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第一章 王女を取り巻く環境
05 楽しいお茶会
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領地チェルニのことで兄のアルノルドに相談に行った帰り、レティツィアは王宮の廊下を歩いていると、三兄シルヴィオとギランダ公爵令息のエドモンドが並んで歩いているところに遭遇した。エドモンドは宰相の息子でアルノルドの婚約者マリーナの兄である。
「お兄様、エドモンド様、ごきげんよう」
「俺の可愛いレティ! 朝ぶりだなー」
シルヴィオはレティツィアを抱きしめた後、レティツィアの額にキスを落とす。朝ぶり、とは、一緒に過ごした朝食以来だね、ということだ。
シルヴィオは色気のある妖艶なイケメンで、とにかく女性にモテる。現在二十二歳で婚約者はいないが、レティツィアが聞く度、毎回交際相手が違う。女性に少し軽薄なところがあるが、レティツィアにとっては優しくて大好きな兄である。
ちなみにだ、ストロベリーブロンドの髪のレティツィアとは違い、兄は三人とも父と同じ綺麗なプラチナブロンドである。瞳は上二人の兄は父と同じ碧眼だが、シルヴィオとレティツィアは母と同じ菫色だ。
「レティツィア殿下、ご機嫌麗しく。ますます綺麗におなりですね」
「ふふふ、ありがとう、エドモンド様」
エドモンドはレティツィアの手をすくい、指先にキスを落とす。
エドモンドは優しさが顔つきに出ている宰相譲りのイケメンである。シルヴィオとは同じ年で幼馴染なため、シルヴィオと仲がいい。レティツィアは小さいころからエドモンドに可愛がられており、エドモンドは第四の兄だと思っている。
「レティもいるし、少し休憩にするか。庭でお茶にしよう。レティ、スケジュールは大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫! 二人とお茶できるの嬉しい!」
「そうかそうか、レティは可愛いなー」
シルヴィオはレティツィアを再び抱きしめる。
それから、レティツィアはシルヴィオと手を繋ぎながら、エドモンドも連れて庭のガゼボ、つまり東屋に向かっていた。シルヴィオはレティツィアをいつも子ども扱いするが、レティツィアはそれが嫌いじゃない。エスコートではなく、手を繋ぐところなんかも、完全に子ども扱いだが、レティツィアは甘やかされているのが分かっているので、嬉しさが王女の仮面を完全に取っ払ってしまっている。ただ、ここは完全に王族用のプライベートな庭なので、ブラコンをオープンにしても問題ないのだ。
そうやって、あと少しでガゼボ、というところで、シルヴィオの部下がシルヴィオを呼び止めた。こそこそと耳打ちされたシルヴィオは、残念そうな顔をレティツィアに向けた。
「ごめん、レティ。急用が入った。俺はちょっと抜けるね。代わりにエドを置いていくから」
「ええ!? そんな、お兄様……、……ヤダ」
「ごめん、レティ。そんな悲しそうな顔をしないで。今度埋め合わせするよ」
シルヴィオがぎゅっとレティツィアを抱きしめる。寂しいけれど、これ以上はわがままだろう。
「……絶対、埋め合わせしてね?」
「もちろん。レティ、いい子だね。エド、レティをよろしく」
「分かった」
手を振って遠ざかっていくシルヴィオを見ていると、隣に立ったエドモンドがレティツィアの顔を覗き込んだ。
「シルヴィオ殿下の代わりにはなりませんが、どうか、レティツィア殿下のお茶の相手をさせていただく幸運を、俺にいただけませんか?」
「……喜んで」
少しお茶目に笑みを浮かべるエドモンドに、レティツィアは笑みを返した。シルヴィオとお茶ができないのは残念だが、レティツィアはエドモンドとお茶をするのも好きなのだ。
