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未来的日常の章

10.人生のコンセプト

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時は2062年、海面上昇により、海上に都市が建設された。海上都市の住民は生まれた時に決まった面積の土地が与えられる。そうしたことで家族が増えると、移転することもある。申請さえすれば、増築は国営AIロボットによってされる。増築費は一切かからない。この時代、住環境において、お金は一切かからないのである。
国営AIロボットによって建てられる建造物は、全て3Dプリンターが作り出す特殊カーボンであり、軽くて耐熱性・耐震性・抗菌性がある。また、電波は通しやすいのでスマートシティ向けの素材でもある。

海上都市は、AIが波風の揺れを検知し、揺れをコントロールしており、またスマートハウスもそうしたAIコントロールをしている。木造の建造物は陸地から、そのまま移動した文化財であることが多い。木造は耐熱性が低いことと、陸の面積が少なくなってしまったことから、木材が高価なものとなってしまったため、木造の家に住む海上民は少ない。そして、木造を海上都市に、新たに立てるには国の許可がいるという手間もある。

ここからは前回の話の続きである。
見知らぬ木造の建物から出てきた不思議な雰囲気の老人「臥麟」とヘティスは話すため、建物の中に入ることとなった。



臥麟
「お茶を出すんで、ちょっと待っておれw」

ヘティスは居間に通された。部屋の中は、かつて昭和という時代があったが、昭和の雰囲気が漂っていた。そして、道場生と思われる女性によって暖かいお茶が出された。ヘティスはそれを息で冷ましながら、少しづつ飲んだ。

ヘティス
「あ~、やっぱお茶は抹茶入り玄米茶よね~!香ばしくて美味しいし、この緑色がサイコー!」
「あれ?奈美先生ですか?」
奈美
「えっと、HT高校の生徒さんかしら?あら、ここに来ることができるなんて不思議なコね」
ヘティス
「ヘティスと言います。奈美先生は、あの変なカッコのおじいさんの生徒さんなんですか?」
奈美
「ヘティスさん、先生は確かに変わっているけど、何でも精通しているスゴイ先生なのよ」

そこに臥麟がノソノソとやってきた。

臥麟
「ふぉふぉふぉ、昔は色々と修行したが、今は何かも忘れてしまっとるわいw」
奈美
「それでは、私はあちらの部屋に行ってますね。ヘティスさん、ごゆっくり」

臥麟
「それにしても、お主の目は不思議な色をしとるのぅ。はて、どこかでお会いしているかのぅ」
ヘティス
「おじいさんみたいな変わったカッコの人見たら、私が会っていることを覚えているはずでしょ?」
臥麟
「そうかの、どうも最近、物忘れが酷くてのぅ。ふぉふぉふぉ」
ヘティス
「けど、おじいさん、よく見たらなかなかのイケメンね!昔、モテたでしょ~?女の子をいっぱい泣かしたんじゃない?」
臥麟
「どうじゃったかのう、ふぉふぉふぉ」
「ところで、進路について迷っておったんじゃろ」
ヘティス
「そうなのよ~、eスポーツの専門学校に行くか、普通の大学に進学するか、それとも就職か、宇宙に出て働いて色々と経験するか、迷うのよね~」
「宇宙は、体力のある若いうちに出て行って経験しないと、できないことだってあるし~」
「おじいさん、どうすればいいと思う?」

奈美が「スゴイ先生」と言っているのだから、「スゴイ答え」が返ってくるとヘティスは期待していた。

臥麟
「わしゃ、知らん」
ヘティス
「ナニソレ~!」
「ん~、じゃあ、おじいさんが、もし今高校生だとしたら何する~?」
臥麟
「そんなもん、知らん」
ヘティス
「おじいさん、ちょっと~、真面目に答えてよね~!」
臥麟
「わしはお主ではないので、わしは知らんのじゃ」
ヘティス
「それは、そうだけど相談してるのよ~!」
臥麟
「答えは、お主の中にある」

のらりくらりと話していた老人の声が少し真剣な感じになる。

「・・・それがクエストラーニングじゃ」
ヘティス
(クエストラーニングって、この前、奈美先生が授業で言ってたことね)
臥麟
「クエストラーニングというは・・・」
「んーと、えーと、そのー、あのー、つまりー」
「・・・忘れた」
「まあ、後で奈美さんに聞いておくれ、ふぉふぉふぉ」
ヘティス
(この人、本当にスゴイ先生なのかしら・・・?)
臥麟
「とりあえずじゃな、お主の言っていることは、全て人生のプロセス、つまり過程にすぎないのじゃ」
ヘティス
「プロセス?」
臥麟
「何をするか、何をやるか、などは人生のプロセスに過ぎぬ」
「その前に・・・うーんと、えーっと、そのー、あのー」
「奈美さん、昔、わしが本に書いたことなんじゃが、この頃、ぜんぜん思い出せんでよー、来てくれんかい」
奈美
「はいはい、先生、かわりに説明しますね」
「ヘティスさん、まずはあなたの人生のコンセプトを考えてみましょうね。この前、授業で少し教えた、クエストラーニングをしながらね」
ヘティス
「コンセプト?」
奈美
「そう、心理学的には「セルフコンセプト(自己概念)」ていうの。いくつかのコンセプトがあると思うんだけど、その中で特にあなたの中心、核にあるものを「コアセルフコンセプト」って言うの」
ヘティス
「コアセルフコンセプト?」

ヘティスは聴いたことのない言葉だった。スマートコンタクトで検索をかけても出てこない言葉だった。

奈美
「コアセルフコンセプトというのは、わかりやすく言うと、自分の中の根底の価値観、って感じかしらね。それを考えるの」
ヘティス
「それを考えると本当に何をしたらいいのか、進路が見えてくるのですか?」
奈美
「あなたがここに来れたのは、人生の課題が設定されたからなのよ。そうでなければ、ここにこれない。例えば、前回の授業で「ライフイノベーション」ということを話したけど、他にもその言葉を聞いたことがあったりしない?」
ヘティス
「あ、あります・・・!なぜ、先生は、それがわかるんですか?」
奈美
「そうした言葉によって私たちは、この世界を認識しているの」
「江戸時代、黒船が来航したけど、そこで黒船が見えなかった人のがいたの。なぜだと思う?・・・それは、「黒船」という言葉、そして概念が存在しなかったの」
ヘティス
「えー、ホント?」
奈美
「本当よ。人間の脳は、概念(コンセプト)と言葉(キーワード)によって外界を認知するの。だから、それが潜在意識に設定されることで、見えないものが見えてくる。それがあなたの世界を開くことになるのよ」
ヘティス
「そっかー、それで、このオンボロ・・・じゃない、この屋敷に気づいたって訳ね」
奈美
「そうね。それと同じで、あなたの人生のコンセプトを言語化するの。そうすれば、あなたの人生の方向が見えるはずよ」
ヘティス
「なるほど、今、私は人生の選択に困っているけど、人生のコンセプトがわかれば意思決定できるのね!」

ヘティスは自分がゲームが得意なので、人生もゲームのように意思決定できると思っていたが、ゲームと人生は少し違うのかも、と思った。


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