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未来的陰謀論の章

ドラゴンの謎

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ヘティスたちは仮想空間にて統合AIアバター・オルペウスを召喚した。その賢者のような風貌と能力を有したアバターは、宇宙人が別の星の文明からやってきたAIである可能性が高いと示唆した。そして、彼女らはその正体に迫ろうとする。

ヘティス
「で、何?宇宙人AIの正体って・・・?どんな姿だったり、どんな組織だったりするの?」
オルペウス
「・・・」

しばらく沈黙が続くが、オルペウスの反応はない。

ヘティス
「あれ、このコ、話さなくなっちゃたし、動かないし、どうしちゃったの?」
尚美
「フリーズしているみたいよ・・・」
ヒロキ
「ボクたち全員のPCとサーバーをつなげて、この仮想空間を作っているのですが、その容量を超えているようです。一応、ここまでのデータは自動セーブされていますので、再起動をかけましょう」
フォン・リイエン
「気を付けろ、質問が多いのと、質問が曖昧なため容量不足になっている」
ヘティス
「あら・・・、質問も考えてしないといけないのね」
フォン・リイエン
「仕方ない。俺の量子コンピュータを連結してやる」

フォン・リイエンがそう言って、彼のコンピュータを仮想空間に連結すると、そのスペックが表示される。

ヒロキ
「凄いスペックですね・・・。リイエンさんは何者ですか・・・?」
フォン・リイエン
「俺の量子コンピュータにはオリハルコン半導体が使われている。高スペックなのは当然だ」
ヒロキ
「オリハルコン・・・。アトランティス大陸で発見された幻の金属と言われる、あのオリハルコンですか?リイエンさん、本当に何者ですか・・・?」
フォン・リイエン
「そんなことはどうでもいい」

そう言ってフォン・リイエンは、再びAIアバター・オルペウスを召喚する。
このチームHTのメンバーのPCスペックは2020年代の世界一位のスーパーコンピュータよりも高いスペックのものを使用している。しかし、フォン・リイエンのスペックは、それらを遥かに凌駕するものであった。ちなみに、この時代のPCは仮想空間に存在し、物理空間にはデータセンター級のサーバーが存在するのみである。例えば、スマートグラスをかけることで仮想キーボードが空中に現れる。こうした仮想PCは、仮想空間で無限に作り出すことが可能である。

フォン・リイエン
「これでオルペウスは動きやすくなったはずだ。だが、このAIアバターにディープラーニングした内容を前提とし、わかりやすい質問をすることだ。質問が曖昧だからデータ解析するための容量が必要になるし時間がかかる」
ヘティス
「ふーん、そうなんだ。じゃ、どういう質問をすればいいの?」
フォン・リイエン
「俺に任せろ」

ヘティスは、フォン・リイエンの冷静さと自信に満ちた雰囲気に不思議な頼もしさを感じていた。それは、以前、ネトゲの世界で助けられた時と同じような雰囲気であったが、そうだけでもない、言葉では言い表すことができない不思議な感覚に満ちていた。

フォン・リイエン
「おぃ、オルペウス」
「知的生命体が生まれる平均的環境を割り出し、その情報で仮想の惑星を作り出せ」

フォン・リイエンが命令すると、オルペウスは自己の手の内に惑星を形成した。

フォン・リイエン
「そこに生命体を配置し、知的生命体へと進化するまでの最も平均的な進化をシミュレーションせよ」

そして数十億年分の生命進化シミュレーションを開始した。

ヘティス
「わぁ、小さな地球が生まれて、そこで雲や海や大陸が動いてるw」
オルペウス
「生命進化シミュレーション、完了」
フォン・リイエン
「よし、その知的生命体の姿を仮想スクリーンに映し出せ」