シルヴィオのようにエドモンドはレティツィアと手を繋ぎ、ガゼボに用意されたお茶とお菓子の前に二人は座った。エドモンドは気安い相手なため、他愛もない話でも気楽に話せて楽しい。
「そういえば、先日東の森にある鳥小屋に、鳥が入っていたの。そろそろ卵を産むのかもしれないわ」
「もうそんな季節ですか。春ですからね。そういえば、レティツィア殿下が小さい頃、俺が肩車して鳥小屋を覗き込んでいましたね」
「ふふふ、そんなこと、ありましたね」
王宮の敷地は広い。宮殿以外にも武官の訓練場や文官が使う建物、舞踏会の会場や使用人の寮などがあるし、いくつか森もある。その森の中の木の上に、小さな鳥小屋がいくつかあって、季節になると、どこからともなく小鳥がやってきて卵を産むのである。
小さい頃は、エドモンドも時々レティツィアの遊び相手をしてくれていた。今でも会えば相手をしてくれるし、兄たちのように抱き上げてくれたりもする。優しくて大好きである。
レティツィアは恋というものがよく分からない。プーマ王国の第二王子の重すぎる過激な気持ちが、レティツィアは恋とは恐ろしいものになる場合もあるのだと、よりいっそう恋から気持ちを遠ざけていた。
それでも、いつかは自分も結婚をするだろうと漠然とは思っているが、なんとなくその結婚相手はエドモンドなのかもしれない、と思うことがある。恋ではないけれどエドモンドのことは優しくて好きだし、それは両親と兄たちも知っている。エドモンドが結婚相手であれば、結婚した後もレティツィアは両親や兄に会うために、王宮に来ることもしやすい。特に兄大好きな身としては、できるだけ兄たちに会いやすい場所に住みたい、という願望がある。そういう意味でも、エドモンドはレティツィアにとって最適な結婚相手な気がするのだ。
「エドモンド様にお願いがあるの」
「何でしょう」
「ここから帰る時、抱っこして欲しいわ」
エドモンドはきょとんとした後に、ふっと笑った。
「喜んで抱き上げますよ、姫」
普段「姫」などと呼ばないエドモンドが、わざとらしくそう呼び、ガゼボから王宮内に帰るまで、レティツィアはエドモンドに抱き上げてもらう。頼みを聞いてくれるエドモンドに対し、ずっと機嫌よく笑みを浮かべるレティツィアだった。
「お兄様、エドモンド様、ごきげんよう」
「俺の可愛いレティ! 朝ぶりだなー」
シルヴィオはレティツィアを抱きしめた後、レティツィアの額にキスを落とす。朝ぶり、とは、一緒に過ごした朝食以来だね、ということだ。
シルヴィオは色気のある妖艶なイケメンで、とにかく女性にモテる。現在二十二歳で婚約者はいないが、レティツィアが聞く度、毎回交際相手が違う。女性に少し軽薄なところがあるが、レティツィアにとっては優しくて大好きな兄である。
ちなみにだ、ストロベリーブロンドの髪のレティツィアとは違い、兄は三人とも父と同じ綺麗なプラチナブロンドである。瞳は上二人の兄は父と同じ碧眼だが、シルヴィオとレティツィアは母と同じ菫色だ。
「レティツィア殿下、ご機嫌麗しく。ますます綺麗におなりですね」
「ふふふ、ありがとう、エドモンド様」
エドモンドはレティツィアの手をすくい、指先にキスを落とす。
エドモンドは優しさが顔つきに出ている宰相譲りのイケメンである。シルヴィオとは同じ年で幼馴染なため、シルヴィオと仲がいい。レティツィアは小さいころからエドモンドに可愛がられており、エドモンドは第四の兄だと思っている。
「レティもいるし、少し休憩にするか。庭でお茶にしよう。レティ、スケジュールは大丈夫だよね?」
「うん、大丈夫! 二人とお茶できるの嬉しい!」
「そうかそうか、レティは可愛いなー」
シルヴィオはレティツィアを再び抱きしめる。
