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第三章 執着の行方
35 逃げられない2
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「俺はできることなら、穏便に妻を迎えたい。妻の親族にも祝ってもらえるほうが、妻も嬉しいだろう。だから、数日後にレティツィアに正式に求婚状を送る」
「……きっと、その求婚はまた断られると――」
「言っておくが、これは最終通告だ。よく考えたほうがいい」
レティツィアは怪訝な顔をする。それはどういう意味なのだろう。次も断れば、また誘拐するという意味なのだろうか。
「先日、帰国したときに俺専用の騎士団を立ち上げた」
「……騎士団ですか?」
「剣術に長けたものがたくさん集まった。血気盛んなものも多く、俺の命令一つで、喜んで武力を行使するだろう」
「………………」
レティツィアは青くなった。第二王子は、すぐにでもヴォロネル王国を侵略しようとしているのだろうか。戦争という話題を先日したばかりだ。でもそれは、すぐすぐの話ではないと思っていた。騎士団というが、さすがに一つの騎士団くらいでは、ヴォロネル王国に攻め入ることはできまい。ただ、第二王子が作った騎士団以外も攻撃に加わるのなら? 王でも王太子でもない、ただの王子の命令に動く軍が多いとしたら。
「レティツィア、レティツィアの父たちを説得するんだな。レティツィアは可愛がられているだろう。娘が俺と結婚することを願っていると分かれば、可愛い娘の願いは叶えてくれるはずだ」
戦争をしたくないのなら、自ら妻になると父に言え。暗にそう告げる第二王子に、レティツィアはもう抵抗する気は失せた。レティツィアは第二王子から逃げられない。
「……父に、お願いしてみます」
表情の抜けた顔で告げるレティツィアに、第二王子は満足そうな笑みを向けた。そして第二王子は、片手でレティツィアの顎を上向かせると、レティツィアの唇に自身の唇を近づける。
「ぐぇ!?」
傍まで迫った唇が急に離れたと思うと、第二王子はカエルのような声を出してバルコニーの床に投げ出された。
そこにいたのはオスカーだった。第二王子の首元の服を引っ張ったらしい。げほげほと咳き込んだ第二王子が叫んだ。
「誰だ、お前! 俺を誰だと思ってる!」
「プーマ王国の第二王子だろう。王子が、女性に無体を強いるのを見たなら、止めに入るのが紳士というものだ」
「お前には関係ない――」
「ああ、それと、俺はアシュワールドの王だ。一介の王子風情には、口の利き方を教えてあげた方がいいか?」
「アシュワールド王!?」
くっと表情を歪め、第二王子は舌打ちして立ち上がった。そしてレティツィアに「説得を忘れるなよ!」と捨て台詞を吐いて去っていく。
オスカーがレティツィアに近づき、レティツィアを抱きしめた。
「遅くなりました。あの男に何かされましたか?」
レティツィアから体を離して、顔を覗き込むオスカーにレティツィアは顔を振る。心配そうな顔を向けるオスカーは、レティツィアの唇を親指で触った。
「……キスされてしまいましたか?」
レティツィアが首を振ると、オスカーはほっとした顔で、またレティツィアを抱きしめる。
「少し前に、令嬢たちと一緒にいるレティツィアに気づいたのですが、俺が他国の知人に話しかけられてしまって。レティツィアがいないのに気づいて慌てて探したのですが、ここにいることに気づくのが遅れて悪かったです。怖かったでしょう」
ほっとして、じわじわと涙が溢れるが、レティツィアは泣いてはいけないと、ぐっと我慢をする。レティツィアを離したオスカーが、レティツィアを見て口を開く。
「泣くのを我慢しなくてもいいですよ」
レティツィアは首を振る。この後、ホールを移動するなら、王女としての顔を招待客が見ることになる。泣いていたとバレるわけにはいかない。しかし、口を開いてしまえば、泣き出してしまいそうなので、口を開くこともできない。
そんなレティツィアの心の内が分かるのか、再びオスカーはレティツィアを抱きしめた。レティツィアを落ち着かせるように強く抱きしめる。そうするうちに、レティツィアもだんだんと落ち着いてきた。
「……オスカー様、助けていただき、ありがとうございます」
レティツィアを離したオスカーは、ほっとした顔をした。
「落ち着きましたか」
「はい」
会いたかったオスカーは、離れた日と何も変わっていないように見える。レティツィアの好きな、オスカーのままだ。「会いたかった」と言いたいけれど、オスカーの婚約を断ってしまっているため、それを口にするのは憚れた。しかし、どうやらレティツィアの気持ちは伝わってしまっているらしい。
「俺に会いたかったですか?」
「………………はい。会いたかったです」
笑みを浮かべたオスカーは、レティツィアの頬にキスをする。顔が熱い。でもキスは嬉しくて、思わずオスカーに抱き付く。やはりオスカーが好きだと思っている時に、はっとした。
「マリーナ様!」
レティツィアのせいで人質になっていたマリーナの存在を思い出す。
「レティツィア、大丈夫。バルコニーの扉の前にいた令嬢は、俺の部下が助けているから」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
オスカーと共にバルコニーから中に入ると、オスカーの部下という男性と一緒にいた、不安そうにしていたマリーナがレティツィアを見てほっとした顔をした。マリーナはケガなどはなく、レティツィアも安心した。
しかも、マリーナを人質にしていた男と第二王子はおらず、騒ぎにもなっていない。オスカーの部下はアシュワールドの侯爵令息とのことだった。青い顔でじっとしているマリーナに気づき、ナイフでマリーナを脅していた男を静かに対処したらしい。素晴らしい手腕である。
