11 / 48
11 西部騎士団の状況
しおりを挟む
城の厨房に案内された私とリアは、広い厨房で少ない人数が忙しそうに働いているのを見ていた。案内してくれたアダムが、料理長を呼んだ。
忙しいからか、元からそういった顔なのか、険しい表情の料理長は、私たちを見て眉を寄せた。
「まさか、この娘らが手伝い? 使えるんだろうな?」
「最初は大目に見てください。せっかく好意で公爵家から来てくださってるのですから。それに、俺も入りますし」
「アダムも入るのか? それは助かる。とりあえず、あっちの芋をむいて切ってくれ」
料理長は、私とリアが名前を名乗って挨拶すると、手をひらひらと振って、持ち場に戻っていく。
「アダムさんも、手伝いをされるのですか?」
「人員が補充されるまでは、騎士の中から持ち周りで、一人出す予定だったんです。ちょうどイーライさんからお嬢さん方を預かった身ですし、お嬢さん方の護衛もかねて、俺が入ると団長には伝えました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ」
私たちは三人で芋をむくことになったが、芋の量を見て、リアが青い顔をした。
「こ、これ、全部むくのでしょうか」
「そうみたいね……」
私も若干青くなる。アダムが料理長を再び呼び、芋を切る大きさについても指導を受けた。そして、私はとりあえず芋をむいてみることにした。幸い、包丁は前世の包丁とあまり変わりはないようなので、慣れればいけるだろう。
「リア、とりあえず、わたくしがむいてみるから見てて」
皮がむけるピーラーのような調理器具がないようなので、ひたすら包丁で皮をむく。少しドキドキしたが、芋は包丁で綺麗に向けた。いけそうだ。
「こんな感じで、どうかしら」
「すごいです、アリーさん!」
長く連なった皮を見て、リアが感動したように拍手をしている。アダムも感心したように頷いた。
「本当に上手ですね、アリーさん。料理をされるのですか?」
「いいえ、今日が初めてなのですけれど、いけそうでよかった」
「初めて!? それなのに名乗りをあげて下さるなんて、思い切りましたね」
アダムに曖昧に笑みを向け、リアにまずは包丁の皮むきを指導する。リアは頷きながら皮をむいているが、短くずつしか切れず苦戦している。包丁を初めて使うのが皮むきでは、少し難しすぎるかもしれない。
一方、アダムも皮むきに入ったが、アダムはプロのようだった。
「アダムさんも皮むき、お上手ですね」
「騎士をやっていると、野宿や野営なんかもありますからね。騎士はみな、多少は料理をすることができます」
これは作業分担したほうがよさそうだと思い、皮むきに苦戦しているリアには、私とアダムが皮をむいた芋を、料理長に教わった大きさに切ってもらうことにした。皮むきより切る方が難しくないと、リアは教えた通りに順調に切っていっている。
元から厨房にいる料理長たち数名は、忙しそうに動き回っている。もうすぐ昼食の時間だからだろう。私たちが切っている芋は、夕食用らしい。私たちは、作業を進めながらも、会話をする。
「わたくしから見ても、厨房は人が足りないように見えますね」
「いっきに四人減ってしまったんですよ」
「四人も!? それは大変ですね。ここにいる騎士は何人くらいいるのですか?」
アダムが教えてくれた騎士の人数に驚く。
「そんなにいるのですね。辞められた四人よりもっと多めに、厨房に雇い入れたほうがよいのではないかしら」
「そうしたいのですけれどね、場所が場所だけに、なり手が少ないのですよ」
どういう意味だろう、と首を傾げていると、アダムは説明してくれた。
アカリエル領はタニア王国と隣接しており、西部騎士団の城は国境間近に存在する。城の周りには何もなく、森や道路があるだけ。国境付近ということで、タニア王国の民や我が国の民の行き来は多少あるものの、昔からそれと同時に山賊がいたり怪しい動きをする人物がいたりと、治安が良くないという。タニア王国との小さな小競り合いなんかも、頻繁に起きているらしい。
そういう意味で、城の近辺は物騒かつ娯楽がない。騎士以外で城で働いている者も多いが、ここで働くことは、休みの日に遊びに行くところがなく、家族にも会いに行く時間がない、ということで、やりたがるものが少ないというのだ。
ちなみに、アカリエル領には大きい街があるが、城から馬車で一時間くらいかかるらしい。その間にアカリエル公爵邸があり、タニア王国側から見ると、国境、西部騎士団の城、アカリエル邸、街、という位置づけになるという。アカリエル邸の周囲も、城近辺ほどではないが治安は良くないという。
「そうだったのですね。そこまで治安が良くないとは知りませんでした」
「アリーさんとリアさんが、使用人受け入れでアカリエル邸に来た時、きっと護衛が付いていたはずですよ。街からの道も安全とは言い難いので、公爵邸の使用人の行き来は、基本、公爵邸から護衛を出しますから」
リアを見ると、リアは頷いた。確かに護衛がいた、ということなのだろう。私の時にも付いていた。自分が住んでいる場所なのに、私は色々と知らないことが多すぎると改めて思い知った。
忙しいからか、元からそういった顔なのか、険しい表情の料理長は、私たちを見て眉を寄せた。
「まさか、この娘らが手伝い? 使えるんだろうな?」
「最初は大目に見てください。せっかく好意で公爵家から来てくださってるのですから。それに、俺も入りますし」
「アダムも入るのか? それは助かる。とりあえず、あっちの芋をむいて切ってくれ」
料理長は、私とリアが名前を名乗って挨拶すると、手をひらひらと振って、持ち場に戻っていく。
「アダムさんも、手伝いをされるのですか?」
「人員が補充されるまでは、騎士の中から持ち周りで、一人出す予定だったんです。ちょうどイーライさんからお嬢さん方を預かった身ですし、お嬢さん方の護衛もかねて、俺が入ると団長には伝えました」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いえいえ」
