124 / 135
最終章後編
12
しおりを挟む「何か変?」
「いや、何でも。ただ僕らの時と違って、カダンは随分優しいなと思ってね。僕たちの時は、ちょっとずつじゃなんて配慮はなかった」
カウルとルイは、自分がどれだけの衝撃を受けたか孝宏に言い聞かせた。
孝宏の体験よりも悲惨だったと。身内だからか遠慮がない分、激しい魔力の圧に死ぬかと思ったと、自身の体験を力いっぱいに語った。
「初めての時、俺は手を握った事しか覚えてなかったぞ。気がついても脳が揺すぶられているみたいでその日は飯が食えなかったな」
「僕は意識はあったけど即効で立てなくなった。あの後熱が出てね、しばらく寝込んだな。まあ、何回か繰り返せばなれるんだけどね」
「ルイは俺よりも長い事特訓してたよな」
「僕はカウルより繊細だからね」
(あれで、優しくされていたのか?そいつは……驚きだ)
三人の勇者の中でも、一番の落ちこぼれで魔術も満足に使えない。
彼の落胆ぶりは肌で感じ取っていたし、期待が大きかった分その落差も大きい。
孝宏ずっと、ひょっとすると、カダンに嫌われてるのかもしれないと思っていた。
「そう意外そうな顔しないでよ。カダンは素直じゃないだけだから」
孝宏が、もしかすると勘違いかもしれないと僅かに持っていた希望を、皮肉にもルイのフォローが否定した。
少なくとも自分に対してよそよそしい態度であったのは間違いないようだ、と孝宏は思った。
「苦しかったのはわかる。僕らもそうだった。でもその分、効果は抜群だよ。魔力が濃い分はっきりと感じ取れるからわかりやすいんだよ」
「へ、へぇ。まあ確かに解り易かったかも。ルイの杖で火柱で出したのあの後すぐだし」
(でもあの後も制御をできてない俺って、もしかして不器用なんじゃ)
「待てよルイ。うっかり聞き流す所だったが、お前タカヒロにこれをしていないのか?マリーにはやっていただろう?」
孝宏にとっては随分と不公平で、寝耳に水な情報だ。孝宏が批難の目を向けると、ルイは顔面に貼り付けた笑顔でこちらを見ていた。
「あ、いや?たまたまタイミングが合わなくて、する機会がなかったんだ。………………ゴメンネ」
「鈴木さんには?」
孝宏のルイを見る目は厳しい。
マリーが特別扱いなのか、それとも自分だけが特別なのか、その差は大きい。出来れば前者であって欲しい。後者だったらきっとしばらく立ち直れないだろう。
「そう考えるとこの三人の中で、一番すごいのは自力で魔法を会得したスズキだね」
ルイは胸の前で腕を組んで、したり顔で何度も頷いた。孝宏はほっと胸をなで下ろしたが、冗談めかして何とか誤魔化したいルイに、ちょっと意地悪をしてやろうとにやりと笑った。
「ルイってさ、いやらしいのな。訓練建前にして、マリーに触りたかっただけだろ?」
ルイの表情が引きつり固まった。肯定したも同然だ。ルイは孝宏の胸ぐらに掴みかかり凄んだ。
「タタカヒロ!?なな、何、根も葉もないことを言ってるのかな!?僕はただマリーの訓練になればって」
「す、け、べ」
「てめっ、その口削いでや……」
「そういや、なんでマリーは静かなんだ?」
荷物の影に隠れて見えなかったが、マリーは自分のバッグを枕に規則的に寝息を立てていた。
これほど騒いでも起きてこない所を見るに、寝入っているようだ。
ルイは気が抜けて浮いた腰を下ろした。どうやらマリーから助平呼ばわりされるのは回避でき、安堵したようだった。
「おい、マリーを起こせ」
外のカウルが言った。声の調子が嫌に重いのは気のせいだろうか。
「ソコトラが見えてきた」
遂にソコトラに着いてしまった。ルイにも緊張の色が浮かぶ。孝宏はますます腹の奥がズンと重くなった。
1
お気に入りに追加
633
あなたにおすすめの小説

眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
秘める交線ー放り込まれた青年の日常と非日常ー
Ayari(橋本彩里)
BL
日本有数の御曹司が集まる男子校清蘭学園。
家柄、財力、知能、才能に恵まれた者たちばかり集まるこの学園に、突如外部入学することになったアオイ。
2年ぶりに会う幼馴染みはひどく素っ気なく、それに加え……。
──もう逃がさないから。
誰しも触れて欲しくないことはある。そして、それを暴きたい者も。
事件あり、過去あり、あらざるものあり、美形集団、曲者ほいほいです。
少し特殊(怪奇含むため)な学園ものとなります。今のところ、怪奇とシリアスは2割ほどの予定。
生徒会、風紀、爽やかに、不良、溶け込み腐男子など定番はそろいイベントもありますが王道学園ではないです。あくまで変人、奇怪、濃ゆいのほいほい主人公。誰がどこまで深みにはまるかはアオイ次第。
*****
青春、少し不思議なこと、萌えに興味がある方お付き合いいただけたら嬉しいです。
※不定期更新となりますのであらかじめご了承ください。
表紙は友人のkouma.作です♪

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

推しを擁護したくて何が悪い!
人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。
その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。
理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。
そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。
「凛に危害を加えるやつは許さない。」
※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。
※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる