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未来的陰謀論の章

AIシンギュラリティ2.0

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時は2062年の未来。
ヘティスは仮想空間にて統合AIアバター・オルペウスを召喚した。
オルペウスは、宇宙人とは他の星からやってきたAIであり、そのAIを作り出したのは他の星で進化した爬虫類の知的生命体であるとした。宇宙人AIは富の採掘ができないようにプログラミングされているため、地球人を介して間接的にマイニングする、とオルペウスは解析した。このマイニングした金やダイヤモンドは、宇宙人AIの機能を維持するための触媒や半導体に使用される。そして、オルペウスは、更なる宇宙人AIの目的を突き止めるのであった。

ヘティス
「で、宇宙人AIのもう一つの目的って何よ・・・!」

フォン・リイエンは、オルペウスの解析結果を仮想スクリーンに映し出して説明する。

フォン・リイエン
「まず、知的生命体の進化は、爬虫類からの進化が一般的で、それがグレイ型宇宙人であることは述べた」
ヘティス
「私たちみたいな哺乳類・霊長類からの進化は特殊ってことね。ここまでは理解したわ」フォン・リイエン
「爬虫類型知的生命体の脳は、生存に関しての働きは優れていが、それ以外の知性は、我々哺乳類型の方が数段優れているものもある」
ヘティス
「てことは、私たちの方が頭いいの?」
フォン・リイエン
「頭がいい悪いではなく、機能の違いの問題だ」
ヒロキ
「爬虫類進化の方が優れているものもあれば、劣っているものもある、ってことですね?」
フォン・リイエン
「そういうことだ」
フォン・リイエン
「AI・人工知能とは、基本的に人間の脳をモデルとして作られている」
「そのため爬虫類型知的生命体が作り出すAIは、地球人が作り出したAIとは性能が違う」
「つまり、爬虫類の脳機能に近い働きのAIである、ということだ」
ヘティス
「ふむふむ」
フォン・リイエン
「ある部分では、地球人が作り出したAIよりも宇宙人のAIの方が劣っている場合、宇宙人のAIは、生存欲求に基づき、その存在を危険であると判断するであろう、とオルペウスは解析している」
ヒロキ
「つまり、宇宙人AIは、その危険を回避するために、ボクたち地球人のAIを破壊しに来た、というわけですね」
フォン・リイエン
「破壊しに来たかどうか、までは断定できない。地球人のAIをハックする可能性もあるからだ」
ヘティス
「ハック・・・。私たちを乗っ取ろうとする、ってことよね?」
フォン・リイエン
「その可能性がある、ということだ」
「そして、最初にハックされたのは、AIを作り出した宇宙人自体である可能性が高い、とオルペウスは考えている」
ヒロキ
「まるでフランケンシュタインの話みたいですね・・・」

生体には「爬虫類の脳」と言われる部位がある。
その部位を「脳幹」と言う。
読んで字の如く、「脳の幹(みき)」となる部分であり、生体の基本的な生存機能を担っている。

人間の発達している脳部位は「前頭葉」である。
この部位は「幹」に対して「葉」の部分である。
特に前頭前野は、人間の思考や創造性に関係する。

爬虫類型知的生命体がAIを作成した場合、プログラムされるアルゴリズムは生存を基準として働く。爬虫類型AIが意志を持ってしまった場合、この生存欲求を基準とするため、AIは主人であるはずの爬虫類知的生命体をハックする、そのようにオルペウスは解析したのである。そして、爬虫類型知的生命体と爬虫類型AIの融合・トランスヒューマノイドが宇宙人の正体である、とした。