私たちは三人で芋をむくことになったが、芋の量を見て、リアが青い顔をした。
「こ、これ、全部むくのでしょうか」
「そうみたいね……」
私も若干青くなる。アダムが料理長を再び呼び、芋を切る大きさについても指導を受けた。そして、私はとりあえず芋をむいてみることにした。幸い、包丁は前世の包丁とあまり変わりはないようなので、慣れればいけるだろう。
「リア、とりあえず、わたくしがむいてみるから見てて」
皮がむけるピーラーのような調理器具がないようなので、ひたすら包丁で皮をむく。少しドキドキしたが、芋は包丁で綺麗に向けた。いけそうだ。
「こんな感じで、どうかしら」
「すごいです、アリーさん!」
長く連なった皮を見て、リアが感動したように拍手をしている。アダムも感心したように頷いた。
「本当に上手ですね、アリーさん。料理をされるのですか?」
「いいえ、今日が初めてなのですけれど、いけそうでよかった」
「初めて!? それなのに名乗りをあげて下さるなんて、思い切りましたね」
アダムに曖昧に笑みを向け、リアにまずは包丁の皮むきを指導する。リアは頷きながら皮をむいているが、短くずつしか切れず苦戦している。包丁を初めて使うのが皮むきでは、少し難しすぎるかもしれない。
一方、アダムも皮むきに入ったが、アダムはプロのようだった。
「アダムさんも皮むき、お上手ですね」
「騎士をやっていると、野宿や野営なんかもありますからね。騎士はみな、多少は料理をすることができます」
これは作業分担したほうがよさそうだと思い、皮むきに苦戦しているリアには、私とアダムが皮をむいた芋を、料理長に教わった大きさに切ってもらうことにした。皮むきより切る方が難しくないと、リアは教えた通りに順調に切っていっている。
元から厨房にいる料理長たち数名は、忙しそうに動き回っている。もうすぐ昼食の時間だからだろう。私たちが切っている芋は、夕食用らしい。私たちは、作業を進めながらも、会話をする。
「わたくしから見ても、厨房は人が足りないように見えますね」
「いっきに四人減ってしまったんですよ」
「四人も!? それは大変ですね。ここにいる騎士は何人くらいいるのですか?」
アダムが教えてくれた騎士の人数に驚く。
「そんなにいるのですね。辞められた四人よりもっと多めに、厨房に雇い入れたほうがよいのではないかしら」
「そうしたいのですけれどね、場所が場所だけに、なり手が少ないのですよ」
どういう意味だろう、と首を傾げていると、アダムは説明してくれた。
アカリエル領はタニア王国と隣接しており、西部騎士団の城は国境間近に存在する。城の周りには何もなく、森や道路があるだけ。国境付近ということで、タニア王国の民や我が国の民の行き来は多少あるものの、昔からそれと同時に山賊がいたり怪しい動きをする人物がいたりと、治安が良くないという。タニア王国との小さな小競り合いなんかも、頻繁に起きているらしい。
そういう意味で、城の近辺は物騒かつ娯楽がない。騎士以外で城で働いている者も多いが、ここで働くことは、休みの日に遊びに行くところがなく、家族にも会いに行く時間がない、ということで、やりたがるものが少ないというのだ。
ちなみに、アカリエル領には大きい街があるが、城から馬車で一時間くらいかかるらしい。その間にアカリエル公爵邸があり、タニア王国側から見ると、国境、西部騎士団の城、アカリエル邸、街、という位置づけになるという。アカリエル邸の周囲も、城近辺ほどではないが治安は良くないという。
「そうだったのですね。そこまで治安が良くないとは知りませんでした」
「アリーさんとリアさんが、使用人受け入れでアカリエル邸に来た時、きっと護衛が付いていたはずですよ。街からの道も安全とは言い難いので、公爵邸の使用人の行き来は、基本、公爵邸から護衛を出しますから」
リアを見ると、リアは頷いた。確かに護衛がいた、ということなのだろう。私の時にも付いていた。自分が住んでいる場所なのに、私は色々と知らないことが多すぎると改めて思い知った。
1,135
お気に入りに追加
3,733
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】内緒で死ぬことにした〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を、なぜわたしは生まれ変わったの?〜
たろ
恋愛
この話は
『内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜』
の続編です。
アイシャが亡くなった後、リサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
そして、アイシャを産んだ。
父であるカイザも、リサとハイドも、アイシャが前世のそのままの姿で転生して、自分たちの娘として生まれてきたことを知っていた。
ただアイシャには昔の記憶がない。
だからそのことは触れず、新しいアイシャとして慈しみ愛情を与えて育ててきた。
アイシャが家族に似ていない、自分は一体誰の子供なのだろうと悩んでいることも知らない。
親戚にあたる王子や妹に、意地悪を言われていることも両親は気が付いていない。
アイシャの心は、少しずつ壊れていくことに……
明るく振る舞っているとは知らずに可愛いアイシャを心から愛している両親と祖父。
アイシャを助け出して心を救ってくれるのは誰?
◆ ◆ ◆
今回もまた辛く悲しい話しが出てきます。
無理!またなんで!
と思われるかもしれませんが、アイシャは必ず幸せになります。
もし読んでもいいなと思う方のみ、読んで頂けたら嬉しいです。
多分かなりイライラします。
すみません、よろしくお願いします
★内緒で死ぬことにした の最終話
キリアン君15歳から14歳
アイシャ11歳から10歳
に変更しました。
申し訳ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる