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未来見学の章

創造性の解放

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2020年、不治の病に侵された少女・結海(ゆうみ)はヨットで世界一周をすると決めて航海に出たが、UFOのようなものに遭遇し、なぜか2062年の未来へとタイムスリップすることとなってしまった。そこで、ヘティスと結海は出会った。

ヘティスの家に入り、二人はリビングのソファに向き合って座った。そこには一人の女性が立っていた。この女性は、汎用性AIロボットであり「バッカンテ」という名前である。ヘパイトスはヘティス専属のAIロボットだが、バッカンテはリースしたお手伝い専用ロボットである。

ヘティス
「ねぇ、バッカンテ」
「いつものハーブティーを出して」
バッカンテ
「かしこまりました」

しばらくして、バッカンテはハーブティーを運んできた。

結海
「あ~、超いい香りなんだけどぉ!」
ヘティス
「ハーブティーよwとってもリラックスできるからw」
結海
「超美味しい~!」
「ロボットがお茶入れてくれるの~?超便利ね~!」
「超マジ・マンジーって感じー!」
ヘティス
「このコは“バッカンテ”って言って、お手伝い・お料理ロボットよ。この家の掃除とか洗濯とかしてくれるんだけど、特にパパのお気に入りのお酒のおつまみをつくるのが得意なのwヘルシーでお酒に合うおつまみって、なかなかAIでも料理できないんだって。私は、お酒は飲まないからわかんないけど、バッカンテの料理はとっても美味しいのw」
結海
「掃除、洗濯、食事、全部やってくれるのぉ~?超スゴいんだけど、それだと人間、堕落しそうね・・・w」
ヘティス
「堕落なんてしないわw人間はAIができないような創造的活動に専念できるからw」
結海
「ふーん、そうなんだ」
ヘティス
「そうよ」
「ゆみみんも、お金を稼ぐためにヨットで世界一周しようとしてるわけじゃないんでしょ?」
結海
「まぁ、そうねw」
ヘティス
「私からしたら、ゆみみんのやろうとしてることがよくわかってないかもだけど、それが人間のお仕事なんだと思うw」
結海
「私のやってるのは、お金を稼ぐわけじゃないから、お仕事とは言えないけどねw」
ヘティス
「私たちにとって、仕事ってのは、お金を稼ぐことだけじゃないんだけどね。人間にしかできないことで、自己実現や社会貢献をすること、これが人間のお仕事だって、学校で習ったわw」
「ゆみみんのやってることも、それをSNSで見て、きっと誰かが勇気づけられるから、立派なお仕事なんだと思うw」
結海
「そう言われると、そうなのかもw」
「けど、お金がないと生きていけないでしょ?」
ヘティス
「私たちの社会では、生活費は政府から支給されるの。“ベーシックインカム”って言うのよ」
結海
「ベーシックインカム・・・、少し聞いたことあるけど、そんな意味だったのねw」
ヘティス
「お家も国指定のスマートハウスなら無料リースされるのよ。食事も、国が指定したものになるけど、希望者には無料配送してくれるわ。もちろん、それなりに美味しいし、栄養バランスはバッチリなのw」
結海
「す、スゴいわね・・・。けど、それで国は破産とかしないの?」
ヘティス
「破産なんてしないわw」
「私たちが創造的なお仕事をすれば、それによって税金が多く取れるって、学校で習ったわw」
結海
「そうなの?」
ヘティス
「そうよ」
「例えば、アナタが今持ってるスマホは、アナタの時代では画期的な商品だと思うけど、その国から、そうしたスゴい商品をつくる企業やCEOが一人出るだけで、たくさんの税金が国に入るでしょ?」
結海
「確かに、そうかもw」
ヘティス
「そうなのw」
「だから国は、創造的な仕事に専念してもらうために、国民の生活を保証するの」

税金によるリターンだけではなく、この時代、公務員の殆どがAIで行われているため、国を運営するランニングコストもかなり削減されている。

結海
「超いいなぁ、もし私がこの世界に生まれてたら、どんなことしてたんだろう」
ヘティス
「そうね、ちゃんとした理由があれば一人でも生活の保証はされるし、学費も国が出してくれるわw」
結海
「学費もなの~?超スゴいんだけどぉ」
ヘティス
「ちゃんと国民が専門的な学習をして、その仕事のキャリアを積んでくれた場合、将来のリターンがとっても大きくなるの」
「そうしたら税金で回収できるでしょ?」
結海
「なるほどねぇ」
ヘティス
「あとは、文化的な生活を送るための給付金もw」
結海
「え~?生活に必要なものを支給してくれて、お金までもらえるの?」
「ちょっと贅沢すぎなーい?」
ヘティス
「文化的な生活は大事よ~。創造的な仕事をするためには、生活が心地よくなければいけないし、ある程度の文化水準がないと、創造性は生まれないって言われてるわw」
結海
「創造性かぁ~、私にもあるのかなぁ」
ヘティス
「私たちの学校では、創造性は誰にでも必ずある、って習うわw」
「けど、それは潜在意識に眠っていることがあるから、教育ってのは、その創造性を解放することにあるの」
結海
「創造性の解放かぁ~、とっても素敵w」
ヘティス
「でしょw」
「私たちの時代でも、まだタイムマシンは開発中なの。だから、うみみんの時代に帰えれるかどうかわかんないけど、タイムマシンがそのうち完成するかもしれないわ。それまで私の家に泊めてあげるから、うみみんの創造性を解放するといいわw」
結海
「え、ホント?」
ヘティス
「その代わり、私のお仕事を手伝ってねw」
結海
「うん、なんかヘティの話を聞いてると、お仕事が超楽しく感じられてきたわw」
ヘティス
「そうよ、お仕事ってクリエイティブでとっても楽しいのw」
結海
「けど、未来のお仕事って私がわかるのかしら・・・。高校中退だし~」
ヘティス
「人間のアナログな部分は普遍的よw学歴も関係ないし、ゆみみんなら、ゆみみんにしかできないことをやってくれればいいのw」
結海
「私にしかできないことってなんだろう」
ヘティス
「とりあえず、色々とやってみるといいわw」

【解説】
大量生産・大量消費の時代には、それほど創造性は必要ないかもしれない。経済的に豊かでない場合、品質は問わず、とにかく安いものが好まれる。しかし、社会に物が供給され、経済的にも豊かになると、より品質のよい商品・サービスが好まれる。そこで創造性が必要とされるのである。
創造性の開発に費用対効果が高い場合、そこに対して国が先行投資すれば、税金としてリターンは十分取れるのである。例えば、現在(2021/12/17)だと、 GAFAMやテスラのような時価総額1兆ドル規模の企業のCEOを国が育成でき、その国に税金を収めた場合をイメージするとよいだろう。
問題は、税金をその国にしっかりと収めるかどうかであるが、これはまた後述するとする。

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