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メタバースの章

メタバースの世界へ

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2020年、不治の病に侵された少女・結海(ゆうみ)はヨットで世界一周をすると決めて航海に出たが、UFOのようなものに遭遇し、なぜか2062年の未来へとタイムスリップすることとなってしまった。そこで、ヘティスと結海は出会った。そして、結海はヘティスの家で同居することとなった。そして結海は、ヘティスの仕事を手伝い、未来の仕事を体験していくのであった。



ヘティス
「うみみん、今日はまた、別のお仕事よw」
結海
「今度はなに?」
ヘティス
「メタバースよ!」
結海
「何それ?」
ヘティス
「仮想空間でアバターをつくって、そのアバターがお仕事するのw」
結海
「・・・そんなことできるの?」
ヘティス
「うみみんは2020年からやってきたんでしょ?なら、もう既にメタバースってあるはずよ」
結海
「ぜんぜん知らないわw」
ヘティス
「“メタ”ってのは“超える”って意味」
「“バース”ってのは“ユニバース”のことで、“空間”とか“宇宙”とかって意味ね」
結海
「つまり、“チョー・スゴい・空間”」
「C(チョー)・S(スゴい)・K(空間)ね!」
ヘティス
「まあ、そうね・・・w」
結海
「大丈夫!」
「“C・S・K”で覚えたわw」
ヘティス
(そっちの方が覚えにくそうそうなんだけど・・・w)
「メタバースって、元々SF小説のものだったの。歴史の授業では1992年だって習ったわ」
「そして、セカンドライフってサービスが2006年に開始されるの」
結海
「ふーん、ぜんぜん聞いた事ないけどw」
「で、どんな仕事をするの?」
ヘティス
「色々よ!」
結海
「色々?」
ヘティス
「とりあえず、説明するよりも、実際にやった方が早いわw」
結海
「けど、私、パソコンとか苦手だし・・・」
ヘティス
「そんなの必要ないわw」
「大事なのは“感性”よ!」
結海
「“感性”?」
ヘティス
「“センス”ってやつね!」
結海
「そうなんだ」

ヘティスは結海を連れて、結海の部屋に入った。

ヘティス
「じゃ、このスマートベッドに寝てw」
結海
「まだ、朝だから眠くないわw」
ヘティス
「そうじゃなくって、このスマートベッドからメタバース空間へいくのw」
結海
「ど、どういうこと?」
ヘティス
「まあ、いいから、とりあえず寝てみてw」

結海は、ヘティスの言う通りにスマートベッドに横たわった。

ヘティス
「動かずリラックスしててねw」
結海
「う、うん・・・」
ヘティス
「スイッチ、オン!」

しばらくすると、結海は身体が浮くような感じがした。
そして、薄暗いトンネルの中を進んでいるような感じもした。
気がつくと、結海は不思議な空間で立っていた。
時間の流れを感じず、上下左右の感覚がない無機質の世界である。

結海
「え、ここは?」

「仮想空間です」
結海
「アナタは誰?」
バムブーク
「私の名はバムブーク・パラヴィーナ」
結海
「変わった名前ね・・・。覚えれそうにないわw」
「何してるの?」
バムブーク
「ヘティス様に命じられ、アナタをお待ちしていました」
結海
「へティはどこ?」
バムブーク
「もうすぐ、いらっしゃいます」

すると、ヘティスが目の前に現れた。

ヘティス
「お待たせw」
結海
「ここがメタバース?」
ヘティス
「ここは私がレンタルしてる個人的な仮想空間よw」
「まだ、借りたばっかだから、何も置いてないのw」
結海
「ふーん」
「仮想空間って言っても、私の意識はあるし、肌の感覚もあるし・・・」
ヘティス
「ああ、その身体はうみみんをスキャンしたアバターよw」
結海
「この身体はアバター・・・?つまり、私の身体ではないってこと?」
ヘティス
「うみみんの身体情報を読み取って忠実に再現してるから、ほぼうみみんの身体よw」
「けど、仮想の身体ねw」

結海は自分の頬をつねってみた。

結海
「痛みはないけど感覚はある・・・」
ヘティス
「スマートベッドからうみみんの脳や身体に電気信号を送ってるから、リアル空間と同じ質感で仮想空間に居られるの」
「けど、事故防止のために痛みの信号はオフにしてあるわw」
結海
「そんなことって、できちゃうのね・・・。もう、マジ・マンジよ・・・!」

スマートベッドに横たわり、仮想空間モードにすると、まず、睡眠時の脳波になるための同調信号が送られ、睡眠状態となる。それと同時にボディスキャンによって、身体情報を読み取り、その人の容姿を再現したアバターが形成される。
そして、体性感覚野のボディイメージをスマートベッドが読み取り、そのアバターとリンクさせることで、リアルボディからアバターへの意識のシフトが行われるのである。

結海
「ほぼ私の身体なんだけど、ちょっと動かしにくいわ」
「立ってる感覚とかフワフワするし、なんかちょっと違うようなカンジー」
ヘティス
「最初は誰も、そんなものよw」
「すぐに慣れるわw」
結海
「で、何するんだっけ?」
ヘティス
「そうそう、お仕事よw」

