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04 婚姻契約 ※ルーク視点
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アカリエル領のアカリエル公爵家本邸で、当主であるルークは家令兼執事であるイーライから報告を聞いていた。
「奥様は三日前に無事に屋敷に入られました。まだベッドから起き上がられるのは難しいため、しばらくは侍女だけでなく、ロニーを付けております。また、お食事に関してですが、固形物を飲み込むのは難しいようでしたので、流動食から始めております」
「そうか」
ロニーとは、アカリエル公爵家本邸の従僕である。
この国の最西の地、グラルスティール帝国アカリエル領には、西部騎士団がある。アカリエル公爵家当主であり、西部騎士団の騎士団長でもあるルークは、騎士団から先ほど帰ってきたばかりであった。
忙しい合間を縫い、先日バリー伯爵の妹アリスを妻に娶ることに決めたわけだが、妻となるアリスを初めて見た時は驚いた。病弱とは聞いていたが、ガリガリに痩せ細り、あれで生きているのが不思議なほど弱り切っていた。
ルークには主張の激しくない令嬢を妻に迎えたい理由があった。できれば一年か二年、大人しくアカリエル領で過ごしてくれる令嬢が。そんな時、関わりの薄いバリー伯爵に病弱の妹がいると聞き、希望にあった令嬢だと喜んだのだが。
まさか、あそこまで弱っているとは思っていなかった。あれは病弱というより栄養の足りていない体だ。バリー伯爵家は貧乏だとは聞いていたが、食べるものに困るほどだったとは。それにしては、バリー伯爵はツヤツヤしていて、元気そうではあったが。
とはいえ、アリスはあのままあの家にいては死ぬのは目に見えていた。即座に結婚を決めた。ルークとしても大人しく屋敷にいてくれる令嬢は都合がよい。
「バリー伯爵令嬢……、いや、アリスには、無理をさせずに、ゆっくりと元気になってもらえればそれでいい。あの状態では、二年程度は元気になるのに時間がかかるだろう。急がせることはない。俺が帰ってこれない間、アリスをよく見てあげてくれ」
「承知しました。こちらは奥様に記入いただいた、婚姻証のサインです」
ルークはイーライから書類を受け取り、内容を見て頷いた。指の力がないのか、アリスのサインはよれていたが、読めるので問題ない。アリスのサインの横にルークは自身のサインを入れる。これでルークとアリスは婚姻の契約が済んだことになる。
「俺の結婚を知れば、あの男が押しかけてくるかもしれないが、屋敷には入れるな」
「承知しております」
あの男、ジョセ・ル・イェロン伯爵は、ルークの腹違いの兄だった。ルークにアカリエル公爵の座を奪われ、ルークを恨んでいる。今まで、ルークをあの手この手で排除しようとして、失敗してきているが、ルークの婚姻を知り、どうでるか。
そもそもこの婚姻は、異母兄の企みを除ける目的に起因している。こんなことに巻き込んだアリスには悪いと思っているので、アリスに何か望みがあるなら叶えてあげたいと思う。
「アリスが何か希望を言ったなら、叶えてあげてくれ。俺に許可を求める必要はない。イーライの裁量に任せる」
「承知しましたが……、旦那様に許可が必要な水準を聞いておきたいのですが」
「欲しい物があるなら、予算内であれば自由に使っていい。予算を超えるものなら、俺に聞いてくれ。あとはそうだな……、領地内で済まないようなこと、例えば帝都に行きたいとか、そういった希望があるなら、俺に聞いてくれ。くれぐれも、あの男には関わらせないように」
「承知しました。奥様については、報告書をまとめますか?」
「不要だ。先ほど言ったこと以外は、俺に報告して俺が許可したと言ってアリスは自由にさせてやってくれ。俺にはわざわざ報告も不要だ。許可が必要な時だけ聞いてくれればいい」
アリスに関しての報告が終わると、イーライは執務に関する報告に移る。
ルークは、西部騎士団の騎士団長としてだけでなく、領内の執務、事業と多忙を極めている。妻を娶ったばかりだというのに、すでに頭の中は妻ではなく仕事で埋め尽くされているのだった。
