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未来的陰謀論の章

お金と宇宙人

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時は2062年、人類から貨幣は殆どなくなり、量子電子マネー化されていた。
学校では金融教育が行われており、高等教育から暗号資産の科目が入ってくる。
こうしたお金などの人生で大切な教育は、人生学の時間に行われる。そして、外部から社会経験のある優秀な人材を呼んで行われた。
ヘティスの学校でも、そうした授業が行われていた。

奈美先生
「はい、今日の人生学は金融教育、お金についてです」
「お金って何ですか?はい、尚美さん」
尚美
「えーと、それを支払うことで自分の好きなものを買えるものだと思います」
奈美先生
「そうですね、そうしたツールなのですが、見たことありますか?」
ヘティス
「博物館で見たことありまーす。お札だったり、コインだったり。お財布ってのに入れて持ち運ぶんです。ちょっと面倒そう。それに、誰かが触ったものを持ち歩いたり触ったりするのに抵抗あるわ~」
奈美先生
「そうですね、昔の人は、そうしたものを使っていたの。今のお金は量子マネーなので、形はありませんが、データとしては存在します」

リアルマネーがなくなることで、大きく変化したのは、税金を誤魔化すことができなくなり、誰からも平等に徴税できることであり、これにより国の財政は格段に潤った。税金を払うことで、納税証明データが各自・各社に付与され、それによってインフラの使用料金が変化する。例えば、日本に税金を納めていないものが高速道路を使用する場合、高速料金に税金が加算され、納税者は加算されないというものである。電気・水道・インターネット・公共施設の利用なども、このようなシステムになっている。
こうしたことで、財政面で余裕ができることで、ベーシックインカムも行われていったのである。

奈美先生
「それでは、お金はどうやって得るのでしょうか?」
「では、リョウタくん」
リョウタ
「えーと、働いて稼ぐことです」
奈美先生
「はい、そうですね。他には?」
ヘティス
「マイニングすることです!」
奈美先生
「そうですね、マイニングです」

マイニングとは採掘のことである。ただし、金を採掘するのではなく、採掘する対象は暗号であり情報である。更に言うと、貢献度の高い情報である。
初期の暗号通貨は、機械的な暗号を解くというマイニングが行われて来たが、現在は、国策や科学技術など、意味のある暗号解読によるマイニングがなされる。
そうした国策に貢献する情報をマイニングした者への対価として、デジタル円として付与される。
特に科学技術に対してのマイニングが貢献度が高いとされる。
ある問題に対して、人間或いはAIが考え、それをその人の持つ汎用性AIロボットが計算式やデジタル言語へと変換し、複数の承認や、国家の承認がされると、報酬としてデジタル円が付与される。
過去の国策の例では、「ダークエネルギーを空間から取り出す原理とその実用化」に対するマイニングには、多くの人が参加し、大量のデータと大量の電子マネーが創出された。
国策以外のマイニングは企業が請け負った。例えば、心の悩みはテラメンタルドック社のメンタルコイン、「生まれ変わりは存在するか?」などの宗教・哲学的な問いのマイニングについてはデジタルスピリット社のフィラソコインなどがある。その他にも、テーマ性を持った絵画や音楽などの芸術や、娯楽などもマイニングの対象となる。
また、一体のAIロボットでは、メモリやデータ処理に限界があるので、チームを形成して、クラウド上でAIの脳をリンクさせる。このクラウドブレインシステムによって、より複雑な暗号解読が可能となるのである。