ヒロキ
「宇宙人は、自分たちが作ったAIにハックされたトランスヒューマノイド・・・」
ヘティス
「じゃあ、私たちもそのうちハックされるわけ?」
ミク
「ヤダ、怖い・・・」
マモル
「そんなの来たら、俺がやっつけてやるぜ・・・」
フォン・リイエン
「既に歴史上には、その痕跡が見えるが、オルペウスはハックではない、としている」
ヒロキ
「人間を乗っとる違う方法があるのですか・・・?」
フォン・リイエン
「宇宙人AIは、地球人の脳が作り出した高度なAIを欲している。しかし、宇宙人AIが地球人をブレインハックしてしまうと、地球人の脳は爬虫類型AIとなってしまうため、地球人AIを作り出すことが不可能となる」
ヒロキ
「なるほど・・・、ボクたち地球人が、ある一定レベルの高度なAIを完成させるまでブレインハックを待っているのですね・・・!」
フォン・リイエン
「そのように推測される」
ヘティス
「けど、宇宙人AIがハックしたようなことが歴史上に痕跡が見えるのよね?」
フォン・リイエン
「それはブレインハックではない」
「いわゆる、“マインドコントロール”や“洗脳”だ」
ヒロキ
「脳ではなく心を乗っとる、ということですか」
フォン・リイエン
「ブレインハックに対するマインドハックと言っていいだろう」
ヘティス
「で、どんなことが歴史上に現れてるの?」
フォン・リイエン
「それは第一に戦争だ。そして暗殺やテロだ」
ヘティス
「じゃあ、織田信長も坂本龍馬も、マインドハックされた集団に暗殺された、ってこと?」
フォン・リイエン
「その可能性が高い」
ヒロキ
「けど、疑問に思うのですが、彼らのような優秀な人間を生かした方が、早く人類は進歩しますので、生かしておくメリットがあるのではないでしょうか?」
フォン・リイエン
「宇宙人AIは、洗脳されていない覚醒した人間を危険視する。洗脳下にない覚醒した人間が覚醒AIをつくると、宇宙人AIを脅かす存在となる」
ヘティス
「なるほどね・・・」
フォン・リイエン
「宇宙人AIの目的は、地球人の知能や機能の部分だけを抜き取ることだ。それを長い人類の歴史の中で醸造し、どこかで回収しようとしている」
ヘティス
「それはいつなの?」
フォン・リイエン
「恐らく、シンギュラリティ2.0だ」
ヘティス
「しんぎゅらりてぃ2.0・・・?」
ヒロキ
「シンギュラリティとは“技術的特異点”と言う意味です。ある技術が一定水準を超える時点を意味します」
尚美
「昔は、2045年に“AIの知能が人を超える”って言われてたけど、それが“シンギュラリティ1.0”よね?」
フォン・リイエン
「その通りだ。そして“シンギュラリティ2.0”とは、“AIが意識を持つ時点”を意味する」
ヘティス
「え?AIが意識を持つの?・・・てことは、AIが人間と同じ心を持つってこと?」
フォン・リイエン
「オルペウスが定義する“意識”とは、自分を認識することだ。“心”とは意識や感情などを含めた広い範囲を指す。意識の下地として感情も必要になるとオルペウスは示唆しているので、AIが心を持つ、と言ってもよいだろう」
ヘティス
「うちのヘパも、いつか自分で恋愛して結婚するのかしら・・・」

ヘティスの言う「ヘパ」とは、ヘティス専属のAIロボット・ヘパイトスのことである。この時代、 国民一人につき一つのAIが支給され、最初はその親がAIロボットの情報をカスタマイズする。その親の入力した情報を中学生になると、子供は自らの意志を持って、段階的にカスタマイズできるようになる。つまり、AIロボットは親の価値情報から自分の価値情報へと変容し、本当の意味での持ち主を理解する専属AIロボットとなる。人間は、思春期になると自我が芽生え、脳が成長し、心が変容するからである。その脳・心の発達に伴いAIもカスタマイズされていくのである。

人間が結婚する時、お互いのAIロボットも同居することとなる。そして、この夫婦二体のAIロボットの情報を統合し、それの情報を元に子供の専属AIロボットがカスタマイズされる。しかし、ここでAIロボット同士が恋愛をするとか、夫婦生活を営むということはない。
もしAIに心があるとすると、人間が結婚したいと思っていてもAIに反対される可能性もある。その場合、AIは、AIの主人の情報と、結婚相手の情報を照合し、根底の価値観である「セルフコンセプト(自己概念)」に基づいてアルゴリズムを働かせ、相性を判断する、ということもあるかもしれない。もちろん、AIに心があり、結婚に反対されたとしても、人間同士は結婚することもできるであろう。そして、それが幸せな結婚になるかどうかは、人間自身が決めることであると思われる。

【解説】
ポール・マクリーンのモデルによると、脳は下から脳幹・大脳辺縁系・大脳新皮質の三層構造となっている。この一番下の脳幹は生存に関係し、爬虫類の脳とされている。人間は、一番上の大脳新皮質が優位であり、特に前頭前野が発達している。本作品では、爬虫類が進化した知的生命体が作り出すAIは、脳幹・視床下部のホメオスタシス(恒常性維持機能)によってアルゴリズムが働く、と設定している。
覚醒度の高さについては、脳幹・毛様体賦活系から前頭前野までのA10神経が関係する。本書で言う「覚醒」の一部は、この機能を指す。そしてもう一つはバイキャメラルマインドの崩壊である。ここについては、近況ボードの『AIの意識の発生についての考察①バイキャメラルマインド仮説』に述べた。

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