それから、レティツィアはシルヴィオと手を繋ぎながら、エドモンドも連れて庭のガゼボ、つまり東屋に向かっていた。シルヴィオはレティツィアをいつも子ども扱いするが、レティツィアはそれが嫌いじゃない。エスコートではなく、手を繋ぐところなんかも、完全に子ども扱いだが、レティツィアは甘やかされているのが分かっているので、嬉しさが王女の仮面を完全に取っ払ってしまっている。ただ、ここは完全に王族用のプライベートな庭なので、ブラコンをオープンにしても問題ないのだ。
そうやって、あと少しでガゼボ、というところで、シルヴィオの部下がシルヴィオを呼び止めた。こそこそと耳打ちされたシルヴィオは、残念そうな顔をレティツィアに向けた。
「ごめん、レティ。急用が入った。俺はちょっと抜けるね。代わりにエドを置いていくから」
「ええ!? そんな、お兄様……、……ヤダ」
「ごめん、レティ。そんな悲しそうな顔をしないで。今度埋め合わせするよ」
シルヴィオがぎゅっとレティツィアを抱きしめる。寂しいけれど、これ以上はわがままだろう。
「……絶対、埋め合わせしてね?」
「もちろん。レティ、いい子だね。エド、レティをよろしく」
「分かった」
手を振って遠ざかっていくシルヴィオを見ていると、隣に立ったエドモンドがレティツィアの顔を覗き込んだ。
「シルヴィオ殿下の代わりにはなりませんが、どうか、レティツィア殿下のお茶の相手をさせていただく幸運を、俺にいただけませんか?」
「……喜んで」
少しお茶目に笑みを浮かべるエドモンドに、レティツィアは笑みを返した。シルヴィオとお茶ができないのは残念だが、レティツィアはエドモンドとお茶をするのも好きなのだ。
シルヴィオのようにエドモンドはレティツィアと手を繋ぎ、ガゼボに用意されたお茶とお菓子の前に二人は座った。エドモンドは気安い相手なため、他愛もない話でも気楽に話せて楽しい。
「そういえば、先日東の森にある鳥小屋に、鳥が入っていたの。そろそろ卵を産むのかもしれないわ」
「もうそんな季節ですか。春ですからね。そういえば、レティツィア殿下が小さい頃、俺が肩車して鳥小屋を覗き込んでいましたね」
「ふふふ、そんなこと、ありましたね」
王宮の敷地は広い。宮殿以外にも武官の訓練場や文官が使う建物、舞踏会の会場や使用人の寮などがあるし、いくつか森もある。その森の中の木の上に、小さな鳥小屋がいくつかあって、季節になると、どこからともなく小鳥がやってきて卵を産むのである。
小さい頃は、エドモンドも時々レティツィアの遊び相手をしてくれていた。今でも会えば相手をしてくれるし、兄たちのように抱き上げてくれたりもする。優しくて大好きである。
レティツィアは恋というものがよく分からない。プーマ王国の第二王子の重すぎる過激な気持ちが、レティツィアは恋とは恐ろしいものになる場合もあるのだと、よりいっそう恋から気持ちを遠ざけていた。
それでも、いつかは自分も結婚をするだろうと漠然とは思っているが、なんとなくその結婚相手はエドモンドなのかもしれない、と思うことがある。恋ではないけれどエドモンドのことは優しくて好きだし、それは両親と兄たちも知っている。エドモンドが結婚相手であれば、結婚した後もレティツィアは両親や兄に会うために、王宮に来ることもしやすい。特に兄大好きな身としては、できるだけ兄たちに会いやすい場所に住みたい、という願望がある。そういう意味でも、エドモンドはレティツィアにとって最適な結婚相手な気がするのだ。
「エドモンド様にお願いがあるの」
「何でしょう」
「ここから帰る時、抱っこして欲しいわ」
エドモンドはきょとんとした後に、ふっと笑った。
「喜んで抱き上げますよ、姫」
普段「姫」などと呼ばないエドモンドが、わざとらしくそう呼び、ガゼボから王宮内に帰るまで、レティツィアはエドモンドに抱き上げてもらう。頼みを聞いてくれるエドモンドに対し、ずっと機嫌よく笑みを浮かべるレティツィアだった。
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