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神器の章

桃色の空気

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五行英雄の実力を超えると言われる超新星皇帝・蓮也1世。



蓮也1世との謁見において、ヘティスは蓮也1世から眩いばかりのオーラを感じ、その威厳に圧倒された。



しかし、その皇帝は此花蓮也(このはなれんや)ではなく「此花桃也(このはなとうや)」と名乗ったのである。

そこから奥の桃色の間へと桃也に導かれると、桃也は複数の美女を侍らす姿を見せ、ヘティスへも甘い視線を送って来た。



ヘティスは、意識を朦朧とさせながらも、そこに違和感を覚えるのであった。
以上が前回までの話である。



ヘティス
(この人、本当にあの蓮也の前世の姿なのかしら。まずは冷静になって、確認しないと)

ヘティスはスマートグラスを取り出して、輪廻転生分析アプリ『蓮カーネーション』を起動させる。すると、以下のように表示された。

「分析対象:此花桃也 ≒ 此花蓮也 ・・・前世率:99%」

つまり、目の前にいる桃也は、ヘティスがよく知っている此花蓮也の前世である可能性がかなり高いというのである。
分析前から結果は分かっていたのだが、改めてヘティスは驚いた。



ヘティス
(この桃也って人は蓮也の前世にほぼ間違いないのね・・・。第一印象は蓮也そのものなのに、今、目の前にいるこの人は全然蓮也とは違う雰囲気。生まれ変わりの要素で何かが違って来るのかしら?それとも、私がタイムスリップして時空を歪めたとかの作用で過去が変化しちゃったのかしら・・・)
(そうだ、エスメラルダ先生にせっかくヒーリングを習ったんだから、エネルギースキャンしなきゃ)

ヘティスは、目の前にいる皇帝桃也のオーラを霊視する。

ヘティス
(うわっ、1層目から3層目のオーラまで全部ピンクだわ・・・)
(男性なのに、お色気ムンムンのオーラって感じね・・・)
(多分、これが部屋に充満するフェロモンのような香りなのね・・・)

ヘティスは更にオーラ視を深める。

ヘティス
「一番深い層は綺麗な白、もしくはプラチナのように輝いている。蓮也からも感じる、とても純粋なオーラ。やっぱりこの人は蓮也なのね・・・」
「そして、ハートが閉じちゃって、暗く沈んでいる。この人は、美女を楽しそうに侍らかせて楽しんでいるように見えるけど、そうじゃないのかも・・・」

中央には美女の集団がソファーに座っている。そして、その両脇や壁側にはメイドが並んでいる。ヘティスは、それらの女性たちにもオーラ視した。

ヘティス
(ここにいる全ての女性は、この桃也の桃色オーラに包まれて、取り込まれている感じね。これはエネルギーマインドコントロールって感じかしら?)

通常、マインドコントロールはASC(変性意識)下で言葉によって恐怖を煽るなどして行われる。しかし、言葉を用いず、ノンバーバルに、この桃也から発する桃色の甘いエネルギーによって行われている、これがヘティスの言う「エネルギーマインドコントロール」なのである。

ヘティス
(けど、この女の人たち、桃色なのは外側だけで、中央のエネルギーはとても空虚で虚しそう・・・。ハートも沈んでいるわ・・・)
(あれ・・・?)

一番端のメイドに視線を移すと、一人だけそのオーラに取り込まれていない女性がいた。

ヘティス
(あのコは、とても綺麗なオーラをしているし、ハートも閉じていない。むしろ・・・)

やがて何名かの女性たちはハープで美しい音楽を奏で、何名かはハミングや歌を口ずさむ。そして、それに合わせて何名かは美しい踊りを踊る。

部屋は妖艶な空気に包まれる。
水はローズクォーツの桃色の壁を伝い、重力の法則を無視して上方へ流れる。天井には色とりどりの花や植物があり、美しい色の魚が泳いでいる。その奥に光魔法の証明があり、水の揺らぎで、光が揺らいで床に降り注ぐ。
部屋は甘い桃の香りで包まれている。
視覚・聴覚・嗅覚から、そうしたコンフォータブルな刺激が入って来る。
そして、更に桃也が発する桃色吐息のエネルギーが充満している。

桃也
「どうだ?美しいだろう?ここは素晴らしい桃源郷だ」
「長旅で疲れていよう。まずは休息してリラックスするのだ」
ヘティス
(この部屋にいると、頭がおかしくなりそう・・・。それとあの桃也のエネルギーが私の中に入ってこようとしている・・・)

ヘティスは神聖法プロテクションを使ったが、それが全く効かない。

桃也
「どうした?ここは桃源郷だ。何不自由なく暮らせる。現実を忘れ、いつまでいてもいいんだぞ。腹が減ったら食事は用意する。寝たい時に寝ればよい。どうだ、ここの女性たちはみんな健康的で美しいだろう?これが桃源郷の素晴らしさだ」

甘い空気に酔わされて、理性が吹き飛びそうになりそうであったが、ヘティスは自分に問いかけた。

「私は何のためにここに来たの?」

と。すると、ヘティスのハートが反応した。
ヘティスは蓮也から借り受けた聖なるフィビュラ(ブローチ)に手を当てると、何処からともなく声が聞こえた感じがした。

「その者を癒せ」

と。



ヘティス
(この人は好きでこうしているのではないわ。何か自分の寂しさを紛らわすためにそうしているのよ)

理由はわからないが、ヘティスはヒーラーの勘で、そのように感じた。
ヘティスのハートがグリーンの光を放ち、その光は桃也が放つ桃色のオーラを中和させるかのようであった。
それを感じた桃也は、表情を変えた。

