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未来的日常の章
9.不思議な老人「臥麟」
しおりを挟む尚美と一緒に下校し、ヘティスは帰宅した。
帰宅すると、いつも小太りな柴犬のブーバが尻尾を振ってお迎えする。
ブーバ
「ヘティスわん、おかえりわん!」
ヘティス
「ブーバ、ただいま~!」
ヘティスはスマートイヤホンにより動物と会話ができる。声はスマートチョーカーが犬の言語に変換している。
猫のキキはきまぐれでマイペースな性格なため、今は家のどこかにいる。
ブーバ
「お腹空いたわん。おやつが欲しいわん」
ヘティス
「ブーバ、あなたはいつも食べて寝てばかりでしょ!運動しないとメタボ犬になっちゃうわよ!今から散歩にいくわよ!」
ブーバ
「腹減ったわん。動物虐待わん」
ヘティス
「お散歩の後にご飯あげるから~!」
ブーバ
「わ、わかったわん・・・!」
ブーバは基本、寝ていることが多い。ヘティスに寄ってくる時は、決まってお腹が空いた時である。基本、食べて寝ての繰り返しなので、通常の柴犬よりもお腹周りの肉付きがよい。ヘティスがゲームで忙しい時は散歩に行かない時もある。これもブーバが太る原因かもしれない。
ヘティスとブーバの散歩道はいつも決まっている。ヘティスは散歩している時はいつもゲームの戦略・戦術を考えている。散歩をすると、よい方法を思いつくことが多々ある。しかし、今日はいつもと考えることが違った。
ヘティス
(んー、進路どうしようかなぁ)
ヘティスは今まで、自分の人生の進路について、ほとんど考えたことがなかった。しかし、最近は、そうしたことを考えはじめるようになった。確かにヘティスはゲームが得意であり、eスポーツ大会での優勝経験もあったので、eスポーツの専門学校からの推薦も来ていた。
この時代はもう戦争というものは殆ど存在しない。もし戦争したとしてもAI戦になるので、殆どの結果がシミュレーションできる。戦術レベルの能力は、人間よりAIの方が既に上であった。しかし、全体の大局を観る部分や直感的判断は、かなり拮抗しているが、人間の方が上の部分があった。そのため、eスポーツの成績優秀者は、意思決定の能力に優れているとされるため、軍にスカウトされたり、大手のファンドやコンサルティング会社からスカウトされることもあった。そして、ヘティスも既に大手企業からお声がかかっていた。しかし、ここで自分の人生を決めてしまっていいのか、という疑問があった。色々な選択肢があるので、贅沢な悩みと言ってもいい。
ヘティス
「あれ、こんなところに、こんなオンボロなおウチあったかしら?しかも、木造って、いつの時代のおウチなんだろう?」
2062年、海面上昇で海上都市が建設されたが、その多くが耐久性が高く軽い特殊カーボンの建築物であった。海上都市では、建築物の面積だけでなく重さによって固定資産税がかかってくる。木造も軽いのだが、耐久性・耐熱性は特殊カーボンの方が高いため、木造建築物というものは珍しかった。
ちなみに、海上都市では、風や波の影響で都市全体が揺れるが、その揺れをAIが瞬時に計算してバランスをとるように、柔構造の設計がしてある。そして、家自体もスマートハウス化しており、そうした揺れを人間に感じさせないシステムとなっている。
しかし、この木造はそのようになっているかどうかはわからない。
ヘティス
「そして、何この木の看板」
古びた看板には、消えかかりそうな文字が書いてある。
ヘティス
「人生道場?臥麟庵?」
「なにこれ~?」
ブーバ
「いつも通る道わん、いつもこの家あるわん」
ヘティス
「変だなぁ、全然気づかなかったわ~」
すると、建物の中から一人の老人が出てきた。
黒い頭巾に黒い着物を着ており、仙人を思わせるような風貌とオーラだった。
老人の名前は臥麟(がりん)。恐らく雅号であるが、本名は誰もしらないし、近所でもこの老人を知る人は殆どいないようだ。
臥麟
「ほうほう、どうなされた、お嬢ちゃん」
ヘティス
「お嬢ちゃんじゃないわよ、ヘティスって言うの!もう高校二年の立派なレディなんだから!失礼しちゃうわ!」
臥麟
「これは失礼、お嬢ちゃん、じゃない、ヘティスさん」
「何かうちに用かね?」
ヘティス
「特に用なんかないわよ」
臥麟
「何かを迷われている目じゃ、どうされた?」
ヘティス
「ちょっと進路を迷っているくらいよ。人生道場って書いてあるけど、何かの相談所?今時のコの進路って複雑なのよ~!おじいさん、わかってる~?あと、私、お金ぜんぜん持ってないからね~」
臥麟
「金はいらんよ。わしは隠居の身じゃ。残された余生で何か世間に貢献したいと思ってな。ふぉふぉふぉ。まあ、立ち話もアレじゃ、犬も連れてきていいから、中に入りなされ。」
ヘティス
「この子はね、ブーバって言うの!」
ヘティスはスマートコンタクトでこの老人を画像認識で検索してみたが、検索には掛からなかった。
(最近、引っ越して来たばかりなのかな?検索で出てこないなんて珍しいわ)
不思議なのは、空腹であるはずのブーバが、何も文句を言わずに中に入っていく。
ヘティスは少し警戒したが、ブーバが入って行くので、何となく悪い人ではないと思い、老人の家の中に入ることにした。もし、何か危険が起きたとしても、この頃のご時世では、スマートアイテムですぐに通報が出来、AIロボット警察が駆けつけるようになっている。もちろん、外では監視カメラが張り巡らされており、画像認識で事件がすぐにAI警察に知らされる。だから、屋外はもちろん、屋内でも犯罪というものは殆どない。
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