お陰で、レティツィアたちに起きたことを客の誰も気づいていないようだ。騒ぎにしたくないレティツィアは、胸をなでおろす。
レティツィアたちは、ひとまず長兄アルノルドの元へ向かうのだった。
「……きっと、その求婚はまた断られると――」
「言っておくが、これは最終通告だ。よく考えたほうがいい」
レティツィアは怪訝な顔をする。それはどういう意味なのだろう。次も断れば、また誘拐するという意味なのだろうか。
「先日、帰国したときに俺専用の騎士団を立ち上げた」
「……騎士団ですか?」
「剣術に長けたものがたくさん集まった。血気盛んなものも多く、俺の命令一つで、喜んで武力を行使するだろう」
「………………」
レティツィアは青くなった。第二王子は、すぐにでもヴォロネル王国を侵略しようとしているのだろうか。戦争という話題を先日したばかりだ。でもそれは、すぐすぐの話ではないと思っていた。騎士団というが、さすがに一つの騎士団くらいでは、ヴォロネル王国に攻め入ることはできまい。ただ、第二王子が作った騎士団以外も攻撃に加わるのなら? 王でも王太子でもない、ただの王子の命令に動く軍が多いとしたら。
「レティツィア、レティツィアの父たちを説得するんだな。レティツィアは可愛がられているだろう。娘が俺と結婚することを願っていると分かれば、可愛い娘の願いは叶えてくれるはずだ」
戦争をしたくないのなら、自ら妻になると父に言え。暗にそう告げる第二王子に、レティツィアはもう抵抗する気は失せた。レティツィアは第二王子から逃げられない。
「……父に、お願いしてみます」
表情の抜けた顔で告げるレティツィアに、第二王子は満足そうな笑みを向けた。そして第二王子は、片手でレティツィアの顎を上向かせると、レティツィアの唇に自身の唇を近づける。
「ぐぇ!?」
傍まで迫った唇が急に離れたと思うと、第二王子はカエルのような声を出してバルコニーの床に投げ出された。
そこにいたのはオスカーだった。第二王子の首元の服を引っ張ったらしい。げほげほと咳き込んだ第二王子が叫んだ。
「誰だ、お前! 俺を誰だと思ってる!」
「プーマ王国の第二王子だろう。王子が、女性に無体を強いるのを見たなら、止めに入るのが紳士というものだ」
「お前には関係ない――」
「ああ、それと、俺はアシュワールドの王だ。一介の王子風情には、口の利き方を教えてあげた方がいいか?」
「アシュワールド王!?」
くっと表情を歪め、第二王子は舌打ちして立ち上がった。そしてレティツィアに「説得を忘れるなよ!」と捨て台詞を吐いて去っていく。
オスカーがレティツィアに近づき、レティツィアを抱きしめた。
「遅くなりました。あの男に何かされましたか?」
レティツィアから体を離して、顔を覗き込むオスカーにレティツィアは顔を振る。心配そうな顔を向けるオスカーは、レティツィアの唇を親指で触った。
「……キスされてしまいましたか?」
レティツィアが首を振ると、オスカーはほっとした顔で、またレティツィアを抱きしめる。
「少し前に、令嬢たちと一緒にいるレティツィアに気づいたのですが、俺が他国の知人に話しかけられてしまって。レティツィアがいないのに気づいて慌てて探したのですが、ここにいることに気づくのが遅れて悪かったです。怖かったでしょう」
ほっとして、じわじわと涙が溢れるが、レティツィアは泣いてはいけないと、ぐっと我慢をする。レティツィアを離したオスカーが、レティツィアを見て口を開く。
「泣くのを我慢しなくてもいいですよ」
レティツィアは首を振る。この後、ホールを移動するなら、王女としての顔を招待客が見ることになる。泣いていたとバレるわけにはいかない。しかし、口を開いてしまえば、泣き出してしまいそうなので、口を開くこともできない。
そんなレティツィアの心の内が分かるのか、再びオスカーはレティツィアを抱きしめた。レティツィアを落ち着かせるように強く抱きしめる。そうするうちに、レティツィアもだんだんと落ち着いてきた。
「……オスカー様、助けていただき、ありがとうございます」
レティツィアを離したオスカーは、ほっとした顔をした。
「落ち着きましたか」
「はい」
会いたかったオスカーは、離れた日と何も変わっていないように見える。レティツィアの好きな、オスカーのままだ。「会いたかった」と言いたいけれど、オスカーの婚約を断ってしまっているため、それを口にするのは憚れた。しかし、どうやらレティツィアの気持ちは伝わってしまっているらしい。
「俺に会いたかったですか?」
「………………はい。会いたかったです」
笑みを浮かべたオスカーは、レティツィアの頬にキスをする。顔が熱い。でもキスは嬉しくて、思わずオスカーに抱き付く。やはりオスカーが好きだと思っている時に、はっとした。
「マリーナ様!」
レティツィアのせいで人質になっていたマリーナの存在を思い出す。
「レティツィア、大丈夫。バルコニーの扉の前にいた令嬢は、俺の部下が助けているから」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
オスカーと共にバルコニーから中に入ると、オスカーの部下という男性と一緒にいた、不安そうにしていたマリーナがレティツィアを見てほっとした顔をした。マリーナはケガなどはなく、レティツィアも安心した。
しかも、マリーナを人質にしていた男と第二王子はおらず、騒ぎにもなっていない。オスカーの部下はアシュワールドの侯爵令息とのことだった。青い顔でじっとしているマリーナに気づき、ナイフでマリーナを脅していた男を静かに対処したらしい。素晴らしい手腕である。
お陰で、レティツィアたちに起きたことを客の誰も気づいていないようだ。騒ぎにしたくないレティツィアは、胸をなでおろす。
レティツィアたちは、ひとまず長兄アルノルドの元へ向かうのだった。
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