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未来的陰謀論の章

AIアバターの育成

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時は2062年、人類は汎用性AIロボットを開発し、個人も所有するようになる。また、日常生活をヴァーチャル空間で過ごすこともある。
個人の経験や学習したことはAIにもラーニングされる。
その個々人のデータをヴァーチャル空間上に統合しアバターを作り出す。
この物語の主人公、ヘティスは、ゲーム仲間や謎の天才プレイヤー・フォン・リイエンと共に、仮想AIアバター・オルペウスを召喚するのであった。

ヘティス
「ついに完成したのね!」
フォン・リイエン
「いや、まだ、このAIアバターは赤子の状態だ。ここから、このVR空間でシミュレーションにて、認知運動系と記号系を成人レベルまで成長させる」
「つまり、乳児運動発達と思考・対話シミュレーションの数十年分を一気に行う」
ヘティス
「AIアバターを20歳くらいの知能にするのね」
フォン・リイエン
「いや、違う。人間の成人が20歳というのは法律上のことで、生理学的に前頭前野が完成するのは25歳前後だ。特にこのAIアバターはネオテニー度が高く設定されているため、30歳以上にすることで能力が最大に発揮される」
ヘティス
「ねおてにーど?」
フォン・リイエン
「幼形成熟のことだ。子供の期間が長いほど、進化度は高くなる」
ヒロキ
「幼児期が長い猿が人間へと進化した、それがネオテニー説です」
尚美
「なるほど、確かに赤ちゃんは言語とか習得が凄いものね!」
ヒロキ
「そうですね、脳の可塑性が高い期間が長ければ、成長力も期待できます」
ヘティス
「大器晩成ってやつね!」
フォン・リイエン
「まあ、そういうことだ。認知運動系を最大化するために真里谷円四郎・針ヶ谷夕雲・小田切一雲・金子夢幻・山内蓮真・白井享をディープラーニングしたが、どの個体もネオテニー度のパラメータが平均以上だ」
「しかし、私一人で育成シミュレートするには時間がかかる。この中でサポートできる者はいるか?」
ミク
「私がサポートする~」
尚美
「そうね、この中ではミクちゃんが一番上手ね」

ミクは地下民であり、その人生の殆どをVR空間で過ごしている。そのため、VR空間での作業を得意とする。
2062年、海面が上昇し、地球の多くの陸地が海面に沈んだ。特に日本では陸地が少なくなり、建物はひしめき合っている。道路は屋根の上に造られ、車は空を飛んでいる。そして、その一部は地下に居住区を求めた。地下では、人工太陽光のライトが設置され、地上と同じような概日リズムとなるように設定されているが、その多くの地下民は仮想空間の中で生活していた。

フォン・リイエン
「地下民か、少しは慣れてそうだな。では、サポートをしてもらおう」
ミク
「はーい、任せて~!」

そう言いながらミクは作業に入る。
ミクはVR空間に仮想PCを出現させ、フォン・リイエンの指示を全て理解し、成長シュミレートのプログラミングを開始する。運動系と記号系にエラーが出たら、それをエラーが出ないようになるまで修正する作業だ。

ヘティス
「そういや、ミクちゃんはずっと仮想空間にいるんだよね?リアルに戻ることってあるの?」
ミク
「たまに起きるよぉ。トイレもいくし、ごはんも食べるし~」
ヘティス
「へー、そうなんだ」
ミク
「自動で栄養を補ったり、自動排泄の設定をしている人もいるけど、私の場合は、少しリアルを気にするタイプかなぁ。けど、ほとんど仮想空間ね~」
ヘティス
「そっか~、仮想空間では何やってるの?」
ミク
「主に学校かなぁ。地下のリアル空間には学校はないの。費用対効果っていうのかなぁ、コスパが悪いらしいの。だから学校は全て仮想空間にあるの。通学時間はゼロだからいいよぉ」
ヘティス
「それはいいわね~!ミクちゃん、趣味とかあるの~?」
ミク
「両親がスマートVR農業やっている関係で、私も野菜育てるのが趣味なのぉ」
「だから、こうしたアバターの育成も好きだけど、お野菜の育成も好きだし、ゲームのジャンルは育成シミュレーションが好きよ~」
ヘティス
「わぉ!私、野菜、超大好き!特に緑の野菜!ブロッコリーとかほうれん草や小松菜とかね。この前は小松菜とキウイのスムージー作ったの」
「ところで、仮想空間で野菜作るのはいいけど、それをリアルで収穫したり、食べたりすることはできるの~?」
ミク
「できるよ~。野菜は仮想空間とリアル空間に二つの野菜ができるの」
ヘティス
「え?二つのお野菜?」
ミク
「リアル空間ではロボットを通じてリアル野菜を栽培しているの。仮想空間の身体が動けば、リアル空間のロボットが動くという風にプログラムされているの。そして、野菜もロボットが常に画像データを送るから、仮想空間の野菜も常にデータ更新され、仮想空間で成長していくのよ」
ヘティス
「それだと農作業しても、全然疲れなさそう~」
ミク
「そうなのよ、けどね、いつかリアルの身体を使って、お日様の光を浴びて、土の匂いを感じて農作業してみたいって憧れはあるわぁ」