「奥様は三日前に無事に屋敷に入られました。まだベッドから起き上がられるのは難しいため、しばらくは侍女だけでなく、ロニーを付けております。また、お食事に関してですが、固形物を飲み込むのは難しいようでしたので、流動食から始めております」
「そうか」
ロニーとは、アカリエル公爵家本邸の従僕である。
この国の最西の地、グラルスティール帝国アカリエル領には、西部騎士団がある。アカリエル公爵家当主であり、西部騎士団の騎士団長でもあるルークは、騎士団から先ほど帰ってきたばかりであった。
忙しい合間を縫い、先日バリー伯爵の妹アリスを妻に娶ることに決めたわけだが、妻となるアリスを初めて見た時は驚いた。病弱とは聞いていたが、ガリガリに痩せ細り、あれで生きているのが不思議なほど弱り切っていた。
ルークには主張の激しくない令嬢を妻に迎えたい理由があった。できれば一年か二年、大人しくアカリエル領で過ごしてくれる令嬢が。そんな時、関わりの薄いバリー伯爵に病弱の妹がいると聞き、希望にあった令嬢だと喜んだのだが。
まさか、あそこまで弱っているとは思っていなかった。あれは病弱というより栄養の足りていない体だ。バリー伯爵家は貧乏だとは聞いていたが、食べるものに困るほどだったとは。それにしては、バリー伯爵はツヤツヤしていて、元気そうではあったが。
とはいえ、アリスはあのままあの家にいては死ぬのは目に見えていた。即座に結婚を決めた。ルークとしても大人しく屋敷にいてくれる令嬢は都合がよい。
「バリー伯爵令嬢……、いや、アリスには、無理をさせずに、ゆっくりと元気になってもらえればそれでいい。あの状態では、二年程度は元気になるのに時間がかかるだろう。急がせることはない。俺が帰ってこれない間、アリスをよく見てあげてくれ」
「承知しました。こちらは奥様に記入いただいた、婚姻証のサインです」
ルークはイーライから書類を受け取り、内容を見て頷いた。指の力がないのか、アリスのサインはよれていたが、読めるので問題ない。アリスのサインの横にルークは自身のサインを入れる。これでルークとアリスは婚姻の契約が済んだことになる。
「俺の結婚を知れば、あの男が押しかけてくるかもしれないが、屋敷には入れるな」
「承知しております」
あの男、ジョセ・ル・イェロン伯爵は、ルークの腹違いの兄だった。ルークにアカリエル公爵の座を奪われ、ルークを恨んでいる。今まで、ルークをあの手この手で排除しようとして、失敗してきているが、ルークの婚姻を知り、どうでるか。
そもそもこの婚姻は、異母兄の企みを除ける目的に起因している。こんなことに巻き込んだアリスには悪いと思っているので、アリスに何か望みがあるなら叶えてあげたいと思う。
「アリスが何か希望を言ったなら、叶えてあげてくれ。俺に許可を求める必要はない。イーライの裁量に任せる」
「承知しましたが……、旦那様に許可が必要な水準を聞いておきたいのですが」
「欲しい物があるなら、予算内であれば自由に使っていい。予算を超えるものなら、俺に聞いてくれ。あとはそうだな……、領地内で済まないようなこと、例えば帝都に行きたいとか、そういった希望があるなら、俺に聞いてくれ。くれぐれも、あの男には関わらせないように」
「承知しました。奥様については、報告書をまとめますか?」
「不要だ。先ほど言ったこと以外は、俺に報告して俺が許可したと言ってアリスは自由にさせてやってくれ。俺にはわざわざ報告も不要だ。許可が必要な時だけ聞いてくれればいい」
アリスに関しての報告が終わると、イーライは執務に関する報告に移る。
ルークは、西部騎士団の騎士団長としてだけでなく、領内の執務、事業と多忙を極めている。妻を娶ったばかりだというのに、すでに頭の中は妻ではなく仕事で埋め尽くされているのだった。
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※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
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