と言って、ヘティスはAIアバター・バムブークに命令を出す。

ヘティス
「ねぇ、バン」
「仮想PCを出して」
バムブーク
「かしこまりました」

ヘティスたちの目の前にスクリーンとキーボードが現れた。

結海
「あ、パソコンが出てきた・・・」
ヘティス
「これからのビジネスチャンスになりそうなメタバースサービスを、バンにスクリーニングしてもらったけど、それでも結構な数があるわねぇ」

ヘティスがキーボードを触ると、スクリーンが分裂した。
無数のスクリーンには、それぞれのメタバースサービスが紹介されている。

結海
「画面が分裂したわ・・・。こんなことができるなんて・・・」

ヘティスが人差し指を立てると、指からレーザーが出る。そのレーザーで画面をタッチすると、画面の配置が変更される。

ヘティス
「私のVRスペースでは、人差し指だけを立てるとレーザーポインターになる設定をしているの。やってみて」

結海は人差し指を立てると、手からレーザーが出た。

結海
「あ・・・、ホントだ」
ヘティス
「あとは、指や手を動かしたり、曲げ伸ばしをすれば、この空間で作り出されたものなら全て、自由に動かせるわw」
結海
「これもチョー・マジ・マンジだわ・・・!」
ヘティス
「画面にタイトルがあって、説明って項目があるから、それをレーザーポインターで指せば内容を確認できるの」
「今回は勉強のために、うみみんにメタバースビジネスを選ばせてあげるw」
結海
「けど、私、そんな仕事やったことないから全然、わかんないわ・・・」
ヘティス
「大丈夫よw読んで内容がわかんなかったら“グラ”で決めてw」
結海
「ぐら?」
ヘティス
「“グラフィック”よ」
「絵を見て、カワイイとかカッコいいとかお洒落って思ったら、それを選んでみてw」
結海
「そんなテキトーでいいの?」
ヘティス
「グラは重要よ!」
「サービス内容も重要だけど、グラはとっても重要なの」
「例えば、男の子でも女の子でも、中身や性格も大事だけど、ファッションって大事よね?」
結海
「そうねwやっぱファッションがイケてないとイヤーw」
ヘティス
「それと同じで、サービス内容だけじゃなくグラも大事なのw」
結海
「ふーん」
「わかったわ、じゃ、その選び方でよかったらやってみるw」
ヘティス
「うん、お願いねw」
「私は別の仕事があるから、その間に選んでおいてねw」
「あ、お部屋はリラックスできる自然の風景に切り替えておくから、もし変更したかったらバンに命令してね」

と言って、ヘティスは去って行った。
結海は、スクリーンに映し出された様々なメタバースサービスを見た。そして、数時間かけて一つの気になるサービスを見つけ出した。そこへ、ヘティスが戻って来た。

ヘティス
「どう?見つかった?」
結海
「うん、これなんだけど、どうかな?」

と言って、結海は、無数のスクリーンの中の一つを指差し、レーザーポイントして、手前に引き寄せた。

ヘティス
「うみみん、ちゃんと使いこなしてるわねw」
結海
「うん、まあまあ慣れたっぽいわw」
ヘティス
「で、なんてサービスなの?」
「“幻想神統記ロータジア”」



ヘティスは「幻想神統記ロータジア」の紹介ページの画像を見て、少し不思議な気分になった。

ヘティス
「聞いた事がないタイトル名ね」
「けど、綺麗・・・」
結海
「うん、なんとなく絵が綺麗だなと思ってw」
ヘティス
「そうね、いいかもw」
「・・・詳細はと」
「ふーん、AIがプロデュースした新感覚NFTメタバースゲーム・・・!」
「・・・面白そうだわ!こういう新しいサービスがビジネスチャンスになるのよね!」
結海
「え?ゲームで仕事ができるの?」
ヘティス
「そうよw」
結海
「ゲームって遊びよね・・・。そんなのが仕事になるなんて・・・」
ヘティス
「そうよ、これは“遊び”という“仕事”よ!」
「今から、大真面目に遊ぶの!そして稼ぐの!」
結海
「へティーの言っている意味がわかんないわ・・・w」
「もう、チョー・マジ・マンジよ・・・w」

この時代、様々な仕事が仮想空間に移行した。しかし、ゲームは既にオンラインゲームとして20世紀後半に存在していた。そこではゲーム内通過を現金化したり、レアアイテムがプレイヤー間で取引きされる「RMT(リアルマネートレード)」がアンダーグラウンドで行われていた。そこにブロックチェーン技術が発達することで、やがてゲーム内通過やアイテムもブロックチェーン化され、NFTゲームとなっていき、それがメタバースと融合していった。

「ゲーム内で狩りをして稼ぐ」

そのような時代になったのである。
ゲーム内への入場料を支払い、狩りをすることで、ゲーム内NFT通過やNFTアイテムをマイニングするのである。もちろん、狩りだけではなく、ゲーム内で農夫になる、職人になることで、様々なNFTアイテムをマイニングすることが可能である。

このNFTメタバースゲームについて、今回、結海とヘティスはAIがプロデュースしたと言う『幻想神統記ロータジア』を選んだのであるが、この選択は後に、ヘティスの人生に大きな影響を与えることとなる。しかし、それがわかるのは、まだずいぶん先の話である。

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