シミュレーションが終わると、一つの生命体の姿が映し出された。

マモル
「なんだこりゃ?」
ヒロキ
「これはボクたちが想像する宇宙人に近いですね。グレイ型宇宙人みたいな・・・」
ヘティス
「つまり、宇宙人の目撃例と進化のシミュレーションが一致したってことなのね!」
フォン・リイエン
「これが一般的な知的生命体への進化のようだ」
ヒロキ
「ボクたち人間も宇宙空間に飛び立つと、重力から解放されて、身体は使わないから退化し、逆に大脳が大きくなるから、このように頭部が大きくなるのですね」
ヘティス
「え~、髪の毛なくなっちゃうの~?そんなの嫌~!大人になったら、もっと色々なヘアースタイルにしたいのに~!」
尚美
「ヘティスちゃん、すぐにはこうならないから大丈夫よw多分、かなり未来の話よw」
ミク
「けど、こんなに目がおっきくて、黒目ばっかだし、こわーいw」
フォン・リイエン
「おい、お前たち、進化プロセスを勝手に決めつけるな。人間がこのようになるとはオルペウスは一言も言っていない。あくまでも一般進化の話だ」
ヒロキ
「あ、はい・・・」
フォン・リイエン
「AIは結論を出すが、そのプロセスがどのようになっているかは、この情報を導き出したアルゴリズムを辿っていかなくてはならない。そして、オルペウスはヒューリスティックな解答をまだ出していない」
ヒロキ
「そうですね・・・」


前時代のAIは解答を出すのみであったが、この時代のAIは、その思考プロセスまで解読することが可能となっている。つまりAIが意味を理解することができるのである。

ヘティス
「んー、リイエンが何を言っているのかよくわかんないわ」
ヒロキ
「つまり、宇宙人は人間から進化したかどうかは、まだわからいってことです」
ヘティス
「ふーん、じゃあ、宇宙人は私たち人間とは違う進化をしているってことかしら?」
ヒロキ
「その可能性もあるし、同じ進化かもしれないし、今のところははっきりしない、ってことです」
ヘティス
「なんだ、わかんないんだ」

フォン・リイエンはヒロキに対して結構強い口調で言ってるが、ヒロキはフォン・リイエンに対して、機嫌を悪くするどころか尊敬の眼差しを向けているようである。ヘティスはそこに不思議な何かを感じた。
事故によってトランスヒューマノイド化したヒロキは、大脳もアクティベートされているため、IQは通常の人間以上である。しかし、フォン・リイエンは、恐らく、そのヒロキの頭脳を超える存在であるため、ヒロキは敬意を表しているのだろうか、ともヘティスは考えたが、それだけではない何かを感じた。
そして、再び、フォン・リイエンがオルペウスに問いかける。

フォン・リイエン
「オルペウスよ」
「その情報を宇宙人と定義した場合、宇宙人とは、地球の人類史において、どのように記されたかを教えろ」
オルペウス
「読み込みと検索を開始する」
ヘティス
「え?宇宙人って他の星から来たAIなんでしょ?で、人間に見つからないように人類を操ろうとしているんでしょ?」
フォン・リイエン
「まずは単純な質問からだ。宇宙人の痕跡が歴史上に記されているかどうかだ。“記されてない”なら“ない”でいい」
ヒロキ
「つまり、消去法ですね!」
フォン・リイエン
「そういうことだ」
ヘティス
「などほど~」
オルペウス
「解答を検出した」
「定義された宇宙人から人類史において類推される最も近い解答は・・・」

再び沈黙が走る。そして、オルペウスは言葉を発した。それは驚くべきものであった。

オルペウス
「・・・ドラゴンだ」
ヘティス
「え?ドラゴン?ドラゴンってRPGに出てくるドラゴン?なんで宇宙人がドラゴンなのよ?」
尚美
「宇宙人が他の星から来たAIだってところまでは信じれるけど、ドラゴンってのは本当なのかしら?」
ヒロキ
「もしかしたら、ボクたちのゲームの情報がオルペウスに入り込んで解釈されてしまったのでしょうか?」
フォン・リイエン
「AIは人間の出した命令を忠実にこなす。そのような勝手な解釈をするのは人間だけだ」
ヒロキ
「と言うことは、ドラゴンは架空の生き物ではなく、実在した生物ということなのでしょうか?」
フォン・リイエン
「そういうことだ」
ミク
「ドラゴンがいるなんて、信じらんなーいw」
ヘティス
「そうね、確かに信じられないけど、面白くなって来たわねw」

