最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜

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14 三尾

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 コロコロとした真っ白の子犬は、まっすぐにこちらに向かってくる。なぜか尻尾が三つあるように見えるが、まあそんなこともあるだろう。そんなのは些末なこと。何も問題なし。

 真っ先に椅子から立ち上がり、やってきた子犬をしゃがんで撫でまわす。ふさふさでふわふわの毛並みが気持ちいい。顔つきも赤ちゃん動物の可愛い顔だ。人懐っこい子犬は、ぶんぶんと尻尾を振っていた。

「何でしょう、この子! 騎士団で子犬を飼ってるのですか!? 可愛いっ……!」
「三尾ですね。犬ではないです。騎士団で飼っているというか、同士?」
「同士? 犬ではないって、何の動物ですか?」
「狼ですよ」
「……狼?」
「三尾の寝床はもっと向こう側なので、きっと逃げ出してきたのですね」

 狼? とっても可愛い犬にしか見えない。それにしても、可愛い。可愛すぎる。

 現世では動物など飼う余裕はなかったし、兄が嫌いなので動物と触れ合えたためしがない。
 しかし、前世では実家で犬と猫を飼っていた。兄と二人暮らしの家では、せめて家で飼える猫が飼いたかったのだが、兄に却下されてしまったのだ。前世の兄だって犬猫が好きなくせに、家を留守にしていることが多いから可哀想だろう、と言われ、私も諦めるしかなかった。

 でも、今なら犬か猫を飼いたいといえば、飼わせてもらえるのでは? イーライ経由で夫ルークにお願いしてみようか、と考える。このコロコロとした子狼が飼えないだろうか。可愛すぎる。

 そう思っていると、自分の頭上から影が下りたのを感じ、上を見ると大きい犬が私を見下ろしているのに気づいた。

「…………」

 あ、私死んだ、そう思ったが、喰われるのかと思ったのは間違いだったらしい。大きい犬は子狼を鼻でツンツンしている。

「アリーさん? 息をしていますか?」
「……はっ」

 思いっきり息を吸い込んだ。無意識に息を止めてしまっていたらしい。よく見ると、大きい犬は尻尾が三つある。

「……もしかして、この子の親かしら?」
「そうですよ。三尾、迎えに来たのか?」

 アダムが大きい三尾を撫でている。ちょっと怖いけれど、私も撫でたい。

「あの……わたくしも撫でさせてもらえるでしょうか」
「いいと思いますよ。三尾は人懐っこいですから」

 そっと立ち上がり、三尾を驚かせないように、ゆっくりと三尾の傍に移動するが、私に威嚇する様子もなく、じっとしてくれている。

「三尾さん、お、恐れ入ります、撫でさせてください」

 三尾が嫌がる様子がないので、ゆっくりと三尾の首元に手を伸ばした。三尾の毛並みはふさふさしていて、手触りがいい。

「わぁ……気持ちいい……可愛い……」

 大人の三尾は大きい。普通の犬の何倍もある。馬よりも大きいが、こんな大きい狼は初めて見る。いや、狼自体、初めて見るのだけれども。目がシュッとしていて、とってもイケメンな狼である。

「可愛い可愛い……あ、あの、三尾さん、匂いを嗅いでもいいですか?」
「匂い?」

 三尾に言ったのに、アダムが疑問の声を上げた。

「犬や猫の匂いって、嗅ぎたくなりますよね!」
「……いや、うーん?」

 アダムには聞いていない。三尾に聞いているのだ。

「いいですか? 三尾さん」

 きっと言葉なんて分からないよね。もう嗅いじゃえ、と三尾の首元に顔をうずめた。
 落ち着くような匂いがする。お日さまのような、自然の香り。これはヒーリング効果がありそうだ。そっと三尾を窺うと、嫌がる様子はなく、じっとしてくれている。

「三尾さん、ありがとうございました」

 三尾から離れると、三尾の目が笑ったような気がした。イケメンが過ぎませんか。
 今度は子三尾のほうを撫でる。

「三尾って可愛いですね。こういう動物がいることを初めて知りました」
「俺も、三尾を初めて見て、ここまですぐに三尾とじゃれだす人、初めて見ました」
「それくらいの魅力が、三尾にあるってことです」
「普通は初見では怖がるものですけれどね。リアさんのように」

 そう言われて、寝ていたはずのリアを見ると、いつの間にかリアは起きていて、恐怖の顔で固まっていた。

「あら」
「ね、これが普通です。騎士団に関係のない者は、三尾を初めて見るはずですから。三尾は騎士団にしかいないのですよ」
「そうなのですか?」
「ええ。昔は西部騎士団にしかいませんでした。今は北部騎士団にもいると聞いています」

 どちらにしても、三尾にはここに来ないと会えないわけだ。

「ということは、家で飼うのは無理ということですね。残念です」
「飼いたかったんですか。そこまで気に入られたのなら、夕方、アカリエル邸に送り届ける前に三尾にもう一度会わせましょうか?」
「いいんですか!? ぜひっ!」
「すごく前のめりですね。俺にもそれくらい興味を持ってくださると嬉しいのですが」

 アダムの最後のセリフは無視し、思う存分、小さい子三尾をモフモフするのだった。
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