16 / 48
16 夫と散歩
しおりを挟む
さすが三尾、歩いているだけなのに、走る人間より速い気がする。お腹に回された腕と、背中に触れるルークの体温が気になって仕方ないけれど、ここはそんなものは横に置いて、三尾が歩くのを楽しまなければ損だ。
三尾の歩くスピードが上がる。城の中の敷地を滑らかに揺れなく進む三尾に、自然と笑みが零れてしまう。
「このくらいの速さは怖くないか?」
「はい、大丈夫です。楽しいです!」
「ははっ、そうか。では、もう少し速度を上げよう」
城の裏門を通り、城の外に出る。すると三尾はスピードを上げた。次々と景色が流れていく。
「すごく速いですね! 馬より速い気がします!」
「そうだな、今は馬より速さが出ている。……少しだけ身を低くしてくれ」
「えっ――」
目の前に壁のような岩のある山が表れた。迂回するのかと思いきや、ルークは背中から私を抱きしめる力を強くして少し身を低くすると、三尾は私たちを乗せたまま、岩へジャンプした。すいすいとジャンプしていき、器用に岩を登っていく。
三尾すごい! という気持ちと、完全に抱きしめられている状態の自分に、三尾に興奮すればいいのか、ルークに恥ずかしがればいいのか、わけが分からない。
心臓がどきどきして、ルークに聞こえるのでは、と思った時、岩山ゾーンは脱出したようで、ルークの体が少し離れてほっとした。夫とはいえ、他人に等しい男性と近すぎるのは、前世を含めて男性免疫のない私にはハードルが高い。ロニーは抱き上げてくれていたけれど、ロニーに動揺したことなど一度もないし、ロニーは弟というか家族枠だからかもしれない。
愛人がいる可能性の高いルークに、免疫がないからといちいちドキドキしていては、聞きたいことも聞けなくなってしまう。どこかで私の男性免疫を上げる練習の必要がありそうだ、と思っていると、三尾が草原のような場所に出た。
「わぁ! 綺麗!」
夕焼けになりかけている太陽と、可愛らしい小さな花も咲く草原が綺麗だった。三尾がゆっくりと速度を落とし、歩みを止めた。そしてルークが三尾から降りると、三尾が伏せをした。ルークが手を差し出したので、そこに手を乗せて私も三尾から降りる。
すると、まだスピードに乗っている感覚が抜けていないのか、よろよろと足が絡んでこけそうになったところ、ルークがとっさに支えてくれた。
「も、申し訳ありませんっ……」
「いや。大丈夫か?」
「だ、大丈夫で――」
顔を上げると、ルークの顔が目の前にあった。
(わぁ! 近い! お約束!)
急激に顔が熱くなり、急いでルークから離れる。これは助けてくれただけの、ただの親切心。ルークは妻には興味などない。夫を意識するなど、馬鹿のすることだ。
私は誤魔化すように、ルークから背を向け、「三尾さん! 匂いを下さい!」と言って三尾に抱き付いた。三尾のお日さまのような香りを嗅いで、ここは落ち着かなければ。私の後ろでは、「匂い?」とルークが言いながら、笑っているのを感じる。
いいではないか。アダムもだが、ルークもなぜ匂うことに反応するのだ。ここでは動物の匂いを嗅いだりする人はいないのだろうか。ヒーリング効果があるのに。
そうやって三尾の香りで落ち着き、顔を上げた。
「三尾さん、ありがとう」
私に顔を向ける三尾がイケメンだ。すごく癒されると思いながら、ルークにも顔を向ける。
「旦那様も、三尾に乗せてくださって、ありがとうございます」
「こんなことでいいなら、詫びと礼を兼ねて、また乗せてやろう」
「詫びと、礼、ですか?」
「先日の騒ぎの詫びと、厨房での礼だ」
そう言って、ルークが笑いだした。
「旦那様?」
「いや、悪い。あの騒ぎを思い出すと、人間が地面に全身を打ち付けた音を一緒に思い出してしまってな」
まあ、あれは私も綺麗に決まったな、とは思ったけれども。
「ロニーが足技を教えるのが上手で。あれはとっさにそれを応用したのです」
「ロニーと仲良くなったんだな。そのまま、あいつと親しくしてやってくれ」
「はい。……あの、ロニーって、以前は影だったとか」
「ああ。左目を怪我しているだろう。あれでは、左からの攻撃に気づけなかったりと危ないからな。慣れるまでは無理な仕事はさせられないから、しばらくは従僕をしてもらうと言ってある」
やはり、ロニーの捨てられるかも、というのは、ロニーが心配し過ぎているだけだ。ルークはロニーに今後もアカリエル家で働いてほしいと思っているのを感じる。
「ロニーはすごく良い子なんですよ」
「そうだな、分かっている」
この日、この後もルークと少し他愛もない話をして、再び三尾に乗って西部騎士団の城に戻るのだった。