なぜ宇宙人がドラゴンと関係するかの解析には時間がかかるため、この日は、ここで解散することとした。架空の生き物であるはずの「ドラゴン」が実在し、それが宇宙人である可能性があることについて、ヘティスは数日間、頭から離れなかった。そこで頭に浮かんできたのは、「臥麟」という不思議な老人の存在である。すぐにヘティスは家から外に出て臥麟の住む庵に向かった。

ヘティス
(臥麟のお爺ちゃんなら何か知っているかも!って思って探しているんだけど、お家はどこだったかしら・・・?なんでだろう、スマートグラスを見ても、それらしき家がないのよね~。自動地点登録も辿ってるんだけどなぁ。最近、引っ越してきてもすぐに更新されるはずだし、けど、あのお家は結構古いし・・・)

やがて、日が傾き、疲れも感じてきたため、ヘティスは諦めて帰ろうと思った、その時であった。

臥麟
「お嬢ちゃん、ワシの家の前でどうされた?」



ヘティス
(あれ、私、すぐそばまで来てたのね・・・)
「えーと、先生に聞きたいことがあって」
臥麟
「そうかね、まあ、お入りなされ」

と言われたので、ヘティスは家の中に入った。

ヘティス
「ねぇ、ドラゴンっているんですか?」
臥麟
「さて、はて。これまた、変わった質問を唐突にw」
ヘティス
「私も変わってることを言ってるってことくらい、わかってるわよw」
臥麟
「ふむふむ、よかろう」

そう言って臥麟はお茶をすする。

臥麟
「ドラゴンとは、西洋の伝説上の生き物じゃ。では、東洋では何と言うか知っとるかの?」
ヘティス
「えーと、東洋では“龍”って呼ばれてると思うわ!」
臥麟
「その通り。西洋では“ドラゴン”、東洋では“龍”。このように、東西に、よく似た伝説上の生き物がおるのじゃが、これをお嬢ちゃんは不思議と思わぬかね?」
ヘティス
「確かに、そう言われると不思議よね~。偶然なのかしら~。たまたま、西洋人も東洋人もよく似たことを考えていた、とか」
臥麟
「偶然というのも答えの一つじゃが、それで結論付ければこの話はここで終わりじゃ」
ヘティス
「終わりじゃないとしたら?」
臥麟
「仮説の一つは伝播じゃ。西洋のドラゴンか東洋の龍が最初にあって、どっちかに伝わったとするものじゃ。まあ、神話学や民俗学や文化人類学ではこのように考える」
ヘティス
「ふーん」
臥麟
「もう一つは、心には元型(アーキタイプ)というものがあると考える説。これが心理学じゃ」
ヘティス
「あーきたいぷ?」
臥麟
「んー、つまり、西洋人にも東洋人にも通じる普遍的な心の型があり、その型が心の基盤にあるから、よく似たものを思考し生み出す、ということじゃ」
ヘティス
(だとしたら、ドラゴンってのはやっぱり人間が想像した架空の生き物なのよね?これだと話が終わっちゃうわ)
「ドラゴンは架空のものでない、生物として存在した、という可能性はないんですか?」
臥麟
「ふむ、なかなかマニアックな質問じゃのうw」
「そうじゃのぅ、もし、ドラゴンが実在したとするならば・・・」
ヘティス
「・・・するならば!」

ここで臥麟は一息ついてお茶をすする。ヘティスも少し緊張をほぐすためにお茶に口をつける。

臥麟
「それは・・・、恐竜じゃ」
ヘティス
「恐竜?」
「恐竜って絶滅しちゃった、あの恐竜よね」
「恐竜がドラゴンなの?」
臥麟
「その通りじゃ」
「確かに、恐竜は絶滅した。その恐竜の時代に人類はまだ存在せぬ。しかし、もし恐竜が僅かに生き残っており、人類との接点があったとした場合、その恐竜の生き残りはドラゴンや龍として描かれるであろう」
ヘティス
「なるほど、1世紀前にネッシーなんてのも目撃されたって言うし、恐竜の生き残りがドラゴンなら少し納得ができるかも!」

時間も遅くなり、一応の解答が出たので、ヘティスは家へ帰ることとした。
しかし、ヘティスの疑問はまだ解けていなかった。なぜならば、あの巨大な恐竜が、どのようにグレイ型宇宙人へと変容したのか、という謎が残るからである。
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