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18 犬の散歩と危険

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 また別の日、夕方、三尾に乗ってルークと散歩の帰り道。

 最近、ルークとは仲良くなってきたと思う。かなり友達のような関係に近いのではないだろうか。今なら、愛人や恋人はいますかと聞けば、怒らずに答えてくれるのでは。そんな質問を言うタイミングを見計らっていた時だった。事件が起きた。

 三尾が木々の合間を走り抜ける中、どこからともなく何かが飛んできた。三尾がそれを器用に除け、さらに走るが、そこにも何かが飛んでくる。

「な、何!?」
「アリー、口を開くな。舌を噛むぞ」

 いつの間にか、私を支えていない方の手でルークは剣を握っていた。その剣で何かを切ったのを見て、それが矢だということに気づく。

 前に聞いた、山賊、もしくはタニア王国の敵襲だろうか。

「怖いなら、目を瞑っていろ」

 ルークはそう言うが、目を瞑って何が起きているのか分からないほうが怖い。三尾とルークの連携が上手なのか、まだ私たちに傷はついていないけれど、時間の問題ではなかろうか。ルークには私という足手まといがいる。どうにか手伝えるなら、と思うが、私ができるのは足技くらいで、ここでは役には立たなそうだ。

 その時、三尾の周りに小さい粒のようなものが飛んでいるのに気づいた。

(何あれ……小石?)

 小石が複数、三尾の走るスピードに合わせて飛んでいる。飛んでいる? 飛ぶっておかしくない? っと目がおかしいのかと目を瞬いていると、その小石が私たちから離れるように、一つ、一つと外へ飛んでいく。

 その後、誰か、人間の叫び声が遠くでした。それが何度か聞こえた、何度めかの叫び声の時、視界の遠くで人間が木の上から落ちていくのが見えた。

 私たちへの攻撃が止み、三尾はしばらく走り続けて、いつか来た崖の上にやってきた。ルークが三尾から降りて、私も降りようとするが、命が狙われたという恐怖で足が震えて動かない。

「も、申し訳ありません。すぐに降り――」
「いや、そのままでいい。抱えてやる」

 ルークは私を横抱きにして抱えた。

「悪い、怖かっただろう。痛いところとかはないか? 怪我は?」
「あ、ありません。……さきほどのは、タニア王国の敵でしょうか?」
「いや、あれは……俺の兄が放った奴らだな」
「旦那様のお兄様の?」

 そういえば、先日、ルークの兄も迷惑な奴とは言っていた。しかし、これはそんな単純な話ではないのでは。

「ま、まさか、旦那様を暗殺しようと……!?」
「今に始まったことではない」
「……」

 淡々と、そう告げるルークが悲しかった。ルークと結婚しなければ、私の生死にも興味のなかった私の兄と、どちらがマシだろう。

「……そういえば、小石が飛んでいきましたが、あれはもしかして旦那様が動かしたのでしょうか」
「……そうだ」

 ロニーが言っていたのを思い出す。ルークもロニーとは違う能力の異能を持っていると。

「ロニーが天恵だと言っていました」
「聞いていたのか。そうだ、さっき使ったのは念力だな」
「念力……」

 ロニーは怪力という天恵持ちで、ルークは念力か。小石を飛ばせるということは、ルーク自身も飛べるのだろうか、と想像するとちょっと羨ましい。私も飛んでみたい。
 天恵とは超能力の力みたいなものか、と思いながら、私は笑みを浮かべた。

「先ほどは、助けていただきありがとうございました。わたくしの足技の出番はありませんでしたね」
「……俺がいる時に、アリーの足技の出番は一生ないと思うぞ」
「えー、どこかで再び披露したいのですが」
「ははっ、そんなに披露したいか。だったら騎士団の騎士であれば、いつでも仕掛けていいぞ。俺が許可する」
「え……そんなことをしたら、騎士たちに迷惑では」
「女性の足技くらい対処できない騎士は、見習いに落として再び訓練させる必要があるな」
「……旦那様、わたくしの足技を舐めていますね?」

 そんな軽口で場が和み、命を狙われた緊張感が緩む。それと同時に、私はまだルークに横抱きにされたままなことに、今更ながらに気づく。

「だ、旦那様、そろそろ降ろしてください。わたくしはもう大丈夫です」
「あ、ああ」

 横抱き、つまり私はお姫様抱っこをされていたんだ、と全身が熱い。少しはルークとの距離感に慣れてきたはずだったのに、まだまだだ、と心を落ち着かせるために、三尾の毛並みをモフりに行くのだった。
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