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未来的日常の章

12.自分への慈悲「セルフコンパッション」

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時は2057年、人類は海上に都市を建設した。海上都市にも公園があり、公園の噴水や池の水は海水を淡水に変える技術により供給している。太陽光発電を利用するため、晴れた所へと都市が移動するため、太陽光を優先すると、雨水からの水の供給はできないからだ。殆どが晴れの日を過ごすこともあり、海上民はセロトニンの分泌量も高く、AIの脳内アクティベーションも加わり、うつ病になる者は皆無である。
そんな都市での、少し変わった女の子、ヘティスの物語である。

ヘティスは学校の帰り道に、例の公園に寄って夕日を眺める。
沈みゆく美しい夕日を眺めると、松果体が賦活化し、メラトニンが分泌されることによって変性意識状態(ASC)となる。また、チル反応と言い、脳波はα波よりも低いはシータ波となる。夢見心地の状態になるため、嫌なことも忘れて癒される。白昼夢とはこうした状態で起こるのだが、赤夕夢(せきゆうむ)とでも言うべきか。
そうしていると、いつも彼方から黄金の髪の毛の青年・野間頼人が現れる。



頼人
「今日も何か悩んでいるのかい?」

前、この青年と会った時にマレビト思想というもの教わり、ヘティスは遠くで活動することを決めていた。しかし、これくらいの年齢の女の子の悩みは尽きないものである。

ヘティス
「私、学校の成績ってよくないの。今時の中学生はたくさん資格を持ってるコもいるの。それに、ネットですっごくたくさん稼ぐビジネスしてるコもいるよ。私はそういうの、ぜんぜんないの。ただ、ちょっとゲームが上手なくらいかな。けど、そんなんじゃダメなの」
頼人
「確かに学校の成績や資格ってのは社会的に認められた評価だね。それをソーシャルキャリアって言うんだ。キミの得意なゲームは社会に、まだ、そこまで認められていない。だけど、そこに肯定感を持っていいと思うな。そのゲームが上手だってのは、社会を基準にせずに、自分で自分を評価してあげよう。そうした人生の個人的なキャリアをパーソナルキャリアって言うんだ」
ヘティス
「ぱーそなるきゃりあ?」
頼人
「パーソナルキャリアってのは、例えば、大きな病気をして、それを克服する、その経験を元に、同じように困っている人を励ます、勇気付ける、これもパーソナルキャリアだね。ゲームで全国で一番になれば、それは立派なパーソナルキャリアさ」
「そして、自分で自分を評価するんだ」
ヘティス
「よーするに、他人の評価を気にしなきゃいいのね!そして、自分を評価する!」
「今まで、他人の評価を気にして、自分を評価せず、自分のダメなところばっか見てきたきがするの。それをやめるのね!」
頼人
「よくわかったね、ヘティス。自分へのダメ出しはやめて、自分へのやさしさを向ける。これをセルフコンパッションって言うんだ」
ヘティス
「せるふこんぱっしょん?」
頼人
「少し硬く言うと自分への慈悲って意味かな。自分にやさしさを向ける」
「人間誰だって必ず失敗はするだろ?ダメなところだってある。そこに対してやさしさを向けるんだ。失敗したら、大丈夫だよ、と言ってあげるんだ」
ヘティス
「わかったわ、これからそうするね」
「確かに、自分へダメ出しすぎると自信なくなっちゃうもんね」
頼人
「そうだね、自分へのダメ出しが強すぎると自分で自分の肯定感を下げてしまうからね」
「肯定感は自分の成長や人生の成功の源泉なんだ」

このような会話を毎回することで、ヘティスは次第に前向きになり、それはゲームの成績の向上へと反映していった。

ヘティスが中学に上がったその年、国は正式にeスポーツを学校のカリキュラムに入れることとした。と言うのは、eスポーツで使う認知が軍隊や経営、ファンドなどに転用できることがわかっており、世界中でeスポーツが学校の授業に正式に取り込まれていたからである。日本は保守的なので、やや遅くその流れが来た。

ヘティスは、休日などは、できるだけ遠くで活動するようにした。そうすることで、友達が増え、その活動の評価はネットでも取り上げられ、地元の学校でも評価されるようになった。また、差別を受けないようにと、父親はヘティスにカラーコンタクトを与えたことも関係したかもしれないが、学校では友達も増え、次第に普通の学校生活を送るようになった。

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