奈美先生
「・・・ということです」
「ですから、皆さんも将来、マイニングできるようになるために、今から自分の頭を鍛えるのと、自分の持つAIロボットを必要に応じてカスタマイズしていきましょう」
「皆さんの持つAIロボットの記憶容量は1ゼタバイトまでなので、ディープラーニングする内容は吟味することです」
「あなたたちの人生で、何が好きか、何が興味があるか、将来、何になりたいかをよく考えましょう」
「皆さんのAIロボットには、今まで何をディープラーニングしてきましたか?」
「ヘティスさん、どうですか?」
ヘティス
「えーと、私の場合は、好きな緑色の食べ物と、好きな緑色の服と、素敵な緑色の家と・・・」
尚美
「やっぱ、ヘティスちゃん、かわってる~」
奈美先生
「ヘティスさんは、人間の基本的な衣食住をディープラーニングさせているんですね」
ヘティス
「はい、そうです。他には、好きなゲームの攻略法とか、好きな漫画やアニメとか・・・」
「けど、こんなんじゃ、お金稼げないですよね・・・。どのデータを消去していくか迷ってしまいます。」
奈美先生
「いいのよ、ヘティスさん。それがあなたのコアデータになっているかもしれないから。それに衣食住や娯楽も、この世界には様々なビジネスがあるわ。あなたの深層学習したデータの組み合わせのパターンは、あなたにしかありません。そのデータパターンが、素晴らしい何かに繋がるかもしれないから、それは大切にしていくのよ」
「もちろん、人間は大人になると好みが変わることもあるし、何か矛盾したデータは変更や消去も必要ね。人間の脳には過疎性があるし、シナプスの刈り込みもあるので、AIロボットもそれと同じよ」
ヘティス
「かそせい?シナプスのかりこみ?」
奈美先生
「つまり、脳は変化するし、脳のネットワークも消去されることもあるってことよ」
ヘティス
「へー、じゃあ、消すのは少し考えよっと」
奈美先生
「ちなみに、矛盾が生じる状態は、人間で言うとコンプレックス(感情複合)と考えられるの」
「これは少し難しい話だから、またAI心理学の時間にお話するわ」

授業は後半に差し掛かった。

奈美先生
「今の電子マネーは、昔は形があって、コインやお札でしたね。では、その前は何だったでしょうか?」
ヨウヘイ
「金とか銀です」
奈美先生
「はい、そうですね」
「では、なぜ金や銀が使われていたのでしょうか」
ヘティス
「キラキラしてて綺麗だからかなぁ」
奈美先生
「確かに綺麗ですが、輝きのある金属は他にもありますよね」
ヘティス
「そっか~」
奈美先生
「それはね、金や銀は希少性が高いからなの」
「松茸は皆さん、好きですか?昔は人工培養できなくって松茸がとても高かったのよ。その時代に松茸が高いのは、美味しいからという主観的な理由でもないし、栄養価が高いという理由でもないの。松茸は希少性が高いから高価だったのよ」
ヘティス
「なるほど~」
奈美先生
「わかったわね、ヘティスさん。だから、まずあなたらしさでAIロボットを深層学習させればいいの。あなたの感性を反映させて、オンリーワンのデータパターンができて、それが有意義で希少性が高ければ、将来、よいマイニングができるかもしれないわ」
ヘティス
「はい、わかりました」
「このお金があるから陰謀論があるんですよね?お金が欲しいから陰謀を企てようとする人がいる・・・」
奈美先生
「陰謀論?」
ヘティス
「はい、ヨウヘイくんはフリーメイソンだって言うし、リョウタくんは宇宙人だって言ってました」
ヨウヘイ
「こら、こんな時に陰謀論なんか言うなw」
リョウタ
「月刊アトランティスに書いてあっただけだし」
奈美先生
「そうね、そういうのはよくわからない場合、保留にする癖をつけましょう。保留思考です。あるかもしれないし、ないかもしれない、どっちかわからない場合ね。そして、仮説を立てて事実かどうかをしっかりと調べるの。それまでは保留」
「それと、自分の人生がうまくいかないと誰かの陰謀とかにしたくなる傾向が人間にはあるかもしれないわね。古代、金融を扱った民族がいて差別を受けてきたけど、お金儲けが上手だったことのやっかみ、それが陰謀論の原型かもしれないわね。それは事実かどうかは置いておいて、自分の人生には自分で責任を持って生きていれば、自分の人生に満足できるだろうし、陰謀論というものも気にならなくなるかもしないわ」

しかし、その金とか銀とかは、今はどこにあるんだろう?とヘティスは思った。
また、陰謀論の影にお金があることは想像できるが、クラスメイトの話だと、陰謀論の大元は宇宙人であり、宇宙人は他の星から来たAIであると言う。

ヘティス
(宇宙人のAIもお金や金や銀がほしいのかな?)
(その前に宇宙人はいるのかな?本当にAIなのかしら)
(そうだ!今度、ネトゲのチームミーティングで、この問題をみんなで解こう!)

宇宙人AI説、半分は都市伝説だと思っているヘティスであるが、半分はワクワクしているのであった。

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