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15 三尾天国
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親三尾が子三尾を連れて去っていき、私たちも食事休憩を切り上げて厨房に戻った。固まったリアを厨房に連れて行くのは大変だったけれど。
仕事に戻り、再び三人でおしゃべりしながら作業を進めて、夕方になった。
アダムは約束どおり、屋敷に戻る前に三尾がいるという場所まで連れて行ってくれた。リアは怖がっていたので、厨房で待つかどうか聞いたけれど、私と離れるのも嫌のようで一緒に付いてきた。
「嘘……ここは天国?」
二匹だけかと思いきや、大きいのと小さいの合わせて三尾が十匹以上いた。芝生の地面の広い敷地に、大きいのは二匹だが、小さい三尾がたくさんいる。
「全部、あの大きい三尾の子達ですか?」
「いえ、三尾は今、数匹は外に出ているので、全部があの二匹の子ではないですよ」
「外に出ている?」
「騎士と一緒にね。三尾にも仕事があるのですよ」
そうなのか。働く狼だったとは。食い扶持を稼いでいるのだろうか、と思っていると、コロコロとしたちびっ子三尾が二匹近寄ってきた。
「可愛いー!!」
ここは天国だ。たくさんの三尾に囲まれたい。小さい三尾は可愛く見えるようで、リアも恐る恐る撫でている。そこに男性が一人近寄ってきた。四十歳くらいに見える男性だ。
「なんだ、この娘たちは」
「ランドさん。厨房に臨時で入ってもらっているお嬢さん方ですよ。聞いていませんか?」
「聞いてない」
「ランドさんは厨房に行きませんからね。三尾が気に入ったようなので、連れてきました」
「まあいいが……これ以上先には行かないように」
ちょっと気難しそうな男性は、何匹かの三尾を連れて去っていく。
「三尾の飼い主さんですか?」
「飼い主というか、三尾を含めた世話係、と言っておきます」
なんだか、あいまいな言い方だけれど、騎士団内部の事は話せないこともあるのだろう、と気にしなかった。私は三尾をモフモフできれば、それでいい。
モフモフを堪能した私は、昨日と同様、アダムに護衛されて、リアと共にアカリエル邸に戻った。
そして次の日。
三日目になると慣れたもので、リアも私もじゃんじゃん野菜を切っていく。そして昼食時には、昨日と同様、騎士たちに質問攻めにあいながら昼食を盛り付けし、私たちも昼食をして、午後の仕事をした。そして、夕方の昨日よりは早い時間、再び三尾のいるところへ、アダムに案内してもらう。
リアは子三尾を、私は親子三尾をモフモフしていると、夫ルークの声が聞こえて、顔を上げた。
「なんだ、侍女二人が、なぜここにいる? 名前はアリーだったか?」
ルークは他の騎士を二人連れている。しかもみんな三尾の背に乗っていた。三尾に乗れるんだ、と驚きながら、近くまでやってきたルークに顔を向けた。ルークたちは、どこかから帰ってきたところのようだ。
「はい、アリーです。三尾が可愛いので、屋敷に戻る前に撫でさせてもらいにきました」
三尾に乗せてもらえるなんて、羨ましい。私も乗りたい。
「あの、三尾さん、わたくしも背中に乗せてもらえませんか?」
昨日、匂いを嗅がせてくれた三尾と同じ三尾かどうかは、顔を見ても見分けられない。けれど、なんとなくだが、一生懸命頼めば、三尾は私も乗せてくれる気がする。そんな一方的な願望から、三尾に聞いてみると、三尾ではなくルークが反応した。
「ははっ、三尾に乗りたいのか。変わってるな。乗せてやろうか?」
「いいのですか!? ぜひ!」
ルークは頷くと、リアを向いた。
「名前は?」
「えっ!? あ、リアです!」
「リアも乗りたいのか?」
「いいいいい、いいえ! 私は無理です!」
「えぇ? リア、せっかくの機会だもの、乗せてもらいましょう?」
「いいえ! 大きいのはちょっと! 私はこの子と遊んで待っています!」
リアはぶんぶんと顔を振っている。やはり、リアは親三尾は怖いらしい。
「そお? わたくしだけ楽しんじゃうわよ?」
「遠慮なく!」
まあ、私も無理にとは言わない。リアに頷くと、三尾に近づいた。私が乗っても、三尾は歩いてくれるだろうか。なんだかわくわくしてしまう。
ルークが三尾から降りたため、ルークが乗っていた三尾に乗せてもらえるのだろう。三尾が座って伏せたので、私は三尾に跨る。すると、なぜか後ろにルークが座った。
「え……どうして旦那様がお座りに?」
「三尾に乗って走りたいのではないのか? 背に乗りたいだけか?」
「走らせてもらえるなら、走りたいです」
「だったら、誰か後ろに乗らないと、振り落とされるぞ」
「な、なるほど。……では、どうぞよろしくお願い致します」
「ああ」
せっかくわくわくしていたのに、ルークが乗ったせいで、変な緊張感が生まれてしまった。ルークが近すぎる気がする。
「一巡りしてくる」