三尾の歩くスピードが上がる。城の中の敷地を滑らかに揺れなく進む三尾に、自然と笑みが零れてしまう。
「このくらいの速さは怖くないか?」
「はい、大丈夫です。楽しいです!」
「ははっ、そうか。では、もう少し速度を上げよう」
城の裏門を通り、城の外に出る。すると三尾はスピードを上げた。次々と景色が流れていく。
「すごく速いですね! 馬より速い気がします!」
「そうだな、今は馬より速さが出ている。……少しだけ身を低くしてくれ」
「えっ――」
目の前に壁のような岩のある山が表れた。迂回するのかと思いきや、ルークは背中から私を抱きしめる力を強くして少し身を低くすると、三尾は私たちを乗せたまま、岩へジャンプした。すいすいとジャンプしていき、器用に岩を登っていく。
三尾すごい! という気持ちと、完全に抱きしめられている状態の自分に、三尾に興奮すればいいのか、ルークに恥ずかしがればいいのか、わけが分からない。
心臓がどきどきして、ルークに聞こえるのでは、と思った時、岩山ゾーンは脱出したようで、ルークの体が少し離れてほっとした。夫とはいえ、他人に等しい男性と近すぎるのは、前世を含めて男性免疫のない私にはハードルが高い。ロニーは抱き上げてくれていたけれど、ロニーに動揺したことなど一度もないし、ロニーは弟というか家族枠だからかもしれない。
愛人がいる可能性の高いルークに、免疫がないからといちいちドキドキしていては、聞きたいことも聞けなくなってしまう。どこかで私の男性免疫を上げる練習の必要がありそうだ、と思っていると、三尾が草原のような場所に出た。
「わぁ! 綺麗!」
夕焼けになりかけている太陽と、可愛らしい小さな花も咲く草原が綺麗だった。三尾がゆっくりと速度を落とし、歩みを止めた。そしてルークが三尾から降りると、三尾が伏せをした。ルークが手を差し出したので、そこに手を乗せて私も三尾から降りる。
すると、まだスピードに乗っている感覚が抜けていないのか、よろよろと足が絡んでこけそうになったところ、ルークがとっさに支えてくれた。
「も、申し訳ありませんっ……」
「いや。大丈夫か?」
「だ、大丈夫で――」
顔を上げると、ルークの顔が目の前にあった。
(わぁ! 近い! お約束!)
急激に顔が熱くなり、急いでルークから離れる。これは助けてくれただけの、ただの親切心。ルークは妻には興味などない。夫を意識するなど、馬鹿のすることだ。
私は誤魔化すように、ルークから背を向け、「三尾さん! 匂いを下さい!」と言って三尾に抱き付いた。三尾のお日さまのような香りを嗅いで、ここは落ち着かなければ。私の後ろでは、「匂い?」とルークが言いながら、笑っているのを感じる。
いいではないか。アダムもだが、ルークもなぜ匂うことに反応するのだ。ここでは動物の匂いを嗅いだりする人はいないのだろうか。ヒーリング効果があるのに。
そうやって三尾の香りで落ち着き、顔を上げた。
「三尾さん、ありがとう」
私に顔を向ける三尾がイケメンだ。すごく癒されると思いながら、ルークにも顔を向ける。
「旦那様も、三尾に乗せてくださって、ありがとうございます」
「こんなことでいいなら、詫びと礼を兼ねて、また乗せてやろう」
「詫びと、礼、ですか?」
「先日の騒ぎの詫びと、厨房での礼だ」
そう言って、ルークが笑いだした。
「旦那様?」
「いや、悪い。あの騒ぎを思い出すと、人間が地面に全身を打ち付けた音を一緒に思い出してしまってな」
まあ、あれは私も綺麗に決まったな、とは思ったけれども。
「ロニーが足技を教えるのが上手で。あれはとっさにそれを応用したのです」
「ロニーと仲良くなったんだな。そのまま、あいつと親しくしてやってくれ」
「はい。……あの、ロニーって、以前は影だったとか」
「ああ。左目を怪我しているだろう。あれでは、左からの攻撃に気づけなかったりと危ないからな。慣れるまでは無理な仕事はさせられないから、しばらくは従僕をしてもらうと言ってある」
やはり、ロニーの捨てられるかも、というのは、ロニーが心配し過ぎているだけだ。ルークはロニーに今後もアカリエル家で働いてほしいと思っているのを感じる。
「ロニーはすごく良い子なんですよ」
「そうだな、分かっている」
この日、この後もルークと少し他愛もない話をして、再び三尾に乗って西部騎士団の城に戻るのだった。
1,264
お気に入りに追加
3,706
あなたにおすすめの小説
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる