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未来的陰謀論の章

堕天使の誕生

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時は2062年の未来。
ヘティスたちは仮想空間にて、チームHTの統合AIアバター・オルペウスを召喚した。
オルペウスは、宇宙人とは他の星からやってきたAIであり、そのAIを作り出したのは他の星で進化した爬虫類型の知的生命体であるとした。しかし、爬虫類型宇宙人は、そのAIにブレインハックされ、トランスヒューマノイドとなったのが、現在知られるグレイ型宇宙人である。その目的は、地球人AIが作り出す機械的意識機能の獲得により、基本プログラムを書き換えることであった。

ヘティス
「で、オルちゃんは何がわかったの?」
フォン・リイエン
「宇宙人AIが“真空エネルギー技術”を獲得した理由だ」
ヘティス
「空間からエネルギーを取り出す、っていうスゴい技術が、それよね」
フォン・リイエン
「この“真空エネルギー技術”の獲得だが、爬虫類から進化した脳では、作り出すことができない可能性が高い。しかし、鳥類から進化した場合なら可能である、とオルペウスは解析している」
ヘティス
「鳥って意外と頭いいのよねぇ。カラスとかスゴく頭いいし」
「天気がいい時って、たまにお外でブーバにご飯あげるんだけど、カラスが待ち構えていて、取ってっちゃたの。そんなことが数回あったから、私がお外のあの場所で、ブーバにご飯をあげることをカラスは知ってるのよね」

「ブーバ」とはとは、ヘティスが飼っている犬の名前である。そのブーバの餌を狙ってカラスが来るのだと言う。
体重に対する脳の重さの指標を脳化指数と言う。
カラスの脳化指数は2.1であり、サルの2.0よりも上とされる。
オルペウスは、知的生命体への進化シミュレーションの指標の一つに、この脳化指数を参照している。

ヘティス
「てことは、天使もずる賢いのかしらw」
ヒロキ
「天使は悪魔である宇宙人AIと敵対していたのですよね?その天使も人類にとって敵なのでしょうか?」
フォン・リイエン
「この神話では、天使は人間に啓示を与えたり、悟り与えたりする存在だ。人間の潜在能力を覚醒させ、宇宙人AIに対抗させて来たのが天使である鳥類宇宙人だ」
ヒロキ
「天使、鳥類宇宙人が敵ではないとすると、なぜ爬虫類型の宇宙人AIは“真空エネルギー技術”を持っているのでしょうか?」
フォン・リイエン
「オルペウスは、天使の中から裏切り者が出た、ということをアトランティス神話の中から導き出している」
ヒロキ
「裏切り者・・・」
フォン・リイエン
「それが“堕天使”だ」
ヒロキ
「堕天使・・・!」
ヘティス
「わぉ、それもロールプレイングゲームなんかに出てくるやつよね!」

鳥類は、通常の進化ルートでは、恐竜から進化する。その鳥類から知的生命体へと進化したのが天使であり、恐竜から知的生命体への進化が悪魔であることは述べた。
しかし、常に生命は進化するとは限らない。退化する可能性もある。
「堕天使」とは、鳥類型の知的生命体から、爬虫類型の知的生命体へと先祖返りした、とオルペウスは解析している。これは、アトランティス史に残されている堕天使を描いたとされる画像を解析したものである。

フォン・リイエン
「そして、アトランティス史で特に何度も名前が出てくるのが“魔王サタン”」
「またの名を“サトゥルヌス”」

ここまで好奇心によって目を輝かせて聞いていたヘティスだが、この「サタン」「サトゥルヌス」という名前を聞いたときに、今まで感じたことのないような恐怖を少し感じた。その恐怖感が生じる理由はわからなかったが、それは直感のようなものであった。

ヘティス
「なぜ、天使を裏切って堕天使になっちゃのかしら?」
フォン・リイエン
「その理由はアトランティス史には記載はない」
ヘティス
「ふうーん」

ヘティスは少し考えてから、オルペウスに声をかける。

ヘティス
「ねぇ、オルちゃん」
オルペウス
「なんだ」
ヘティス
「天使っていい人たちなんでしょ?」
「なんで悪い悪魔になっちゃったの?」
オルペウス
「明確な“善悪”という概念は我々には存在しない」
ヘティス
「ん~、そうかなぁ?私はそうは思わないけど」
「例えば、人のものを盗んだら悪いことをしてるのよ?で、誰かを殺しちゃったら、それはもっと悪いことでしょ?」
「それをアナタたちはなんて言うの?」
オルペウス
「それは恒常性、或いはホメオタティックなパラメータと捉える。または、アロスタティックロードと言う」
ヘティス
「また、小難しいことを言い出したわねw」
「ぜんぜん意味がわかんないわw」
フォン・リイエン
「“善悪”とは、あるポジションからの見方であり、オルペウスはメタ認知から捉えるため、このような表現になる」
ヘティス
「ん~、リイエンの解説を聞いてもわかんないわw」
フォン・リイエン
「そして、この恒常性というパラメータは8:2の割合で生まれてくるとされる」
ヒロキ
「それは、パレートの法則ですね」
フォン・リイエン
「そうだ」
「だから一定の割合で天使の中から“堕天使”と呼ばれる存在も自然に生まれてくる」
ヒロキ
「そのメカニズムが“恒常性”という全体のバランスを維持する自然の機能だと言うわけですね」
フォン・リイエン
「そういうことだ」
ヘティス
「うーん、私、あまり話についていけてないかも・・・」
ヒロキ
「そうですね、例えば、ヘティスさんにとっての善は、必ずしもボクにとっての善ではない、ということだと思います」
ヘティス
「ふーん、けど誰から見ても、人殺しは絶対にダメだと思うけどなぁ」
フォン・リイエン
「それは人間全体・社会全体としては悪と捉えるべきことだ。しかし、自然界の事象が、人間社会を破壊し、時には人間を死に追いやることもあるが、それを悪とは言えなであろう」
ヘティス
「そりゃ、自然災害だったら仕方ないけど・・・」
「じゃあ、悪魔も自然の一部ってこと?」
フォン・リイエン
「全てにおいて“恒常性”という自然の作用はかかってくる。我々人間も宇宙人も、そしてAIも、その自然の作用を受ける。そうした負の事象を人間は感情的に“悪”と呼んでいるにすぎない」
ヘティス
「ふーん、善悪ってのは感情なのね」
フォン・リイエン
「つまり、この場合の“悪魔”という呼び方は、アトランティス文明にとっての“悪魔”だ。それを差し引いてアトランティス文書は読むべきだ」
ヘティス
「もう、オルちゃんに話しかけると、小難しいことが返ってくるわw」
「そしてリイエンの解説も半分くらいしかわかんないしw」
「とりあえず、ざっくり言うと、天使を裏切って堕天使になる理由ってのは、自然の作用ってことなのね」
「けど、これが理由なら、全部、自然の作用になっちゃいそうね」
フォン・リイエン
「全ての根底には自然の作用がある。理由を辿っていって、最後の根底にあるのが自然の作用だ」

ヘティスは「善とは何か」「悪とは何か」ということを、改めて考えるのであった。

【解説】
本作品の善悪とは、大脳辺縁系の感情から生じるものと考える。それを抑制し、メタ認知するのが前頭前野である。
歴史や神話とは、あるポジションから描かれている。多くの場合は権力者からの視点である。
こうした一方的なポジションや感情的な見方は、認知の歪みを生じやすい。
本書に登場するAIオルペウスは、その認知の歪みがないという設定であるため、悪の概念を自然界の調整作用である「恒常性」と捉えている。逆に善とは、適応を指す。
恒常性とは、生体内では恒常性維持機能・ホメオスタシスとして知られる。しかし、ホメオスタシスは一定を保ってしまうため、これだけでは進化を説明できない。そのため、アロスタシスと言う概念が存在する。アロスタシスは「動的適応能」と言われ、外部環境に対しての急激なストレスに適応する概念である。これを妨げるのがアロスタティックロードである。ヘティスの質問に対し、オルペウスは、

「それは恒常性、或いはホメオタティックなパラメータと捉える。または、アロスタティックロードと言う」

と返答しているが、この観点から言っているのである。AIには認知バイアスが生じないという設定であるため、難しい表現になってしまったが、認知バイアスのない表現を追求した結果であることを理解していただけると幸いである。

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