ルークは他の騎士たちにそう言うと、私のお腹に腕を回した。そして、いつ意思疎通をしたのか、ルークが何も言わなかったのに、三尾は私とルークを乗せたまま歩き出した。
仕事に戻り、再び三人でおしゃべりしながら作業を進めて、夕方になった。
アダムは約束どおり、屋敷に戻る前に三尾がいるという場所まで連れて行ってくれた。リアは怖がっていたので、厨房で待つかどうか聞いたけれど、私と離れるのも嫌のようで一緒に付いてきた。
「嘘……ここは天国?」
二匹だけかと思いきや、大きいのと小さいの合わせて三尾が十匹以上いた。芝生の地面の広い敷地に、大きいのは二匹だが、小さい三尾がたくさんいる。
「全部、あの大きい三尾の子達ですか?」
「いえ、三尾は今、数匹は外に出ているので、全部があの二匹の子ではないですよ」
「外に出ている?」
「騎士と一緒にね。三尾にも仕事があるのですよ」
そうなのか。働く狼だったとは。食い扶持を稼いでいるのだろうか、と思っていると、コロコロとしたちびっ子三尾が二匹近寄ってきた。
「可愛いー!!」
ここは天国だ。たくさんの三尾に囲まれたい。小さい三尾は可愛く見えるようで、リアも恐る恐る撫でている。そこに男性が一人近寄ってきた。四十歳くらいに見える男性だ。
「なんだ、この娘たちは」
「ランドさん。厨房に臨時で入ってもらっているお嬢さん方ですよ。聞いていませんか?」
「聞いてない」
「ランドさんは厨房に行きませんからね。三尾が気に入ったようなので、連れてきました」
「まあいいが……これ以上先には行かないように」
ちょっと気難しそうな男性は、何匹かの三尾を連れて去っていく。
「三尾の飼い主さんですか?」
「飼い主というか、三尾を含めた世話係、と言っておきます」
なんだか、あいまいな言い方だけれど、騎士団内部の事は話せないこともあるのだろう、と気にしなかった。私は三尾をモフモフできれば、それでいい。
モフモフを堪能した私は、昨日と同様、アダムに護衛されて、リアと共にアカリエル邸に戻った。
そして次の日。
三日目になると慣れたもので、リアも私もじゃんじゃん野菜を切っていく。そして昼食時には、昨日と同様、騎士たちに質問攻めにあいながら昼食を盛り付けし、私たちも昼食をして、午後の仕事をした。そして、夕方の昨日よりは早い時間、再び三尾のいるところへ、アダムに案内してもらう。
リアは子三尾を、私は親子三尾をモフモフしていると、夫ルークの声が聞こえて、顔を上げた。
「なんだ、侍女二人が、なぜここにいる? 名前はアリーだったか?」
ルークは他の騎士を二人連れている。しかもみんな三尾の背に乗っていた。三尾に乗れるんだ、と驚きながら、近くまでやってきたルークに顔を向けた。ルークたちは、どこかから帰ってきたところのようだ。
「はい、アリーです。三尾が可愛いので、屋敷に戻る前に撫でさせてもらいにきました」
三尾に乗せてもらえるなんて、羨ましい。私も乗りたい。
「あの、三尾さん、わたくしも背中に乗せてもらえませんか?」
昨日、匂いを嗅がせてくれた三尾と同じ三尾かどうかは、顔を見ても見分けられない。けれど、なんとなくだが、一生懸命頼めば、三尾は私も乗せてくれる気がする。そんな一方的な願望から、三尾に聞いてみると、三尾ではなくルークが反応した。
「ははっ、三尾に乗りたいのか。変わってるな。乗せてやろうか?」
「いいのですか!? ぜひ!」
ルークは頷くと、リアを向いた。
「名前は?」
「えっ!? あ、リアです!」
「リアも乗りたいのか?」
「いいいいい、いいえ! 私は無理です!」
「えぇ? リア、せっかくの機会だもの、乗せてもらいましょう?」
「いいえ! 大きいのはちょっと! 私はこの子と遊んで待っています!」
リアはぶんぶんと顔を振っている。やはり、リアは親三尾は怖いらしい。
「そお? わたくしだけ楽しんじゃうわよ?」
「遠慮なく!」
まあ、私も無理にとは言わない。リアに頷くと、三尾に近づいた。私が乗っても、三尾は歩いてくれるだろうか。なんだかわくわくしてしまう。
ルークが三尾から降りたため、ルークが乗っていた三尾に乗せてもらえるのだろう。三尾が座って伏せたので、私は三尾に跨る。すると、なぜか後ろにルークが座った。
「え……どうして旦那様がお座りに?」
「三尾に乗って走りたいのではないのか? 背に乗りたいだけか?」
「走らせてもらえるなら、走りたいです」
「だったら、誰か後ろに乗らないと、振り落とされるぞ」
「な、なるほど。……では、どうぞよろしくお願い致します」
「ああ」
せっかくわくわくしていたのに、ルークが乗ったせいで、変な緊張感が生まれてしまった。ルークが近すぎる気がする。
「一巡りしてくる」
ルークは他の騎士たちにそう言うと、私のお腹に腕を回した。そして、いつ意思疎通をしたのか、ルークが何も言わなかったのに、三尾は私とルークを乗せたまま歩き出した。
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