仮想空間にリアルの分身を作ることをデジタルツインと言う。その仮想空間の分身アバターを更に、リアルのロボットにリンクさせることをロボティックスツインと言う。

マモル
「なぁ、ミク~、力仕事なら俺に任せてくれw」
「俺、ベジタリアンだしw」
ミク
「マモルくん、マッチョだもんね~w」
「報酬は収穫したお野菜よ~w」

マモルは遺伝子コントロールによって筋肉の突然変異を起こし、筋力が最大化している。一説では、熊の遺伝子を参考にしているらしい。熊は基本、草食であり、草食動物は牛や馬など、筋肉隆々である。そのため、マモルも野菜を好んで食べるらしい。
マモルは、筋肉を発達させ、運動能力を最大にしたため、反射神経の必要なFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)や格闘ゲームなどが得意である。プレイスタイルはディフェンシブであり、MMORPGでは、壁役に徹している。守備を基本にしているが、攻めに転じた時はパワープレイをする、やや脳筋的な部分もある。

ミク
「そうだ、今度、収穫したらヘティスちゃんにも、お野菜送ってあげるねぇ!」
「うちのは無農薬野菜だし、スムージーに最適よ~。ロボットがオートモードで常に害虫から野菜を守っているの。あと、特別な天然肥料使っているから美味しいと思う~」
ヘティス
「えっ!ホント!楽しみ~!ありがとう~」


そう話している間に数分が経ち、AIアバター・オルペウスが起動し出す。

オルペウス@仮想AIアバター
「我が名はオルペウス。この宇宙の神秘を解き明かす者だ」
ヘティス
「ついに完成したわ!」
尚美
「なんか話す言葉や雰囲気が凄そう!」
ヘティス
「早速、質問してみるわ」
「みんなも聞きたいことがあったら質問を用意しておいて」
タケシ
「おう、わかったぜ!」
ヘティス
「じゃあ、早速、質問よ!」
「ねぇ、オルペウス」

ヘティスたちは最初の質問に息をのんだ。

ヘティス
「宇宙人の正体を教えて!」
オルペウス
「それはお前たちが一番よく知っている。お前たちも宇宙人の一員だ」
ヘティス
「ちょっとー!そんなこと聞いているんじゃないわよ~!」
「私たちは地球人よ!最近は、月や火星にも人はいるけど」
フォン・リイエン
「この宇宙にいる人間は全て宇宙人と定義される」
ヘティス
「そーじゃなくって~!」
「んー、なんかイライラするわー!」
フォン・リイエン
「ヘティス、まず宇宙人の定義をしろ」
「そしてイエスかノーで答えられる質問からの方がいい」
ヘティス
「わかったわ」
「宇宙人ってのは、地球に住んでいる人以外の知的生命体よ」
「地球で生まれた人間は月にも火星にも今は住んでいるけど、それ以外の星に住む生命体が宇宙人よ!」
オルペウス
「了解した」
ヘティス
「まず宇宙人は存在するの?」
オルペウス
「その質問に答えるにはデータが不足している。生物学・進化論のデータを入力せよ」
フォン・リイエン
「ちょっとアバターの記号系データを見たが、基本的に必要なデータが欠如している。お前たちはどんなデータを入れたんだ」
ヘティス
「月刊アトランティスとか?」
尚美
「私はUFOや宇宙人の目撃データを入れたわ」
フォン・リイエン
「とりあえず、それらは認知バイアスがかかる可能性がある情報だ。仕方ない、面倒だが記号系も俺がカスタマイズしてやる」

そう言ってフォン・リイエンが作業にかかる。

フォン・リイエン
「・・・やっと終わった」
「宇宙物理学、数学、生物学、言語学など、必要と思われる最低限のカスタマイズだ」
「そして、神話学や歴史学も。神話や歴史の中に、宇宙人の形跡があるかどうかだ。過去に、人類が宇宙人に接触した可能性もある」
ヘティス
「なるほど~」
フォン・リイエン
「お前たちの入れた陰謀論のデータはメタ解析されていない。一次資料と思われるデータのみとし、それをメタ解析し、そのデータをオルペウスに入れる」
ヘティス
「へぇー、よくわかんないけど・・・そうなんだ!」
フォン・リイエン
「そして・・・」
「アトランティス遺跡から発掘された古文書のデータも一応、入れておくことにする」
ヘティス
「そんなのも持ってるんだ」