桃也
「お前は何者だ。お前のベルーフは何だ?」
ヘティス
(エスメラルダ先生の話では、“ベルーフ”ってのは“天職”って意味だっけ)
(ん~、全然考えてなかったなぁ・・・)
「私は・・・」
(・・・こうなったらテキトーよ)
「グリーンハーティスよ!」
桃也
「ふむ、そのようなベルーフは聞いたことがないぞ。まあ、いい」

そう言って桃也は軽く髪をかき上げ、ソファーに座り直す。それを見た美女たちは歌や音楽や踊りを止める。

桃也
「で、余に用件は何だ?グリーンハーティス・ヘティスよ」
ヘティス
「えーと・・・」
桃也
「安心しろ。この者たちは、ここから外に出ることは一切ない。だから外部に情報が漏れることはない」
ヘティス
(いやいや、逆にそれって、ちょっと・・・。つまり、洗脳してるってことでしょ?)
(・・・けど、言わなきゃ)

そして、再び、桃也が甘い表情で問いかけてくる。

桃也
「それとも何か欲しいものがあるのか?遠慮なく言ってみろ。金の装飾でも、ダイヤの装飾でも何でもやるぞ」
ヘティス
「そ、そんなのいらないわよ!」
桃也
「では、何が望みだ」
ヘティス
「アナタが持っているイージスの盾が欲しいの」

桃也の表情が更に変わった。

桃也
「それを余が持っていることをよく知っているな」
「で、それを余から貰い受けてどうする気だ?」
ヘティス
(なんて説明したらいいの?私、いつもぶっつけ本番だから困るのよね・・・。けど変なこと言ってしまうと過去が変化して時空間が歪み、未来が悪い方へと変わってしまう可能性があるし・・・)

ヘティスは、困った時は、小細工なしで正直にぶつかった方がよい、と感じた。

ヘティス
「私は未来から来たの。その未来では、アナタが封印したサトゥルヌスが封印を解除して世界を破滅に追い込んでいるの。だからその盾があれば・・・」
桃也
「余の目を見よ」

ヘティスは自分の緑の瞳で、桃也の真紅の瞳を見つめる。

桃也
(・・・緑の瞳)
(もし、この者が嘘をついているなら瞳が揺れるはずであるが、嘘をついていないと思われる)
(極稀にアストラル体を投射し、時空間移動できる者がいると聞くが、この者の身体は生身の肉体。一体どうやって時空を渡って来たというのだ)
(そして、余のオーラを物ともしない、この者のオーラは一体・・・)
「では、どのようにして未来からやって来たというのだ?嘘をついてもすぐわかる。正直に言え」
ヘティス
「“タイムマシン”っていう魔法の箱に乗ってやってきたわ!」
桃也
「不思議な話だが、未来ではそのような魔法の箱が発明されているということなのだな。まあ、よかろう」
ヘティス
(とりあえず理解してもらえたようね・・・)
桃也
「では、そのフィビュラを持っているということは、お前は未来の王族なのか?」
ヘティス
(この人に嘘は通じなさそうだから、変に小細工しない方がいいわね)
「私の国にはそんな身分なんてないわ!アナタの子孫から貰い受けて、アナタの子孫のためにも、私の国のためにも、ここに来てるのよ!」
桃也
「ふむ、なるほど」
「しかし、それはお前たちの問題であり、私の問題ではない」
ヘティス
「そりゃ、そうだけど・・・」

ヘティスは皇帝桃也のオーラに飲み込まれそうになりながらも反論する。

ヘティス
「未来から来た者だからこそ言わせてもらうけど、しばらくサトゥルヌスは復活しないわ。少なくとも、アナタが生きてる間は。だからイージスの盾はアナタには不要のはずよ。だから私たちに渡して欲しいの!」
桃也
「皇帝を前にズケズケとモノを言う奴だな。気に入った、盾はお前にやろう」
ヘティス
「え?ほんと?」
桃也
「・・・ただし」
「余の妾(めかけ)になってこの王宮に住むのだ。」
ヘティス
「え・・・!?」
桃也
「生活に何不自由はせんぞ。余の相手をしておれば、好きなものを食い、好きな洋服や装飾で着飾り、好きな時に寝ることができる。さあ、どうだ?」
ヘティス
「め、妾ですって~!」
「アナタね~、女性を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」
「そこにいる一人一人の女性の人生をアナタは何だと思っているの?」
「その一人一人には、きっと、大切な人がいるのよ。アナタはそれを考えたことがあるの?」
桃也
「ほぉ?一人の人間に対して、一対の異性を宇宙はあてがったというのか。面白い説だ。で、その根拠はあるのか?」
ヘティス
「そんなの、根拠なんていらないわよ!」
「ハートで感じるのよ!」
桃也
「面白いことを言う奴だ。しかも、余を前に物怖じせずにハッキリと言うとはな」
ヘティス
「こっちは真剣に言ってるのよ!」
桃也
「わかった。妾は撤回しよう」

桃也は目を閉じ、少し間を置いた。そして、再び口を開き、ヘティスに微笑みかける。

桃也
「ヘティス、そなたを余の正室に迎えることとする」

ヘティスは意外な言葉に驚いた。正室ということは、この王国の王族になると言うことである。そして周囲の女性たちを見ると、嫉妬の目が自分に集まるのをヘティスは感じた。

ヘティス
(え~、どうしよう。何でこうなるの~?)

さて、この後、ヘティスはどのように行動し、どうなっていくのであろうか。その行動は、未来に織り込まれたものなのか、それとも、現在、既に時空間が歪みが起こり、予定外の分岐をしてしまった結果なのであろうか。この時点では、それがまだわからなかった。




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