最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜

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11 西部騎士団の状況

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 城の厨房に案内された私とリアは、広い厨房で少ない人数が忙しそうに働いているのを見ていた。案内してくれたアダムが、料理長を呼んだ。

 忙しいからか、元からそういった顔なのか、険しい表情の料理長は、私たちを見て眉を寄せた。

「まさか、この娘らが手伝い? 使えるんだろうな?」
「最初は大目に見てください。せっかく好意で公爵家から来てくださってるのですから。それに、俺も入りますし」
「アダムも入るのか? それは助かる。とりあえず、あっちの芋をむいて切ってくれ」

 料理長は、私とリアが名前を名乗って挨拶すると、手をひらひらと振って、持ち場に戻っていく。

「アダムさんも、手伝いをされるのですか?」
「人員が補充されるまでは、騎士の中から持ち周りで、一人出す予定だったんです。ちょうどイーライさんからお嬢さん方を預かった身ですし、お嬢さん方の護衛もかねて、俺が入ると団長には伝えました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ」

 私たちは三人で芋をむくことになったが、芋の量を見て、リアが青い顔をした。

「こ、これ、全部むくのでしょうか」
「そうみたいね……」

 私も若干青くなる。アダムが料理長を再び呼び、芋を切る大きさについても指導を受けた。そして、私はとりあえず芋をむいてみることにした。幸い、包丁は前世の包丁とあまり変わりはないようなので、慣れればいけるだろう。

「リア、とりあえず、わたくしがむいてみるから見てて」

 皮がむけるピーラーのような調理器具がないようなので、ひたすら包丁で皮をむく。少しドキドキしたが、芋は包丁で綺麗に向けた。いけそうだ。

「こんな感じで、どうかしら」
「すごいです、アリーさん!」

 長く連なった皮を見て、リアが感動したように拍手をしている。アダムも感心したように頷いた。

「本当に上手ですね、アリーさん。料理をされるのですか?」
「いいえ、今日が初めてなのですけれど、いけそうでよかった」
「初めて!? それなのに名乗りをあげて下さるなんて、思い切りましたね」

 アダムに曖昧に笑みを向け、リアにまずは包丁の皮むきを指導する。リアは頷きながら皮をむいているが、短くずつしか切れず苦戦している。包丁を初めて使うのが皮むきでは、少し難しすぎるかもしれない。

 一方、アダムも皮むきに入ったが、アダムはプロのようだった。

「アダムさんも皮むき、お上手ですね」
「騎士をやっていると、野宿や野営なんかもありますからね。騎士はみな、多少は料理をすることができます」

 これは作業分担したほうがよさそうだと思い、皮むきに苦戦しているリアには、私とアダムが皮をむいた芋を、料理長に教わった大きさに切ってもらうことにした。皮むきより切る方が難しくないと、リアは教えた通りに順調に切っていっている。

 元から厨房にいる料理長たち数名は、忙しそうに動き回っている。もうすぐ昼食の時間だからだろう。私たちが切っている芋は、夕食用らしい。私たちは、作業を進めながらも、会話をする。

「わたくしから見ても、厨房は人が足りないように見えますね」
「いっきに四人減ってしまったんですよ」
「四人も!? それは大変ですね。ここにいる騎士は何人くらいいるのですか?」

 アダムが教えてくれた騎士の人数に驚く。

「そんなにいるのですね。辞められた四人よりもっと多めに、厨房に雇い入れたほうがよいのではないかしら」
「そうしたいのですけれどね、場所が場所だけに、なり手が少ないのですよ」

 どういう意味だろう、と首を傾げていると、アダムは説明してくれた。

 アカリエル領はタニア王国と隣接しており、西部騎士団の城は国境間近に存在する。城の周りには何もなく、森や道路があるだけ。国境付近ということで、タニア王国の民や我が国の民の行き来は多少あるものの、昔からそれと同時に山賊がいたり怪しい動きをする人物がいたりと、治安が良くないという。タニア王国との小さな小競り合いなんかも、頻繁に起きているらしい。

 そういう意味で、城の近辺は物騒かつ娯楽がない。騎士以外で城で働いている者も多いが、ここで働くことは、休みの日に遊びに行くところがなく、家族にも会いに行く時間がない、ということで、やりたがるものが少ないというのだ。

 ちなみに、アカリエル領には大きい街があるが、城から馬車で一時間くらいかかるらしい。その間にアカリエル公爵邸があり、タニア王国側から見ると、国境、西部騎士団の城、アカリエル邸、街、という位置づけになるという。アカリエル邸の周囲も、城近辺ほどではないが治安は良くないという。

「そうだったのですね。そこまで治安が良くないとは知りませんでした」
「アリーさんとリアさんが、使用人受け入れでアカリエル邸に来た時、きっと護衛が付いていたはずですよ。街からの道も安全とは言い難いので、公爵邸の使用人の行き来は、基本、公爵邸から護衛を出しますから」

 リアを見ると、リアは頷いた。確かに護衛がいた、ということなのだろう。私の時にも付いていた。自分が住んでいる場所なのに、私は色々と知らないことが多すぎると改めて思い知った。
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