーの服ではないだろう?」
「……え」

 私の服ではない? 言っている意味が分からない。これは私に用意された服のはずなのだが、違うのだろうか。

「これを着たと知られたらどうする? とにかく、服はすぐに返すんだ」
「……は、い」

 私は震える声で返事をした。すると、ルークは深く溜め息をつきながら、私の腕から手を離す。

「分かってくれて助かる。服が欲しいなら、俺が別で用意するから」

 誰のと『別で』用意するのか。嫌な予感がする。私の物だと用意されたものは、実は全部『別の誰か』の物だったのではないかと。それをみなが公爵夫人の物と勘違いして、持ってきただけで、実はルークは『別の誰か』のために用意した物だったのでは。

 そこまで考えて、青くなった。そして、さすがにショックで笑みを浮かべることができない。

「……旦那様に、別で服を用意していただく必要はありません。服は持っていますので、そちらを着ます」

 私にはお仕着せがある。あれなら、私のものだと言ってもいいはずだ。
 これ以上ルークの顔を見られなくて、ルークにお辞儀をすると私はその場を離れるのだった。
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