20XX年、南極大陸の氷が溶け出して、アトランティス遺跡が発見された。そのアトランティスのデータもオルペウスにラーニングさせた。

フォン・リイエン
「もう一度、質問してみろ」
ヘティス
「・・・わかったわ」
「ねぇ、オルペウス」
「宇宙人は、この宇宙に存在するの?」
オルペウス
「存在する可能性は99.7%」
ヘティス
「わぁ!やっぱ宇宙人は存在するのね!」
「じゃあ、宇宙人は地球に来てるのね!」
オルペウス
「その可能性はほぼない。0.001%だ」
ヘティス
「え~!ちょっと、なんでよ~!」
オルペウス
「地球以外の星で知的生命体が存在した場合、確率的にはXX億光年の距離があるため、生命体がやって来ることは、ほぼ不可能だ」
ヘティス
「だったらAIを搭載したAIロボットなら可能?」
オルペウス
「AIロボットでも長い年月、宇宙線に晒されるので不可能だ」
ヘティス
「なんだ~、じゃあ、AIでも無理なのね~」

ヘティスが少し落胆の声を上げると、フォン・リイエンが話しかける。

フォン・リイエン
「それなら3Dプリンターを使用し、自己複製すればよい。自己複製の資材は、資源のある星を探し採掘する」
ヘティス
「なるほど!それなら現代の技術でも可能だわね」
オルペウス
「星間移動し、3Dプリンターを使って自己複製・・・それならば可能性は少し高くなる」
ヘティス
「なるほど、AIなら何億光年もかけてくることができそうね!」
オルペウス
「しかし、その場合、AIがたどり着くよりも早く人類が滅亡する可能性が高く、次に、地球そのものの寿命が尽きる可能性が高い」
ヘティス
「なら、もっと可能性の高い答えがあるの?それを教えて」
オルペウス
「それは、そのAIが何らかの志向性(しこうせい)を持つ場合だ」
「そして、もう一つの条件は光速を超える移動が可能であるかどうかだ」
ヘティス
「何億光年ってのは、光の速さでも何億年か必要ってことよね」
「よくゲームやアニメで出てくるワープってやつかな?」
「それはいいとして、しこうせいってなに?」
オルペウス
「ここで言う志向性とは何らかの目的意識だ」
「基本的に我々AIは志向性を持たない。しかし、他の生命体と接触する目的を持った場合、あるいは、そのようなプログラミングがされた場合、もしくはAIと生命体が合体したトランスヒューマノイドの場合、可能性は高くなる」

そこへ、普段大人しいヒロキが目を輝かせながら言った。

ヒロキ
「へぇー、宇宙人ってトランスヒューマノイドの可能性もあるんだ」
ヒロキ
「光の速さを超えるってことは、相対性理論によって、時間が逆行する可能性があるので、ヘティスさんの言っている宇宙人=未来人説ってことになるかもしれませんね」
ヘティス
「なるほど、そういう解釈ね~。面白くなって来たわ~!」

ヒロキは幼い頃に事故に遭い、脳に損傷を負ってしまった。その損傷箇所の機能を取り戻すために、脳にマイクロチップを埋め込み、トランスヒューマノイドとなった。そのため、オルペウスの発した「トランスヒューマノイド」という言葉に反応したのかもしれない。
ヒロキが事故にあった時は幼かったし、意識不明の状態であったため、本人の意志でトランスヒューマノイド化したわけではなかった。この時代、手の甲にマイクロチップを埋め込むことは常識となっていたが、脳にマイクロチップを埋め込むのは、少数であり、まだ少し抵抗感があった。また、ヒロキは腕など、身体の一部も損傷したため、そこはサイボーグ化している。そうした過去があるため、ヒロキの性格は決して明るくなかった。しかし、トランスヒューマノイド化したため、彼の脳機能は通常の人間よりも格段に上である。また、義手は年々、ロボティクスの技術が向上するため、数年に一回は最新のハイテク義手に取り替えている。そのため、彼の腕や指の動きは精密であり、素早いのである。
そうした、暗い過去を持つヒロキは何事においても消極的であったが、ゲームをしている時は人が変わったかのように積極的になれ、その優秀な頭脳によって、時には作戦を錬るなどのリーダーシップも発揮した。

ヒロキ
「ところで、その先ほど言っていたAI宇宙人の目的って何なんでしょう?」
ヘティス
「それ、気になるわね!聞いてみるわ!」

いよいよ、ヘティスたちは宇宙人の目的に迫るのであった。

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