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12 ちょっとした事件

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 芋を片付けた後は、玉ねぎがやってきた。玉ねぎの皮を手で向き、料理長の言う大きさに切っていく。そうこうしているうちに、いつの間にかおやつの時間になっていた。

「休憩にしていいそうです。外で昼食にしましょう」

 アダムに言われて初めて、そういえば今日は昼食をまだしていなかったことを思い出す。アダムが広いトレーに料理を乗せて持ってくれて、私とリアも一緒に外に出て、木の下にあるベンチとテーブルで休憩をする。

「おいしそうね!」

 牛肉のシチューとパンといった軽いメニューだが、公爵邸で出る豪華な食事ではなく、こういうものも食べたいと思っていたのだ。パンも焼きたてで美味しそうだ。

 三人で昼食を開始する。木陰で風が穏やかにふく。

「風は気持ちいいし、食事も美味しいし、働いた後の食事って最高ね」
「ははは、そうですね」
「私は気持ちよすぎて、この後眠っちゃいそうです」

 リアが少し眠そうにしている。働いたこともあるが、木漏れ日と風が気持ちよすぎて、リアが眠くなる気持ちは分かる。

 食事をしてお腹いっぱいになった後、リアがテーブルの上に顔を乗せてお昼寝をしている中、私は少し離れたところにある木に、木の実なのか果物なのかが生っているのに気づいた。

「あの実は何ですか?」
「ああ、あれは……何だったかな。柑橘系の果物ですよ。城内にいくつか、あの木はありますね。まだ酸っぱいかもしれませんが、取ってみましょうか。蜂蜜と混ぜると、美味しいジュースになりますよ」
「いいですね!」

 少し黄緑色をしてはいるが、絞った汁と蜂蜜で美味しくなりそうだ。ちょっと苦味があっても、大人な味で良いかもしれない。

 アダムと果物を複数個もぎ取り、テーブルに戻って来るとリアがちょうど目が覚めたところだった。

「おはようございます……それ、何ですか?」
「名前は分からないけれど、柑橘系の果物みたい。蜂蜜と混ぜてジュースにしましょう」

 アダムは空の皿を乗せたトレーを持ち、アダムが持っていた果物はリアが持ってくれることになった。私も複数の果物を抱え、休憩も終え、厨房へ戻っている最中、何やら離れたところから喧噪のようなものが聞こえるな、と思っていると、「あっ」とリアが声を出した。

「申し訳ありませんー!」

 リアが果物を数個落とし、それが傾斜になった地面をコロコロと転がっていく。それをリアが走って追いかけて行った。厨房への道から少し反れるため、アダムにはそこで待ってもらい、私もリアを追いかける。

 建物と建物の間にある渡り廊下で果物は止まり、リアがそこに追いついた。その時、建物から急に怒声が聞こえた。なんだろう、と私は足を止める。建物から男が逃げるように飛び出し、それを騎士が追いかけていた。私はリアのところへ再び足を向けながら、声を出す。

「リア! 逃げて!」

 追いかけられている男が、リアに近づいていく。手に小さいナイフのようなものを持っていた。リアは固まったように動かない。

 リアに追いついた私は、ギリギリでリアの服をひっぱり、そのまま身を低くした。その勢いで男の足を私の足で払うように引っかけた。

――ビタンッ!

 男は思いっきり地面に全身を打ち付けたが、私は構わずリアを連れて後退しているところ、アダムが目の前にいて、私を通り過ぎて男を地面に抑えつけた。リアが危ないと気づいて、こっちに来てくれていたようだ。

 男を追っていた騎士たちも追いつき、男は完全に取り押さえられた。その時、私はそこに夫ルークがいることに気づいた。

「っうぐ」

 怖かったのか、リアが泣きそうになっているのを我慢しているので、私はリアを抱き寄せる。

「よしよし、もう大丈夫」

 リアを落ち着かせようと背中を撫でていると、ルークがこちらに近寄ってきた。

「怪我はないか?」
「リア、痛いところはない?」
「だ、大丈夫です」

 リアが私に抱き付いたまま答える。

「そうか。君は?」
「わたくしも何ともありません」

 ルークは頷くが、横を向いて自身の手の甲を口元にやりながら、何やら笑いを堪えているように見える。

「……旦那様?」
「……っ悪い。笑ってはいけないな」

 そう言いながら、まだおかしいようで下を向いて震えている。何がそんなに面白いのだろうか。

 そして、ルークは顔を上げたものの、完全に顔は笑ったままだ。笑うと少し幼く見えて可愛いかもしれない。

「人が全身を地面に打ち付けると、ああいう音がするのだな、というのと、女性の君がそれをやったというのが、妙な組み合わせだと思って、つい。笑って悪い」
「い、いいえ、面白かったなら、何よりです……」
「しかし、動きが素早いな? 迷いがなかったが、どこかで教わっているのか」
「はい、ロニーに教わっています」
「ロニーに? あいつ、人に教えるなんて、できたのか」

 ルークは意外だ、と言いたげな表情である。
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